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セラピスト(♀)と中年(♂) ~ある街角のファンタジー~

作者: 魚座のケン

 ―ジュノン・ジュリアスの章―


「ありがとうございましたー!」

 ジュノン・ジュリアスは3日ぶりの客人に深々と頭を下げると足早に店内へと引き上げた。

「やれやれ、今日も赤字かな・・・」

 いくら久しぶりにお客さんが入ったとはいえたった一人では生活費の足しにもならない。

 ギリシャはアテネに開業したマッサージ店“ジュノ・ラベル”の店長にして唯一の店員であるジュノンは日に日に苦しくなってくる経営に頭を抱え続けていた。

「・・・・・」

 整体師の資格を持っていてマッサージの腕前に関しては申し分ないジュノンだったが経営のノウハウを知らないためか顧客を集める才能に関してはお世辞にも持っているとは言えないレベルにあった。しかも、その開業先は多額の負債が発覚して今なお欧州全土を混乱させ続けているギリシャである。失業者であふれかえっているアテネの街で、生活費の捻出すら厳しい多くの市民たちにとってはこんな状況で整体など行ってられるか、という話である。 

「そろそろ潮時かな・・・」

 ジュノンが弱音を吐き、「本日の」閉店をしようとしたその時であった。

「すみません、ちょっと腰が痛むのですがまだお時間よろしいですかな?」

 今までに見た事のない長身の男性がやってきて施術を依頼してくる。

「あ、はい!まだ大丈夫です!!」

 本当はとうに閉店時間を過ぎていたのだがせっかくの客人とあってジュノンは二つ返事で承諾した。

「ありがたい!・・・では、腰と肩を中心に背中周りを1時間ほどお願いします。」


 その体は、「凝っている」を通り越して筋肉がパンパンに「張っている」と呼ぶに相応しいほど疲労の色を見せていた。

 うつ伏せになった男性の体のツボを指圧するたびジュノンにも疲労感が伝わってくる。

「これ・・・すごく体が固くなってますよ?」

「ああ、そうでしょうね。何せ倉庫での荷物運びの仕事を週6日で8時間もやってるんですから筋肉痛にもなるというものですよ。」

「そんなきつい仕事してたら体壊しちゃいますよ?」

「いえ、仕方ないんです。50も過ぎた中年男にゃこんな仕事以外まともな求人がないんですから・・・」

 男性は、深くため息をつくと自身の身の上話をはじめた。

 男性の名をベルンハルト・フェーブルヴィッヒといった。ドイツ・ドルトムントに生まれ、地元の大学を卒業後そのまま地元の小学校の教諭として採用され、程なくして結婚して子供も産まれ、順風満帆な人生が待っているかに思われた。しかし、十数年前に彼の勤める小学校に刃物を持った男が乱入して児童たちを殺傷するという痛ましい事件が発生したその日から彼の人生は大きく狂わされてしまったのである。

「おはようございます!保護者の方ですね?」

「おう!ちょっと野暮用や、済んだらすぐ帰ったるわ!!」

 後の調べで、たまたまその時授業がなく校内の清掃をしていたベルンハルトは犯人の男とすれ違い、挨拶を交わしていた事実が発覚した。それが仇となり「犯人と接触しておきながら未然に事件を防ぐ事が出来なかった教諭」という形でマスコミに大々的に取り上げられてベルンハルトは非難と中傷の的となった。しかも、事件に政府が介入し「犯人と接触しておきながら未然に事件を防ぐ事が出来なかった」という理由から一方的に懲戒解雇を言い渡されて職を追われてしまったのである。

 満足に退職金も支払われなかったベルンハルトは生活に困窮し、間もなく離婚した。そして、親権も妻に譲る形となって子供とも引き離される結果となってしまった。以来、ドルトムントの実家を売り払って知人のツテでアテネへと移住して質素なアパートで一人暮らしをしながらかろうじて生計を立てているのであった。

「かつてのドイツ政府はあの事件の遺族たちに莫大な補償金を与え、私には莫大な責任を負わせるという措置を取りました。当時は国の決めた事だからと割り切って甘んじて罰を受けたのですが・・・今のドイツ政府がこの怠け者国家ギリシャに莫大な財政支援を行うなどと表明している姿を見ていると私が受けた仕打ちは何だったのかと正直疑問と怒りを禁じえません・・・」

 ベルンハルトの声が震えていた。それに伴い体も小刻みに震えていた。

「大変な思いをなさっていたのですね・・・」

 体の震えを指先に感じるたびにジュノンにも心の痛みが伝わってくるかのようだった。


 翌日。ジュノンの嫌う人間が嫌味を言うためだけに店へとやってきた。

「どうだぁ?あたしの店が繁盛してるから今日も閑古鳥しかいないんだろぉ?」

 近所でお灸屋を開業している中年女性マンネン・アキタケジスは分かりきっている事をわざわざ口に出してきた。

「ここに来ているという事はあなたのお店も相当に暇で暇で仕方がないのでしょうね。」

「ふん、あたしの場合は店が閑古鳥でもいいんだよ。後援会の連中にお灸を売りさばいているんだからね!」

 醜い笑顔を浮かべながらアキタケジスがゲラゲラと笑う。

「全く、ヒラウカス先生様々だよ。あの方がこのあたしを後援会会長に指名してくださったおかげで下っ端の奴らに値段つり上げていくらでも買ってもらえるんだからさ!!」

 患者用の施術台に勝手に腰掛けてアキタケジスがさらにゲラゲラと笑う。

「おい、アキタケジス!こんなあばら家でいつまで遊んでるんだ!!」

 噂をすれば何とやら。続いてはアテネの市議会議員ヒデウル・ヒラウカスが店へとやってきた。

「次の選挙へ向けての対策会議を開くのだから早く来ないとダメじゃないか!今回はギリシャ料理のフルコースを用意してあるんだ。遅れて料理が冷めちまったらせっかくの会議もしらけちまうからな。」

「あら先生、これは失礼つかまつりましたわ。じゃ、こんなボロ屋は放っておいて会食といきましょうか。」

「ヒッヒッヒ。聞いて驚くな、今日はワインも極上のヤツを用意してあってだな・・・」

 アキタケジスとヒラウカスは、まるでそこにジュノンなどいないかのように勝手に二人だけで盛り上がるとそのまま店を出てどこかへと消えてしまった。

「・・・こんな人たちのために財政支援をするなんて!!」

 一人残されたジュノンはベルンハルトの言葉を思い出しながら不快な気持ちを口に出してみた。


 その3日後。閑古鳥が鳴き続けていた“ジュノ・ラベル”にようやく客人が現れた。

「よぉ姉ちゃん。俺、漫画描きすぎて腕が痛いんだ。30分でいいからケアしてくんねーかな。」

 天然パーマと小さなゴマ粒のような目が印象的なその外観はどう見ても美人と呼べるような女性には見えなかった。

 しかも、女性(見た目のあまり良くない)でありながら自分を「俺」と呼ぶその姿には滑稽さが漂っていた。

「分かりました。じゃあ施術台にうつ伏せになって下さい。」

 女性は先日アキタケジスが腰掛けていた部分に顔をくっつけてうつ伏せの体勢を取った。

「それでは30分はじめます。」

 ジュノンがマッサージを開始する。

 その間、女性は自分の描いている漫画の自慢話ばかりを繰り返していた。

「・・・その辺いくと俺の描くつぶらな瞳と整ったボディラインは芸術なんだよね。だけど、見る目のない連中が俺をねたんで酷評しやがるんだ。大体ストーリーなんておまけみたいなもんだろ?俺みたいに絵柄が秀逸ならどんなお下劣なストーリー展開繰り広げたって売れるんだよ。」

 レベルの低い持論を振りかざしながら30分が終了した。

「それでは、代金をこれだけ頂きます。」

 電卓に刻まれた数字をジュノンが見せると女性は見た目のよくない顔を気味の悪い笑顔でさらに歪めてみせる。

「ごっめ~ん!俺、今日財布持ってきてないんだよね。でもこれ誰にも言わないでよね、代わりに100万ドルの宝物をあげるから。」

 女性は何食わぬ顔でかばんの中から原稿を取り出した。

「これ俺が高校の頃に描いた作品だったりするんだよな。質屋に入れたらいい値がつくだろうからあげちまうのはもったいないと思うんだけど・・・えーい持ってけドロボー!・・・って感じで姉ちゃんにあげるよ。しっかし俺も気前が良すぎるよな・・・」

 一人で意味の分からない事をブツブツとしゃべっている女性にジュノンがにじり寄る。

「こんな物はいりません、代金を払ってください!さもなくば・・・」

 ジュノンの目付きがどんどん険しくなってくる。

「い、いや~何だか空気が悪くなってきたようだから俺はこの辺りで失礼させてもらうかな・・・おさらば・さらば!」

 女性が店を飛び出して一目散に逃走する。

 それを追いかけようとするジュノンだったがすぐにその必要はなくなってしまった。

「ライトニングストライク!!」

 魔法によって発せられた稲妻が女性を直撃し、動きを止めてしまったのだ。

「ぐぎゃぁぁぁ!!」

 醜い悲鳴を上げた女性が黒こげとなってその場に倒れ込む。

「す、すごい。こんな稲妻は私にも呼び起こせない・・・」

 ジュノンが驚愕しているその脇に稲妻を放った男性が姿を見せる。

「全く、素行の悪さは変わってないな・・・」

「えっと・・・この女性と知り合いなんですか?」

「この天然パーマ女の名前はアトロポス・ペロポネソスといって僕の昔の同級生だったりするんだ。その頃から口と手癖が悪くて人の物を盗んだり気に入らない人間に暴力を振るったり徹底的に罵倒したりとどこまでも救いようのない奴だったんだ。ただ、趣味で漫画を描いていたからそっちの方面で活躍しているのかと思ってはいたんだけど・・・さっき君の家から全速力で逃げているのを見かけてまた何かやらかしたんだと直感で分かってしまったんだよ。」

