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365日のサンタクロース  作者: 鈴木真心
2009年のサンタクロース
16/17

2009年3月3日

今日この日、我が家のサンタクロースは何故かしっかりと朝からサンタクロースだった。



「会社は?」

「うーふーふー」



聞いていないようだった。


聞いていようがいまいが構わないが、うちの派遣は皆こんな感じだけれど大丈夫なんだろうか。


まあ、我が家のサンタクロースのバックにはフィクサーよろしく大ボスがましましている。

構わないのかもしれない……構わないのだろうか。


とにもかくにも、そんな浮かれたサンタクロースを残して、あたしは出勤した。



「本日、三多くんは会長直々の仕事により欠席する。以上!」



部長からのそんな一声に、ああやっぱりな、なんて思ってしまったあたしは、ある意味末期かもしれない。

社会って、そんな甘いものだったろうか……考えても仕方ない、サンタクロースの件りの時点で、千尋は2.5次元を生きているのだ。

おそらく。


それにしても、何故今日に限って、千尋は季節外れの真っ赤なファー付きサンタ服に付け髭で浮かれていたのか。


3月3日、3月3日……ひな祭り?

そんなに浮かれるイベント?

千尋ならやりかねないけれど、またうちに出処が謎のひな人形とか飾られても微妙だ。

間違いなくそれは、8段で豪勢に違いない。

いつぞやのシャンデリアばりに、床が抜けるか抜けないかの不安に駆られるのはご免被りたい。

しかし、後何かあっただろうか。


3月3日……あ。



「……まさかね」



ふと思い当たる節が脳裏を掠めたけれど、まさかとかぶりを振った。



「仕事しよう」



かたかたとキーボードを叩きながら、千尋の奇行は知らない振りで忘れることにした。



「あっ、古賀さん!三多、今日いないんですね。今夜どう……」

「さ、仕事仕事」



大宮くんの奇行も知らない振りをした。





夕方。


ちらちらと蕾をつけた桃の花と、まだまだ寒い残冬の風が身を絞る。



「今夜はどうするかなあ……秋刀魚?」



季節外れなものが食べたくなるのは、もはやあたしの性癖かもしれないな、なんて。

思っていたなら、自宅マンション前に、まさかの光景が広がっていた。


まさか、まさかだ。

既視感とかそういった類のナチュラルなものじゃない。

明らかに、奴はそれを狙って倒れている。



「素通りしたい」

「あっ、朱美さん!」

「あっ、じゃないから」



倒れたままの千尋に、思わず突っ込んだ自分が哀しかった。



「何やってんのか聞かなくていいかな」

「いやだなあ、聞いてください!倒れてます!さあ、拾ってください!」



拾ってください!って。


わかっている。

千尋がしたいことも、千尋が言いたいことも、残念ながら、思い当たってしまったあたしにはわかっているのだ。


それが残念で仕方ない。



「……取り敢えず、サンタが倒れてるといろいろ騒ぎになるから」



下手したら通報されるから。



「おにぎり持たせてくれますか!?」

「はいはい、明日の朝ね」



さっさと千尋を立ち上がらせて、引きずるように自宅に連れていった。


ばたん、とドアを閉めて、広がった光景に、またもや不自然な既視感を覚えた。



「思い出してくれました……?」



きらっきらなクリスマスデコレーション。

子犬みたいに上目遣いであたしを見詰める暑苦しいサンタクロース。

ご丁寧に、手に持った鈴まで鳴らして。


3月3日、今日この日は、どうやら我が家のサンタクロースにとって、特別な記念日と化しているようだった。


怒りはしない。

呆れはしたけれど。



「覚えてるよ。……はあ……秋刀魚でいい?」

「はいっ!」



元気よく返事をしてようやく笑ったのは、今は同居人の我が家のサンタクロース。

頭を撫でてやったなら、きらきらな笑顔で嬉しそうに何度も頷いてみせた。



「スーパー行くから、スウェットか何かに着替えて」



呆れながらも笑ってみせたあたしは、悪くないかと思ってたりするのだから、もう完全に、このサンタクロースに毒されているに違いない。


3月3日。


1年前に、千尋と出会ったこの日。


今年のこの日は、傍に確かな暖かい空気があった。






「で」

「はい?」

「これは何」

「おひな様ですよ、知りませんか?」

「いや、知ってはいるけど……」

「今日って桃の節句って言って、ひな祭りイベントなんですってね!僕、全然知らなくって」

「まあ、そうなんだけど大人のあたしにはあんまり関係ないっていうか、フローリング抜けたらどうしようっていうか」

「朱美さんは女の子です!ひな人形は必須です!」

「必須って」

「必須です!」

「女の子って」

「?女の子ですよね?」

「……そうなんだけど、そうじゃないっていうか……」

「?」

「……明日には片してよ」

「?」

き遅れるってジンクス、知らないの?」

「!!???」






end?

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