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第二話 バングスルーの街

今更ですが、出てくる単語は一部(結構)この話限定のものがあります。なんかネタ被ってたらすみません。

空は晴れ、霧なく視界良好、異常なし。朝というには遅く、昼というには早い程度の時間帯、俺は昨日登った山を降りていた。


目の前には建物がいくつも聳え立っている街並みが見える。武器の街、バングスルー。木で作られた伝統的な建物は、昨日立ち去ったエドワンスの街とは少し壁の模様や建築様式が異なっていた。


「…もう着いてしまった。」


俺より少し後ろを歩いていたユアが驚いたように街並みをその目で捉える。


「バングスルーによく来ているのか?全く迷わずここまで来たが。」


「いや、初めてだ。」


「ならどうして道がわかったんだ?」


「人は大抵、魔物とは絶妙に違う魔力を潜在的に持っている。よほど小さな村でもなければ、大体の方角が分かれば後は魔力のほうに進むだけだ。」


「魔法っていうより犬の嗅覚みたいだな…」


都市部の入り口に、成人の男二人が立っているのが見えた。防具はしていないが、腰には剣を携えている。おそらくこの街の門番なのだろう。


「…おい、そこの二人。冒険者か?」


街に近づくと、門番のうちの一人がこちらの方に近づいてくる。


「ああ、これのメンテナンスをしに来た。」


背中に背負った剣を見せれば門番はふむ、と小さく頷く。


「冒険者資格はあるか?武器類を持っている者は原則確認をすることになっている。」


「俺一人のでいいか?それともパーティーライセンスでも見せろってか?」


「お前だけでいい。少なくともそっちの娘は武器を持っていなさそうだからな。」


武器持ちを確認しているのはおそらく街中の安全を守るためなのだろう。短刀を隠し持っていたり、そもそも武器がなくても魔法で暴れる人間について警戒をしていないのは無関心だとも思ったが、逆にそこまで厳しくして仕舞えばそもそも冒険者が来なくなるのかもしれない。


「これだ。確認してくれ。」


「…本物だな。大丈夫だ。街に入って構わないぞ。」


門番は俺が胸ポケットから出したライセンスを軽く見ると、すぐに返してくる。今時ライセンスの偽装なんてする奴は相当減ったし、あまり警戒していないのだろう。


「そっちの子、エルスターの武器屋の娘さんじゃないか。」


もう一人の座っていた門番がふとこちらを見上げると、ユアにそう話しかける。


「あ、ハタさん。どうも。」


「こんな時間に戻ってきたってことは、朝早くから山草でも取りに行っていたのかい?」


「ええまあ…そんなところです。」


ユアは苦笑いをしながら曖昧に頷く。微妙な返事をしているのは、まさか昨日の夜からずっと帰らなかったと知り合いに伝えるわけにはいかないからだろう。


「そっちの少年は見ない顔だね。娘さんの知り合いかな?」


「知り合い…いや、ついさっき。」


俺が話し切る前に、ユアが後ろから俺の口をかばっと思いっきり塞ぐ。


「古馴染みです!さっきたまたま出会って、久しぶりに街へ立ち寄るところなんです。」


「…へえ、そうかい。古馴染みってことは元々ここに住んでいたのかな?」


「いえ、彼は近郊の街の出身です。けど時々こっちに遊びにきてたんですよ。」


ユアは俺の口を閉ざしたまま、明らかに作為的な笑顔で門番と話している。


わけがわからず目配せをすると、その視線に気づいたのかユアが俺の方を睨み返した。


今まで見たことのないような、まるで獣のような鋭い眼光がこちらに突き刺さる。何も喋るなと暗に指示されていた。


「そうかそうか、まあとりあえず中に入りな。この街はあんま大きくはないけど、冒険者にとってはいいところだよ。」


そう言いながらもう片方の門番が立ち上がると、若い方の門番に目配せをする。


「カルフ、鍵を開けてくれ。」


「わかりました。」


カルフと呼ばれた、ライセンスを確認した方の門番が門に近づくと、すぐに門が開かれる。大都市ほど大きくはないが、それでも立派な模様が描かれている古めかしい門が、キキーッと音を立てて開いた。




街に入ればすぐに武器屋が目の前に見える。よくある中くらいの街並みであるが、どこか目新しくも感じるのは、これまであまり目にしてこなかったデザインをしている建物が多いからだろう。


「なんかまずいことでもあったのか?」


門番の姿が見えなくなってから、隣を歩くユアの方を振り向く。


「…ハタさん、さっきの門番の人、治安維持部隊から派遣されて結構な年数ここに勤めているから、街に知り合いも多いんだ7,両親とも仲が良くて、お店の前で話をよくしてるし。」


「ああ、知り合いに昨日のことがバレるのが嫌なのか。」


「この街あまり大きくないから、顔見知りもそれなりにいるんだよ。」


確かに街を歩けばすぐに知り合いと出会うなんてことはないだろうが、先ほどのように出くわしてしまう可能性も十分あるだろう。噂が知り合いの耳に入れば、おそらく両親や他の住人にも知れ渡ってしまう。ユアにとっては都合が悪いことなのだろう。


「でもお前、昨日山に行くって知り合いに言ってたんじゃないのか?反対されたんだろ。」


「その人はちょっと別だ。腕の立つ薬屋さんなんだけど、昔馴染みだし結構親しいから黙ってもらってる。」


「ふーん…」


腕の立つ薬屋がやめておけと言ったのに、山を登ったのかと言えばおそらくユアはまた不機嫌、というか落ち込むだろう。だから敢えて口には出さず、ユアの言葉に頷くだけに留めておいた。


少し歩けば街の広場の方までたどり着く。中央には噴水が湧き出ており、その周りにはいくつかのベンチが立てかけられ、そばには仕事の募集が張り出されている掲示板があった。


「ここまで来たら一人で帰れるだろ。」


「ああ、もう大丈夫。ありがとう。」


「これからはもう危険なことすんなよ。」


注意喚起も兼ねてそう言えば、ユアはまた少し不機嫌そうに顔を膨らませる。


「…拗ねるなよ。」


「別に拗ねてなんかいない。」


「はいはいそうですか。」


ここで強がりを否定すれば、ユアは余計にムキになるだろう。ならば適当に流しておくほうがいい。


「センフはこの街にしばらくいるのか?」


「どこか行く宛もないし、しばらくは泊まってると思う。」


「行く宛がないって…そもそもなんで旅をしているんだ。この街に来ると決めたのも、昨日急なことだっただろう。」


「いや、ここに来ることになったのはお前が迷子になってたからだろ。」


「それはそうだけど…どうもお前の行く先が見えない。結局、目的地はどこなんだ?」


「…目的地か。特にねえよ。別に何か理由があって旅をしてるわけじゃないし。」


「目的をなく旅をする意味があるのか。」


まるで俺の言葉を呑み込めないように、ユアは首を傾げる。むしろ俺としては、ユアの感覚の方が不思議なものだ。おそらく多くの冒険者には旅の目的とやらがあるのだろう。


魔法使いとして、剣士として強くなるため、或いはダンジョンを制覇するため、宝を手に入れるため、或いは冒険そのものが目的になっている奴もいる。


「強いて言うなら生きるためだ。旅を辞めた時は俺が死ぬ時だよ。」


だが俺には旅をするのに明確な理由がない。物心ついた時からずっと旅をしていた。冒険者として旅立った、ではなく元から冒険者だった。この街の人間が店や農業なんかをして生きているように、俺も冒険を生業として生きているというだけだ。


「ふーん…なんか憧れるな、そういうの。」


「惚れるなよ。」


「安心しろ、神に誓ってそれはない。」


「お前…」


ユアが憧れるのは恐らく冒険者という存在に、或いはその生き方に、ということだろうか。だかやはり、俺にユアの感覚は分からなかった。


「とりあえずもう家に帰れ。両親心配させてるんだろ?」


「心配してるからともかく、多分こっぴどく怒られはするだろうな。」


「甘んじて受け入れろ。怒られるようなことをした方が悪い。」


鞘袋を改めて肩にかけ直して、俺はユアに背を向けた。


「じゃあな。体は壊すなよ。」


「送ってくれてありがとう。またどこかで。」


「…機会があったらな。」


視線をまた上げれば、バングスルーの伝統的な街並みが見える。そこにユア・エルスターの姿はない。またどこか、なんてユアは言っていたが、再び会えるとは限らない。東方の国には一生に一度の出会いを表す言葉がある。旅での出会いはその一瞬が、一生の中で最後になるかもしれない。


少しやんちゃで研究熱心な、そして無謀な少女のことを思い、バングスルーの街並みを後にした。




「いらっしゃい、宿泊かい?」


「ああ、部屋は空いてるか?」


ユアと別れてしばらくが経ち、日は西の水平線に方に近づいてきていた。時刻帯で言えば夕方に分類されるのだろうが、活気のある街中はまだまだ喧騒に満ちている。


一通り街を練り歩いて、腕の良い鍛冶屋を探して背負っていた刀剣を預け、最低限の買い出しをすませた。今度は今日泊まる宿を探していたところだ。


中心街から一歩離れた細い路地裏の真ん中に宿屋を見つけて中に入れば、そこにはガタイのいい、頭に白髪を携えた男が一人カウンターに座っていた。


「ちょうど運がいいことに部屋は空いているぜ。食事はいるか?」


「いらない。素泊まりでいい。」


「何日泊まる予定だ?」


「最低3日、最悪1週間だな。」


「わかった、じゃあ値段は一泊200ルイだ。」


宿屋の店主は右手で小銭のマークを作りながら、どこか悪そうな笑みを浮かべる。


「200ルイって…高いな。」


「はは、これでも負けてる方だよ。連泊じゃなきゃ250ルイ取ってるからな。」


「俺が前泊まったところは150だったぞ。ぼったくりしてないか?」


店主の悪そうな笑みから、どこか足元を見られているような気がして、その目を睨み返す。しかし店主は飄々としてその表情を崩さない。


「そりゃあ隣町の相場だろ?お兄ちゃんも知っての通り、ここは冒険者の街。やってくる冒険者に対して圧倒的に宿屋が足りてないんだ。他のところじゃもっとぼったくってるぜ?表通りにあるヤヤゼのとこなんかは、うちと同じような設備で300ルイ取ってるからな。」


「ああ…そういうことか。」


宿屋が足りていなければ、多少高い値段を払っても冒険者は寝床を確保する。それがわかっているから、店側も値段を釣り上げているのだろう。


「それでも高くねえか?150とは言わずとも、160に下げてくれ。」


「無理だな。下げても190までだ。値段が気に入らねえなら、他のところへ行くんだな。」


「…はあ、負けた。それでいい。」


「あいよ、毎度あり。」


店主は終始勝ち誇った笑みを浮かべたまま、懐から鍵の束を取り出すと、そのうちの一本を手に取る。


「とりあえず3日分、570ルイ先に渡しておくよ。」


俺は懐から青色の布袋を取り出すと、そこから金貨

を必要分取り出す。


「もし延長するならまた声をかけてくれ。そん時追加で払ってくれたらいい。」


店長は金貨の数を確認すると、それを懐にしまい、代わりに手に持っていた鍵を俺へと渡す。


「部屋は2階の一番奥だ。もしなんかあったらここに来い。可能な限り対処するからよ。」


「わかった。しばらく世話になる。」


正直、思っていたよりも手痛い出費だ。剣のメンテナンスや買い出しでかなりの金額を使った上、これからの旅のことを考えると温存しておきたかった気持ちもある。ただ剣のメンテナンスが終わるまでには最低3日かかると言われたため、この出費も甘んじて受け入れるしかない。