「そうなんです、実は・・・」

 ジュノンは先ほどのマッサージの後で起こった一連の流れを包み隠さず男性に打ち明けた。

「なるほど。僕の魔法はまさに因果応報だったというワケだ☆」

 男性がイタズラな笑みを浮かべながらジュノンの方に顔を向ける。

「でも、代金は僕が肩代わりをしておくよ。せっかくのお客に料金を踏み倒されたままじゃあ君があまりにもかわいそうだからね。」

「いえ、そんな・・・」

「気にしないで。僕は必要な事に対する出費は惜しまない主義だから。それに、聞くところによると君のお店はあまり繁盛していないそうじゃないか。こういう時は人の好意をしっかり受け取っておけばいいんだよ。」

 男性は紙幣をやや強引にジュノンに握らせた。

「それじゃ、僕はライブがあるからこれで。」

「あ、ありがとうございます!その・・・よろしければあなたのお名前をお聞かせ願えませんでしょうか?」

「僕の名はカメック。音楽ユニット“マナカプセル”にて全てのサウンドを司る司令塔だよ!」

 さわやかな笑顔で自己紹介を済ませると、男性・カメックは軽やかな足取りでその場を後にした。

「マナカプセル・・・」

 その福音(ふくいん)のような言葉をジュノンは改めて口に出してみた。

 すると、何だか心が清められたようなそんな気分になってきたのであった。


 その日の夜。

 ライブを終えたカメックは、近しいメンバーをレストランに集めてちょっとした“たくらみ”の会合を開いていた。

「僕の調査通りアテネに開業してから数年、ジュノン・ジュリアスのマッサージ店は厳しい経営難に陥っていて、このままでは閉店を余儀なくされてしまうだろう。そこで僕は彼女を救済すべく何かしてあげたいのだけど・・・良い案はないかな、みんな?」

「そんなの知ったことじゃないのれ(で)す。らいたい(大体)カメック先生は相方の私を差し置いて変な人に気を配ってばかりれ(で)何考えてるか分かったもんじゃないのれ(で)す。」

 “マナカプセル”のヴォーカルにしてカメック唯一のユニット仲間であるテトラ・クロセウスが舌足らずな口調で()ねたような返答を返してくる。

「ピンと来ないんだよね、ピンと。売れない店を繁盛させるとかさ、僕の分野じゃないから何もひらめいて来ないんだよ。」

 青年誌(月刊)に連載を持つ漫画家キシャーネ・ノザラスはお手上げと言わんばかりに首を横に振ってみせる。

「それよりも、次の選挙で私が当選する秘策はあるんですかカメック先生?」

 女性市議会議員のペルセポネ・ハイウカスに至っては本題など素知らぬ顔で我が身の都合ばかりを気にかけていた。

「おいおい、何となく想像はついてたけどみんなしてそんなつれない返事はないだろう。」

 苦笑いを浮かべながら“たくらみ”の冒頭から頓挫してしまったカメックが深くため息を吐く。

「・・・分かったよ。ここは僕がおごるからみんな協力して!」

「「「よろこんで(れ)っ!!!」」」

 こうしてカメックはやや高額な食費と引き換えに仲間たちからの協力を得る事に成功したのである。

~待ってろよ、ジュノン・・・!~

チョコレートパフェを口元に運びながらもカメックの気持ちは既に別次元へと飛んでいた。

「カメック先生、うすら笑いがとっても気持ち悪いのれ(で)す・・・」

 お子様ランチを待ち遠しそうにしているクロセウスが横からさり気なく手厳しい言葉を投げかけていた。

「いい年した兄さんがチョコレートパフェにニヤついて・・・」

「高校生にもなった子がお子様ランチに胸躍らせるとか、ね・・・」

 それぞれステーキディナーセットと海鮮ディナーセットを注文したノザラスとハイウカスが食べる手を休めてまでお互いの顔を見合わせながら微笑み合っていた。


 それから数日後の日曜日。

 ジュノンはいつもより早めに店を開けてはみたものの、客人の訪れそうな気配はどこにも見当たらなかった。

「やっぱり、ダメか・・・」

 こんな事をしても何も変わらないと分かっていながらもジュノンが小さくため息を吐いたその時であった。

「あー!あー!たら(だ)今マイクのテスト中なのれ(で)あります!!」

 店の外から舌足らずな女の子の声が響いてくる。

「本日は私とカメック先生のユニット“マナカプセル”の新曲が全米とヨーロッパ数カ国の音楽チャートで初の首位をゲットした記念にここ“ジュノ・ラベル”前にて記念ライブを開くのれ(で)す!お相手は私・ヴォーカルのテトラ・クロセウスと・・・」

「噂を聞いてギター1本で応援に駆けつけた私こと助っ人のピカ!そして・・・」

「シンセサイザーで音を操る“マナカプセルの司令塔”ことカメックの3人でお送りします!!」

 直後、演奏が開始された。

「な、何なんですかそれはっ!!」

 突然の展開にジュノンは思わず声を上げてその場に乱入した。

「何って・・・記念ライブだけどそれがどうしたの?」

 しかし、カメックはそんな乱入劇にも動じる事なくそう切り返す。

「ライブがどうとかそういう問題じゃなくてどうしてこんな場所でするのかと言いたいんです!!」

「ああ、それはね・・・」

「実を言うと応援に駆けつけたはいいのですが先ほどから足腰の張りがひどくて仕方ないのですよ。丁度良いからお姉さんの施術でほぐしてもらいたいんだけどどうでしょう?」

 今度はギタリストの“ピカ”が二人の間に割って入ってくる。

「はい、それならすぐにマッサージの用意をいたしますけど・・・」

 職業柄こういった人間を放っておけないのがジュノンという人だった。

「ら(だ)ったらピカはしばらくジュノンの指先に癒されてろなのれ(で)す。そのあいら(間)私とカメック先生れ(で)盛り上げておくからせいぜい骨の髄まで回復させておくのれ(で)すっ!!」

「ピカ!万全の状態で臨まないと僕とクロセウスのサポートなんて出来ないぞ!だからしっかり揉まれて戻ってきな!!」

 ピカが抜け、“マナカプセル”の二人によってライブが再スタートされた。

「それじゃあ、マッサージ40分入ります。」

 突然のライブは放置して、ジュノンはピカのマッサージを開始した。

「・・・確かに、これは結構凝ってますね!」

 ピカが訴えた足腰の張りに偽りはなさそうだった。

「いや、僕の足腰以上にカメック先生の描いたシナリオは凝っているよ。」

 だが、ピカの口から出てきたのはそんな何かをぼかしているかのような言葉だった。

「はい?」

「じきに分かるよ、じきにね・・・」

 店の外ではクロセウスの透き通ったヴォーカルとカメックの研ぎ澄まされたなサウンドがファンタスティックな空間を醸し出し、魅せられた人々によって人だかりを作り上げているみたいだった。 

「それにしても・・・女ながら彼女の歌声には惹かれてしまいますね。」

“マナカプセル”についてはよく知らないジュノンだったが耳に届いてくる歌の数々が不思議な魅力を秘めている事だけは確信していた。

 やがて。

「はい、40分マッサージ終了しました!」

「どうもありがとう。これ、お代ね。」

 支払いを済ませるとピカは速やかに外のライブへと戻って行った。

 すると、そのピカと入れ替わるかのように別の男性が店へと入ってきた。

「すみません!足裏マッサージをお願いしたいのですが・・・」

「はい!よろこんで!!」

「あ、その次でいいので私は頭部マッサージを頼みます!!」

 その後ろには女性客の姿もあった。

「あ、はい!こちらの方の後になるので少々お待ちください。」

 ピカの施術の直後、立て続けに二人の「客人による」来店。

 それは、“ジュノ・ラベル”開業以来初の出来事に他ならなかった。

「はいはーい。戦列を離れていたピカさんが鮮烈に復帰しましたよー。」

「面白くもなんともないのれ(で)す!それを狙って言ったとすれば寒すぎなのれ(で)す!!」

「ピカ。しゃべりは程々にして音楽に専念してくれ。そんな物言いでは君のマイクの電源を切らざるを得ないから・・・」

「そりゃ高校生にもなってお子様ランチにウキウキしてたりいい年してチョコレートパフェをニヤつきながら食べてたりするあなた方に比べたら笑える要素は皆無でしょうけどね!」

