第三話
コラッカ島への唯一の交通手段、飛行船の運航停止のことについて調べていたが一向に手掛かりはなく、疲れてきたラトは通りかかった公園で一休憩していた。
『流石にこんだけ探して何も出てこないってのは余計に怪しく感じるな』
「確かに。でも何でだろうね?」
『誰かが意図的に隠していると思うのが妥当ね』
「何で?」
『さあ、そこまではわからないわ』
むむむむむー、と唸り始めたラトに何か気付いたようにアオイが話しかけてきた。
『後ろ、来るわよ』
来るって何が?とも思ったが見た方が早いと言われた方向に振り向くと、昨日ぶりなウーリィが歩いてくるのが見える。
ウーリィはラトが目的らしく、ラトが振り向くと同時にのほほーんな笑顔を振りまいてきた。
「やあラト、またあったね」
「そうだね。昨日ぶり!」
ラトのところまで歩み寄ってくるとラトの横に腰を降ろし、もう一度バックに花でも飛んでそうな笑顔を浮かべる。
「ちょっとお疲れ気味かなー?」
「あーうん。いっぱい歩いたのはしんどかったかな。でも、休憩したから大丈夫」
笑顔が心配そうな表情に変わり、顔を覗き込んできたウーリィにあわててラトは元気をアピールするように手をぶんぶん振り回す。ついでにとばかりに、足もばたばたさせると「それならよかった」とまたいつもの笑顔に戻った。
「それで、こんなところでどうしたの?ラトは見たところ旅してるみたいだし、ここは観光に向かないんじゃないかな?」
「わぁ!すごい!ウーリィは私が旅人ってわかるの!?」
『見ればわかると思うけどな』
「ふふふ、わかるよ。この辺じゃ見ない服装だしね」
思わず突っ込んでしまったベルには悪いが、ウーリィと話しているラトに答える余裕はなくスルーされてしまった。
故郷の民族衣装を取り入れ、旅先で買ったものと混ぜながら来ているラトの服装は港町イールではあまり見かけない形となっている。足元には女の子にしてはごつめな、でも歩きやすいショートブーツ。七分で裾が絞れているパンツにベルト代りに巻いている故郷の数少ない特産品の刺繍入りスカーフ。青のグラデーションのタンクトップの上からは短めのベスト。腕にはいくつかのブレスレットをつけている。
イールの気候は少し暑めだが砂漠ほどではないし、比較的過ごしやすいといえる。町の人たちの服装も半そでやタンクトップ、中には上半身裸のものもいるぐらいだが、そういう輩には気高きご婦人の制裁が待っていたりするので気をつけなければいけない。
「でもね、ウーリィの服もここの人たちと違うよね?ウーリィも旅人さん?」
「そうだよ。僕もイールに来たのはつい最近なんだ」
「へーじゃあおそろいだね!」
少し言葉の選び方が間違っているかもしれないが、うれしそうにしているラトにウーリィはもちろんアオイもベルも訂正する気にはなれなかった。
「それでどうしたの?」
ずれた話題を軌道修正と再び質問するウーリィにラトは「んー・・・」と考えている風に見えて、頭の中で二人と会話をしている。
「えっとねーコッカラ島に行こうかと思ってたんだけど飛行船出てないの。別に天気悪いわけじゃないし、故障してるわけでもないみたいだしどうしたんだろう?って不思議に思って調べてるの」
「ああ、飛行船かー」
「ウーリィは何でか知ってる?」
「んー・・・ごめんね、わかんないや」
「そっかー、ありがとう。やっぱり、諦めて他の所向かった方がいいのかな・・・」
絶対にコッカラ島に行かなければならないというわけでもなく後回しでもいいし、ベルなんかは『厄介事は避けろ』と口酸っぱく言うので諦めるべきかなとラトは考えるが、実は結構未練たらたらだったりする。コッカラ島は浮き島として有名な観光地だし、他の国では珍しい天族が住んでいる。それに、数多くの竜も生息しているとのことで、一度行ってみたい国ベスト3に入っているところなのだ。ラトも例にもれず旅に出たときから行きたいと思っており、それで最初の目的地はコッカラ島に決まったぐらいだ。
「ラトはこの街にまだ滞在するつもり?それだったら僕も調べてみるよ。何かわかったら教えるね」
にっこりと笑いそう言ったウーリィの笑顔はベルとアオイ曰く何か企んでいるらしいけど、ラトは「ありがとう」と無邪気に笑いかえした。