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『王太子殿下、その恋は口から出す前に止めてください 〜好きな令嬢に嫌いと言ってしまう残念王子の恋愛相談役になりました〜』  作者: 伊佐波瑞樹


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第56話 王太子殿下、分かりやすくなったと言われて喜びすぎない



 直したものを、もう一度誰かへ見せる時。


 最初よりも、ずっと緊張することがあります。


 一度目は、まだ分からなかったと言えます。


 初めて作ったものだから。


 試していただくためのものだから。


 問題が見つかるのは当然だから。


 そう思えます。


 けれど、二度目は違います。


 いただいた意見を受け止め。


 直す場所を考え。


 言葉を削り。


 問いを並べ替え。


 見え方まで整えた。


 それでもなお、伝わらなかったら。


 そう思うと、最初より怖くなるのです。


 きちんと直せていただろうか。


 自分たちだけが分かりやすくなったと思っているのではないか。


 別の問題を作ってしまってはいないか。


 そして。


 もし「前の方がよかった」と言われたら。


 その不安を抱えながら、私たちは体験紙の第二試作を机の上へ並べていました。


 ◇◇◇


 朝の開放学習室。


 窓の外には、薄い朝靄が残っていました。


 池の水面は静かで、花壇の色だけが少しぼんやりと浮かんでいます。


 春祭りが近づくにつれ、学園は朝から賑やかになってきました。


 廊下を行き交う生徒たちの手には、布や木札、楽譜、花籠。


 まだ授業前だというのに、どこか祭りの気配があります。


 私たちの机にも、新しい紙が並んでいました。


 第二試作。


 第一試作よりも、かなり変わっています。


 一番上には、大きめの文字。


『書いた内容を、研究会へ見せる必要はありません』


 その下に、二つの入口。


『誰へ向けて書きますか』

『どんな場面の言葉ですか』


 どちらから考えてもよいように、横並びになっています。


 相手の欄には、簡単な選択肢。


『友人』

『家族』

『先生・先輩』

『研究仲間』

『特定の一人ではない』

『その他』


 場面の欄には、


『これから起きることへの招待』

『過ぎた出来事への感謝』

『その他』


 そして中央に、


『相手へ、何を伝えたいですか』


 最後に確認。


『相手が受け取りやすい言葉ですか』


『あなたの伝えたいことは入っていますか』


『相手が自分で選べる言葉になっていますか』


 印も変わりました。


 向かい合う二人の横顔。


 開かれた扉と小さな時計。


 手のひらに乗せた手紙。


 前よりも、ずっと分かりやすく見えます。


 少なくとも、私には。


 ですが。


 それが問題なのです。


 私たちには、もう内容が分かっています。


 初めて見る人に、どう見えるのか。


 それは、もう一度試していただかなければ分かりません。


 アルノルド殿下は、第二試作をじっと見つめていました。


 今日の心得紙には、いつもより少し細かい文字が並んでいます。


『前より良くなったと思い込まない』


『褒められても全て完成したと思わない』


『改善点が減っても浮かれない』


『前の方がよいと言われても落ち込まない』


『ナリアの顔色を見すぎない』


『分かりやすいと言われてもその場で三回聞き返さない』


 最後。


 かなり具体的です。


 私は思わず尋ねました。


「殿下」


「はい」


「三回聞き返したことが?」


「まだない」


「では、なぜ」


「言われたら、確認したくなると思った」


 自覚があります。


 非常に良いことです。


 ですが、三回は多すぎます。


「一度で受け取ってください」


「分かった」


 殿下は真剣に頷きました。


 レオン様は、第一試作と第二試作の比較表を作っていました。


 変更点。


 変更理由。


 確認したい項目。


 同じ協力者二名。


 新しい協力者二名。


 今回は、前回参加してくださった四人全員ではありません。


 同じ方には、修正が本当に分かりやすさへつながったかを見てもらう。


 新しい方には、初見でも使えるかを確かめてもらう。


 協力をお願いしたのは。


 前回のローズ・フェリクス様。


 クレア・ランバート様。


 そして新たに。


 図書委員を務めている子爵令嬢、リディア・ハーヴェイ様。


 騎士科に所属する伯爵子息、カイル・オルマン様。


 リディア様は、文章を読むことには慣れています。


 一方、カイル様は長い文章を読むのはあまり得意ではないと、本人が以前笑って話していました。


 違う得意分野を持つ二人。


 初見で使えるかを確認するには、ちょうどよいでしょう。


「本日の確認事項は三つです」


 レオン様が言いました。


「一、前回より迷う時間が短くなったか」


「はい」


「二、問いの意味が初見で分かるか」


「はい」


「三、文章を書くこと自体が負担になりすぎていないか」