「失礼な!最近はお子様ランチの後のアイスクリームにウキウキしてるのれ(で)す!」

「僕もクロセウスを見習ってお子様ランチを頼んでみちゃおっかなぁ・・・」

 外では、ちょうどライブを中断してMCが繰り広げられ、観衆が笑いの渦に包まれている真っ最中だった。


 記念ライブの開始から2時間が経過した。

 ライブに訪れたついでに“ジュノ・ラベル”へと立ち寄る客人は思ったより多く、ジュノン一人では手が回らない状況になろうとしていた。

「あの・・・肩痛いんだけど早くしてもらえないかな?」

「こんなに人並んでるのに姉さん一人で相手出来るのかよ?」

「そろそろそのお客さんおしまいだろ?少しは時間の配分考えてますか?」

 お客さんが多いのは嬉しいけれどこの状況はいただけない。

「すみません。もう少し、あと少し・・・」

 手際良く対応しているつもりだったがやはり一人では限度がある。

「よぉ!俺も施術をしてやんぜ!!」

「マッサージの手助けなら俺にもやらせてもらおうか。」

 そんな中、二人の見知らぬ男性が現れて応援を買って出てきた。

「あなた方は・・・」

「俺の名はマスター。孤高のヴォーカリストにして整体師のスキルも併せ持つユダヤ人だ。さぁ、客商売なら俺のユダヤ流に任せてもらおうか!」

「僕はキシャーネ・ノザラス。漫画家にして指先だけで人を癒せる魔法のギリシャ人です。ついでに言うと・・・勝手ながらあなたの店の宣伝チラシを僕のデザインで作らせてもらいましたよ!」

「えっ?それは一体・・・」

「ちょっと!何でもいいから施術はまだなの?3人もいるんだから雑談は後にしてパッパとやっちゃってよ!!」

 いまだ本筋の見えてこないジュノンだったがいらだつ客人にせかされてそれどころではなさそうだった。

「ほらほら、怒られる前に急ぎましょっての!!」

 ヴォーカリストを名乗る“マスター”によってジュノンは再び仕事へと戻った。

 力強い二人の仲間を携えて。


「“ジュノ・ラベル!”“ジュノ・ラベル!”どうか当マッサージ店での施術をよろしくお願いします!ペルセポネ・ハイウカスから全アテネ市民の皆様に心よりお願い申し上げます!!」

 選挙カーの上に立ちペルセポネ・ハイウカスがメガホンでジュノンの店を喧伝し、それに伴って両脇にいる後援会のメンバーがキシャーネ・ノザラスの作成したチラシをいたるところに投げ配る。

「全く、選挙を差し置いて他人の店を宣伝するとかおバカな女性議員がいたものだ・・・」

 運転手(後援会メンバー)がボソリとつぶやくもそんな物はお構いなしと言わんばかりにハイウカスの声が(とどろ)き続ける。

「ま、そんな人だからこそ俺たちも支持してやってるんだけどな。」

 それこそがこの運転手に限らず彼女の支持者たちの偽らざる本音でもあった。

「ジュノン・ジュリアスのお店を!究極の癒しの空間を!皆様、皆様もどうぞご体感してみてください!!“ジュノ・ラベル”、“ジュノ・ラベル”・・・」


「これにて記念ライブは終了れ(で)す!みんな、次回もよろしく頼むのれ(で)すー!!」

「オ―――!!」

 クロセウスのかけ声と大観衆の叫びをもって5時間にわたる記念ライブは無事に閉幕した。

 既にラジオの収録で途中退場していたピカはその場にいなかったが、盛り上がりには事欠かず最後まで続けられていたのだ。

「飛んだり跳ねたりして体痛くなってきたなぁ。ちょうどいいからこのマッサージ店に寄って帰ろうか。」

「そうだな、思いっきり疲れたんだからしっかり癒されて帰ろうぜ。」

「俺この機会に骨盤矯正をやってもらおう・・・」

 ライブ客の多くが疲れた体を癒そうと“ジュノ・ラベル”へと並び、長蛇の列を作り上げる。

「どうやら、僕の描いたシナリオが実りはじめたみたいだな・・・」

 長蛇の列から少し離れた場所でカメックが様子を見守っていた。

「これが完成形れ(で)はないのれ(で)すか?」

 隣ではクロセウスがきょとんとした表情を浮かべている。

「実を言うと僕はこの後にちょっとしたオチがあるのを想定してるのさ。それが起こったその時こそがシナリオの完成になるんだよ。」

「ろ(ど)んなオチを考えているのれ(で)すか?」

「それはじきに分かるよ。・・・さ、僕たちの役目は済んだんだから帰ろうか。」

「そうれ(で)すね。じゃあ、アイスクリームを召し上がりに行くれ(で)す。」

「お子様ランチの後で、ね☆」

 カメックは、店の明かりが変わらずに灯っている事を確認するとクロセウスと一緒にその場を後にしたのであった。


「すごいです!次から次へとお客さんが来てくれて・・・」

 ひっきりなしに訪れる客人たちを前にジュノンが嬉しい悲鳴を上げる。

「そりゃあ大々的に宣伝した上に店の前でライブまで開いたんだ。集客が見込めるのは当然の話だろ?」

 マスターが男性客の足裏マッサージを施しながらジュノンへと微笑みかける。

「それに、プロの美人整体師が患者一人一人に真剣にケアしてくれるんだ。こんな店を閉店させちゃあアテネの恥ってもんだろ?」

「それは・・・」

「この分なら明日以降もある程度の集客は見込めそうですね。良かった良かった。」

 口ごもるジュノンの横で老婆の肩を強めにマッサージしながらノザラスがつぶやく。

「でも、夢みたいです。自分のお店がこんな風に大繁盛をするなんて・・・」

「だけど大事なのは明日以降だぜ。あんたの接客態度次第では客足が激減してまた閑古鳥状態に戻ってしまうおそれもあるしいずれ客足が増えてくれば応援を雇ってないと手が回らなくなって客を怒らせちまうだろうしここからはあんたの手腕に全てがかかってるんだ。俺たちはあくまで本日限りの応援に過ぎないんだからな。」

 素直に喜んでいるジュノンに敢えてマスターが釘を刺す。

「もちろんです!せっかく皆さんが作ってくれた流れを手放すようなマネは絶対にいたしません!!約束します!!!」

 その時、マスターとノザラスに向けられた真摯な眼差しがジュノンの思いを物語っていた。

「ほぉ・・・」

「なるほど、カメック先生が一目置く女性は素敵さんばかりでびっくりです。」

 後に、マスターもノザラスも“ジュノ・ラベル”の支店を世界各国で見つけ出すたびにジュノンが向けたその眼差しを思い出すのであった。


 それから“ジュノ・ラベル”には1日に3~4人程度の顧客が見込めるようになっていた。そこでジュノンはそれ以上の集客日に備えるべく記念ライブの3日後には2名のアルバイトを雇い入れていた。この判断が功を奏し、徐々に増える顧客に対してジュノンは円滑に対応する事に成功していた。

 やがて、それでも対応に追われるほどに顧客が増えてきたので“ジュノ・ラベル”は完全電話予約制へと切り替わったのである。

「私は、手を差し伸べてくれたカメック先生と愉快な・・・いえ、素敵な仲間たちのためにもこのお店をずっと守り通してみせる!!」

 ジュノンの強い信念は、経営黒字という形をもってその力を発揮した。

 だが、全てが良い方向に傾くと誰もが信じていたその時に事件が起こってしまうのである。


「おい!マンネン灸の上納金は今月もこれっぽっちか!!」

 ヒデウル・ヒラウカスは30枚にも満たない紙幣束を机に叩きつけて後援会会長マンネン・アキタケジスを怒鳴りつけた。

「す、すみません、それが・・・最近下っ端の連中があたしの自慢のお灸を買い渋ってるんですよ。昔はケース単位で買ってくれてたのに今じゃみんなバラでしか買ってくれないし、しまいには一つも買わない奴まで現れてきて・・・」

 アキタケジス自慢の“マンネン灸”を後援会の人間に半ば押し売りのような状態で毎月大量に買わせ、その利益の7割を「上納金」と称してアキタケジスから搾取して議員報酬(一度不正がバレて半額に減給された)の足しにしていたヒラウカスにとっては面白くない展開に他ならなかった。

「大体なんで急に誰も買わなくなってしまったんだ!前は借金してでも買っていたというのに!!」

「はぁ、それがこのところ“ジュノ・ラベル”でのマッサージに(くら)替えする奴らが増えてきたみたいで・・・」

「“ジュノ・ラベル”だと!?この前行ったあの女が整体やってるボロ屋か!?」

「はい・・・何があったのかあの店いきなり繁盛しだしたようで・・・」

「ふん、まあいい。大方体でも売って顧客を手に入れる商法でも考えついたんだろう。だが・・・出る杭は徹底的に打ちのめさねばならん。この私の邪魔をするのなら尚更だ。・・・アキタケジス!!」

「は、はいっ!」

 ジュノンの前では悪態をつき続けていたアキタケジスも不機嫌なヒラウカスの前では常に直立不動だった。

「私に素晴らしい策がある。アテネの市議会議員の名に相応しい英知に富んだ良策がな・・・」

 

 ある肌寒い秋の夜。

 ジュノンは、翌日が店休日だったのもあって閉店後に一人で深酒をしていた。

 ~たまにはこういうゆとりもなくっちゃね・・・~

 フランス産のワインが注がれたグラスをぐいっと傾けながらいつも以上にアルコールの感覚に酔いしれる。

 こうやってゆっくりと睡魔に(むしば)まれながら無意識のうちに眠りに落ちるのが彼女の深酒の楽しみ方だった。

 ~もう少し飲んでいたいけど、そろそろ・・・そろそろ・・・あれ・・・?~

 いつもならこのまま寝落ちするところだったが、その日は妙な違和感が心の中に渦巻いていた。

「!!」

 直後、背中に妙な悪寒を感じると、ジュノンは即座に店を飛び出したのである。

   

「そこっ!!何をやってるんですかっ!!」

「ひっ!」

 店の裏手。

 ジュノンが怒鳴りつけたその先にはライターを手にしたアキタケジスの姿があった。

「またあなたですか・・・売れない時は散々人のお店を愚弄しておきながら立場が入れ替わるとそんな手を使うとは何たる愚鈍!!」

「ふん!あたしが放火で御用になってもヒラウカス先生が腕利きの弁護士を雇ってくれるんだ!そうすりゃ心神耗弱を理由に減刑かあわよくば無罪を勝ち取ってやるんだから見つかったってどうって事ないんだ・・・よっ!!」

 ボッ!!