この街にただ滞在するだけではなく、何か日銭を稼いだ方が良いだろうか。広場には掲示板もあったし、夜になればそれなりの仕事がある。部屋に荷物を置いた後、仕事を探しに行った方がいいだろう。


鍵を受け取り、床に置いていた荷物を持ち上げたところでばたんと勢いよくドアが開く音が聞こえた。先ほど俺が入ってきた店の入り口だ。


「あ」


「…」


開かれたドアの先には、茶色、というより黄金色の髪を携えた、俺よりは一回り小さな少女の姿があった。一応魔法使い、ユア・エルスターだ。


「…思ったより早い再開だったな。」


「まさかまた出会うとはな。」


そりゃあユアはこの街に住んでいるし、俺もしばらくは滞在する予定だったからはち会う可能性は考えていたが、それにしても速すぎる。さっき頭の中で旅での出会いはーとかなんかほざいていた自分がすごく恥ずかしい。


「おや、ユアちゃん。知り合いかい?」


「どうもハニーさん。」


ハニーと呼ばれた白髪混じりの店主は、カウンターから抜け出すと入り口の方へと近づいていく。


「知り合いって言えば…まあそうですね。」


「へえ、この町では見ない顔だな。最近知り合ったのかい?」


「大体、そんなところです。」


ユアはどこかぎこちない笑みを浮かべながら小さく頷く。


古馴染みと言っておいた方が良かったのではと少し思ったが、今更手遅れだろう。あまり大きくない町だが、全員が知り合いというわけでもないだろうし、噂が広まらないことを祈る他ない。


「店主とユアは知り合いなのか?」


「ああ、うちは武器屋だけど、武器類以外にも色々扱っているんだ。」


「うちの宿はエルスターさんところから、夜に出す酒と軽食の材料を融通してもらってるんだよ。ユアちゃんが生まれるよりも前、それこそ30年の付き合いさ。」


店主は随分と老けたもんだ…なんて笑いながら、またユアの方を振り向く。


「ところでユアちゃん、うちに来たのは酒の配送かい?」


「はい。奥の荷車に酒樽を10個ほど積んできています。馬がいるので気をつけてください。」


「わかった。取りに行くよ。」


店主は入り口の方に向かうと、外に出る直前で立ち止まりなぜかこちらの方を振り返る。


「そうだ、兄ちゃんも手伝ってくれ。今日は結構な量仕入れたから一人じゃ辛いんだよ。」


「なんで客に手伝わせるんだ。店のことは自分でやれよ…」


この地域なら恐らく酒は樽に入っている。確かに樽満帆に酒が入っていれば結構な重さであり、いくら店主のガタイが良くてもあの年齢じゃ運び込むのも辛いだろう。ユアに至っては恐らく持てないだろうし。


だが俺が手伝う理由にはならない。この中じゃ一番力持ちではあると思うが、そもそも長旅でそれなりに疲労も蓄積している。これから仕事を探すことまで考えれば、可能な限り体に負担をかけたくない。


「…お前って結構非情だな。」


「別に普通だよ。優しさってのは大抵は気まぐれだ。当たり前と勘違いしたら終わりなんだよ。」


「はあ、そうか。まあそうだよな。」


ユアは眉を顰めて不機嫌そうな表情を浮かべる。昨日助けたから今回も、なんて思っていたのだろう

か。生憎だが俺はそこまでするほど優しくはない。


「まあまあ兄ちゃん、硬いこと言うなって…手伝ってくれたら一泊あたり5ルイ負けてやる。それでどうだ?」


「…本当か?」


「客商売は信用が一番だからな。口約束でも嘘にはしねえよ。」


店主はグッと親指を立てる。ユアの知り合いだ、恐らく撤回することはないだろう。


「わかった、手伝ってやる。酒は外か?」


「…現金な奴め。」


二つ返事で了承した俺に対してか、ユアはじとーっとこちらの方を睨む。


「俺は聖人じゃなく人間だ。現金がないと生きてけないんだよ。」


金がなければ人は生きていけない。優しさだけでは人を救えない。無償で人を助けるなんて昨日は自分らしくないことをしたが、それは結局気まぐれだ。


「兄ちゃん面白えな!ユアちゃんにビシビシ言う奴

久々に見たよ。」


「こいつの場合、甘やかされすぎなんじゃないのか?」


「ははっ、そうかもしれねえ!」


「ちょっとハニーさん!」


店主は冗談めかしたようにゲラゲラと笑う。ユアがプンスカと怒りを見せるが、全く気にした様子はない。


…愛されている、と感じた。先ほどの門番もそうだが、ユア・エルスターは知り合いに恵まれているのだろう。可愛がられていると言った方がいいのかもしれない。ただ悪意なく村の人間に優しさを与えられている。


「おーい兄ちゃん、早くきてくれ。」


「すまない。今行く。」


気づけば店主とユアは外に出ていた。少し遠くにいる彼らを、5ルイのために追いかける。


空は晴れ、霧なく視界良好、異常なし。伝統的な街並みが外には広がっていた。




酒樽を5つほど運び終えると、荷車は空になっていた。予想通りそれなりの重さがあり、運べないことはないが体に結構響いている。最後の樽を店の中に運び終え、受付に座り込んでいると後ろからユアが声をかけてきた。


「今日はここに泊まるのか?」


「今日っていうか、最低でも3日は泊まる予定だ。剣のメンテナンスを待たなきゃいけないからな。」


今日預けた長剣は、数年前からずっと愛用していたものだった。定期的に手入れはしているし、破損しないように扱っていたが、それでも長年使っていれば金属が疲弊したり、刃の部分が溢れたりもする。町で一番と言われる…俺が見ても腕がいいと一目でわかるほどの鍛冶屋が3日かかると言ったのだし、待つしかないだろう。


「ふーん、そうか、3日か。」


「…何か不満でもあんのか?」


「別に、ただそうだと思っただけだよ。」


「なんなんだお前…」

俺の滞在日数を聞いて、ユアはなぜかふむふむと小さく頷いている。わけがわからず聞き返してもその返事は要領を得ないものだ。


「お疲れ兄ちゃん、マジで助かったよ。」


店の奥、倉庫となっていた部分から店主が顔を見せる。酒樽を俺と同じく5本運んだ初老の店主は、額に汗を滲ませながら、腰を手で庇っていた。


「この歳になるとどうも体が辛くなってきてね…お兄ちゃんがいなければ腰をいわせてたかもしれねえな。」


「体はしっかり休めておいたほうがいいぞ。店主、運んでる時だいぶ辛そうだったし。」


「そうさせてもらうよ。」


店主はそう言いながら、カウンターの前にその腰を下ろす。酒を運ぶのが辛いなんて言っているが、年齢の割にあの酒樽を運べるだけで十分力がある方だ。


顔の皺や髪の毛から年の功を感じさせるが、その肉体は鍛え抜かれており、どこかイキイキとしている。もし歳をとるのならこんな風になるのが理想だろうか。


「そういやユアちゃん、どうして今日はここに来たんだ?いつも配送は奥さんがしていただろう?」


「…今日はお母さんが忙しいみたいで、代わりに手伝っているんです。」


「店の手伝いなんて珍しいな。最近、あんまエルスターさん手伝ってなかっただろ?」


「気まぐれですよ。父と母が忙しいのを見兼ねたんです。」


「へえ、偉いな。」


店主は後ろを振り向くと、壁に立てかけてある棚の中から液体が入った瓶を取り出す。


「家の配送手伝ってるユアちゃんに、アルマーニ入れてやるよ。ちょっと待ってな。」


「あ、ありがとうございます。」


店主はゆっくり立ち上がると、液体の瓶を手に持ったまま店の奥へと入っていく。アルマーニは甘味が強い、この近隣で取れる数種類の果実をブレンドした飲み物だ。


「…なあ、なんかお前子供扱いされてね?」


店主の姿が見えなくなってから、俺は隣にいたユアに声をかけた。


「別にそれが悪いとは言わねえが…店主の接し方がそれこそ10歳くらいのガキと同じように見えるんだけど。」


「いつもこんな感じだよ。一応成人はしているが、街の人たちは小さい頃と同じ扱いをする。もう慣れたことだ。」


「不満はねえのか?ガキだって言われてさ。」


「うーん…不満がないわけではないけど、みんな悪気がないのはわかるし、変に怒るよりこっちの方がみんな気分がいいだろう。」


「意外と考えてるんだな。」


「意外とってなんだ意外とって。」


「別に他意はないぞ。」


「馬鹿にしてなくてもそう聞こえるんだよ、センフの場合…」


ユアは小さくため息をつきながら首を振る。


「そういや、店の手伝いだっけ?親とは仲良しこよしやってるのか?」


「お前、わかってて言ってるな。」


「まあな。多分嘘ついてるだろうとはなんとなく思ってた。」


どうしてここにきたんだ、と店主が質問した時のユアの表情から、進んで手伝いをしていないことは丸わかりだった。


「家に帰った後はどうなったんだ?」


「こっぴどく怒られた。両親に何も知らせてなかったし、行くなって言われてた山に入ったんだから仕方はないんだけど。」


「…意外だな、心配はされなかったのか?」

いくら成人しているとは言え、一人娘が連絡もなく消息を絶ったとなれば、親にとっては心配になるだろう。怒られるというのもわからなくはないが、それよりも先に無事だったことを安心するのが普通ではないだろうか。


「これまでも何回か連絡せずに家を出たことはあったからな。2日帰らずに隣町にいたこともあったし、今更心配もしないんだろう。」


「お前…本当によく今まで死ななかったな。」


どうやらこの少女、俺が思っていたよりずっとお転婆、というか好奇心旺盛らしい。あんな山中まで一人で歩いてきたのだから当たり前かもしれないが、昨日の出来事が初めてではないそうだ。


「警告してるのに何度も同じこと繰り返すって…そりゃ怒られても文句は言えねえな。」


「だから今ここにいるわけだし。」


「手伝いじゃなくて罰ゲームか?」


「1週間無賃労働だ。町中に配送をすることになった。」


「自業自得だな。」


初めてならまだしも、前科があるのに連絡もなく探索を繰り返せば、当然ペナルティがあるのは仕方ないだろう。


「待たせたな。アルマーニできたぞ。」


店の奥から店主が姿を見せる。手には黄色の飲み物が入ったジョッキを持っていた。


「ありがとうございます。いただきます。」


店主がジョッキをユアの前に置くと、そのままユアはそれを手に取り飲み始める。よほど喉が渇いていたのだろうか、その飲みっぷりは結構豪快だ。


「ほら、兄ちゃんにもやるよ。手伝ってくれたお礼だ。」


「…もらってもいいのか?」


「ああ、兄ちゃんがいなきゃ俺の腰は死んでただろうしな。」


「ならありがたくいただくよ。」


店主の好意は素直に受け取っておいた方がいいだろう。俺は目の前に置かれたジョッキを手に取ると、そのまま口をつける。口内に入ってきた果実汁は、俺の知っているのより少し酸味が強かった。地域によって取れる果実が異なるため、前飲んだものとは絶妙に味が違っているのだろう。