 殿下が少し眉を寄せました。


「書く体験なのに、負担にならないようにできるのか?」


「完全になくす必要はありません」


 レオン様は淡々と答えます。


「考える負担は、企画の一部です。しかし、問いの意味を理解するためだけに疲れさせてはいけません」


「考えるための負担と、分かりにくさによる負担を分ける」


「はい」


 殿下は心得紙の裏へ書きました。


『考える難しさと、分かりにくさは違う』


 また一つ、良い心得が増えました。


 エレナ様は、今日も菓子箱を持参しています。


「本日は第二試作用ですわ」


「試用協力御礼用ではなく?」


 私が尋ねると、エレナ様は微笑みました。


「もちろん、協力者用もあります。ただ、こちらは私たち用です」


「なぜ私たちにも?」


「二度目の緊張は、一度目より深いですもの」


 さすがです。


 私も同じことを考えていました。


「では、どのようなお味ですか?」


 殿下が尋ねました。


「最初は同じように感じますが、後から少し違う香りが残ります」


「修正を表現しているのか」


「はい。基本は同じ。でも、受け取りやすさが変わった味ですわ」


 もう芸術です。


 エレナ様の蜂蜜菓子は、完全に概念を食べています。


 私たちは一つずつ受け取りました。


 確かに、口に入れた瞬間は前回のものに近い。


 けれど、後からほんの少し柑橘の香りが残ります。


「……分かりやすくなった気がします」


 私が言うと、エレナ様は満足そうに頷きました。


「でしょう?」


 殿下も菓子を噛みながら、少しだけ表情を緩めました。


「今日も、うまくいくといい」


「はい」


 私は答えました。


「でも、うまくいくというのは、褒められることだけではありません」


 殿下がこちらを見ました。


「問題が見つかることも?」


「はい」


「分かっている」


 殿下は少し考え、続けました。


「見つからない方が怖い」


 良い言葉でした。


 問題がないのではなく、気づけていないだけかもしれない。


 それを理解しています。


 扉が叩かれました。


 ナリア様が入ってきます。


「ごきげんよう」


 今日のナリア様は、昨日より少し落ち着いて見えました。


 ですが、腕に抱えた第二試作を見れば、まだ何度も確認していることが分かります。


 殿下は立ち上がりました。


「ナリア、ごきげんよう。今日も来てくれてありがとう」


「ごきげんよう、殿下。本日もよろしくお願いいたします」


 挨拶の後。


 殿下は、すぐに「大丈夫」と言いませんでした。


 ナリア様の顔を見て、尋ねます。


「今日、緊張している?」


 ナリア様は少し考えました。


「昨日よりは、少しだけ」


「少しだけ?」


「はい。直した分、伝わってほしいと思ってしまいます」


「僕も同じだ」


 殿下は短く答えました。


「でも、今日も一緒に聞こう」


 昨日と同じ言葉です。


 けれど、二度目だからこそ、さらに自然に聞こえました。


 ナリア様は微笑みました。


「はい」


 私は、二人のやり取りを見ながら静かに席へ戻りました。


 今日も助言は必要ありません。


 二人は自分たちで、緊張を共有できます。


 ◇◇◇


 午前の授業前。


 最初に来てくださったのは、前回も協力してくださったローズ様とクレア様でした。


「ごきげんよう」

「本日もよろしくお願いいたします」


 ローズ様は、前回よりも少し楽しそうです。


 クレア様も、以前ほど緊張していません。


「修正版を見られるのが楽しみでした」


 ローズ様が言うと、殿下の顔が少し明るくなりました。


 しかし。


 心得。


『褒められても全て完成したと思わない』


 殿下は、落ち着いて答えました。


「ありがとう。前より使いやすくなったか、率直に教えてほしい」


 一度で受け取りました。


 三回聞き返しませんでした。


 偉いです。


 次に、新しい協力者。


 リディア様は、紙を受け取る前から説明文を興味深そうに見ています。


 カイル様は、王太子殿下がいることで少し緊張しているようでした。


 背筋が伸び、手が固い。


 殿下はそれに気づきました。


 カイル様は騎士科です。


 将来、王家に仕える可能性もあります。


 王太子殿下を前に、自然に振る舞えと言われても難しいでしょう。


 殿下は、少しだけ姿勢を緩めました。


「今日は、文章の試作を手伝ってほしい。礼法の試験ではないので、分からないところは分からないと言ってもらえる方が助かる」


 カイル様は少し目を見開きました。


 それから、わずかに肩の力を抜きます。


「承知しました」


「難しい言葉があれば、遠慮なく」


「はい」


 殿下は、余計なことを言いません。


 騎士科だから。


 将来の臣下だから。


 そういう関係を持ち込みませんでした。


 研究会の協力者として接しています。


 ナリア様が四人へ説明しました。


「前回の試用でいただいたご意見をもとに、問いの順番と表現を変更しました。正しく書こうとする必要はありません。途中で迷った場合も、そのまま止めていただいて構いません」