 アキタケジスがライターのスイッチを入れると、大きな火が一瞬にして木造の店へと引火する。

「どうだぁ?これであんたは明日から野宿だろぉ?せいぜい今日は燃えさかる我が家を前にキャンプファイヤーでも楽しむかぁ?」

 人の家に火を放ってきながらゲラゲラと笑い声を立てているアキタケジスの姿にジュノンの怒りが頂点に達する。

「この私を・・・本気で怒らせましたね。」

「なんだぁ?怒ったらどうだってんだオイ?裸踊りでもするんならお盆ぐらいは使わねーと逮捕されちまうぞぉ?」

 アキタケジスの下劣な言い回しをよそに怒れるジュノンの背後から赤いオーラが目に見えるように沸き起こっていた。

「アキタケジス・・・二つほど覚えておきなさい。このジュノン・ジュリアスが古今東西で使われた全ての魔法を会得した女であるという事!そして、大罪を犯した者は必ずや業火によって焼き尽くされるという事を!!」 

 ジュノンは、燃えている我が家へ向けて右の手を向けた。

「消火しなさい!レスキューレイン!!」

 すると、天を雨雲が覆い尽くしてあっという間に大雨が降り(ジュノンの家の真上だけ)あっさりと火を消してしまったのだ。

「さあ、次は・・・」

 ジュノンが背後で狼狽しているアキタケジスをにらみつける。

「ま、待ちな・・・“マンネン灸”ならいくらでもくれてやる。あんな効力のない詐欺商品何百個だってただで譲ってやるからさ・・・」

「焼き尽くせ!ジャイアントフレイム!!」

 ジュノンの左手から発せられた巨大な炎がアキタケジスの全身を容赦なく飲み込んだ。

「ぎやぁぁぁぁ!!」

 アキタケジスは、大きな悲鳴を上げると火だるまの状態でそのままどこかへと走り去ってしまったのである。


「ヒッヒッヒ・・・あの女、今ごろ黒焦げになって原形も分からん焼死体になってやがるぞ・・・」

 自身の事務所前で、ヒラウカスは火事の一報を耳にしたら即座に現場へ駆けつけて野次馬をしてやろうと待ち構えていた。

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!ヒラウカス先生助けてくんろー!!」

 しかし、耳に届いてきたのは火事の一報ではなく聞き覚えのある女性の叫び声だった。

「ア・・・アキタケジス!?」

 気がつけば、火だるまになったアキタケジスが目の前に迫っていた。

「バ・・・バカ!こっちに来る前に川に飛び込んで火を消すんだ!!」

「せんせェー!!こんな計画立てた責任を取ってくれェー!!」

 アキタケジスに腕をつかまれて、炎がヒラウカスにも引火する。

「ぐわあぁぁぁー!!」

「ぎぃやぁぁぁぁぁぁ!!」

 炎に全身を包まれたアキタケジスとヒラウカスは、さながら聖火ランナーのごとくアテネ市内を疾走し、近くの川に飛び込んでかろうじて一命を取り留めたのである。

 その後、大やけどを負って病院に運ばれた両者だったが程なくしてヒラウカスの指示によるアキタケジスを使った“マンネン灸”の後援会メンバーへの押し売りや上納金の搾取、EUのギリシャへの支援金の一部横領などが発覚し回復次第刑務所へ送られる事が確実となった。一方で、アキタケジスも一連の不正行為やジュノン宅への放火未遂行為が明るみに出ていたのでヒラウカスの指示とはいえ厳罰が濃厚となった。


「ジュノン・ジュリアス!今回の君の活躍がなければヒラウカスの不正行為は暴かれず、奴の逮捕は不可能だっただろう。感謝する!!」

 ジュノンの活躍は祖国フランスでも瞬く間に知れ渡り、現フランス共和国首相トーレル・ハシモンヌは直にアテネへと出向いてジュノンへと感謝状を贈呈した。

「私はアキタケジスさんが家に火を放つのが許せなくてそれを咎めただけです。活躍だなんて、そんな・・・」

「いや、君があのオバサンを撃退した結果がこうなったんだ。まさしく君の手柄だよ!!」

 謙遜するジュノンをハシモンヌが持ち上げる。

「そこで我々フランス政府は君の願いを一つだけ叶えてあげようと思っているのだけどどうだろう?」

「えっ?」

 突然の言葉にジュノンは目を丸くする。

「なに、常識の範囲内での願いなら叶えてあげようって話だよ。流石に誰かを殺してくれとかどこかにミサイル落としてくれとか言われたらちょっと待てってなるけどね。」

「・・・・・」

 少し考えていたがジュノンに迷いはなかった。

「常識の範囲内なら叶えてくださるのですね?」

「ああ、約束する。」

「でしたら・・・」


 数日後、久しぶりに見る人が来店してきた。

「どうも、ベルンハルト・フェーブルヴィッヒです。あなたのご活躍、聞きましたよ。」

 元教諭ベルンハルト・フェーブルヴィッヒは以前会った時よりも明らかに表情が色づいていた。

「お久しぶりです。ですが、今は電話予約制なので・・・」

「いえ、いいんです。今日はお話があってここに来ただけですから。」

 コホン、と咳払いをしてベルンハルトが続ける。

「私、ドルトムントの小学校に復職が決定したんです!」

「えっ、そうなんですか?」

 まるで初耳だと言わんばかりにジュノンが驚いてみせる。

「はい。ドイツ政府がかつて私を懲戒免職にした当時の政府の非を認め、私に復職ならびに新居を無償提供してくれたんです!」

「うわぁ・・・すっごくオイシイ話じゃないですか~。」

「しかも!基本給は懲戒免職の前月の状態からのスタートでの再雇用というオマケ付きです!!」

「ああ!羨ましい・・・・・」

 鼻息を荒げて話すベルンハルトに対してジュノンは純粋に喜んでみせる。

 ~良かったですね、ベルンハルトさん・・・~

 だがそれは、ジュノンの願いに他ならなかったのだ。

「かつて、ドイツ人教諭ベルンハルト・フェーブルヴィッヒを不当な懲戒免職に追いやった当時のドイツ政府の非を認めさせ、現ドイツ政府に彼の復職と数年間の生活を保障させる」というジュノンの願いをハシモンヌは即座に叶えてくれた。直情型のハシモンヌがどのような手を使ってドイツ政府に打診したかは定かではないが、彼がジュノンの言い分を聞いてくれた事とベルンハルトを救済してくれた事実に変わりはなかった。

「まぁ近々ここのアパートを引き払わないといけなくなるんだけどそうするとあなたともお別れだ。ジュノン、もしかしたらあなたこそが私に幸運を導いてくれた女神様だったのかもしれないな・・・」

 たとえのつもりで口にしたベルンハルトだったがそれこそが事実に相違なかった。

「すみませーん!施術お願いしまーす!!」

 そんな中、電話予約の客人が店へと入ってきた。

「おっと、そろそろ逃げるかな。ではジュノン、縁があったらまたどこかで会いましょう!」

「ベルンハルトさんもお元気で!!」

 ベルンハルトは、ジュノンに深く一礼をすると背を向けて店を後にした。

 ジュノンは、その背中に以前とは違う「力強さ」と「たくましさ」が備わっている事を改めて確信したのであった。 


 ―ジュノン・ジュリアスの章 END―


 ―ベルンハルト・フェーブルヴィッヒの章―


「すみません、ATR99とは裏組織か何かの暗号の名前ですか?」

「あれ、ベルンハルト先生は知らないんですか?ATRというのはオーストリア(AUSTRIA)の略称で、99人のメンバーがいるから99(ナインティーナイン)です。今やヨーロッパのトップクラスのアイドルですよ?」

 ドルトムントの小学校に復職してから数ヶ月。

 生徒たちや若い教諭がたびたび口にする“ATR99”という言葉が何を意味するものなのかを意を決しておそるおそる女性教諭にたずねてみたところ、彼女からはそんな答えが返ってきた。

「ま、50も過ぎたオジンな上にそういった知識に疎いベルンハルト先生には関係のない話ですけどね!」

 さり気なく嫌味を添えながら。


「みんな!明日から夏休みだからといって気を抜いてはならんぞ!この長期休暇はだらけるためにあるのではない、自己鍛錬のために存在するものだと各自が頭の中に入れたまま日々を送る事を先生は切に願う!!」

