謝んなさいよ
やがて目が覚めると、俺は、縄でぐるぐる巻きにされて寝転がされていた。
銀髪と眼鏡が並んで立っていて、白ローブは、少し離れた樹の裏から、顔だけ出してこちらのほうを、恐る恐るといった具合で見ている。
どうやら大きな道の、すこしはずれにいるらしい。
どれだけ田舎なのか、道は舗装もされていないし、周りは木や草ばかりで、建物も信号も、人工物とおぼしきものが、一つも見つからない。
縄をどうにかしようと力を込めてみるが、びくともしない。
「魔法で封じてますから、とけません」
眼鏡がしゃべった。
「あの、さっきしゃべってましたよね。人間の言葉がわかるんですか?」
なんだか、とんでもない侮辱を受けている気がする。俺って、人間扱いされていないのか?
「喋れて悪いか」
「やっぱり!言葉を話すドラグニク!これはすごい発見だ!」
「そんなこと知るか。とっとと殺して、お城に報告しよう」
眼鏡がはしゃいで、銀髪がそれをたしなめながらいった。
「おい」
「だめだよ。生かして連れて行こう」
「お城に生きたドラグニクなんか連れ帰ってみろよ。大目玉食らうぞ!」
「おい」
「そんなことないよ!絶対みんな褒めてくれるって!」
「おい、ちょっと、お取込みのところ悪いんだが」
やっと、話をやめてこちらを見てくれる。
「とりあえず、この縄といてくれないか」
「ダメです」
頼んでみるが、眼鏡ににべもなく断わられた。
「なんでだよ」
「さっきみたいに、暴れるじゃないですか」
俺は、身を守っていただけだ!と言いたいのを、ぐっとこらえる。
ここは、したでに出るべき時だ。
「いや、お兄さん、もう暴れないから。いや、さっきは大人なげなかったなあ、ぼく。
反省してるから、もう暴れないから」
「そんなこといって、といたらきっと暴れるぞ」
銀髪が、余計なことをいう。
「いやー、さっきのスタンガンかなにか?もう、あんな目にあいたくないからさー。絶対、おとなしくしてるって」
「嘘だ」
「嘘じゃないって。それにさ、さっきの痛みがまだあって、縛られてるところが痛むんだよ」
さあ、ここからが腕の見せ所だ。
「いて、いて、いててててて。あ、やべ、どんどん痛みが強くなってきた。これやばい。やばいって。痛い痛い痛い!」
顔をしかめて、体を震わせ、情けなくわめく。
みっともないが、仕方がない。
木の裏に隠れていた白ローブが、
「ねえ、痛そうだよ。解いてあげない?」
そういうので、あと一息だと、俺も気合を入れる。
「ほんと、これやばい。むちゃくちゃ痛い。死ぬかもしんない。いででででで。絶対、これやばいって、ほんと。痛い!痛い!痛い!」
そうやって、せいぜい痛がって見せる。
ガキどもが、本気で心配そうな顔になって、俺を見ている。
多少の罪悪感を感じるが、仕方がない。
「縄、解いてやるか」
意外にも、銀髪がいった。
「いいの?」
「勝負はついたからな。敗者には温情を与えよと、叔父上もいっていた」
「わかった」
眼鏡が、俺の背後に回って、
「いいですか。絶対、暴れないで下さいよ。暴れたら、また、さっきのやりますからね、絶対ですからね」
そういって、どうやら縄の結び目に触れると、縛りが縄がぐっとゆるくなった。解けたみたいだ。
しめた!
俺は、一気に縄をはねのけると、眼鏡の背後に回り、そのまま体を抱きかかえて、飛び退った。
ものすごい早業で、誰も反応できていない。
あっという間に、形勢は逆転した。
「はっはっは。所詮はガキの浅知恵だな。こいつを痛い目にあわせたくなかったら、おとなしくしてろ!」
眼鏡を人質にとって、勝ち誇る。
「くそっ!卑怯者!」
剣を構えた銀髪が、悔しそうにいって、歯を食いしばった。
「物騒なもんで切っりかかってきた、お前が悪いんだろうが!まあ、話はあとだ。まずは、その剣をこちらに放ってもらおうか」
われながら、まるっきり悪党のような行動とセリフだが、仕方がない。
「ぐぐぐ」
銀髪は、自分のふりを悟ったのか、涙目になってうなった。
それから、眼鏡の顔を見て、振り向いて白ローブの顔を見て、決心したのか、あっさりと剣を放り投げた。もっと渋るのかと思ったが、意外に諦めがいい。
「剣は渡したぞ。グラーを離してくれ!」
眼鏡の名前は、グラーというらしい。名前からしても、外見からしても、こいつらはみな外国人のようだ。
俺は、グラーとやらを右手で抱えたまま、注意深く、左手で足元の剣を拾い上げて、肩に担いだ。
「いや、まだだ」
「な、なんでだよ。剣は、渡しただろう」
銀髪が、うろたえて言った。
「やってもらいたいことがある」
「お金か?それとも、い、い、命でも渡せっていうのか?!」
「だから、謝れって!」
「え?」
俺の言葉に、銀髪はきょとんとした。
俺、そんな変なこと言っただろうか。いや、当たり前のことを言ってるんだ。
「最初からいってるだろうが!ちゃんと謝りなさいと!」
「え、え?」
「お前なあ!ちゃんと謝れない子供は、ろくな大人になれないぞ!」
「謝れば、離してくれるのか?」
「ああ。まず、謝れ」
「わ、わかった」
銀髪は、片膝をついて、こちらを見上げてきた。
「えーと、その」
それきり、黙ってしまう。
「まず、『背中を剣でぐりぐりしてごめんなさい』だ」
「背中を剣でぐりぐりしてごめんなさい」
「それから『いきなり剣で切りかかってごめんなさい』」
「いきなり剣で切りかかってごめんなさい」
「よし」
俺は、眼鏡を離してやった。事態の急展開についていけないのか、ぼけっとしている。
俺は、かがみこんで、銀髪の肩をばんばんとたたいた。
「よし!よし!」
「痛い、痛いって!」
「俺が無傷だから謝るだけで済んだけど、これが怪我してたら、謝るだけじゃあ済まなかったんだぞ!わかってんのか、こらあ!」
「え、う、うん」
「それから、お前!」
「え、ぼく?」
相変わらず、突っ立っていた眼鏡に向かっていうと、びくりと体を震わせた。
「俺に、何か痛いことしたの、お前だろう!スタンガンか何か、当てやがったな」
「スタン・・・?」
「どーんときて、痛いやつだよ!」
「魔法のことですか?」
「なんでもいいから、とにかく謝んなさい!」
立ち上がり、まじかに顔を突きつけてそういうと、眼鏡は、「ひっ」と短い悲鳴を上げて、
「魔法で痛いことして、ごめんなさい!」
素直にあやまった。
「よし」
怒りのボルテージが、一気に低下する。とりあえず、腹の虫は収まった。
「話をしよう」
三人のガキを順繰りに見て、そういった。