「ちなみに5ルイな。」


「おい、金とんのかよ。」


「普通は8ルイで売ってるやつだ。サービスだよサービス。」


「ならタダにしてくれ。」


店主に向けて抗議の視線を送っても、あっけらかんとして店主は笑っている。


もう口をつけてしまった以上、流石に返品するわけにもいかない。俺は手元から5ルイ硬貨を投げつけると、店主はパシッとグラスを持つ手とは反対の方で受け取った。


ぷはあ、と隣で声がしたと思えば、ユアがジョッキをすでに机に置いていた。中身は空になっていることから、一気に飲み干したのだろう。


その飲みっぷりは酒場で大の男が酒を煽るようにも見えるし、或いは小さな子供が果実汁を飲み干すように見える。ユアの知り合いの多くには、後者の姿が見えているのだろう。


俺は半分ほど飲んだところでジョッキを置いた。酸味が多少強いとは言っても基本的には甘味が先行しているため、一気に飲むのは辛いものがある。


「お前、ここにいて大丈夫なのか?家の手伝い出来てんだろ。早く戻らないと怒られるんじゃねえの?」


「戻りたくないんだよ。どうせ家に帰ったところでまた父さんに使われるだけだ。」


「帰るのが遅くなるほど怒られるだろ。」


「まあいいんじゃねえの?ユアちゃんは頑張ってんだし、多少休憩したところで大丈夫だろ。」


ユアの声が聞こえたのか聞こえてないのか、店主がまたガハハと豪快に笑う。


「どうせこの手伝いも進んでやったわけじゃないんだろ?」


「ハニーさん…」


「いつものことじゃねえか。ユアちゃんが自分から働こうとしてたのなんて8つの頃が最後だったろ。」


どうやら店主はユアの嘘、というより誤魔化しを見抜いていたらしい。恐らくアルマーニを出したのも、ユアにサボる口実を作らせたのだろう。


「安心しろ、お母さんにはまた今度上手く言っとくよ。」


「ありがとうございます。」


ユアは少し微笑みながら頭を下げる。その姿を見て店主は、今度は優しげな笑みを浮かべた。




ガランガランとドアが開く音がした。この店の入り口にある鈴は来訪を知らせるためにあるのだろう。玄関の方を見れば、そこには一人の女が立っていた。


長身に深いピンクの髪を腰のあたりまで伸ばし、頭の片方にツノを携えている。女特有の胸部の膨らみは、普通の人間で持つものはほとんどいないほど豊満であり、その瞳はどこか蠱惑的な雰囲気を漂わせている。


「…え」


その女の姿を見たのだろう。隣に座っていたユアは、体を硬直させぴくりとも動かない。動けない、と言った方が正しいか。


その女はただ、圧倒的なオーラを漂わせている。魔法使いとして、或いはただ生き物として、その女は強さが一目で見て取れる。


「おや、おかえりなさいお客さん。買い出しはどうだった?」


カウンターの奥に座った店主はその女を見ると立ち上がり、入口の方へと駆け寄っていく。


「上々だよ。この街は中々、いい店が多い。有意義な時を過ごせた。」


「そりゃよかった。あんたほどの人のお眼鏡に叶うのなら、この街はまだまだ安泰だな。」


店主は先ほどと同様に飄々とその女に接している。お客さんと言ったところからこの宿の宿泊客なのだろう。それにしてもあの店主、中々肝が据わっている。


「…ん?」


その女がふとこちらに視線を向け、俺と目が合う。ギラリと光る二重の琥珀色の瞳が微かに動いた。


「驚いたな、こんなところで出会うとは。久々だなセンフ。」


「はあ…お前とまた会うことになるとはな。」


「ふふっ、どうやら私は幸運なようだ。」


「俺はアンラッキーだよ。昔馴染みに出会う気分じゃなかった。」


どうやら今日は何かと出会いが多い日だ。或いはパーティーを解散した日から、別れと同じ分出会いがあるというだけなのだろうか。


ハルノシアン・レヴィンテール・ジェイ・ローリンラブヒール。この女の名前を俺は知っていた。炎の魔術に長けており、パーティーを組む遥か前には敵対したこともあった、元サキュバスだ。


「…あいつのこと、知ってるのか?」


体制的に俺の後ろにいたユアがこそりと視線を向ける。


「昔のちょっとした知り合いだ。」


「知り合いとは寂しいなあ…私は貴様を仲間だと思っていたんだぞ。」


「いや別に、強いていうなら仕事仲間って間柄だっただろ。」


シアンはかつてのように右の頬だけを釣り上げて笑う。その特徴的な笑みからわかるが、やはり昔と特に変わりはないようだ。


「そちらの嬢ちゃんは?パーティーメンバーかい?」


「いや違う。この前さっき知り合った街の娘だ。」


「ふーん…」


シアンはその場に立ち尽くしたまま、ユアの方へと視線を移す。睨まれる形になったユアは、体を震わせながら咄嗟に俺の後ろに身を隠した。


「数年前からパーティーを組んでいただろう。今そのメンバーはどこにいるんだ?」


「なぜそんなことを聞く?」


「ただ純粋な疑問だよ。お前を仲間と認め、共に道を歩んだ奴を一目見たいと、ただそう思っただけだ。」


突然の不可思議な疑問に警戒を高める。俺の姿を見て、真っ先に俺の事情ではなく仲間について知りたがるなんてどうも不自然だったからだ。


「…お前、馬鹿にしてるのか?」


「馬鹿にしている、か。どこにそんな要素があった?お前ほどの奴と旅路を進んでいる人間を知りたいというのは変な質問だったか?」


「別にそうじゃない。ただ知っているだろ?俺のパーティーのことを。」


ハルノシアン、かつては『災害』とまで呼ばれ、今なお強力な魔力と戦闘力を有しているこの女は、現在大陸魔法協会に所属している。かつて人間に向けられたその牙を少しは残しながら、しかしここ数年目立った騒ぎは起こしていない。


「…わけがわからん。むしろ何も知らないから聞いているんだ。」


シアンは意味不明そうに首を傾げる。その言葉が嘘なのか本心なのかが聞き出せない。


「俺はパーティーを一昨日追放された。突然メンバーに言われてな。今は一人だ。魔法協会が関連しているのも知っている。」


「…え、」


後ろにいたユアは、恐らく無意識にそう呟いた。そういえばこいつには、元々パーティーで旅をしていたとしか伝えていない。一人で旅をしている経緯も、一人になったのが最近なのも初耳だろう。


「…は。」


だが、それ以上に目の前にいるシアンが面を食らったような表情を浮かべていた。


「追放?それは本当か?」


「本当だ。嘘をつく意味がない。」


意外だったのはシアンの反応の方だ。てっきりこの女は俺の動向を把握してると思っていたが、そうではないらしい。


「その様子だとマジで知らないんだな、シアン。」


「ああ、初耳だ。」


「…はあ、お前らしいな。」


シアンの表情を見る限り、嘘をついているように見えない。どうやらこの女、本当に何も知らないようだ。こいつは元より嘘をついたり人を欺けるようなタイプではなかったはずだ。この反応が偽物、ということもないだろう。


「お前ちゃんと働いているのか?今は一応そこそこの地位についてるだろ。」


「そこは大丈夫だ。私がいなくとも部下が適当にやってるさ。」


「つまり何もしてないんだな。」


ある程度の仕事をこなしていれば、俺のことは普通耳に入るはずだ。それにも関わらず何も知らなかったのは、相変わらず適当に生きているからなのだろう。


「えっと、いろいろ聞きたいことがあるんだけど。センフにも、その人にも…」


「とりあえずシアン、中に入ったらどうだ?入り口に突っ立ってたら邪魔になるだろ。」


「そうだったな。すまない店主。」


「別に構わねえよ。今日は客がそんなに多くねえし気にすんな。」


店主はシアンの荷物を受け取ると、それを持ってカウンターの中に入り鞄を前の棚に置いた。シアンの方はカウンターの後ろ側、テーブルのそばに腰掛ける。


相変わらず胸部を過度に強調した、肌が半分ほど見えているドレスのような服を着ているのは、一応サキュバスであった故に羞恥心がないからだろう。


「にしてもお兄ちゃんがハルノシアンさんと知り合いだとはなあ。驚いたよ。」


「えっとハニーさん、この人ってそんなにすごいの?」


「彼女は大陸魔法協会の支部長だからな。つまりまあ、ここら辺で一番偉い魔法使いってことだ。」


「え、そうなんだ。」


「よくそんな所まで登り詰めたな。」


「どうも上のジジイどもは気に入らなかったみたいだがな、それでも実力で無理やり奪い取ってやった。」


大陸魔法協会は大陸の中央に本部を携える、この世界でも有数の巨大組織だ。その大きさ故に、世界中を一括で管理することは不可能なため、大陸にいくつかの支部を携えている。


大陸に12ある支部のうち、ここハルスク地方はそこまで大きくはないものの、バングスルーの街を始めいくつかの重要都市がある魔法協会にとっても重要な土地だ。そこのトップなのだから、組織内でも地位は相当上の方になる。


「なんで町外れの辺鄙な宿に支部長の人がいるの?」


「おいおいユアちゃん…それは酷くねえか?」


店主が少し寂しそうにユアの方を眺めるが、ユアの視線はシアンの方に向けられたまま動かない。辺鄙な宿というのは、まあ、事実ではあるが。


「今、各地方の偵察をしていてな。ちょうどバングスルーが今の調査対象なんだ。ここに泊まっているのは気分だよ。それに表の店よりこっちの方が安いだろう?」


そういえば先ほど、店主は表の店の宿泊費がここよりも高いと言っていた。冒険者が多く訪れる街ではあるため自然の摂理ではあるが、それでも値段を吊り上げている節はあるのだろう。


「案外、こういった路地裏の宿の方がいいこともある。現にこうして今、かつての友人と再会できたわけだしな。」


「それは店関係なくたまたまだろ。」


「そうかもしれないな。だがその結果から、裏路地にある宿に泊まればいいことがあると、そう考えても悪くはないだろう?」


「…勝手にしろ。」


シアンのよくわからない理論は考えるだけ無駄だろう。というよりシアンはあまり物事を深く考えるようなタイプでもないし、適当言っているだけかもしれない。


「えっと…ハルノシアン、さん?」


「長いだろう?シアンでいい。」


「じゃあ、シアンさん。調査って具体的に何をするんですか?」


「色々だよ。治安調査、魔法道具店の規約確認、違法に魔法を利用している者の取り締まり。それを私の部下がやっている。」


「お前はやってねえのかよ。」


「私がそんな細かいことを気にすると思うか?」


「大丈夫かよ魔法協会…」


大陸魔法協会自体にいい思い出はない。それでもシアンのようなスタンスの奴に仕事を割り振るしかないのは少し不安でもある。一応ちゃんとした組織ではあるし、こんな雑でも良いのだろうか。