 夏休み前日・終業式後のホームルームにて、ベルンハルトは自身のクラスで熱弁を振るっていた。

「いいか!毎日きちんと挨拶するぞ!!」

「オー!」

「予習復習しっかりやって勉学にも励むぞ!!」

「オー!」

「奉仕活動にも積極的に参加して町をキレイにするぞ!!」

「オー!」

「いじめは絶対にやってはいけないぞ!!!」

「オー!!!」

「・・・先生、ATRの握手会に行ってもいいですか?」

 クラスが熱く盛り上がっている最中、生徒の一人がそんな質問を投げかけてきた。

 またしても“ATR99”という正体不明の代物である。

「先生はオジンだからATRなんて知らないぞ!!」

「エー!!!!」

 そこでクラスは大爆笑に包まれた。

 結果的にその場をうまく切り抜けはしたものの、ベルンハルトは「ATRを知っておく必然性」をこの時強く感じたのであった。


 そしてむかえた夏休み、ベルンハルトの姿は“ATR99”が活動拠点とするオーストリアはウィーンにあった。

 年齢的な事情もあって学校の見回りや雑務といった諸作業を免除されていた上に一人暮らしで家族の相手をする必要もなかったベルンハルトは、この夏休みを利用してATRを骨の髄まで知り尽くそうと目論(もくろ)んでいたのである。

 ~ATR・・・今日こそは必ずやそのシッポをつかんでみせる!~

「すみません!!私は戒律を破ってしまいました!!」

「わわっ!」

 意気込んでいたベルンハルトの背後から突如大声が響いてくる。

 振り返ると、大型デパートの横に設置されていた巨大モニターに坊主頭の女性が映し出されていた。

「ATRの一員である以上守るべき掟が存在したにも関わらず私はルール違反を犯してグループの名に傷をつけてしまいました!だからこうして自らの手で頭を丸めて私なりのけじめをつけましたっ!ファンの皆様、つまらないニュースで迷惑をかけてしまって本当に申し訳ありません!!」

 号泣とともに女性が深々と頭を下げる。

「ATRだと・・・?」

 おそらくこの女性はATRのメンバーに間違いないのであろう。だが、それ以上にその異様な光景がベルンハルトを怒りと疑念で震え上がらせていた。

 ~この子が何をしたのかは知らないが若い女性を丸坊主にさせた上にその姿をさらして頭を下げさせるとは何たる卑劣・・・ATRめ!!~

 その時点で、ベルンハルトはATRに負の感情を抱くようになったのである。


「・・・・・」

 ウィーンの電化製品街に足を踏み入れたが最後、そこは未来のアイドルたちがしのぎを削る戦場に他ならなかった。

「うちらザルツブルグのアイドル集団“SLU99”やでェ!!“ザツブルグ”ちゃうんやでェ!!」

「チロル地方のご当地アイドル“チロリアンズ”上京してきましたー!!」

「それでは“ウィーン裏通りハイドンズ”の新曲をお楽しみ下さい!!」

 左を向いても右を向いても何が何だか誰が誰だか全くもって分からない。

 俗に「音楽の都」と呼ばれているウィーンがこんな形で栄えている現実にベルンハルトは苦渋の表情を浮かべていた。

「こんなんでもCDは売れてるそうだからなぁ・・・」

 詳しくは知らないが、今現在こういったアイドルグループのCDが普通のバンドやシンガーたち以上に好セールスを記録しているという話はベルンハルトもテレビや雑誌などで何度も目や耳にしていた。だが、そのたびに人が買うものだから口を挟む筋合いはないとは言えど「大して歌や踊りが上手でもないこの子たちがどうしてプロのミュージシャンと同格あるいはそれ以上の売り上げを記録しているのだろう」という疑問が沸き起こっていた。

「誰がこんなの買うんだか・・・」

「それは信者どもの複数買いなのだぁ~!!!!!」

「わわっ!」

 愚痴をこぼしていたベルンハルトの背後から突如大声が響いてくる。

 振り返ると、今度はモニター画面越しではなく目の前に奇妙な形相をした女の子が立っていた。

「な、何だね君は?」

 ベルンハルトはいきなり大声を出された事以上に女の子の風貌に恐れおののいていた。

 普通の人よりも明らかに異なるやや大きくて上部のとがった耳。普通の人と比べて明らかに目に付く大きな睫毛。そして、街中で明らかに浮いている忍者のファッション。

「私の名前はキャリンナ・パチェク。東欧はスロバキア共和国からやってきたハーフエルフなのだぁ!!」

「は、ハーフ・・・」

 ハーフエルフ。昔、本で読んだ記憶が正しければ確か人間と妖精の間に生まれた種族だったような気がする。

 ベルンハルトは古い記憶をたどりながらこのキャリンナ・パチェクという女の子が自分をからかっているのだと思えてきた。

「ふざけないでくれないか。君は変なファンタジー小説の読み過ぎで幻想世界とリアルの境界線が見えないんじゃ・・・」

「ぐがぁぁぁぁぁぁ!!!」

 キャリンナは凍てつく吹雪をはいた。

 すると、街はたちまち激しい冷気に包み込まれてしまったのである。

「さ、さむ~い・・・もう限界!!」

 さっきまで通りのいたるところで歌やトークを繰り広げていたアイドルたちがすぐに中断してどこかへと引き上げて行く。

「ね。私、ハーフエルフだったりするでしょ?」

「あぁ、まぁ・・・」

 今の動作を見ているとむしろモンスターの類だったような気が。

 しかし、うかつに言い返すと食べられそうな気がしたのでベルンハルトは敢えて否定をしなかった。

「じゃあちょっとお腹空いたから続きは近くのレストランで話そうか。」

「は?」

 キャリンナは、返事を待たずにベルンハルトの手をつかむとそのまま“ユメタウロス”と描かれた看板の店へと歩みを進めていった。

 その力があまりにも強く、抵抗すると骨の一本はへし折られそうな気がしたのでベルンハルトも連れて行かれるがままに同じ店へと歩みを進めていったのであった。


「えっ?じゃあCDはオマケで売れているのはサインだって?」

 ミートソーススパゲッテイを口に運んでいる手を止めてしまうほどその話は衝撃的だった。

「うん、そーだよ。あの人たちって初回限定盤のシングルCDにはいつもサイン入りの生写真とかPVプロモーションビデオの収録されたDVDとか付けていて実質それで売り上げを水増ししているような感じかな。」

 ステーキセットの付属である大盛りサラダとガーリックトーストを交互にガツガツと食べながらキャリンナがさも当たり前のように言ってくる。

「でもね、そんなのまだマシな方。ひどい例だと半日デート券が当たるかもしれない抽選券を特典に入れて売る手法があるの。そうすると、デート券欲しさに一人で何枚もCD買って抽選券をより多く手に入れてやろうってファンも出てくるでしょ?」

「確かにそれは・・・」

 肉厚のステーキにかぶりつきながらキャリンナがさらに続ける。

「それと今は年に一回アイドル人気投票なんて企画をやっていてその時期にリリースされるCDには必ず投票券が付いていて自分のお気に入りの子に投票出来る仕組みになっているの。これだって一押しの子がいたらその子のために同じCDを一人で100枚も200枚も買って100票も200票も投票している物好きな人が後を絶たないという話だからそりゃあ実際に買っている人が100万人に満たなくたってミリオンヒットにもなるって話だよね。」

「あの子たちのヒットの陰にはそんな裏話があったのか・・・」

 ベルンハルトが複雑そうな顔をしながら水を飲む。

「確かに私たちアーティストの多くは初回限定盤にPV付きのDVDを付けて通常盤と2種類の形態でリリースをしているけどそれだったらコアなファンは初回限定盤を、普通のファンは通常盤を買えばそれで済むって話だけど彼女たちの手口は複数買いの強要そのものってワケだよ!」

 そこでキャリンナはワインをぐっと一気飲みしてプハーッと息を吐く。

「ま、そこまで言うとまるで私がアイドルグループを嫌っているかのように思えてくるだろーけど決して私は嫌ってないんていないから。むしろATRに対しては同情の念を持っているぐらいだよ。」

「ATRに同情?」

「そ。だってあの子たちって売れてはいるけど自分たちで歌を作っているワケでもレーベル立ち上げているワケでもないから売り上げの収入なんて微々たるもんじゃない。それなのにイベントにコンサートにと精力的に動き回らされて多忙な生活を強いられて、その上で異性との交際は絶対的に禁止されていて破ったらメンバー追放されるか坊主頭にされるなんてルールなんて作られているんだから・・・」

「そんな掟があるのか・・・」

 信じられないような話の連続でベルンハルトの顔もどんどん険しくなってくる。

「じゃあ、誰がそんなバカげた掟を作った上にあの子たちを酷使させているというのだ・・・」

「・・・・・」

「ひっ!」

 さっきまでデザートのメガ盛りフルーツパフェをかき込むように食べ続けていたキャリンナがそれを中断してにらみつけるようにベルンハルトを見据えていた。(右手にスプーンを持ったまま)

「ATRをはじめとする今特に売れているアイドルグループたちのプロデューサーを手がけている者の名前はヴォルフガング・アキモッツ。巨額の富と美人妻を持つリア充(リアはリアル、充は充実の意。つまり、現実での生活が充実している人のこと)の象徴のような男だよ。おじさん、何を考えているかは知らないけれど相手をするのなら細心の注意を払わないと痛い目を見るから気をつけてね・・・・・・」 

 

 キャリンナと別れた直後、ベルンハルトはアイドルたちがひしめく電化製品街から少し離れたCDショップに立ち寄った。

 そこでは店頭で宣伝をしているアイドルグループの姿は見当たらず、煩わしい思いをせずに入店をする事が出来た。

「・・・・・」

 ベルンハルトはためらう事なく洋楽コーナーへと足を運ぶ。

 ~己の利益のために偶像たちを利用してアコギな商法を繰り広げているような輩の携わる歌など興味はない、私は・・・!~


 

 メキシコのメキシコ人によるメキシコ人のための“メキシコラボレーション”ついに実現!

