話しをしよう
銀髪と、眼鏡、白ローブの三人を座らせて、俺もその前に胡坐をかいて座って、話を始めた。
銀髪と眼鏡が並んで座り、白ローブは、2人の後ろに隠れている。
俺は、銀髪の剣で肩をとんとんたたきながらいった。
「まず、お前ら、誰なの?」
銀髪は、俺の手にある剣を恨めしそうに見ているが、説教の一つでもしてからでないと、こいつは返せない。危なすぎる。
三人は、少しの間顔を合わせて、目で相談して、教えてもいいと思ったのか、銀髪は「ラップ」、眼鏡は「グラー」、白ローブは「リリ」と名乗った。
「ふうん。ラップに、グラーに、リリね」
ラップは、輝く銀髪に、子供にしては、はっきりとした目鼻立ちをしていて、派手な顔立ちをしている。顔だけで、一生ちやほやされていけるだけの素質がある。正直、うらやましい。
青い、厚手の上着に、膝まである、スパッツのような白い短パンをはいている。
グラーは、大きな黒い三角帽子に、黒いマントと、魔法使いみたいな恰好をしている。おまけに、髪も黒い。丸い大きな眼鏡をかけていて、こちらもそれなりに整った顔立ちをしている。ただ、ラップに比べれば、地味だ。
リリは、三人の紅一点で、白い、厚手のローブをまとっている。二人の後ろに隠れているし、フードをかぶっているので、顔をじっくり見ることができない。ただ、フードからはみ出た髪は金色で、日光を反射して、きらきら輝いているのがわかった。
姿からしても、名前からしても、やっぱり外国人なんだろうな。流暢にしゃべるから、この国に在住しているのだろうか。一体、どこの国の奴らだろう。
彼らの姿を眺めながら、そんなことを考えていると、
「もしかったら、あなたの名前を聞かせてもらっても?」
眼鏡改め、グラーが、好奇心を抑えきれないといった感じで聞いてくる。
「ああ、俺はアベという」
「アベ…、珍しい名前ですね」
「そうか?こっちでは、かなりメジャーな名前ですよ、これ」
「それって、ドラグニクの国ではってことですか?」
「ドラ…?いや、この国ではってこと」
「へえ、そうなんですか?ところで、どうしてアベさんは、ぼくたちの言葉をしゃべれるんです?もしかして、ほかのドラゴニクもほんとはしゃべれるのに、隠してるだけなんですか?」
どうも、互いにすれ違いがあるよな。
「そもそも、そのドラグニクって何なの?お前らの、ごっこ遊びの設定?」
グラーは、質問の意味が分からないという顔をして首をかしげるが、やがて理解したのか、
「ああ、なるほど」
と、ぽんと一つ手を打って、
「ぼくらの言葉で、あなたたちの種族をドラグニクと呼んでいるんです。あなたたちの言葉では、自分の種族のことをなんていうんですか?ご存知かと思いますが、ぼくらは、自分たちのことを人間と呼んでいます」
ごっこ遊びにしても、これはちょっと、たちが悪くないか。
「趣味の悪い遊びしてんな。いや、俺たちとお前らじゃ人種は違うかもしれないけどさ。それでも同じ人間じゃない。悲しいこというなよ」
いかにも、意外なことをいわれたという感じで、グラーが困惑した表情になる。
「同じ・・・ですか?」
「同じだろう。まあ、確かに、国籍とか、髪の色とか、いろいろ違うかもしれないけどさあ」
「いえ、そういうことでなく。ぼくらとあなたは、やっぱり、その違うと思いますよ。ぼくらには、鱗も尻尾もありませんし」
グラーが、おずおずといった感じで言い出した。
「そう、鱗も尻尾も生えてない、同じ人間じゃないか」
そういって、自分の腕を見せつける。すると、びっしりと赤銅色の鱗が、腕の表面を覆っていた。
すべすべしていて、触ると気持ちよさそうだ。
奇妙だな。俺の腕、こんなだったか?
自分の体を見渡すと、服を着ておらず、服の代わりに同じような鱗が、全身を覆っている。
おまけに、尾てい骨のあたりから、太い尻尾が生えていて、時たま、びたりびたりと地面をたたいている。
なんだこれは。
自分の姿も奇妙だが、それにこれまで違和感を感じなかったのも、同じくらい奇妙だ。
顔は、どうなっているんだろう?
ぺたぺた自分の顔を触ってみるが、よくわからない。
「ねえ」
俺は、リリに話しかけた。
「は、はい」
突然、話しかけられて、うつむいていたリリは、びくりと体を震わせて、顔をあげた。
「鏡、持ってるかな。よかったら貸してくれない?」
「すみません、持ってません」
リリが、申し訳なさそうにいった。女の子でも、この年なら鏡を持っていなくても、仕方がないか。
「あの、鏡の代わりに」
そういって、グラーが自らの眼鏡を外して、見せつけるようにこちらに突き出した。
そして、その眼鏡をじっと見る。やがて、眼鏡の透明なガラスがきらりと光って、鏡のようになった。
こりゃすごいと、感心する時間も惜しくて、その即席の鏡を覗き込んだ。
はたして、そこに映っていたのは、前に長く突き出た口吻と、赤い目をした、トカゲのような、恐竜のような、見たこともない化け物の顔だった。
はっきり言って、怖い。
「うわああああああああああああ!」
絶叫して、飛び退く。
これが、俺の顔か。これが、これが。
「なるほど、これがドラグニクか。確かに、これは、人間では、ない、な」
気が遠くなっていくのを感じる。
気付くのが遅いって?
仕方がないんだ。なぜだか、この体が自分にしっくりきていて、しっかり確認するまでとても自然に思えていたんだ。
でも、まあ、俺が鈍いのは認めるよ。
やっぱり、トカゲだから鈍いのか?
「大丈夫ですか?」
グラーが、いかにも心配そうに聞いてくる。
やさしい奴だ。人質にしたりして、悪かったな。
子供の前で、あまりみっともない姿を見せたくない。
俺は、失神一歩手前で、何とか踏みとどまることに成功した。
「もう、大丈夫だ」
「やっぱり傷が痛むんですか?」
「いや、心の傷だから、すぐ治る」
気を取り直して、話を続けることにする。どうやら、聞かなければならないことがたくさんありそうだ。