「安心しろ。何かあった際にはちゃんと働く。この力を持ってな。」


シアンはグッと右手を握りしめる。その瞬間に手からオーラが小さく浮かび上がった。圧倒的な魔力を持つシアンの、本気の片鱗だ。


ユアがほんの少し体を震わせた。魔法を使う者なら、先ほどの素振りを見るだけでシアンがどれほどに強力な魔法使いかなんて一目瞭然だ。ただ暴力的に、理不尽に、圧倒的に、シアンは強い。


「…すごい。」


ふとユアがそう呟いた。恐らくそばに居た俺にしか聞こえないくらいの小さな声だ。


珍しい感想だ。シアンの力を見たものは大抵、怯えるか、縮こまるかの二択である。圧倒的な力に対してそこに憧憬を浮かべるのは、ともすれば初めてではないだろうか。


「シアンさん。一つ聞いてもいいですか?」


「うん、なんだ?」


「あの、私魔法使いなんですけど…あなたみたいに強くなるにはどうすればいいんですか?」


ユアが脈絡もなくシアンにそんなことを聞いた。


「貴様…魔法使いなのか?全くそうは見えないが。」


「ええ、称号は五級しか持っていませんが。」


「通りで魔力を全く感じないわけだ。ただの人間にしか見えなかったぞ。」


シアンはなんの遠慮もなくそう言い放つ。ユアが魔法使いに見えないというのは確かだ。魔法使いなら携えているある程度の魔力を、ユアからはほとんど感じない。


「あなたの言う通り、私は魔法使いとしてはまだまだ未熟です。ですがある事情があって、どうしても強

くなりたいんです。」


ユアは唇を噛み締めながら、しかしはっきりとそう告げる。ある事情なんてのは昨日聞いたばかりだ。


ユアは冒険者になることを望んでいる。世界中に転がっている知識を知りたがっている。ただ己の弱さ故に、危険と常に隣り合わせの旅に一歩踏み出せずにいる。


強くなりたいという本音は初めて聞いた。いや、昨日も言っていたのだろうか。ユアは結局、自分の夢を諦めていない。


「事情は何か知らんが、とにかく力が欲しいのか。」


「ええ、一人で旅をできるくらいの。自分の身は自分で守れるくらいの力が。」


ユアは目を大きく見開いてシアンの瞳を眺める。


「魔法協会の支部長ならすごい魔法使いなのでしょう。どうすれば強くなれるのか、良ければ教えていただけませんか?」


ユアはその瞳を捉えたまま離さない。ただ真剣にシアンのことを眺める。


「…」


それに対してシアンが見せたのは…苦虫を潰したような、何とも言えない表情だった。


「強くなる方法を教えろと言われてもな。私にはできない。」


「…そんな、どうしてですか?私が未熟だから?それとも見知らぬ赤の他人だからですか?」


「落ち着け。別に貴様に問題があるわけではない。」


そう言いながらシアンはため息を一つつく。そして俺の方にちらっと視線を寄せた。


「センフ、貴様ならわかるだろう。私の言葉の意味が。」


「ああ、ばっちりな。」


ハルノシアン・レヴィンテール・ジェイ・ロンリーラブヒールは圧倒的に魔法使いとして強い。炎魔法の力なら、それこそ右に出る者などいないと言えるほどには。


「どういうことセンフ?」


「簡単な話だよ。シアンは特別なんだ。」


「特別?」


「ほら、あれを見ろ。」


俺はシアンの頭、右の方を指差す。そこには多少先端が欠けているが、真紅の角がある。


「あいつは元々人間じゃない。生まれながらにして人間よりも強い魔力を持つ種族の生まれなんだ。」


「具体的にはサキュバスだ。今はもうその生態は持たないがな。」


「言っても大丈夫なのかよそれ。」


「もう昔のことだ。今更関係無いだろう。」


シアンの言葉を聞いたユアは驚いたように目を丸くしている。


「サキュバス…え。」


「ユアなら知っているだろ。サキュバスに限らずエルフ、ドワーフ、ここら辺の生き物は…いや、人間以外の魔法を使う種族は大抵、生まれながらにして魔力を大量に持つ。その中でもシアンはさらに特別なんだが…とにかくこいつの場合、元々人間じゃないから強いんだ。魔法使いとして適性があったってだけなんだよ。」


俺が初めてシアンと出会った時から、こいつは魔法使いとして完成されていた。話によれば、もう数百年生きているシアンは、昔からずっと強力な力を持っているのだと言う。


「だから強くなる方法を聞かれても教えられない。私は初めからこうだったというだけだ。」


言ってしまえば才能だ。シアンは初めから魔法使いとして才があった。だからユアよりも圧倒的に実力がある。初めから強者だったシアンは、弱い者が強くなる方法を知らないのだ。


「…そうなんですね。」


「まあまあユアちゃん、そんな落ち込むなって。人には向き不向きがあるんだからよ。」


ずっと後ろで静観していた店主が、ユアを励ますようにその背中を優しく叩く。


「…あんたはシアンにビビらないんだな。」


「ん、俺かい?」


「さっきもシアンと普通に話してただろ。それにシアンが元サキュバスだと聞いても、特に狼狽えた様子もなかった。知ってたのか?」


俺がシアンを『強い種族』と一度ぼやかしたのは、店主やユアにシアンの正体を知らせないためだった。シアンが何気なく自分の元の種族を明かしたために無駄な努力となったが、その時に店主は眉一つ動かしていなかったのだ。


「いや、知らなかったよ。不思議なツノがあるとは思っていたが、まさかサキュバスとはなあ…」


「なんか余裕そうだな。サキュバスってあのサキュバスだぞ。」


サキュバス、それは人の精気を餌として生きる魔物だ。人間や他の魔物をその蠱惑的な姿と魔法によって催眠をかけて精気を食い尽くし、廃人にしてしまう、危険性の高い生き物である。


「でも元、なんだろう?見た感じハルノシアンさんはもうサキュバスの力を失っているようだしな。なら何も恐れることはないだろ?」


「それはそうなんだが…」


「今はうちのお客さんだ。ビビったほうが失礼だよ。」


サキュバスは多くの人間に恐れられている。シアンがかつて俺と刃を交えた理由もこいつがサキュバスであり、人間の敵であったからだ。その中でもこいつは例外だったために、今ここにいるのだが。


しかし店主はその魔物を恐れる様子もない。店の客であるから、だけなのだろうか。


「…どうやら随分と真剣なようだな。」


ユアを眺めていたシアンが、独り言のようにそう呟く。手元でそこにない髭をなぞるようにしながら、何か考え込んでいた。


「ユアだったか。貴様、強くなりたいと言うのは魔法使いとしてか?それとも生命体としてか?」


「生命体として…ってどういう意味ですか?」


「いわば肉体の進化、人間の限界を越えるということだ。貴様は私がサキュバスの機能を失ったように、人を辞めることで強さを得たいのか?」


シアンはどこか興味深そうにユアのことを眺める。生命体として強くなる、というのはいわば生まれ変わりだ。


サキュバスが魅惑的であるように、エルフが長寿であるように、そして人間は感情が特段豊かであるように。この世に生きる様々な種族は、それぞれ固有の特徴を兼ね備えている。


魔力を大量に待つ種族に…それこそサキュバスなんかになれば、大量の魔力を得られるかもしれない。


…ユアがサキュバスに向いているか、というのはその胸部を見れば一目瞭然ではあるが。


「そういうことじゃない、と思います。私はただ魔法使いとして強くなりたい。」


「人間を辞めれば魔法使いとして強くなれるかもしれないぞ?」


「いや、多分成れないと思います。」


「ほう、どうしてそう思う?」


「だって貴方は強いでしょう。サキュバスでなくなった…恐らく人間になったにも関わらず、貴方は強い魔法使いのままだ。なら生まれ変わるくらいで私の魔力が大きくなるとも、魔法を上手く扱えるようになるとも思えない。」


「なるほど。確かに私は今、人間だ。だが魔力はそんなに弱まっていない。サキュバスだった頃よりは大きくないが、それでも普通の人間よりかは遥かに多いな。」


「少なくとも私が強くなるには努力をするしかない。人間のままじゃないと、とは言いませんが、生まれ変わっても何も変わらない。」


「ならば尚更、私には何もできないな。」


人を辞める方法、種族を跨ぐ方法をシアンは知っている。かつて自分の身をもって経験を挟んでいるからだ。しかしユアは人間のまま、魔法使いとして高みを目指している。ユアとシアンの思惑には明確な差があった。


「だが、魔法使いとして強くなるのなら、一人頼れる奴がすぐそばにいるじゃあないか。」


「おい、なんでこっちを見る。」


「センフ・カリスタ。こいつは魔法使いとして私と同じくらい強い。しかも純粋な人間だ。魔法ならこいつに教わったらどうだ?」


シアンは俺の質問に答えることなく、ユアの方を向くとこちらの方に指だけ刺す。それと同時に、ユアがこちらの方を向いた。


「センフに…」


「むしろ私としては、なぜ貴様が私に教えを乞うているのかがわからないな。断られでもしたか?」


「いや、そういうわけじゃないんですけど…」


「ならばなぜこいつに頼まない?」


「センフは強くなる方法を知らないって言ってたから聞いても無駄かなって思って。」


「俺、そんなこと言ったか?」


「言ってたじゃん昨日。焚き火のところで。」


「ああ…」


昨日の就寝直前、ユアに対してガキと言い放った後、確かにそう言った。強くなる方法なんてわからないと。魔法学校に行けばいいとも言ったはずだ。


「だからこの人に聞いても意味がないと思ったんです。」


「なるほど。センフらしい答えだな。」


ひとときシアンが頷いた後、またこちらの方を向いた。


「だがセンフ、貴様は私とは微妙に違うだろう。貴様は昔から徐々に、徐々にだが強くなっている。微々たるものかもしれないが、成長の仕方を知っているだろう?」


「別に何も変わらねえよ。俺も初めからこんなだった。」


「違うな。貴様とはかつて1月で2度、刃を交えたが、たったその短期間で圧倒的に強くなっていただろう。あれが成長ではないのか?」


「よくそんなこと覚えてるな。何年前の話だよ。」


もう十年も前になるのだろうか。シアンと初めて出会った時に俺たちは一月で2度、その刃を交えた。たった一月、されど一月。長くもなく、しかし一瞬でもないその時間でシアンに抗うために当時、何もしなかったかと言えば嘘になる。


「数百年生きている私からすれば、ついこの間のことさ。」


「そういやサキュバスは結構な長寿だったな。」


「エルフのババアよりは遥かに若いぞ。」


サキュバスはエルフほどではないが、長生きする生物だ。現存する最古のエルフは3000年程度生きているとされるが、サキュバスの寿命もそれに劣らず、おおよそ1000年は生きるとされているのだ。そんな種族と人間の時間感覚が異なっているのは当たり前だろう。