イザベラ・コンデレーロ×レボン・ハイプレーニャによる合作シングル発売!!



 可愛らしい文字でそう刻み込まれた横断幕の両脇にそれを持つようにしてメキシコ人声優イザベラ・コンデレーロと同じくメキシコ人アーティストであるレボン・ハイプレーニャの等身大スタンドポップが立て掛けられている。

「ああ、なんと勇ましいお姿なのであろう。まるでアステカの神が景品を使ってCD売り上げを荒稼ぎしているこの国の音楽業界を粛清するためにつかわせた正義の使者のようだ・・・」

 スタンドポップに祈りを捧げながら(特にイザベラの方に向けて)ベルンハルトは昔からのファンであった両者への敬意を表す。そして、新譜CDを手に取ると一目散にレジへと向かった。

「いや、それとも彼ら自身が神なのか・・・」

 会計を済ませると、ベルンハルトは半永久的に解けそうにない謎にしばし頭を悩ませていた。

「真なる神はオリンポスの山々なのれ(で)すっ!!」

「わわっ!」

 頭をかかえていたベルンハルトの背後から突如大声が響いてくる。

 振り返ると、女の子が()ねたような表情でこっちを見ていた。

「全く、この国のアイロ(ド)ルたちは生写真とサインを売っているようなものなのれ(で)す。CDがたら(だ)のオマケになっていて大半のファンがすぐに中古に売りら(出)しているワケら(だ)から彼女たちの歌のていろ(程度)なんて知れたようなものれ(で)すよ。」

「君は・・・」

 舌足らずな口調もあって言葉を理解するのに多少時間はかかったがどうやらこの少女も自分と同じような考えを持っているらしい。

 ベルンハルトはその澄んだ瞳に息を呑むと、この子が純粋で清らかな心の持ち主である事を即座に理解した。

「れ(で)も、もうすぐ聖獣イクノンが現れて不浄なる魂に鉄槌をくら(だ)す日がやって来るのれ(で)す。そうしたら音楽業界も清流のごとし澄んら(だ)世界へと近づき真に才あるミュージシャンたちが競い合う健全な場所となるのれ(で)す。」

 先ほどのキャリンナに同じく少女の言葉の端々にもどこかファンタジーのような響きが含まれていた。

この少女が何者なのかは知らないが、ベルンハルトの瞳にはこれまでに見てきた数多くのアイドルグループのメンバーたちと比べると綺羅星のように輝いて映し出されていた。

「聖獣イクノン、か・・・」

 ベルンハルトは、間もなく音楽業界の夜明けが訪れる、そんな予感を心のどこかで薄々と感じつつあった。


 聖獣イクノン。それは、ギリシャ神話に登場する治療の神の名前で正式な名称を“イクシノン”といった。

 文学の女神“マナカレス”の妹として生を受けた彼女は生まれつき体が弱く、幼い頃から介護付きの生活を余儀なくされていた。だが、姉・マナカレスと家族たちの献身的な介護が功を奏して14歳を過ぎた頃には一人で歩けるようになっていた。以降、彼女は自身の体験を元に医学の道を志し、多くの病に苦しむ民衆たちを救済した。

 しかし数年後、その活躍を妬む東方の魔獣“マハラジャの使い”によってイクノンは連れ去られ、惨殺されてしまうのである。程なくしてその訃報はギリシャ全土へと知れ渡り、その早すぎる死を悼んだゼウスはイクノンを聖獣としてよみがえらせたのである。

 そして、聖獣となったイクノンは生前以上の治癒能力を身につけて数百年の時を生きながらえたのであった。

 めでたしめでたし。


「めでたしめでたし・・・か?」

 翌日、聖獣イクノンを調べるべくウィーンの図書館で神話にまつわる本を適当に読み漁っていたベルンハルトは、そんな事が書いてあった文献を見つけてようやくその素性を知る事に成功した。だが、そこにあるのは文字だけでその実像はどの文献にも掲載されてはいなかった。

 ~あまり名の知れた神ではないから姿形を載せる必要もないというワケか・・・~

 ベルンハルトは、閉架書庫の中になら参考になる文献があるかもしれないと思い司書に閲覧請求を願い出た。

しかし。

「すみません、当図書館の閉架書庫は既に廃止されて中にあった本は全部廃棄処分されました。」

「えっ?」

 司書の女性からは信じられないような返答が返ってきたのである。

「廃止に廃棄って・・・いくら書庫の中の本だといってもそれを必要にしている人だっているだろうにどうしてそんな事をしたのですか?」

 納得がいかないといった顔でベルンハルトが問い詰めると女性は申し訳なさそうに下を向く。

「それが、偉い人からの命令で書庫を撤廃して代わりにCDコーナーを拡張しろという指示があったみたいで・・・私たちもある程度までは粘ったのですがその人の権力と世論に押し切られる形でやむなく・・・」

 なるほど辺りを見ればこの大きなスペースの中は見渡す限り本ばかり。おそらく隣の部屋の本来書庫であった空間を潰して全部CD・DVDのレンタルコーナーに変えてしまったのだろう。

「偉い人って誰ですか!?その人に何の権限があってそんな横暴が(まか)り通るのですか!?」

 ベルンハルトはそこが図書館である事も忘れて声を荒げていた。

「そ、それは、その・・・」

 一度、権力者の横暴によって家族の崩壊と生活の困窮を余儀なくされていたベルンハルトだからこそ、その怒りには凄まじいものがあった。

「どうなんですか!?何か言ってみて下さいよっ!!」

 両の手で女性の両肩を鷲づかみにして揺さぶる。

 しかし、そこがタイムアップだった。

「何に憤慨しているのかは知らないが図書館で騒ぐのはいただけないな!」

 気がつくと、ベルンハルトは大柄の警備員二人に両腕をガッシリとつかまれてしまっていた。

「あっ・・・」

 周囲を見れば物珍しそうに自分を見ている人ばかり。

「も、申し訳ありません・・・」

 我に返ったベルンハルトは小さな声で謝罪の言葉を口にした。

「本来なら出入り禁止にするところだが真摯に反省をしているようだしそれはやめておくとしよう。だが、今日は強制退出だ!!」

 温情はかけられたものの、退出を余儀なくされてそのまま図書館の外へと連れ出されてしまったのである。


 図書館脇の自動販売機前まで連行されたベルンハルトは、いまだに両腕をつかまれた状態のまま身動きが取れなかった。 

「あの・・・本当にお手数かけました。」

 改めて謝罪の言葉を口にするも今回は反応がない。やがて。

「しかしヴォルフガング・アキモッツってのはとんでもない野郎だな。」

「全くだ。人に交際禁止ルールを強要しておきながら自分はプロデュースを手がけた女性をしっかりモノにしてるんだからな。」

「えっ・・・?」

 ベルンハルトを差し置いた状態で二人の警備員が会話を進めている。

「そもそもこの図書館だって閉架書庫の文献に興味のある人が多かったのにアイツの一声で全部撤廃されてCDコーナーにされちまうんだからたまったもんじゃねーよ。」

「CDコーナーっていっても大半はATRを筆頭とするアキモッツファミリーの歌ばっかりだろ?」

「そう。CDコーナーの拡張は多くの利用者たちの声だなんて言ってたけど単に自分の作品を置いてもらいたいだけの建前さ。」

「ああいう輩はどこかで痛い目を見ておかないとますます増長するからこの辺りで鉄槌を下しておきたい気分だが・・・」

「きっと勇ましく立ち向かってくれる猛者が間もなく出てきてくれると俺は信じているよ。」

「そうだな。俺も信じたいものだな!!」

 そこで二人は同時にベルンハルトを解放した。

「おっとっと!」

 力強く放されたので軽くよろけるもベルンハルトはなんとか踏みとどまる。

「おっさん!次は静かにここを利用してくれよ!!」

「俺らも司書の姉さんもあんたの味方だからな!!」

 二人の警備員たちは館内での強張った表情から一転、笑顔でベルンハルトを見送ってくれた。

「何と言うか・・・お気遣い感謝します!」

 ベルンハルトは、一礼を添えて敬礼すると堂々とした足取りでそのまま図書館を後にしたのであった。


 その夜、宿代わりに利用しているインターネットカフェでベルンハルトはついに戦う決心をした。

 ~ヴォルフガング・アキモッツ・・・己の身勝手で公共の施設を破壊し、詐欺まがいの手口でCD売り上げを水増しし、その上アイドルたちを手駒のように扱う卑劣漢、許すまじ!!~