 ローズ様とクレア様は頷きます。


 リディア様は早く読みたそうです。


 カイル様は少し不安そうですが、手にした紙へ目を落としました。


 記入が始まります。


 今度も、研究会の五人は少し離れた席で見守りました。


 ローズ様は、一番上の文章を読んだ瞬間、小さく頷きました。


『書いた内容を、研究会へ見せる必要はありません』


 前回より安心したのでしょう。


 すぐに最初の問いへ進みます。


 クレア様は、「特定の一人ではない」という選択肢を見つけ、少し笑いました。


 自分の意見が反映されている。


 そのことが嬉しいようです。


 リディア様は、選択肢を一度読み、すぐに記入を始めました。


 かなり早いです。


 カイル様は。


 止まりました。


 最初の二つの入口。


『誰へ向けて書きますか』


『どんな場面の言葉ですか』


 どちらからでもよい形です。


 ですが、二つ並んでいることで、逆に迷っているように見えます。


 殿下の身体が少し前へ動きました。


 止まりました。


 心得。


『迷っていても、すぐ答えを教えない』


 ナリア様も、静かに見ています。


 カイル様は二つを何度も見比べました。


 そして、場面の方から書き始めました。


 『過ぎた出来事への感謝』


 その後、相手。


 『先生・先輩』


 進めました。


 殿下の表情が、少しだけ緩みます。


 しかし、安心しすぎません。


 その後、カイル様は中央の問いでまた止まりました。


『相手へ、何を伝えたいですか』


 ペンを持ったまま考えています。


 リディア様はもう自由記入欄へ進んでいます。


 ローズ様も順調。


 クレア様は、前回より明らかに止まる時間が短い。


 カイル様だけが、時間をかけています。


 でも。


 それが問題とは限りません。


 文章を書くのが苦手だと自分で言っていた方です。


 考える時間が必要なだけかもしれません。


 殿下は、今度こそ動きませんでした。


 待ちます。


 ナリア様も待ちます。


 私も。


 長い沈黙。


 学習室に、ペンの音が三人分だけ響きます。


 やがて。


 カイル様が、ゆっくり書き始めました。


 その瞬間、殿下が小さく息を吐きました。


 聞こえないほどの音です。


 ですが、私は気づきました。


 答えを教えずに待てました。


 二度目。


 前回より、少し自然に。


 ◇◇◇


 四人が書き終えるまでの時間。


 ローズ様、七分。


 クレア様、八分。


 リディア様、五分。


 カイル様、十二分。


 前回のローズ様とクレア様は、どちらも少し短くなっています。


 特にクレア様。


 最初に誰か一人を決めなくてもよいと分かることで、迷いがかなり減ったようです。


 しかし、カイル様は時間がかかりました。


 これは、問いの分かりにくさなのか。


 文章を作ること自体の難しさなのか。


 放課後の聞き取りで確認する必要があります。


 レオン様が時計を記録します。


「ありがとうございます。今回も、内容を見せる必要はありません」


 リディア様が紙を持ち上げました。


「とても使いやすかったです」


 殿下の目が少し明るくなりました。


 ですが。


 一度で受け取ります。


「ありがとう」


 それだけ。


 とてもよくできました。


 ナリア様も、少し嬉しそうに微笑みました。


「迷ったところはありませんでしたか?」


「少しだけ」


 リディア様は即答しました。


 殿下の表情が一瞬固まりかけました。


 褒められた直後の改善点。


 しかし、すぐに戻りました。


「放課後に、ぜひ教えてほしい」


「はい」


 ローズ様は、前回と紙を見比べるようにしながら言いました。


「かなり分かりやすくなったと思います」


 殿下が。


 一瞬だけ。


 本当にほんの一瞬だけ。


「本当に?」


 と聞きかけました。


 口が動きました。


 ですが、途中で止めました。


 心得。


『分かりやすいと言われてもその場で三回聞き返さない』


 殿下は一度だけ、短く尋ねました。


「前回より?」


「はい」


 ローズ様が頷きます。


「誰を一人に決めなくてもよいと最初に分かるので、考えやすかったです」


「ありがとう」


 殿下は、今度こそ受け取りました。


 ナリア様が、少しだけ笑っています。


 殿下も気づきました。


「今、笑った?」


「少しだけ」


「なぜ」


「殿下が、聞き返すのを我慢していらしたので」


 殿下の顔が赤くなりました。


「分かったのか」


「はい」


「……かなり聞きたかった」


「そうだと思いました」


 ナリア様は、楽しそうです。


 以前なら。


 殿下の不安を笑うなどできなかったでしょう。


 でも今は、優しく笑えます。


 殿下も、嫌がりません。


 少し恥ずかしそうにしながら、受け取っています。


 四人には、放課後の聞き取りをお願いし、一度教室へ戻っていただきました。