変なことを覚えているものだ、とため息をつくと気づけばユアの視線がこちらに注がれていた。


いや、心なしかこちらの方に体を傾けている。その目を輝かせて俺のことを見つめていた。


「なあセンフ、一つお願いがあるんだが。」


「断る。」


「まだ何も言ってないぞ。」


「何も教えない。稽古なんてもってのほかだ。」


ユアの言おうとしてることは流石にお見通しだ。『私に魔法を教えてくれ。』だろう。だが俺がユアに魔法を教える義理なんてない。


「おいおい、随分と冷たいじゃないか。街娘が一人、必死にお前に頼み事をしているんだぞ?そんな突き放すことないだろう。」


「お前…他人事だからっていい加減なことを…」


シアンはどこか愉快そうに俺の方を眺めて笑っている。相変わらず右頬だけを惹きつけた笑い方は、ただ俺の姿を見て面白がっているのだ。


「店主…何か言ってくれねえか?」


「兄ちゃん、俺はユアちゃんが生まれた頃から知ってるんだぜ?この状況でどっちに肩入れをすると思うよ。」


「マジかよ。味方いねえのか?」


今の所1対3で俺は負けている。店主は昔のよしみで、シアンは面白がって俺の敵になっているのだ。随分と追い込まれている。


「どうしてダメなんだ。何か問題があるか?」


「問題があるわけじゃない。ただ手間なんだよ。俺も暇じゃないんだ。」


昨日は丸一日歩き続け、買い出しや剣のメンテナンスなんかもあり今日も歩き回っていた。そして今夜からは泊まる金を稼ぐため、仕事を探しまわる予定だった。剣のメンテナンスが終わればすぐにこの街を出ていく予定であるため、別に暇をしているわけでもないのだ。


「それでも時間がないわけではないだろう?少しの時間でもいい。私に魔法を教えてくれ。」


「嫌だ。なんの見返りもなくやる理由がない。」


「見返り、それは…」


「言っただろう、優しさは気まぐれだって。いつでもタダで助けてもらえると思うな。」


人はいつも優しさを分け与えるわけではない。当たり前でないことを当たり前だと勘違いすれば人はつけあがるのだ。


ユアに勘違いをさせないために、昨日助けたのは気まぐれだと伝えるために、俺はこの願いを断る必要がある。


ユアが後ろを振り返り、店主の方をじっと見つめる。


「ねえハニーさん。センフの宿泊代、なんとか安くしてくれないかな?」


「おいおい、それは勘弁してくれよ。これでも結構負けてんだ。これ以上安くしたら商売あがったりだよ。」


店主にとっては、割と無茶苦茶な要求だろう。元々250ルイだった宿泊費をなんやかんや65ルイも下げているのだ。これ以上下げると商売が持たないに決まっている。


「結局それは店主に助けてもらってるだろ。自分の力でなんとかする気がないなら、尚更俺には何もできねえよ。」


「それもそうだな…じゃあ、お願いだ。センフ、お前に言われたことはなんでもする。だから魔法を教えてくれ。」


ユアはそう言いながら頭を小さく下げる。


…俺はその言葉を聞いて顔を顰め、店主は苦笑いを浮かべながら硬直し、元サキュバスは高笑いをした。


「おいおい街娘、かつてサキュバスだった立場から忠告するが、その要求は危険だぞ。気兼ねなく口に出す言葉じゃない。」


シアンは先ほどよりもさらに楽しそうに頬に笑みを浮かべている。


「なんでもする、なんてあまりに制約が無さすぎる。生き物は皆、欲を持つ生き物だ。貴様が窓口を広げれば、その分何をされるかわかったもんじゃあないだろうな。」


「…あ。」


「ユアちゃーん、今のはちょっと、まずいかも、しれないなあ。」


店主は表情を変えないまま、しかしその額に汗を滲ませていた。先ほどまでの豪快な姿から一点、信じられないほど小さな声でそう忠告した。


ユアもようやく事情を察したのか、だんだんとその表情を曇らせる。だが、今更そんな顔をしたってもう遅いものは遅い。


「…へえ、なんでもするのか?」


「あ、いや。なんでもって言っても私にできることは限りがあると言うか…」


俺がバッと席を立つと、ユアはビクッと体を縮こまらせて、俺から距離をとる。ユアが退いたことによって生まれた空間を埋めるように、俺はユアに一歩近づいた。


「なんでも、ねえ。それは嘘じゃないんだよな?」


「ああ…いや。」


ユアの方に顔を近づければ、ユアは顔の前に手を置いて、その表情を隠す。隙間から見える頬だけでなく、全身が赤らんでおり、今にでも発熱してしまいそうだった。


「その…なんというか。できれば変なことはしないでほしいというか。」


ユアは小さな声でそう呟く。もうすぐそばにいるのに、一歩たりとも動く様子がない。


そんな様子にかけつけて、俺はさらにユアの元へと近づける。着実に、確実に、その顔を近づけ…そして一つ息をつき、ユアから離れた。


「なんでもするんなら、俺にお願いをするのをやめろ。それだけだ。」


俺はそのままユアの横を通り過ぎると、奥にある階段を登っていく。宿泊部屋は確か2階の奥だったはずだ。


「…へ?」


「はっ、見捨てられたな。」


階段の下から、シアンのそんな笑いと呆れが混ざった声が聞こえる。


別にユアに対して何かを求める気持ちはない。ただ何も求めてほしくない、というだけだ。魔法を教えるのなんて面倒だし、俺になんのメリットもない。


小さくため息を一つつく。建物が古びているのか階段を一歩踏むたびにギシギシと木が軋む音がした。


…この建物、大丈夫なのか?と、そんな不安を抱きつつも、しかし金は払ってしまったので仕方なくここに泊まるしかない。


追放2日目、センフ・カリスタは新しく見つけた宿の部屋にたどり着くと、共に旅をした荷物をベッドの下に置いた。



人によっては鼻のつくような、またある人にとっては気分を高揚させる匂いが漂っている。夜も更けて、すっかりと静まり返った街とは対照的に、陽気な男たちによって喧騒に包まれていた。バングスルー、とある地下の酒場。


入り口から離れた店の奥にある、6人掛けのテーブルに俺はいた。茶髪でのっぽの中年と、モノクルをかけた若者、そしてすでに酒に酔って顔を真っ赤にした老人が同じテーブルを囲んでいる。


目の前には酒場の制服を着た好青年がおり、その手には4色の柄と13枚の数字、そしてイレギュラーカード2枚、合計54枚で1セットとなるトランプが握られている。俺たちの前にはいくつかの金貨が積まれており、皆好青年の方を向いていた。


「では、いくら出しますか?」


のっぽの男とモノクルの若者は、手元に積んである金貨から一部を取り出すと、それを青年の方に差し出した。


「おやおや…そんなに賭けて大丈夫ですか?ユハルさん。」


「はっ、ここは勝負する場面だ。俺の勘が告げているし間違いねえよ。」


モノクルの煽りに対し、のっぽの中年は方は引き攣り笑いでそう返す。その声が多少震えているように聞こえた。


今度は青年がこちらの方を向く。俺は手元から金貨の山の一部を切り崩すと、前に差し出した。


「20ルイだ。」


「おいおい兄ちゃん、そんなちっちゃく賭けるだけでいいのかい?」


隣に座っていた酔っ払いの老人がヘラヘラと笑いながら俺の肩へと組みついてくる。


「ここは勝負どころじゃないので。次の倍の時までは我慢ですよ。」


俺は敢えて表情は変えないまま、老人の肩をそっと振り解いた。老人は一瞬俺の方をじっと見つめるがすぐにニヤッと笑いだすと、 手元の金貨を一部青年の方に続けて渡した。


「では、行きましょう。」


青年がそう告げると皆の距離が一歩縮まる。青年はカードを裏向きでシャッフルすると、上から2枚を取り出して中年の前に置いた。その上からさらに2枚を手に取ると、順番に俺たちの前に置いていく。全員に配り終わったところで、4人が一斉にそのカードをめくった。


「…もう一枚。」


モノクルが自分の手札を見るや否やそう告げる。青年はカードを上から一枚捲るとモノクルの方へと手渡した。


「どうしましたユハルさん。手札がどうやら芳しくないようですね。」


ユハルと呼ばれた中年は、自分のカードを見て頬を歪ませている。手をわなわなと振るわせながら、カードと睨めっこをし、しばらくした後、覚悟を決めたように人差し指を挙げた。もう一枚、という合図だ。それを見た青年は同じようにカードを手渡す。


「くそっ、24!」


中年は手元のカードを放り出す。スペードの8、ダイヤの9、そしてダイヤの7が表になった。


ブラックジャックは合計21点を超えれば強制的に失格になる。中年は持っていた金貨が4人の中で一番少なかった。この場面で残りのチップをほとんど賭けて勝負に出たが、見事に裏目に出ていた。


「一枚もらえるか?」


俺は手元のカードを見て青年にそう告げる。すぐにカードが一枚、スライドして渡ってきた。その表を見るとクローバーの3。手元のハートの6とスペードの9を合わせると18になる。


しばらく考えた上で、俺はカードを伏せた。それ以上はいらないという合図だ。掛金が少ない状態であり、21を超えないカードは残り半分以下。ならばここで勝負をする意味なんてない。


「ひっ、俺も1枚だ。」


酔っ払いが人差し指を挙げる。手に渡ったカードを確認すると、さらに続けてもう一枚カードを要求する。


「皆さん大丈夫ですね?」


青年が俺たちの方に順々に視線を向けた。およそ1名は不貞腐れたように青年を睨むが、気に掛けた様子は全くない。


青年が一枚ずつカードを捲る。スペードのJ、ハートの10、ハートの4と捲られ、4枚目にクローバーの6が露出した。


「21ぴったりか…まあいいでしょう。」


若者は左目にかけたモノクルを一回正してから、手元のカードを開く。3枚の合計値が21となっていた。


「…俺は負けだ。」


続いて俺も手札を机の上に放り投げる。当然、青年より点数が低いため金貨は没収だ。


「ぴったりかよ、残念だな。」


酔っ払いは合計値20となる4枚のカードを開いた。同じように目の前に置いていた金貨が青年の元に行き渡る。


「くそっ、今日はついてねえな。店主、もう一杯同じのをくれ。」


「はい、わかりました。」


中年は徐に席から立ち上がると、机に置いていた酒樽を持ってカウンターの方へと向かっていく。物腰柔らかさそうなおじさんがカウンター越しに立ち上がり、その酒樽を受け取った。


「次こそは点を確保してやりますよ。」


「さて、どうなるかねえ。」


俺の両端にいる二人の賭け事好きが、にやりと悪気な笑みを浮かべた。




「おかしい…おかしいぞ!こんなの僕のデータにない!」


およそ15分後。モノクルの若者が21を超えた手札を

投げ捨てて髪をかきむしる。中年が脱落してから4ゲーム後、気づけば若者の手元から金貨が無くなっていた。


「どこで計算を間違った?僕の理論は完璧だったはずだ!」


「計算って…」


賑やかな店の中で若者の悲痛な叫び、というか嘆きが響き渡る。力を入れていないはずなのにモノクルに小さなヒビが入った。


ブラックジャックに計算は、まあ無くはないのだろうが、それでも数の扱いだけで勝てるようなゲームではない。どちらかと言えば運や駆け引き、金貨の賭け方なんかの方が重要なゲームだろう。