 かつては怒りの矛先をATRに向けていた。だが、それ以上に今はアキモッツの存在が憎らしかった。

 ~そうだ、ネットで調べれば奴の根城が明るみに出るはずだ・・・~

 カタカタとキーボードを叩きながらベルンハルトは「アキモッツ」「自宅」「現住所」の3つのワードを使って検索をした。

 すると、アキモッツの住むウィーンの豪邸が画像つきで現れて、番地までもが事細かに記されたサイトにたどり着いたのである。

 ~・・・よし!!~

 もはやベルンハルトに迷いはなかった。


 翌日の夕刻。

 ベルンハルトの姿はアキモッツの暮らす巨大な邸宅の玄関前にあった。

「ヴォルフガング・アキモッツよ!この家をあらためさせてもらうぞ!!」

 大きな声でそう叫ぶとベルンハルトは両門を勢い良く開いて敷地内へと足を踏み入れた。

「き、貴様何者だ!?」

 入って数歩のところで「研修生」と描かれたシャツを着た警備担当とおぼしき少女たちが現れて前に立ち塞がってくる。

「君たちに用はない・・・私が用があるのはこの家の家主だけだっ!スタンフラッシュ!!」

 ベルンハルトの瞳から強い光が放たれる。

「うっ・・・」

 すると、少女たちは一人残らず身動きが取れなくなってその場に倒れこんでしまったのである。

「案ずるな。命に別状はない・・・」

 ベルンハルトは少女たちには目もくれず、そのまま家の中へと入って行ったのである。


 数多のトラップと少女たちの襲撃を乗り越えたベルンハルトは目的地である“アキモッツの間”に深手を負いながらも到達した。

「ほぉ、あれだけの研修生ガーディアンたちを退けてここまで来るとは大したものだ。」

 玉座に腰掛けた恰幅の良い中年男性ヴォルフガング・アキモッツはそう言ってベルンハルトを出迎えた。

「して、この私に何用だ?我が専属マネージャーを志望するのならそれ相応の試験を受けてもらうぞ。」

「ヴォルフガング・アキモッツ!本日を持ってお前とATRを筆頭とするお前がプロデュースする全アイドルグループの活動停止を命じる!!」

 ベルンハルトが右手の人差し指をアキモッツへと突きつける。

「複数買いを無理強いさせる詐欺まがいの商法、自身の過去を棚に上げて不当なルールを女の子たちに押し付ける横暴、都合の悪い不祥事を金と権威でもみ消す裏工作・・・身に覚えがないとは言わせんぞ!!」

「・・・・・」

「どうした、図星を突かれて声も出ないというワケか!!」

 パチン!

 アキモッツは何も答えずいきなり指を鳴らした。

 すると、天井が開いて一人の女性が降ってきた。

「イタネ、今回の侵入者はこの男だ。いつもなら半殺しだが今日の男は処刑しろ。」

「了解です!」

 女性はアキモッツの指示を受けると即座に攻撃態勢に入った。

「我が名はエリーザベト・イタネリンガー。男よ、下らぬ正義感でここに来た事をあの世で後悔するがいい!」

「こっちこそ君が誰かは知らないがアキモッツを擁護するのなら牢屋で後悔させてやる!!」


 同時刻、ウィーン郊外の森の中で全欧選りすぐりのミュージシャンたちによる大型フェスティバルが催されていた。

「カモーン・イクノン・フェスティバル!この夜空に聖獣イクノンを召還するために今日はみんなで歌って踊って祈るのだぁ~!!」

 スロバキア人アーティスト、キャリンナ・パチェクがその一言と共に夜空へと灼熱の炎を吐いて“イクノン・ザ・フェスティバル”が幕を開けた。

「うぉーっ!!!」

 その時点で観客たちの盛り上がりは爆発しそうな地点にまで達していた。そこから、欧州各国の本格的なミュージシャンが次から次へと現れて洗練された楽曲の数々を披露した。しかし、歌の質がどれだけ高かろうとも観客がどれだけ盛り上がろうとも夜空に聖獣が降臨しそうな気配は一向に見当たらなかったのである。

 そんな中、ギリシャの音楽ユニット“マナカプセル”に出番が回ってきた。

「イクノン・ザ・フェスティバルにおこしの皆様こんばんは。“マナカプセル”ヴォーカルのテトラ・クロセウスれ(で)す。」

「同じく“マナカプセル”司令塔のカメックです。正直これだけハイレベルな歌たちが夜空を彩り続けても顔も見せようとしないイクノンには僕も手を焼くかもしれませんが彼女の澄んだ心とヴォーカルがあれば今度こそ現れると思います。だから皆さんも引き続きこの夜空に祈りをお願いします!」

 “マナカプセル”の二人は観客席に一礼をするとすぐにライブへと突入した。

「うにゅにゅ・・・透き通った歌声に心が癒されるぞぉ・・・」

 舞台脇で既に出番を終えていたキャリンナはテトラ・クロセウスのヴォーカルにただ聞き惚れていた。

クロセウスの透き通った歌声とカメックの洗練されたサウンド。両者の長所は相乗効果となってキャリンナのみならず全ての観客と参加していた全ミュージシャンを魅了し続けていた。

そして“マナカプセル”が2曲目のAパートを歌い終えて間奏に入ったその時に奇跡が起こったのであった。

「あ、あれは!!」

 クロセウスが指差した夜空の向こうには大きな光が満ちていた。

 やがて、その中から大きな金色の獣が姿を見せて咆哮(ほうこう)を上げたのである。

「イクノンれ(で)す!聖獣イクノンのおれまし(お出まし)なのれ(で)すっ!!」

「うおぉぉ―――――っ!!!!!イクノ――ンっ!!!!!」

 クロセウスが我を忘れてステージの上を駆け回っている一方で観客の興奮はあっという間に最高潮に到達した。

「うにゅにゅにゅにゅ・・・ぐががががー!!」

 キャリンナにいたっては興奮のあまり夜空に向かって何発も灼熱の炎を吐き出し続けていた。

「きれい・・・」

「なんとまぶしい・・・これが聖獣イクノンか・・・」

「これを見られただけでもこのフェスティバルに参加した甲斐があったというものだ。」

 他のミュージシャンたちからも口々に喜びと感嘆の声が上がってくる。

 そんな中でカメックは演奏を中断したまま微動だにせずイクノンの姿を見据えていた。

「さぁイクノン、この夜空は君の物!その雄姿を見せるべく光の速さで世界中を駆け抜けて、真に苦しむ人たちを救済してから戻って来るんだ!!」

 カメックの叫びの後に数分間の沈黙が訪れる。

 やがて、再び咆哮(ほうこう)を上げるとイクノンはどこかへと飛び立ったのである。

 

ドカッ!ボコッ!

壁際に追い詰められたベルンハルトはもはやエリーザベト・イタネリンガーのサンドバッグ状態と化していた。

「この私が・・・こんなに簡単にやられてしまうとは・・・」

 確かにここに来るまでに深手を負っていたのは事実だがそれでも全く歯が立たないとは想像もつかなかった。研修生には通じたスタンフラッシュもイタネ相手には全く効力を発揮せず、繰り出す攻撃の全てを完全に読まれてしまっていては成す術もなかった。

「どうだい?そろそろ目の前に川が流れているんじゃないのかい?・・・三途の川がね!!」

 ドボオッ・・・!

 腹部へのボディブローが炸裂してベルンハルトが血を吹き上げる。

「くっ、サディスティックな奴め・・・・・・」

 ベルンハルトが意識を失いかけて両膝をつく。

「グッハッハッハ!口ほどにもない男だ。ここで朽ち果てて今後悠久の時を栄える我がアキモッツ王朝の(いしずえ)となるがいい!!」

 段々とアキモッツの笑い声も遠くに聞こえてくる。

「そういう事らしいよオジサン。じゃあ、いい加減飽きてきたからこの辺で終わりにしようね・・・」

 イタネがロープを取り出してベルンハルトの首へと巻きつける。

「さよなら、苦労人さん!」

 イタネが全力でロープを引っ張ろうとしたその時だった。

「ぐがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 ものすごい咆哮(ほうこう)が辺りに轟き渡り、それに伴い“アキモッツの間”の西側の壁が全壊した。

 そして、そこから聖獣イクノンが入り込んできたのである。

「な、何だ貴様っ!!」

 ベルンハルトが殺される瞬間を嬉々として見届けようとしていたアキモッツは突然の予期せぬ来客に驚愕した。

「あ、あれは・・・」

 けたたましい咆哮(ほうこう)によってベルンハルトの意識が少しずつ戻ってくる。

 はじめて目にする聖獣の姿だったがベルンハルトはそれがイクノンであるとすぐに理解した。

「汚らしいケダモノめ!!出て行かんと焼き殺してしまうぞ!!」

 アキモッツの目には神聖なる聖獣の姿でさえ醜悪な獣のように映っていた。

 ~ヴォルフガング・アキモッツ・・・物欲と金欲に溺れし哀れな男・・・神の業火で心身もろとも清めつくされるがよい・・・~

「え?」

 ふいにベルンハルトの脳内に暖かくも優しい声が聞こえてくる。

「イタネ!そいつは後でゆっくりとなぶり殺してやって先にこっちのバケモノを・・・」

「ごがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 その直後、イクノンは大きく目を見開くと激しく巨大な炎を吐いて“アキモッツの間”を火の海に包んでしまった。

「な、何をするんだ貴様っ!こんな事をしてただで済むとは・・・」

 憤慨するアキモッツだったが程なくして自身も飛び火を受けて炎に包まれてしまう。

「ぐあぁっ!消防、消防だっ!誰か消防車を呼んでくれーっ!!」

 そして、悲鳴を上げながらそのまま部屋を飛び出してしまったのである。

「・・・どうやら、あんたを殺してる暇などなさそうだな。」

 身の危険を感じたイタネはベルンハルトの首に巻きつけたロープを取り払ってしまった。

「君・・・」

「オジサン命拾いをしたね。だが覚えておきな、今度あたしに出会ったその日があんたの命日だ!せいぜいあたしの出現スポットを歩く時は防護服でも身に付けて歩くんだな!!」