 扉が閉じた後。


 殿下は、すぐにナリア様を見ました。


 ですが。


 何かを言う前に、止まりました。


 期待を押しつけないためでしょう。


 ナリア様も、第二試作を見つめています。


「……前より、分かりやすくなったと言っていただけましたね」


 ナリア様が先に言いました。


 殿下の表情が、ぱっと明るくなりました。


「ああ」


「嬉しいです」


「僕も嬉しい」


 殿下は短く答えました。


 しかし、喜びは隠していません。


「昨日、皆で直してよかった」


「はい」


 ナリア様は、クレア様が使った紙の席を見ました。


「特定の一人でなくてもよい、と入れたことも、きちんと役に立っていました」


「クレア嬢の意見があったからだ」


「はい」


「僕たちだけでは思いつかなかった」


 ナリア様は頷きました。


「今日も、きっと新しいことが分かります」


 殿下は、少しだけ身を引き締めました。


「そうだな」


 喜びながら、次の意見を受け取る準備をしています。


 以前なら、褒められたことで安心し、そのまま完成だと思ってしまったかもしれません。


 あるいは、少しの指摘で喜びが全部消えてしまったかもしれません。


 今は。


 嬉しい。


 でも、まだ聞く。


 その両方ができます。


 ◇◇◇


 午前の授業。


 春祭りが近いせいか、生徒たちの集中は普段より少し散っていました。


 教師が黒板へ文字を書いている間にも、窓の外から木材を運ぶ音が聞こえます。


 廊下を誰かが走り、注意される声。


 音楽研究会の練習音。


 花の香り。


 学園全体が、通常の授業と祭りの準備の間で揺れています。


 休み時間。


 私は廊下へ出たところで、ローズ様が友人たちに囲まれているのを見かけました。


「どうだったの?」

「新しい体験紙」

「難しかった?」

「何を書いたの?」


 最後の質問に、ローズ様は笑いながら首を横に振りました。


「内容は見せなくてよいのですって」


「そうなの?」


「ええ。だから安心して書けました」


「それなら私もやってみたいですわ」

「好きな方への言葉でも?」

「たぶん。渡すかどうかは別に考えるそうです」


 話が、少しずつ正しく広がっています。


 書くことと、渡すことは別。


 内容を見せなくてよい。


 自分で考える体験。


 それが伝わっている。


 私は嬉しくなりました。


 しかし、別の場所では。


「でも、殿下へ向けて書いたら、読んでいただけるのかしら」

「会場では渡せないそうですわ」

「では、後で?」

「普段の礼法に従うのでは?」

「研究会の企画なのに、少し堅いですわね」


 やはり、殿下へ渡したい方はいるでしょう。


 注意書きは、さらに分かりやすくする必要があるかもしれません。


 禁止のように見せず。


 でも、会場で直接渡すことはできないと伝える。


 難しいです。


 私は休み時間のうちに、その声を記録しました。


 放課後の修正会議で共有しましょう。


 ◇◇◇


 昼休み。


 食堂は、春祭り準備の話題でいっぱいでした。


 仮設舞台の順番。


 茶会用の食器。


 展示物の保管。


 誰を招くか。


 どの催しを一緒に見に行くか。


 春祭りは、学園行事であると同時に、人間関係が動く時間でもあります。


「一緒に演奏会へ行きませんか」

「花飾りを見た後、お茶へ」

「騎士科の模擬演武、席を取っておきますわ」


 あちらこちらで、自然な誘いの言葉が交わされています。


 研究会で扱ってきたことが、学園の日常の中にあります。


 ナリア様は、今日も私たちの席へ来ました。


 エレナ様が昼用の蜂蜜菓子を出します。


「本日は、少し喜んでもよい味ですわ」


「少しだけ?」


 ナリア様が尋ねると、エレナ様は頷きました。


「はい。褒められましたので。でも、まだ完成ではありません」


「では、甘さも少しだけ?」


「その通りですわ」


 ナリア様は一つ口に入れ、柔らかく微笑みました。


「朝より甘いです」


「でしょう?」


 私はナリア様へ言いました。


「ローズ様たちの間で、内容を見せなくてよいという点が好評でした」


 ナリア様の表情が明るくなりました。


「本当ですか?」


「はい。安心して書けたと」


「よかった……」


 心からの安堵です。


「一番上へ大きく書いたのが、役に立ちましたね」


「はい」


 ナリア様は、少しだけ目を伏せました。


「でも、カイル様はかなり迷っていらっしゃいました」


「そうですね」


「問いがまだ難しいのでしょうか」


 ナリア様の表情に、不安が戻ります。


 私はすぐに「大丈夫」とは言いませんでした。


 今日の心得。


 答えを教えずに見守る。


 そして、まだ分からない時に決めつけない。


「放課後に聞いてみましょう」


「はい」


「問いが難しかったのか、言葉を考えること自体に時間が必要だったのか」


「分けて聞く」


「はい」


 ナリア様は頷きました。