「残念だったなガンリキ。」


「レン爺、貴様ぁ!!!」


酔っ払いがニヤニヤと笑いながら、机の上に瓶に手をつけて、一気に飲み干す。モノクルが顔に血管を張り巡らせて酔っ払いの方を睨み返していた。


「さて兄ちゃん、続きといこうか。」


「ええ、そうしましょう。」


酔っ払いは酒を煽り終わると、ボサボサになった髪の毛の中からその瞳をこちらに向ける。モノクルは酒樽を持って気づけばカウンターの方に走り出していた。


現在の金貨は俺と酔っ払い、共に初期の賭け金よりも少し高い程度に収まっていた。俺は小さな負けと勝ちを繰り返し、酔っ払いは中くらいの負けと勝ちを繰り返した結果、似たような感じになっていたのだ。


「もう一枚。」


「…ここで降りよう。」


「合計は19です。」


「…もう一枚。」


「俺もだ。」


「ひひっ、さらに一枚。」


「では俺も。」


30分もすれば、ゲームが終了した。俺は初期の賭け金200ルイから50%上乗せの合計300ルイ。利益としては悪くないだろう。


対して酔っ払いは最後に大きな勝ちをしたことで、450ルイまで持ち金を増やしていた。元手よりも圧倒的に伸びているので、酔っ払いの一人勝ちと言っても過言ではない。


「ひひっ、兄ちゃん。中々強いじゃないか。」


「そちらの方こそ。賭けるタイミングが絶妙でしたよ。今回は貴方の勝ちでしょう。」


酔っ払いは陽気な表情でまた俺の肩にまた組みついてくる。そしてその勢いのまま、一気にこちらの方へと近づいてきた。


「だが兄ちゃん、兄ちゃんの賭け方はしょぼいな。賭け事として面白くねえ。」


そして握り拳1個分くらいの距離感でそう告げる。酒の匂いが顔面に直撃し、少し顔を顰めてしまった。


「せっかく有り金賭けてんだ。もっとパーっといかないと面白くねえだろ?」


酔っ払いは俺に組みついたまま、後ろの方に振り返る。


「お前らもそう思うよな!?」


「おお!」


「行くならもっと行かねえと!」


「根性たんねえぞ兄ちゃん!」


酒場の男たちが酔っ払いに賛同するように、口々にそう叫ぶ。


確かに俺の勝負の仕方は賭け事を娯楽として遊ぶ者、観戦しているような者にとっては物足りないものだっただろう。


彼らの場合は勝負に勝つことよりも大金を賭けること、そしてある時は失い、ある時はロマンを手に入れる、そんなギャンブル性の方がずっと重要なのだ。


「つーことで兄ちゃん、延長戦と行こうじゃねえか!」


「延長戦…もう1ゲームですか?」


「いや、違う。今度は俺と兄ちゃんの一騎打ちだ。」


「一騎打ち…」


「今度は俺らじゃなく、まずあんちゃんがカードを4枚引いて、点を決めるんだ。」


酔っ払いは店員である青年の方を指差す。彼はにこっとその笑みを崩さない。


「その後は一緒だ。最初はカードを2枚受け取って、そのあと引くか保留するかを選ぶ。」


「点が違うだけですか。勝負の回数は?」


「そこが重要だ。勝負は一回こっきり、そして賭け金は…今ある全部だ。」


「全部ですか。一回で?」


「ああ、一ゲームじゃねえぞ。もちろん勝った方は負けた奴の金を全部取れる。そして、だ。点数をオーバーすれば相手と兄ちゃんに同じ金額をそれぞれ渡すんだ。」


「つまり、負ければ賭け金の2倍を失うということですね。」


「その通りだ。そっちの方が次カードを引くか盛り上がるだろ?」


酔っ払いが手元にある金貨を俺の方へと近づけてくる。


「賭け事ってのはちまちまやるもんじゃねえ。こんくらいパーっとやってなんぼだぜ?」


酔っ払いがまた酒を煽る。その後ろで、店の客たちがまた酔っ払いに同情するようにヤジを飛ばした。


「貴方の方が持ち金が多いでしょう。不公平になりませんか?」


「構わねえよ。そんくらい誤差だ。」


普通に考えれば、今ある金貨をそのまま賭けるのなら圧倒的に相手の方がリスクが高い。ディーラーに負けた時は言わずもがな、21を超えた時には、かなりの金額を失うことになるのだ。


しかし酔っ払いはそんなのを気にした様子もない。

負けるはずがないと思っているのだろうか、或いは負けても構わないと考えているのか。


「さてどうする兄ちゃん、もちろんイモ引いてもいいが…皆はもう盛り上がっちゃってるぜ?」


酔っ払いが周囲を見渡す。酒場の中は熱気にあふれた異様な空気感に包まれた。先ほど敗戦したのっぽの男も、モノクルの若者も、顔を真っ赤にしながら聞き取れないような言葉を叫んでいる。


「…わかりました。お受けしましょう。」


「よし来た!それでこそ賭博師だ!」


この状況で引くわけにも行かず、俺はゆっくりと頷いた。その瞬間、店内の喧騒はより一層大きくなる。


「んじゃあんちゃん、もう一回頼むぜ。」


「ええ、わかりました。」


酔っ払いが手元の金を全て青年の方へと明け渡した。それに続いて俺も近くに置いていた300ルイをその隣に置く。


青年はテーブルに散らばったトランプをまた集めると、ゆっくりとシャッフルを始める。そしてしっかりと混ざったことを確認すると、上から5枚、慣れた手つきでカードを取り出した。


細かいルールは特にないのかもしれないが、それでも青年が何も確認せずゲームを始めたあたり、初めてのことではないのだろう。この酒場の名物なのか、或いはこの酔っ払いがよくやるのだろうか。


青年が取り出したカードをテーブルの上で表にする。ハートのクイーン、スペードのキング、クローバーの8、ダイヤの7、スペードの7が順に取り出される。合計値は27、ブラックジャック特有のカードの点数から考えれば、期待値よりも少し高い程度だろうか。


続いて青年が2枚のカードを裏にして俺と酔っ払いの前に置く。それを表にすれば、俺はクローバーの4とダイヤの5、酔っ払いはダイヤの8とハートのキングを手にしていた。それぞれ9点と11点分だ。


「カードを引く順番は?」


「別にどっちでも構わねえ。兄ちゃんの好きにしな。」

「わかりました。じゃあ一枚もらえるか?」


俺が青年に向かってそう言うと、青年は一枚カード渡す。手に渡ったのはハートの6だ。


「ひっひ、じゃあ俺も引こう。」


酔っ払いが手にしたカードはスペードのジャック、これで合計が15点と12点になる。


「もう一枚。」


「俺もだ。」


ハートのエース、クローバーの5、スペードの4、ダイヤの2と続いていく。


「さて兄ちゃん、ここから怖くなってくるだろ?」

現在の自分の点数は20点だ。ここから山札に残る8か9を引いてしまえば即オーバーとなる。現在はまだ8が一枚しか露出しておらず、思っているより8や9を引いてしまう可能性は高いだろう。


「もう一枚。」


俺がそう告げると、酒場の男たちがなぜか雄叫びを上げる。


ここで勝負を降りる意味もない。現在はわずか2点差、次の番に抜かれる可能性は高いだろう。


青年がカードをこちらにスライドさせる。裏返してみれば、スペードの5が見えた。


「…これで合計25。」


「じゃあ、俺ももう一枚だ。」


酔っ払いは現在19点、当然この状況はカードを引く。


「おっと…こりゃあ運がいい。」


青年がスライドし、テーブルの上に置かれたカードを手に取った酔っ払いは、それを裏返すとニンマリと笑う。これまでの陽気な雰囲気とは違い、どこか悪っぽい雰囲気が漂っていた。


「クローバーの7、合計で26点だ。」


「おいおい、レンさんやってるよ!」


「不正してねえだろうな!」


「当たり前だろ!そんなん何も面白くねえ!」


より一層店の中に響き渡る酒狂いたちのヤジに対し、酔っ払いの老人は後ろを振り返るとそう言い放つ。


「ヒュー!流石レン爺!」


「そこに痺れる憧れるぅ!」


気づけば店の奥にいたはずの客までこちらの様子を覗きにきていた。店内はもうすっかり、酒の匂いで息苦しくなっている。


「さて、どうする兄ちゃん。このまま降りればあんたの金は俺のもんだぜ。」


酔っ払いは手に持った酒瓶をまた手につけた。しかし中身がなかったのかすぐに下ろすと、ふらふらと手元で振り子のように揺らす。


もしこのまま降りれば俺の負けは確定する。手元の300ルイはこの酔っ払いに渡るだろう。…だが今の手札は合計25点のため、次にカードを引いて3点を超えれば、今の倍の金額を払うことになってしまう。


被害が小さい内に撤退するか、さらに大きなリスクをとって勝ちを狙うか。当然、確率的に言えばここで引いた方が賢い選択だろう。


「兄ちゃん降りんのか!」


「イモ引いちまってんぞ!」


酒場の方から、酒に酔った男たちの怒号にも聞こえるヤジが飛んでくる。俺が降りてしまえば、それこそ金を賭けているのに、盛り上がりに欠けるのだろう。


しばらく考え込んだあと、俺は結論を出した。


「…いや、もう一枚引きますよ。」


俺がそう言えば、店内はまた一気に盛り上がる。


「おっ、乗って来たな!それでこそ酒が進むってもんだ!」


酔っ払いもどこか嬉しそうに、気づけば手元にあった酒を一口煽った。


「しかし、ただカードを貰うだけではつまらないですし、一つ提案をさせてもらってもいいですか?」


「提案?ほう、言ってみろ。」


「この店員からカードを貰うのでは無く、自分で引くカードを選ばせて欲しいんです。」


「自分で…か。最後はその手を信じるんだな。」


「結局自分の運命を決めるのは自分ですから。」


「よしわかった。あんちゃん、カードもう一回混ぜてくれ。」


酔っ払いはカードを取り出そうとした青年の手を止めると、指をくるくると回転させる。青年はその指示に従いカードをまたシャッフルするが、その動きはこの若さにしては手慣れていた。


