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境界線の上で、立つ — Standing on the Line —  作者: 和泉發仙


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第五十八話 切り取られた構造





構造は、

長い。


だが、

テレビは短い。


三十分。

そのうち特集は七分。


七分の中に、

因果を収める。


長い流れは、

短い怒りに変わる。


怒りは、

顔を欲しがる。


構造は曖昧だ。


顔は分かりやすい。



夜のニュース番組。


軽快なオープニングの後、

アナウンサーが読み上げる。


「“治さない設計”と題した記事が波紋を呼んでいます」


画面には、

橘の記事の一部。


そして、

契約書の“継続管理モデル”の文字。


赤い囲み。


強調。


ナレーションが続く。


「慢性疾患を前提としたビジネスモデル。

 市民の健康は二の次なのか」


言い切りではない。


疑問形。


だが、

断定に近い。



続いて映るのは、

駅前の映像。


自販機。


高架下。


署名活動。


編集は巧妙だ。


構造批判と、

駅前の“滞在問題”が

一つの流れに繋がる。


あたかも、

同じ原因から生まれたように。


ナレーターの声。


「市の施策を支えてきた内部関係者の存在も明らかに――」


画面に、

三崎の横顔が映る。


説明会で立った瞬間の映像。


一秒。


だが、

十分だ。


テロップ。


《内部資料を知る男》


名前は出ない。


だが、

分かる人には分かる。



翌朝。


三崎の携帯が鳴り続ける。


知らない番号。


無言電話。


メール。


「裏切り者」

「英雄気取りか」


極端な言葉が並ぶ。


構造は、

消える。


残るのは、

個人。



市役所では、

緊急会議が開かれる。


上司が言う。


「あなたは、

どこまで関与している」


三崎は、

淡々と答える。


「契約の構造を共有しただけです」


嘘ではない。


だが、

守る力は弱い。


葛城は、

既に異動している。


守る側の盾は、

薄い。



テレビは続報を出す。


今度は、

医療現場の声。


「慢性疾患は一朝一夕では治らない」


正論だ。


だが、

編集は対立を煽る。


“構造批判派”

“現場擁護派”


二項対立。


分かりやすい。


複雑さは削られる。



駅前。


署名テーブルは、

さらに増える。


規制強化派は言う。


「だからこそ、

厳しく管理すべきだ」


一方、

“立つ自由”のテーブルも拡大。


ミオが立つ。


名前は出さない。


だが、

声は強くなる。


「管理しても、

治らないよ」


彼女の言葉は、

短い。


だが、

通る。



若い店員は、

三崎を避ける。


悪意ではない。


怖いのだ。


巻き込まれることが。


構造の話が、

個人攻撃に変わる瞬間を見たから。


辰巳だけが、

変わらない。


「有名人だな」


冗談のように言う。


三崎は笑えない。



夜。


川沿いの余白は、

人数が減る。


報道を見た人が、

距離を取る。


監視が強まると、

感じている。


実際、

巡回は増えた。


警備員は言う。


「報道の影響です」


管理は、

強化される。


構造批判が、

管理強化の理由になる。


皮肉。



橘は、

怒りを抑えている。


「切り取り方が悪質」


だが、

抗議しても

ニュースにはならない。


視聴率は、

感情を好む。


構造より、

対立。



三崎は、

初めて迷う。


晒すべきではなかったか。


守るべきだったか。


ノートを開く。


光は、

影を増やす


影が増えると、

人は怖がる


怖がると、

強く囲う


彼は、

深く息を吐く。


揺れは、

広がった。


だが、

方向は制御できない。



どんでん返しは、

深夜に起きる。


番組のディレクターが、

匿名の内部告発を受ける。


契約書の完全版。


そこには、

別の条文がある。


本研究の最終目的は、

生活習慣の改善による

疾患予防である。


テレビでは、

そこは放送されなかった。


意図的な編集。


構造は、

単純化されていた。


ディレクターは、

悩む。


完全版を出せば、

番組の偏向が露呈する。


出さなければ、

誤解は続く。



翌週。


異例の続報。


「前回の報道について、

 一部補足します」


短い。


だが、

重要な条文が紹介される。


予防の文言。


バランス。


視聴者は、

混乱する。


何が正しいのか。


怒りは、

少しだけ冷える。



三崎の名前は、

出なかった。


だが、

傷は残る。


守る側から、

攻撃対象へ。


個人に集中した圧力は、

簡単には消えない。



川沿い。


ミオが言う。


「疲れた?」


三崎は、

正直に言う。


「少し」


彼女は、

川を見ながら言う。


「でもさ」


「バレたってことは、

見られたってことじゃん」


彼は、

小さく笑う。


見張られたのではない。


見られた。


違いは、

まだ残っている。



辰巳が、

静かに言う。


「刃はな、

両刃だ」


「向きが変わる」


構造批判は、

刃にも盾にもなる。


誰が持つかで、

意味が変わる。



三崎は、

ノートに最後の一行を書く。


個人は削られる


だが、

構造は

一度見られたら

戻らない


揺れは、

個人を通過した。


次は、

制度そのものが

問われる。



次回


市議会で、

滞在規制条例案が提出される。


賛成多数の空気。


だが、

一人の議員が

思わぬ発言をする。


守るために、

守らないという選択。


線は、

引き直される。


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