「殿下も、そう考えていらっしゃるでしょうか」


「おそらく」


 エレナ様が言いました。


「殿下は、カイル様が止まるたびに立ち上がりそうでしたけれど」


 ナリア様がくすりと笑いました。


「私も気づきました」


「でも、待てましたわ」


「はい」


 ナリア様の声が、少し柔らかくなりました。


「殿下は、最近本当に待ってくださいます」


 私は、その言葉を静かに受け取りました。


「安心しますか?」


 ナリア様は、少し考えました。


 そして、頷きました。


「はい」


 迷いのない返事でした。


「殿下が待ってくださると、自分で考えてもよいのだと思えます」


 それは、とても大切な言葉でした。


 私は殿下へ伝えたくなりました。


 ですが。


 そのままは危険です。


 殿下が一日中固まります。


「いつか、ご本人へ伝えられるとよいですね」


 私が言うと、ナリア様の頬が赤くなりました。


「……はい」


「今すぐでなくても」


「はい。少しずつ」


 また、その言葉です。


 少しずつ。


 二人の恋を支えている言葉。


 ◇◇◇


 放課後。


 四人の協力者が、再び開放学習室へ集まりました。


 今日は午前よりも、さらに空気が柔らかいです。


 カイル様も、殿下へ礼をした後、少し自然に席へ座りました。


 リディア様は、すでに自分の紙へ付箋のような小さな紙片を挟んでいます。


 感想をまとめてきてくださったのでしょう。


 レオン様が聞き取りを始めました。


「まず、前回も試用した方へ。第一試作と比較して、使いやすさは変わりましたか」


 ローズ様が最初に答えます。


「かなり使いやすくなりました」


 殿下の目が、また少し明るくなりました。


 ですが、聞き返しません。


 ローズ様は続けました。


「前回は、誰か一人を決めなければいけないと思いました。でも今回は、特定の一人でなくてもよいと最初に分かったので、場面から考えられました」


「選択肢は多すぎませんでしたか?」


 ナリア様が尋ねます。


「いいえ。むしろ安心しました」


 クレア様も頷きました。


「私もです。前回よりずっと早く書けました」


「内容を見せなくてよいという文は?」


 私が聞きます。


「一番上にあるのが良かったです」


 クレア様は、自分の紙を胸元へ寄せました。


「前回は、最後まで本当に見せなくてよいのか少し不安でした。今回は最初から分かりました」


 改善が、きちんと届いています。


 ナリア様の表情が、少しずつ明るくなりました。


 殿下も嬉しそうです。


 しかし、浮かれません。


「ありがとう」


 短く、受け取ります。


 次に、初めて参加したリディア様。


「全体として、とても分かりやすかったです」


 リディア様は、紙を机へ置きました。


「ただ、一つだけ」


 来ました。


 殿下の表情が引き締まります。


 ナリア様もペンを持ちました。


「『相手が自分で選べる言葉になっていますか』という最後の問いが、少し抽象的に感じました」


「どのような意味に受け取られましたか?」


 ナリア様が尋ねます。


「相手が断れるか、という意味なのか。言葉を受け取った後で返事を選べるか、という意味なのか。少し迷いました」


 確かに。


 私たちの中では、「断ったり、後で考えたりできる余白」という意味です。


 でも、初見では広い。


 殿下が言いました。


「補足を戻すべきか」


 レオン様が頷きます。


「短い例を添えるのがよいでしょう」


 ナリア様は、紙へ案を書きました。


『相手が、断ったり、後で考えたりできる言葉ですか』


「こちらの方が、明確です」


 リディア様が言いました。


「ありがとうございます」


 ナリア様は、素直に礼をしました。


 落ち込んでいません。


 改善点を、そのまま受け取れています。


 殿下も、ナリア様を庇う必要はありません。


 安心して一緒に考えています。


「では、抽象的な『選べる』ではなく、具体的な行動を書く」


 殿下が言いました。


「はい」


 ナリア様も頷きました。


 次。


 カイル様。


 彼は少し気まずそうに頭を掻きました。


「僕は、かなり時間がかかりました」


「はい」


 殿下が穏やかに答えます。


「どこが難しかった?」


 責めません。


 ただ、聞きます。


「問いの意味は分かりました」


 カイル様は言いました。


「最初の二つも、どちらから書いていいか分かった。でも、実際に文を作るところで止まりました」


「言葉が出なかった?」


「はい」


「相手や場面は、決まっていた?」


「決まっていました」


 カイル様は少しだけ紙を裏返しました。


 内容を見られたくないのでしょう。


「剣術を教えてくださった先輩へ、礼を書こうと思いました。でも、『ありがとうございました』以外に何を足せばよいか分からなくて」


 なるほど。


 問いは分かっている。


 伝えたい相手も、場面もある。