 そこまで言うとイタネは紅蓮の炎に包まれた部屋を後にした。

 ~ベルンハルト・・・よろしいのですか?~

「えっ?」

 部屋に取り残されて呆然としていたベルンハルトの脳内に再び声が響いてくる。

 ~この屋敷に暮らしているのはあの者たちだけではありません、多くの研修生たちが警備員の代わりとして常駐をしています。ここに来るまでにあなたの魔法で動きを封じられた者が数多く残っているというのにこのまま放置してよろしいのですか?~

「・・・・・・あっ!!」

 状況を把握したベルンハルトは事の大きさを理解すると一目散に部屋を飛び出した。

 今や炎は“アキモッツの間”を越えて屋敷中のいたるところに燃え広がっていた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ!」

 倉庫にあった大型のリヤカーに麻痺状態で身動きの取れない研修生の少女たちを何人か積んでは屋敷の外に避難させる。深手を負っている上にかなりの重労働だったがベルンハルトは死に物狂いでその単純作業を続けた。しかし、体力の消耗は思ったよりも著しくベルンハルトは4度目の屋敷への救出突入でついに目まいを起こして倒れてしまったのである。

 ~まずい、このままでは・・・!~

 屋敷の中にはまだ40人近くの研修生たちが残っている。

 このまま立ち上がれなかったら自分を含めて多くの犠牲者の名前が明日の朝刊に刻まれてしまう。

 ~何としても、全員を助け出す!!~

 絶対に阻止せねばならない惨事がそこにある。

 ベルンハルトは、金色のオーラを輝かせながらゆっくりと立ち上がった。

「時よ、今しばらくその流れを止めて我が時流に封じ込まれるがよい!タイムスタンフラッシュ!!」

 ベルンハルトの目が鋭い光を放つと、屋敷内の全ての時間が停止した。

 屋敷を覆い尽くしていた炎もまたその活動を休止していた。

「さあ、ここからが私の本当の仕事だ!!」   

 全てが止まった空間の中で、ベルンハルトは滞っていた救出活動を再開させたのであった。


「総名77人全員無事であります!!」 

 麻痺が解けていた研修生グループのリーダーの少女が点呼の後で全員の無事を通報を受けて駆けつけてきた消防隊員に告げた。

「それが、研修生の子はみんなほとんど無傷で助かっているんだ。でも・・・」

 なんとか消火は済ませたものの屋敷は全焼。家主であるアキモッツとその妻および護衛のイタネは行方不明。

 それでも死人が一人も出なかったのはまさしく不幸中の幸いと言えた。

「ま、焼け跡から仏さんが出たワケでもないしあの人たちの事だからどっかでよろしくやってるだろう。それより・・・」

 隊員の一人が不思議そうな顔で研修生リーダーの少女を覗き込む。

「随分と強大な炎が噴き上がっていたけど何が出火原因だったか心当たりはないかな?」

「それは・・・」

 少女の脳裏にベルンハルトの姿が浮かんでくる。この出火に直接関わっているのかは知らないが自分たちに攻撃を仕掛けてきた彼の話をすればすぐにでも彼は身柄を確保されて取調べを余儀なくされるはずだ。だけど、傷ついた体を駆使して炎に包まれていた屋敷の中で身動きが取れなかった自分たちを助けてくれた「命の恩人」も間違いなく彼だった。

「・・・・・」

 口ごもるリーダーの少女の心中を察してか他の研修生たちも複雑な顔をしている。

「これは事件かもしれないんだ。思い浮かぶような事情があれば些細な事でもいいから我々に・・・」

「間違いなくアキモッツ先生の火遊びが原因です!!」

「えっ!?」

 とんでもない解答に隊員が目を丸くする。

「アキモッツ先生は趣味の一環としてわざとボヤを出しては私たちの現場に駆けつける時間を測定して危機管理能力を試してきたりする悪癖を持っていました。おそらく今日もそれをやろうとしてどこかに火をつけたら思った以上に燃え広がってこのような騒ぎになったのではないかと・・・」

「そ、そうよね。アキモッツ先生の火遊びって時々やり過ぎってぐらい酷い炎上を引き起こしたりするからね。」

「アキモッツ先生は昔から火遊びが好きだったって話だからその癖から抜け出せなかったんだよ、結局。」

 リーダーの少女の発言に伴い研修生たちも次々にアキモッツに原因があったのだと口にする。

「なるほど。確かにアキモッツの火遊びが過ぎるという噂は昔からちょくちょく耳にしていたからな。今回もその延長線上で起こった一人相撲のようなものだったのだろう・・・ご協力感謝する!」

 隊員は、研修生たちに敬礼をすると作業を続けている仲間の元へと引き上げて行った。

「これで、良かったんだよね・・・」

 こうして、研修生たちの心に「命の恩人」としてベルンハルトの存在は刻み込まれたのである。


「イクノン。さっきから私の脳内に話しかけているのはあなたなのだろう?」

 ~無論です。今ごろ勘付いたのですか?~

 夜の空、満天の星々がより輝いて見える上空。

 ベルンハルトは聖獣イクノンの背に乗ってドイツへと帰国するところだった。

 ~それよりも、お休みはまだ当分続くのでしょう?ならばもう少しウィーンに滞在していてもよろしいでしょうに。~

「いや、もういいんだ。これ以上あの町ををうろついてもこの火事の一件で事情聴取をされそうだしあのイタネって子に命を狙われたりされそうだしウィーンはもう懲り懲りたよ。」

 あの火事で研修生を全員救出した直後にベルンハルトの体から沸き起こっていた金色のオーラは消滅した。すると、それまで止まっていた屋敷内の時間が動き出し、炎は中の全てを灰としてしまったのである。これ以上自分がすべき事は何もないと感じたベルンハルトは消防署に通報をすると、イクノンに懇願してそのまま帰路についたのであった。

 ~で、夏休みの残り日数の間あなたは何をなさるおつもりなのですか?~

「さぁ・・・休養して、音楽聴いて、自分磨きに勤しむ日々、かな?」

 ~それはご立派な事で。~

「おっと、あれが私の自宅です。あそこで降ろして下さい。」

 話をしている間にいつの間にやらドルトムントの上空に来ていた。

 ~見かけによらず随分と立派な家にお住まいのようで。~

「ほっといてくれっ!」

 ~はは、これは失礼。~

 イクノンはベルンハルトを自宅の前で降ろすとそのまま上空へと飛び立って行った。

「聖獣イクノン!あなたとの出会いを私は生涯忘れない!縁があればまたどこかで会いましょう!!」

 ~そうですね、またいつかどこかで・・・~

 ベルンハルトは、イクノンが宵闇に消えて見えなくなるまでずっと見送り続けていた。


 翌日、主を失った“ATR99”をはじめとするヴォルフガング・アキモッツがプロデュースするアイドルグループは無期限の活動休止を発表した。

 ATRの活動休止が影響したのかその日から他のアイドルグループの活動も少しずつ縮小され、CDの売り上げも下降線の一途をたどるばかりとなった。

 そして「アイドル戦国時代」と呼ばれた一時代はあっけなく終焉(しゅうえん)を迎えてしまったのである。


 夏休みが明けたばかりの9月某日。

 久しぶりに足を踏み入れる職員室はさわやかな熱気に包まれているような気がした。

「先生!ATRが活動を休止しちゃったそうですよ!!」

 この前の若い女性教諭が信じられないといった表情でベルンハルトに話しかけてくる。

「そうみたいですね・・・いや、まさかアキモッツ氏の自宅が全焼して本人が行方不明になるなんて驚きですよ。こうなると音楽業界の未来はイザベラ・コンデレーロに託すしかありませんなぁ・・・」

「あーっ!その子知ってます!!すっごくカッコ良くて歌もうまくて私、大ファンなんです!!」

 夏休み前に自分を「オジン」だの「知識に疎い」だのと散々コケにしてきた女性教諭がまるで何事もなかったかのように嬉々として話しかけてくる。正直、微妙な心境ではあったものの自分の好きなアーティストを褒められると悪い気はしない。

「はは、ならば今度レボン・ハイプレーニャとのコラボシングルを一緒に歌ってみようではないですか。」

「よろこんでっ!」

 ベルンハルトは今までちょっと苦手にしていたこの女性教諭にちょっとだけ好感が持てるようになっていた。


「みんな!家は焼かなかったか!?」

 始業式前のホームルームにて、ベルンハルトはアキモッツの件を皮肉りながらクラスの笑いを誘った。

「先生、もうアキモッツもATRも過去の遺物になる存在ですよ。今はアステカの神をも(ひざまず)くイザベラ・コンデレーロとレボン・ハイプレーニャの時代ですよ?」

「何を言うか!“今は”ではないだろう!イザベラもレボンもお前たちが生まれる前から時代がやってきていて今なお継続してるって話だよ!!」

 生徒の突っ込みに元気良くベルンハルトが切り返す。

「よーし、今日は全員出席だな!んじゃ、始業式行くからさっさと廊下に整列しろよー!」

「はーい!!」

 ベルンハルトは、この2学期からこれまで以上に充実した毎日を過ごせそうな予感をひしひしと感じ続けていた。

 音楽業界の明るい未来に心躍らせながら。


―ベルンハルト・フェーブルヴィッヒの章 END―

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