そんな能天気で大丈夫か?
俺たちは、宿屋で部屋を借りた後、飯を食いに近くの食堂に入った。
焼肉に、ゆでたカニ、みずみずしい野菜のサラダ、はちみつ入りのミルク、デザートのプディング、子供たちは思い思いのものを注文する。
「お前、すげえ金持ちだったんだな。本当に王子様だったのか」
「信じてなかったのかよ!」
ラップは、俺の軽口に言い返すが、その口調にも、久しぶりのごちそうにありつけたうれしさがにじみ出ている。
いつもはおしゃべりのグラーまで、ゆでたカニの肉をほじくるのに、無言で夢中になっている。
リリは、ほかのものに目もくれず、まっさきに甘いプディングに手を付けた。
砂漠の中で、オアシスに出会った旅人のように、はしゃいでいる。
やっぱり、子供だなあと思う。
でも、その子供にお金を出してもらっている。
「すまんなあ。宿代まで払ってもらっちまって。後で、何とかして返すから」
「いーんだよ。気にすんなって。金は、いくらでもあんだから!」
ラップが、大きな声で言った。ラップの声は、子供らしい高い声で、よく響く。
周りの視線が、より集まった気がする。
子供三人とトカゲ野郎という組み合わせが、どうしたって奇妙に見えるのは、わかっている。
俺は、声を低くして、
「おい!あんまり、そういうことを大声でいうなって!」
ラップの耳元でそういった。
「なんでだよ?」
「誰が聞いてるか、わかんないんだぞ。悪い奴に狙われたら、どうすんだ」
「大丈夫だって、俺、強いから」
ラップは、あっけらかんという。
確かに、こいつは、子供にしては強い。剣で、固い木の幹を抉るなんて真似、そうはできない。
ただ、そういう単純な強さでは、どうしようもないことだってある。
だいたいこいつ、剣ではおれに勝てなかったことを、もう忘れているのか。
「いいから!さっきもそうだけど、あまり大金を見せびらかすようなことはしないでくれ、頼むから」
「わかったわかった」
ラップが、うるさそうに手を振って答えた。
心配だ。
金の管理は、グラーに任せるべきじゃないかと思う。
ただ、金の出どころはラップの実家なのだろうし、そこは難しい問題なのかもしれない。
一通り、食事を済ませたラップが、
「それで、お前、病院に行くんだっけ?」
俺にそう尋ねた。
「ああ、どこにあるかわかるか?」
「この街は初めてだけど、普通は、街の真ん中の教会にくっついてるから、すぐわかる」
どうやら、それがここでの常識というものらしい。
「へえ、病院は教会の付属なのか」
「ああ、だいたいどこでも、司祭様が医者もやってる」
「もしかして、魔法で直すのか?」
「司祭様は、魔法は使わない。祈って直すんだ」
ラップの話しでは、魔法でひとの体を治すのは難しいらしい。
魔法は、神様とやらの決めた道理に反する力なので、自然に治ろうとするする体の仕組みと相性が悪いのだそうだ。
だから、病気やけがを治すには、神に祈って、自然に治る力を高めなくてはならない。
「リリも、祈りの力が使えるんだぜ。な、リリ?」
プディング食べ終わったリリが、控えめにうなずいて、
「でも、小さいけがしか直せないから。だから、アベさんの記憶喪失も、無理だと思う。ごめんなさい」
申し訳なさそうに頭を下げるので、
「いやいや、なに謝ってんだよ、なあ」
そういって、ラップに目くばせする。
「そうだぜ。こいつの記憶なんか、どうせ、ろくなもんじゃないんだからよ」
「おい!そこまで言えとはいってないぞ!」
リリが、くすくすと笑ってくれた。
「しかし、俺たち目立ってるかな」
正確には、俺が。
なんだか、周りの席の客から、視線を感じる。
「そもそも、ドラグニクが街にいるのが珍しいし、しゃべってるのなんて、もっと珍しいからね」
ようやく、カニを食べ終わったらしいグラーがいった。
目の前の皿には、空になったカニの足が、何本も転がっている。
ずいぶん、食べたんだな。
「普通は、南のほうにいるんだったか」
「まれに街に来るのもいるけど、すぐいなくなっちゃうからね。街には、普通住まないんだ」
即席とはいえ自分の種族のことを、俺は何も知らない。
「そういえば、神様に呪われた種族なんだったか。教会に行ったりして、大丈夫かな」
「うーん。変なことしなければ、大丈夫だと思うけれど。どうなるかは、わからない」
俺とグラーが、心配していると、
「まあ、心配すんなって。寄付で黙らせるか、いざとなったら身分明かして頼んでみるさ」
ラップが能天気にいった。
さっきの俺の忠告を、聞いていなかったのか。
「おい、お忍びの旅じゃなかったのかよ」
「大丈夫、大丈夫。教会なら、悪いようにはならないだろ、たぶん」
なんだか、調子に乗っている。
どうも、街に入ってから俺を保護する立場になったのが、うれしいみたいだ。
根っからの、親分肌のやつなんだろう。とにかく、頼られるのが好きなんだ。
実際、俺は、彼ら子供たちに頼りきりだった。知らない世界とはいえ、情けない。
ここで記憶が戻らなかった場合、どうしよう。
俺の仲間がすんでいるらしい、南の乾燥地帯とやらにいってみようか。
人間たちの間で暮らすよりは、気が楽そうだ。
狩りの能力があるから、生きていくだけなら、きっと困らない。
こいつらのことは気になるが、まあ、しっかり者のグラーもいるし、大丈夫だよな。
できれば、この街であっさり災厄の種とやらが見つかればいいんだがな。
俺は、そんなことを考えながら、自分の皿をかたずけることにした。
酸いも甘いも、どんな感想でも、お待ちしております。