 でも、文章の作り方が分からない。


 これは、体験紙の次の段階の問題です。


「短い組み立て例が必要かもしれません」


 ナリア様が言いました。


「例文ではなく、形」


 殿下が続けます。


「相手の行動。自分がどう感じたか。感謝」


「はい」


 ナリア様は紙へ書きました。


『してくださったこと』

『その時、どう感じたか』

『感謝の言葉』


「たとえば」


 私は考えながら言いました。


「『何度も稽古に付き合ってくださり、自信が持てるようになりました。ありがとうございました』」


 カイル様の表情が明るくなりました。


「そうです。そういう形があれば、書きやすかったと思います」


 殿下は、すぐに頷きました。


「招待なら?」


 エレナ様が言いました。


「『一緒にしたいこと』『なぜ来てほしいか』『断れる一言』ですわね」


 ナリア様が書き足します。


『一緒にしたいこと』

『来ていただけると嬉しい理由』

『無理のない時でよい、という余白』


「これなら、書くのが苦手な方も形を選べます」


 レオン様が言いました。


「ただし、全員が同じ文にならないよう、例文そのものではなく要素だけ示す」


「はい」


 殿下はカイル様へ向き直りました。


「教えてくれてありがとう。問いが分かることと、文を作れることは別だと気づけた」


 カイル様は少し驚いた顔をしました。


 王太子殿下から、まっすぐ感謝されたからでしょう。


「い、いえ。お役に立てたなら」


「とても助かった」


 殿下は重ねすぎませんでした。


 短く、具体的です。


 カイル様の緊張も、少しほどけたようでした。


 リディア様が、もう一つ意見を出しました。


「自由記入欄の横に、『短くても構いません』とあるとよいかもしれません」


「短くても?」


 ナリア様が尋ねます。


「はい。書く体験と聞くと、立派な文章を書かなければと思う方もいると思います」


 その言葉に、殿下が少し反応しました。


 立派な文章を書かなければ。


 以前の殿下そのものです。


 大きな言葉。


 美しい言葉。


 重い言葉。


 相手へ届くことより、十分なものを渡さなければと考えていた。


「短くても、伝わる」


 殿下が小さく言いました。


 ナリア様が、殿下を見ます。


「はい」


「足りないと思う時ほど、足りていることもある」


「はい」


 ナリア様は微笑みました。


 研究会の心得が、体験紙へつながっていきます。


 私たち自身が学んだことだからこそ、伝えられるものがあります。


 自由記入欄の横へ、


『一文だけでも構いません』


 と添えることになりました。


 最後に、書くことと渡すことについて。


 ローズ様が言いました。


「ここは、もう少し目立つ方がよいと思います」


『書くことと、実際に渡すことは別に考えてみましょう。会場で特定の相手へ直接お渡しすることはできません』


 現状では、紙の一番下に小さくあります。


「見落としましたか?」


 私が尋ねると、ローズ様は頷きました。


「書き終わる頃には、下の方をあまり読んでいませんでした」


「では、最初にも入れる?」


 殿下が言いました。


 レオン様が少し考えます。


「冒頭にすべて置くと、注意書きが多くなりすぎます」


「受付で短く伝えるのはどうでしょう」


 ナリア様が提案しました。


「『書いた内容は見せなくて大丈夫です。また、会場でそのまま相手へ渡すことはできません』と」


「それなら、紙では最後に確認として残せる」


 私が言いました。


「はい」


 受付での案内文も修正することになりました。


 ◇◇◇


 聞き取りが終わりました。


 今回も、たくさんの改善点が見つかりました。


 ですが。


 第一試作の時とは違います。


 全体の構造を大きく変える必要はありません。


 修正した部分は、確かに分かりやすくなっていました。


 その上で。


 具体性。


 文章を作る補助。


 短くてもよいという安心。


 新しい課題が見つかったのです。


 レオン様がまとめました。


「第二試作の基本構成は維持。修正は四点」


 一、最後の確認文を具体化。

 二、招待と感謝の組み立て要素を追加。

 三、一文でもよいと明記。

 四、会場で直接渡せないことを受付説明へ追加。


「第三試作が必要ですね」


 ナリア様が言いました。


 殿下は、すぐに頷きました。


「ああ」


「疲れましたか?」


 ナリア様が少し心配そうに尋ねました。


 殿下は考えました。


「少し」


 正直です。


「でも、前より分かりやすくなったと言ってもらえたのは嬉しい」


「はい」


「そして、まだ直せるところがあることも分かった」


「はい」


「両方、嬉しい」


 ナリア様は、少し驚いた顔をしました。


 褒められたこと。


 改善点が見つかったこと。


 両方が嬉しい。


 とても良い受け取り方です。


「私もです」


 ナリア様は笑いました。