しばらく混ぜた後、青年はカードを裏向きのまま一斉にばらっと広げた。


「…ではこれで。」


俺はしばらくカードの束を睨む。しばらくしてから上の方にある一枚を選んで、ゆっくりと自分の元へと引き寄せた。


「さて、兄ちゃんは付いている奴か、それとも憑かれている奴か、一体どっちなんだろうな。」


酔っ払いが悪どそうな笑みを浮かべて俺の方をじっくりと見つめる。その視線から敢えて目を逸らし、俺は小さく息を一つ吐いた。


そしてゆっくりとそのカードをめくる。3以上であれば負けが確定、1であれば引き分け、どう考えても分の悪い勝負だ。普通なら引かないのが正解だったはずだ。


…だが俺はそのカードの面を確認し、思わず頬を緩めた。


「ハートの2、これで27点ですね。」


手渡されたカードを表に投げ捨て、いつもより少し声高にそう呟いた。




風が木を揺らす。外はすっかり黒に塗られ、昼には活気だっていた街も今は人影一つない。


酒場からしばらく歩き、今日ユアと別れた広場の近くにある裏路地に入ったところで、葉巻を吸いながら壁にもたれかかっている男の姿があった。


「…来たか。」


「ほらよ。これが今回の金だ。合わせて1500ルイある。」


俺は懐から金貨の入った布を取り出すと、それを男の元に投げつけた。男はそれをばっと受け取ると、中身を開いて数え始める。


「相当勝ったな。どこで稼いできた?」


「鍛冶屋前の酒場だ。…お前、普通に店の中にいただろ?」


「なんだ、気づいてたのか。」


「あんな盛り上がってる酒場で静かな奴がいたら逆に目立つぞ。」


夜に紛れるように黒い服を着たこの男は、先ほどの酒場の端のようでこっそりとこちらの様子を伺っていた。


「ついて来た理由は監視か?」


「ああ、お前は今日が初めてだからな。逃げ出したり金をせしめないように見張っていたんだよ。」


「逃げたところでお前らはどこまでも追ってくるだけだろ。」


俺がそう呟けば、男は小さく笑みを浮かべる。


「それにしてもよくこんなに稼いだな。特に途中のブラックジャック、爺さんとの一騎打ちはよくやった。」


「ああ…あの独自ルールの試合か。」


俺がハートの2を見せた後、酔っ払いは俺に続いてカードを一枚選び取った。しかしその結果はダイヤの9を引き、点数を圧倒的にオーバー。酔っ払いから450ルイを奪い取った。


「2以外を引けば勝てない場面でよくやる。いつもあんなリスクを犯しているのか?」


「別に。あそこは確信を持ってあれを引いただけだ。」


俺の言葉を聞いた瞬間、男が少し驚いたように眉を上げた。


「確信…イカサマでもしたのか?俺から見れば、何も細工をしているようには見えなかったが。」


「別に何もしてねえからな。そもそもあの店員、イカサマできないように注意してたし、やろうとしてもできねえよ。」


店員はその動き一つ一つからカードを紛れ込ませたり、盗み取ったりすることがないように注意を払っていた。どこかでイカサマをしようとしても、おそらく咎められていただろう。


「ならどうやって2を引いたんだ?魔法でも使ったか?」


「もっと単純だ。あのゲームの一つ前…普通のブラックジャックの最後に出ていたカードの場所を覚えたってだけだ。ハートの2はたまたま机の上にあったんだよ。」


「いや…シャッフルしていただろ。それなのにカードの場所を覚えてたのかよ。」


「というか試合が終わるたびやってたぜ?変に怪しまれないように、わざと負けたりすることもあったけどな。」


なぜあそこで2を引けたのか、なぜ賭け事に勝てたのか。タネを明かせば簡単な話、俺は最初からブラックジャックをしていなかったというだけだ。


カードの位置をすべてではないにしろ、大体覚えていれば次に自分の手元に何が来るかは、ある程度予想がつく。後は適度に負けつつ、時には勝ちながら少しずつ金を稼いでいったというだけだ。


「シャッフルしたカードの場所なんてわかるのか?」


「できる奴は少ないだろうな。俺の場合、目でカードを追えるからできるわけだし。」


俺はある程度反射神経、というか目が効く方だ。だからこんな手をとっているが、世の中の誰もが、それこそユアなんかができるかと言われれば当然NOだ。


「しかもいつまでも通用するわけじゃない。誰かにトリックを見破られれば、シャッフルを速くされたり、そもそも見えないところでされて終わりだよ。

これまでも、持って1週間だったしな。」


大抵の賭け事をやっている店はそういった客のイカサマや勝ち方に対しての嗅覚が鋭いものだ。そして当然利益を上げるため、運要素のみのゲームにするために対策を取る。


これまで何度か使って来たこの手法も、おそらくこの街を出る時には通用しなくなっているだろう。


「その手段が通用しなくなったときはどうすんだ?」


「まだ何個かやりようはある。別の手を使ってまたある程度稼ぐ。…手が尽きたらその店に行かないようにすればいい。」


「ふーん…お前、だいぶ手慣れだな。」


男は感心したように頷くと、短くなった葉巻を地面に擦り付けた。そして指をパチンと弾いて小さな火を手元で起こすと、新たな葉巻に火をつける。


「臨時とは言え、どうしてうちに来たんだ?お前なら一人でも稼げるだろ。」


「別に本職じゃないからだよ。それに雇われという形なら捕まっても罪は軽い。」


「なるほどな。賢い選択だ。」


そもそもの話ではあるが、この大陸では賭け事の大半は禁止されている。少なくともトランプやコイン、或いは魔法を使い金を賭ける勝負は、見つかれば即治安維持部隊に確保されるのだ。


先ほど当たり前のように賭け事に勤しんでいたあの酒場も、違法行為に手を染めているというわけだ。表向きは酒場を装い、深夜にだけ賭け場とすることでバレにくいようにしているのだろう。


「それに本職じゃないしな。ある程度の金が稼げればそれでいいんだよ。」


「そういやあんたは冒険者だったな。」


「今は金が欲しくてやってるだけだ。」


この男は賭け事を集団で行うグループの一員だ。街中で雇った人間や、組織の下っ端に金を渡し、賭け事が終わった後にその報酬を回収する。時にはイカサマに加担したり、時には妨害工作を行い、利益を確保することもある。


このようなグループは大抵、表向きは別の仕事を募集していることが多い。街中に貼られた掲示板にも、特定の合言葉を入れた募集の紙を張っていた。


「契約は3日間だったな。その後はまた旅に出るのか?」


「そのつもりだよ。もしかすれば街に泊まる期間は数日伸びるかもしれないが、少なくとも賭け事はしない。」


「そうか、まあ俺たちも金が手に入ればいい。後2日、よろしく頼むよ。」


「ああ、わかった。」


男はそう言いながら、中途半端な長さの葉巻を投げ捨てるとそれを足で擦り付けて火を消す。そして裏通りの方へと向かっていった。


俺は小さくため息をつく。手元には今回の報酬の1/3である500ルイが残っていた。


これだけあれば、ひとまずは旅の宿泊費には困らないだろう。後2日間は負けないように適当な金額を稼げばそれでいい。


俺は金の一部を青いポーチに移し替えると、残りを布に入れたまま、また広場の方へと赴く。


やはり熱気のある場所はあまり得意ではない。賭け事は嫌いでもあるし、何より酒が嫌いだ。だがそれでもこんなことをやったのは、ひとえに稼げるというのが大きい。


体が少し疲労をしていた。明日は特に用事もないし、少し遅くまで寝てから街に出よう。俺は静かな街を抜けて宿の方へと戻った。





「おっ、兄ちゃん。随分と遅い帰りだな。」


広場からしばらく歩き宿屋のドアを開けると、カウンターの奥でグラスを磨いている店主、ハニーの姿があった。


「ちょっと野暮用があってな。」


「この時間帯だと酒場か。モリフの爺さんところでも行ってたのかい?」


「…モリフって言われてもわかんねえよ。」


「深夜になると賭け事やってる、鍛冶屋近くの酒場だよ。この街で夜にやることなんか女遊びか賭け事だ。兄ちゃんはあんまり女好きってわけでもなさそうだし、なら金でも稼いできたんじゃねえの?」


「さあな。野暮用は野暮用だ。」


随分と鋭い店主を適当に流して、俺は宿の中へと入る。そのまま部屋へ戻ろうとした時、入り口から死角になっていたテーブルに、一人の女が腰掛けているのが見えた。


「…何してんだ、シアン。」


「ただ晩酌をしていたただけさ。この店は夜になると酒を提供していることくらい知っているだろう。」


シアンは手元に黄金色の液体が入ったグラスを回している。北の地域では貴重だったガラスが、この地域では普通の店の飲み物を入れる容器に使われているというのは、文化の違い、特産品の違いだろう。


「貴様もどうだ?ここの酒はなかなか乙なものだぞ。」


「いらん。酒はよっぽどのことがない限り飲まないようにしてんだよ。」


「ふーん…釣れないな。そのぶっきらぼうな所は歳を重ねても変わらない。」


シアンはふふっと小枠な笑みを浮かべる。元サキュバス、そしてその雰囲気や仕草も含めて、多くの男は一瞬で虜になってしまうのだろう。


「…お前も何も変わらないな。相変わらず傲慢で、不遜で、何もかも雑だ。」


「それが私だからな。人間に成ろうとも所詮、私は私だ。人を倣い、外の見繕いだけ変えても本質は何も変化しない。」


シアンは手元に持っていたグラスをことんと置くと、突然手を上げてカウンターの方を覗き込んだ。


「店主、アルノチアを一つ頼もうか。」


「おい、俺は飲まねえぞ。」


「安心しろ。アルノチアはただの果実汁だ。酔いはしないよ。」


「そういうことじゃねえ。お前の酒に付き合うつもりがないって言ってんだ。」


「近況報告の一つや二つ、久しぶりに会ったのだから別にいいだろう?もちろん金は私が持つさ。」


「今疲れてるんだ。もう寝させてもらう。」


俺が引き返すと、そこにはすでに飲み物を携えた店主がいた。グラスの中にある赤紫の飲み物が、表面で揺れる。


「…おいおい、いいのかな?」


俺がマスターの横を通り抜けて一歩踏み出したところで、先ほどより半音ほど高いシアンの声が耳を囀る。


「私は大陸魔法協会の支部長、いわば治安を維持する側の立場だ。貴様が賭け事をしていたと上に報告をするどころか、法を後ろ盾にして罪人にすることだってできるんだぞ。」


「…」


そんな言葉に思わず後ろを振り返れば、シアンは知らず顔で手元のグラスを煽っている。


「別に賭け事なんてしてねえよ。」


「本当か?なら先ほどまでどこに行っていたんだ?」


「近くの酒場だよ。ただ酒を飲んでいただけだ。」


「ほう、酒が苦手な貴様が、か。疑わしいな。」


「疑わしいだけで罪を着せられるなんてごめんだな。」


「そこは安心しろ。もちろん正式な調査を挟んだ上で結論を出す。」


思いのほか饒舌に返すシアンから少し目を逸らせば、隣には呆れたようにしてこちらを見つめる店主の姿があった。多分、店主にはもうバレている。


「何の証拠もなくお前の主観だけで一個人を調査するなんてできるのか?それこそ法で禁止されているだろう。」


意外な話だが、この大陸は法の整備がある程度整っている。昨日の自然保護区にしろ、賭け事の禁止にしろ、あるいは罪人の捌き方一つとっても原則に規則が定められているのだ。事件の捜査でも、拷問や脅迫の類は禁止されている。


「普通ならできないだろうな。だが…今回の調査対象は貴様だぞ?」


「…」


「貴様の名前、過去の経歴を出せば治安維持部隊も超さに頷くだろうな。奴らは秩序が乱れることを極端に嫌う。」


過去の出来事から考えれば、おそらくシアンの言う通りになる。一般人が証拠もなくいきなり事件の加害者だと疑いをかけることは法に反する行為になるが、元罪人であれば話は別だ。再犯防止という大義名分を掲げて多少手荒な真似をしても、法に咎められることはない。


