見つめ合う2人
合格が決まった週の日曜日、俺は近くの本屋に漫画を買いに来ていた。
今までずっと我慢していた漫画たち…まぁ少ない小遣いだから節約して今日は2冊しか買わないが。
まぁ、家に帰ったらまずは寝る。漫画を読まずに寝る。…今まで本当に疲れた、本当に眠い。
ガラス張りの壁に自分の姿が反射した。-なんつう顔だ…、中体連後部活を辞めてすっかり運動しなくなったもんだからあの時よりもすんげー色が白くなってる。目の下には濃いクマ、猫背気味の姿勢…。
まさに究極まで追い込まれた受験生だな。
「あった、これだ」
俺が大好きな人気漫画。これ超おもろいんだぜー?ずっと我慢してきた!!うん、良いねこの爽快感!
不意に顔が緩みそうになった。マズイマズイ、ここでニヤけたらただの不審者だ。
俺は本を買うためにレジの方向に振り向いた。
-ん?
レジの一歩手前に一人の女の子が立っていた。俺と同い年くらいの女の子…。
別に女の子が立ってることくらいならどうでもいいが、その女の子はこっちをものすごい人相で見つめてきた。…いや、この場合は睨みつけてきたと言った方が無難か…。
しかしその女の子…
めちゃくちゃ可愛い
何だろう…なんて言ったら良いか分からんがとにかく可愛いんだ!!!
不幸中の幸いか…睨まれてるのはマジでつらいが、可愛いからなんていうか…胸が張り裂けそうだ。
だって俺…地味だし、一回も告白なんてしたことがなければされたこともない。
そんな恋愛には無縁な男なんだぜ?そんな俺が…あんな可愛い子に見つめられて(睨まれて)るなんて…ドキドキしっぱなしだ!
しかし不審だ…、その女の子は着ているダウンジャケットのチャックを一番上まであげてフードを被っている。店内は暖房がよく効いていてなんだか、俺自身顔が火照ってきている。―不審者みたいなのは俺じゃなくてアイツだよな?
―なんて考えていると気づけば2人は見つめあってしまっていた。俺はとっさに顔をそむけて横目で彼女を見たが、彼女は俺を微動だにせず見つめたままだった。目を細めじっとただ俺を見つめている。
次第に俺の体が震えていることに気がついた。レジから遠下がっていく俺。
今日、何となく俺はあの子に殺される気がした。そのくらい彼女は俺をものすごい目で見つめているのだ。
「あっ…」
女の子がついに声を漏らした。目がパッと見開き逸らす。そしてもう一度俺に視線を寄せこちらに近寄ってくるのだった。
俺を見つめながらこちらへ近づいてくる美少女。怖いながらも少しの好奇心がわいたのか、俺は一歩だけ彼女の方向に進んでいた。
ついに彼女は俺の目の前に立った。真っ黒な瞳がとても綺麗だ。
「…あのさぁ…」
彼女の口が開く。
「アンタ…倉橋司だよね?」
…―は?