「前回より分かりやすいと言っていただけて、安心しました」


「かなり安心した?」


 殿下が尋ねました。


 聞き返しではありません。


 ただ、ナリア様の気持ちを知りたいのでしょう。


「はい」


 ナリア様は正直に頷きました。


「かなり」


 殿下の表情が、ぱっと明るくなりました。


 しかし、喜びすぎません。


 立ち上がりません。


 未来を語りません。


「よかった」


 それだけ。


 ナリア様も、柔らかく頷きました。


「はい」


 エレナ様が、協力者たちへ御礼の蜂蜜菓子を配りました。


 今回は、朝より少し華やかな包みです。


「二度目のご協力、ありがとうございました」


「こちらこそ」

「完成が楽しみです」

「春祭り当日も伺います」

「今度は、自分で文を書けそうです」


 カイル様の最後の言葉に、私たちは顔を見合わせました。


 自分で文を書けそう。


 それこそ、この企画の目的です。


 正解を教えるのではなく。


 その人が、自分の言葉を作れるようにする。


 その手応えを、初めてはっきり感じました。


 協力者たちが退室した後。


 扉が閉じて。


 学習室は静かになりました。


 殿下は、しばらく何も言いませんでした。


 でも、顔には喜びがあります。


 ナリア様も、同じです。


 レオン様は記録をまとめ。


 エレナ様は残った菓子を整理し。


 私は、第二試作の紙を見つめました。


 たくさんの書き込み。


 でも、第一試作より少ない。


 そして、その一つ一つが、より具体的です。


 少しずつ。


 本当に少しずつ。


 届く形へ近づいています。


 ◇◇◇


「喜んでもいいでしょうか」


 殿下が、突然言いました。


 全員が殿下を見ました。


「誰に尋ねているのですか?」


 私が聞くと、殿下は少し困った顔をしました。


「皆に」


 エレナ様が微笑みました。


「もちろんですわ」


 レオン様も頷きます。


「改善効果が確認できました。喜ぶ根拠があります」


「相変わらず冷静ですね」


 私が言うと、レオン様は真顔です。


「事実です」


 ナリア様が、殿下を見ました。


「私も、嬉しいです」


 殿下の表情が、また柔らかくなりました。


「では、少しだけ喜ぶ」


「少しだけ?」


「完成ではないから」


 ナリア様は、くすりと笑いました。


「はい。では、私も少しだけ」


 エレナ様が、私たち用の菓子箱を開きました。


「そのための甘さですわ」


 五人で、一つずつ蜂蜜菓子を取りました。


 口に入れると。


 朝に食べた時より、甘く感じました。


 菓子自体は同じはずです。


 でも。


 手応えを得た後だからでしょうか。


「甘いですね」


 ナリア様が言いました。


「朝より?」


 殿下が尋ねます。


「はい」


「僕もそう感じる」


 エレナ様は満足そうに頷きました。


「味は、受け取る時の気持ちでも変わりますもの」


 研究会の誰も、反論しませんでした。


 たぶん、その通りです。


 ◇◇◇


 その後、第三試作の下書きを始めました。


 最後の確認文。


『相手が、断ったり、後で考えたりできる言葉ですか』


 感謝の組み立て。


『してくださったこと』

『その時、どう感じたか』

『感謝の言葉』


 招待の組み立て。


『一緒にしたいこと』

『来ていただけると嬉しい理由』

『無理のない時でよい、という言葉』


 そして自由記入欄の横へ、


『一文だけでも構いません』


 受付案内。


『内容は見せなくて大丈夫です。また、会場で直接相手へ渡すことはできません。渡す場合は、後で相手の都合と礼法へ配慮してください』


 ナリア様が、最後の一文を少し考えました。


「『礼法へ配慮してください』は、少し堅いでしょうか」


「受付で言われると、少し身構えるかもしれない」


 殿下が答えます。


「では、『渡す時は、相手が受け取れる時と場所を考えてください』はどうでしょう」


 私が提案しました。


 ナリア様の目が明るくなりました。


「分かりやすいです」


 殿下も頷きます。


「禁止ではなく、考えてもらえる」


「はい」


 また一つ、言葉が整いました。


 受付案内は、


『内容は見せなくて大丈夫です。また、会場で直接相手へ渡すことはできません。渡す時は、相手が受け取れる時と場所を考えてください』


 となりました。


 レオン様が確認します。


「問題ありません」


 エレナ様が言いました。


「受付役も、言いやすいですわ」


「では、採用」


 殿下が言いました。


 今日は、殿下が結論を押しつけるのではなく。


 皆の意見を聞いた後で、研究会として決める言葉を置いています。


 自然です。


 私が気づくたびに感動するのも、そろそろ大げさかもしれません。


 でも。


 あの池の殿下を知っている私には、どうしても大きなことに思えるのです。


 ◇◇◇


 日が傾き。


 学習室の窓が、淡い橙色に染まりました。


 第三試作の下書きが、ほぼ完成します。


 正式許可へ向けた修正も、かなり進みました。


 あと必要なのは。


 第三試作を少人数へ確認してもらうこと。


 保健担当の茶菓確認。


 警護側の最終調整。


 王家資料の展示許可範囲の確定。


 一つずつ。


 確実に。


 春祭りへ近づいています。


 レオン様が進捗を読み上げました。


「体験紙、第三試作案完成。次回、最終確認予定」


「最終になるでしょうか」


 ナリア様が尋ねます。


 レオン様は少し考えました。


「大きな問題がなければ」


「完成と思い込まない」


 殿下が心得を思い出すように言いました。


「はい」


 レオン様が頷きます。


「当日も、実際の反応を見て改善点を記録します」


「春祭りで終わりではない」


「研究会ですから」


 私は、その言葉に少し笑いました。


 確かに。


 展示が終われば終わりではありません。


 何が伝わったか。


 どこで迷われたか。


 その後も考える。


 研究会は続いていきます。


 ナリア様が第三試作の下書きを丁寧に重ねました。


「今日、分かりやすくなったと言っていただけて、本当に嬉しかったです」


 殿下が、彼女を見ました。


「僕も」


「でも、殿下」


「はい」


「一度しか聞き返しませんでしたね」


 殿下の顔が赤くなりました。


「見ていたのか」


「はい」


「三回聞きたかった」


「そうだと思いました」


 ナリア様は、楽しそうに笑いました。


 殿下も、少し遅れて笑います。


「我慢した」


「とてもよくできました」


 その言い方は、少し子供へ向けるようでした。


 殿下は一瞬、複雑そうな顔をしました。


 でも。


 ナリア様が笑っているので、結局自分も笑いました。


「ありがとう」


 短い感謝。


 暖かな空気。


 私は、今日も咳払いをしませんでした。


 必要ありません。


 ◇◇◇


 帰り道。


 春祭り用の飾りは、さらに増えていました。


 校舎入口には、花を模した布飾り。


 中庭には、仮設舞台の骨組み。


 廊下の掲示板には、各催しの仮題が並んでいます。


『春の音楽会』

『花と詩の回廊』

『騎士科模擬演武』

『王国史礼法研究会 春を招く言葉』


 私たちの企画名も、仮の掲示に載っていました。


 まだ正式許可前です。


 文字の横には、小さく「予定」とあります。


 それでも。


 本当に春祭りの一部になりつつあることが分かりました。


 通りかかった生徒たちが、掲示を見ています。


「これ、体験紙のところね」

「今日、試した方が分かりやすかったと言っていましたわ」

「楽しみです」

「短い文でもいいらしいですよ」

「それなら私にもできるかも」


 最後の言葉。


 それなら私にもできるかも。


 今日、カイル様も似たことを言いました。


 私たちの企画は。


 立派な言葉を書ける人のためではありません。


 言いたいことはある。


 でも、どう言えばよいか分からない。


 そんな人が、自分の言葉を見つけるための場所です。


 もしかしたら。


 最初の殿下のような人のための場所なのかもしれません。


 好きなのに。


 大切なのに。


 口から出る前に止められない。


 あるいは、何も言えない。


 そんな人が、一度だけ立ち止まれる場所。


 私は掲示を見ながら、胸の奥が温かくなりました。


 殿下とナリア様は、少し前を歩いています。


「短い文でもよい、というのは大切ですね」


 ナリア様が言いました。


「ああ」


「殿下も、以前は長くしすぎていらっしゃいました」


 かなり直接的です。


 殿下の顔が赤くなりました。


「……そうだな」


「でも今は、短い言葉でも伝わります」


 殿下が、歩きながら少し止まりかけました。


 ナリア様は前を見ています。


 何気なく言ったのでしょうか。


 それとも、伝えたかったのでしょうか。


「ありがとう」


 殿下が言いました。


 短く。


 その一言だけ。


 ナリア様は、少しだけ殿下の方を見ました。


「はい」


 そして、微笑みました。


 短い言葉でも伝わる。


 今まさに、その通りでした。


 王太子殿下。


 今日のあなたは、分かりやすくなったと言われて喜びました。


 けれど、その喜びだけで完成だと思わず、新しい改善点も受け取ることができました。


 問いが分かることと、言葉を作れることは違う。


 立派な文章でなくてもよい。


 一文だけでも、相手へ届くことがある。


 どうか明日も。


 大きく、美しく、完璧な言葉だけを求めないでくださいませ。


 ナリア様へ渡す言葉も。


 春祭りへ来る生徒たちの言葉も。


 短くても。


 少し不器用でも。


 相手を思って選んだものなら、きっと十分に届くのですから。

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