特に秩序を重んじる治安維持部隊は、罪人が再び罪を犯すことを何よりも毛嫌いするだろう。すなわちそれは秩序維持の失敗を意味するからだ。


「さて、どうする?貴様には選択肢があるだろう?」


シアンがこちらの方に視線を向ける。赤色の瞳の中にある二重の金色の輪が俺を強く捉えていた。


「…はあ、わかったよ。ちょっとだけな。」


「賢い選択だな。」


どうやらこの女に一杯付き合うしかないらしい。俺はため息をつきながらシアンの向かい側に座った。


その直後、店主がアルノチアを俺の前に置く。さっさとカウンターの方へと戻ると、そのまま奥の倉庫らしきところへと入っていき、その姿が見えなくなった。


「さっきの言葉撤回させてもらう。お前、少し性格悪くなったか?」


「ずっと昔から変わらないよ。貴様と出会った頃からな。」


「はあ、そうか。昔はもう少し直情的だった気がするんだがなあ。」


ハルノシアンという災害はただ真っ直ぐで、それこそバカというほど真っ直ぐで、曲がるなんて言葉を知らないほど真っ直ぐだった。


少なくとも俺の知っているこの元サキュバスは、自分の望み通りにするため、権力による脅しという手段を使わない、とうより使えない奴だったはずなのだが、どうやら年月を喰えば、人というのは変わるらしい。


「どうだセンフ。最近は元気にしているのか?」


「何だその久しぶりに会った母親みたいな会話の入り方。」


「ほう、そんなことを知っているんだな。確か貴様に親はいなかっただろう。」


「…昔、パーティーの奴が同じやりとりをしてたんだ。奴の故郷に数年ぶりに戻った時な。」


俺には元来、母親も父親もいない。こんな件を聞いたのは2年前に旅路の途中、アンリーの故郷に立ち寄った時、あの戦士とその母親が同じような会話をしていた。


「パーティー、か。ここに来るまではパーティーを組んでいたらしいな。」


「一昨日、見事に追放されたけどな。」


「その原因は大陸魔法協会によるもの、だったか。」


「詳細は知らない。ただアンリーとラカ…元メンバーが二人そう言っていたから、嘘はないと思う。」


シアンはふむ、と小さく頷きながら何かを考えるそぶりを見せる。


「なあシアン、本当に何も知らないのか?一応お前って、協会じゃ結構な立場じゃねえか。」


「知っていたらここで貴様と出会った時、無駄話なんかせずすぐに引き返している。私も自分の強さがわからないほど愚かではない。」


「お前と最後に戦ったのなんていつの話だよ。」


「数年経ったところで貴様が劣化しているとは思えないな。」


今の自分の立場を考えれば、おそらくまともにやりあえば、シアンと相打ちになるだろう。いや、シアンがどれほど強くなったのかなんて定かではない。


もしかすれば数年前よりずっと強くなっているのかもしれないし、或いはもっと弱くなっているかもしれない。机上で結論を出すのは意味がないだろう。


「あの時の不躾な質問は謝ろう。パーティーを追放された…出会ってからずっと孤独だった貴様が共に旅をしていた仲間なら、相当大切にしていたのだろう。」


「…ああ、自分で言うのも何だがな。」


「いくら知らなかったとはいえ、貴様の傷を広げるような言葉だったことは否定できない。貴様の表情から察するべきだった。」


ユアは小さく息を吐く。その視線は、建て付けが不安なこの建物の木材の方へ向けられていた。


「そもそもシアン、俺がパーティーを組んでいたことをどうして知っているんだ?」


俺がパーティーを組んだのは、正確に言えばパーティーに入ったのは今から4年前の出来事だ。だが最後にシアンと別れたのはそれよりもう少し前の出来事である。俺はテクノ、ラカ、アンリーと出会う前はまだ一人で旅をしていた。


「私が大陸魔法協会の支部長になったのは一年前だが、当時から上の連中は貴様のことを警戒していた。だからある程度の情報が共有されている。」


「魔法協会の奴らは俺をつけているのかよ。」


「常にではない。ただ、街に来た際に情報は残されていた。水魔法を唱えながら風を起こす、頓珍漢な魔法使いが仲間にいただろう?」


「ラカのことか。よく考えればあいつも魔法協会の制度は利用しているだろうな。…そこから情報を共有されていたってわけね。」


この世に住まう魔法使いは大抵、裏の世界で生きる者でもなければ大陸魔法協会に所属している。こんな俺でも魔法使いのライセンスは保持しているし、当時の仲間だったラカも当然所属していた。各地にある魔法協会の制度や設備するには、当然魔法協会の承認が必要となる。


「センフに仲間がいたことも、その魔法使いの動きから知った。貴様は一切情報を残していなかったな。」


「別に何か狙いがあったわけでもねえよ。ただ魔法協会の奴らと関わりたくなかったってだけだ。」


そもそもシアンと関わりがあるのも、かつて俺自身が魔法協会とそれなりに縁があったことに由来している。


そして俺が仲間に出会う前に一人だったのも、また同様だ。だから俺は魔法協会があまり好きではない。


「今回の件で、より嫌いになったけどな。」


「記録によれば4年間は旅をしていただろう。なぜ今更追放された?貴様は自分の過去についてずっと黙っていたのか?」


「いいや別に。出会ってすぐに仲間には話していた。というより、パーティーのリーダー…テクノは、俺のことを見て一目で理解していたしな。」


「…ふむ。それを踏まえた上でそのパーティーは貴様と旅をしていた、と。」


「こんな俺を拾ってくれて、一緒に色んな所を、巡った。差別することも嫌がることもなく、ただ一人の仲間として受け入れてくれていたよ。」


「いい仲間を持っていたんだな。」


「ああ、俺は幸福だったよ。抽象的な話だが、あの仲間といれば自分に欠けていたピースがいくつか埋まっていくような気さえしていた。もう何も出来ないと思っていた自分が、もう一度やり直せたんだ。」


俺は元罪人でパーティーにとっての枷だった。己の強さを持って仲間を手助けすることはいくらでもあったが、その程度で帳消しになることのほどでもない。


俺がいる限り様々な弊害が生じて、偏見の目を向けられ、他者から拒絶される。そんな俺をあの3人はずっと旅に連れて行ってくれたのだ。


「だからこそ追放が決まった時には驚きもした。…少し悲しかったのも否定はしない。所詮、その程度の仲だったのか、と。」


そこまで話したところで、思わずため息が溢れ出る。


別にかつての仲間を責めるつもりなど毛頭ない。結局のところ俺は邪魔者だった。居るだけで魔法協会に目をつけられ、そして弊害が生じた。テクノの判断も間違ってなどいない。


それでも少し寂しい気持ちもあった。あの4年間は嘘だったのか、と。昨日はずっとそんなことばかり考えていた。


「…少し、か。そうには到底見えんな。」


「どういうことだ?」


「哀愁が漂っている…酒を煽らん貴様を煽る言い方をすれば、未練タラタラと言ったところだ。かつて自分の色を、自我を持たなかったお前は、今はまるで子供のように失った物に対して駄々を捏ねているように見える。」


「…別にそんな未練、残ってもいねえよ。追放された理由も仕方ないし別れの挨拶も済ませた。もう思い残すことなんてないさ。」


「ならばなぜ、今こんな話をしているんだろうな。本当に少し悲しいと、そう思っている程度なら、酒も入っていないのに久しぶりに会った私に話すことでもないだろう。」


「それはお前が近況を尋ねてきたからだ。場の雰囲気に流されたってやつだよ。」


「何よりも我を貫いた結果、何もかも失った貴様が場に流されるとは、随分とまあ変わったものだな。」


「やっぱお前、性格悪くなっているよな。」


シアンは昔らこんな軽口…というか、皮肉を叩けるような奴ではなかったはずだ。俺の知らぬ間に、色々なことがあったのだろう。


「これからどうしていくつもりなんだ?」


「具体的な予定は何も決まっていない。まあ、また一人で旅を続けるかな。ここも武器の調整が終わり次第出ていくつもりだ。」


「また旅か…他の生き方をするつもりはないのか?」


「俺には出来ねえよ。こんなレッテルを持ってる奴を、誰も雇いたがりなんてしない。」


今更どこかの街で働こうとも、過去の経歴を調べられれば、おそらくすぐクビになる。というか生まれてこの方旅しかしていないため、仕事を選べるような状況でもない。


「法の抜け穴、というか法に穴を開けて破る仕事ならいくつかやってきたが…やっぱああいうのは苦手だ。」


それこそ賭け事や違法植物の採取、保護動物の討伐なんかは結構な数やってきた。あれらは金の類はいいが、やはり治安維持部隊に睨まれるのはどうも気味が悪い。ただでさえ目をつけられている状況だから余計にだ。


「私のもとで働く、というのは当然受け入れないだろうな。」


「当たり前だよ。誰が魔法協会に手を貸すんだ。そもそもお前の元で働くとか地獄を見るに決まっている。」


「ははっ、言ってくれる。だが貴様にはこの仕事は向かなさそうだな。私だって今すぐ辞めてしまいたい。」


「こんな奴がこの地域を管理してるのか…」


魔法協会の行末を案じ、一つ息をついたところで、シアンが手元の酒を飲み干した。そしてまた小さく息を吐くと、その瞳を先ほどよりも見開き、改めて俺の方に振り返った。


「もし旅に行くのなら、あの街娘と共にここを出るのはどうだ?」


「…街娘って、ユアのことか。」


「魔法使いとしては実力がなく、しかし野心は誰よりも高そうなあの娘だ。あいつは中々面白そうな人間だぞ。」


シアンはどうやら、ユアの野心を気に入っているらしい。シアンの性格的に少なくとも嫌いなタイプではないのだろう。


「なんであいつを連れて行かなくちゃならないんだよ。」


「意外なことだが、どうやら貴様は一人で旅をするのが向いていないらしいな。仲間から逸れた瞬間、ずっと過去を振り返り、中々前を見ようとしない。」


「はっ、俺が人肌寂しいとそう思っているとでも?」


「あの街娘とは最近出会ったのだろう?それにしては随分、親しげだった。」


「…たまたまだよ。どちらかといえばユアが勝手に俺のテリトリーに入ってきただけだ。」


「貴様は街娘が領域に入ってくるのを拒まなかった、とも言い換えられるな。」


シアンはしてやったりとでも微笑んでいる。俺はその瞳がどこか眩しく、いや、見るのが辛くそっと下に視線を逸らした。


「結局のところ、これも代替案に過ぎない。過去は魔法でも変えることができない。貴様が失った仲間を取り戻すことも、難しいだろう。」


俺がパーティーから追放された事実は、この先どうしようと変えることもできない。おそらくだが、またあの仲間と共に旅をするというのも不可能なのだろう。


無理やりあそこに戻ったとしてもどこか気まずく、或いは何らかの齟齬が生じて、すぐに別れてしまうだけだ。


「あの街娘と共に道を進むのも、失った仲間を表面的に空いた穴を埋めるだけの短絡的な応急処置かもしれないな。だが、このまま穴を放置して広げてしまうよりかは幾分マシだと思うぞ?」


「穴が空いているのは否定しないが、別に埋める必要もない。体についた傷もいつかは治っている。お前がいう未練とやらも、気がつけば収まるだろ。」


「治らないさ。なんせ私がそうだからな。現に今もこうして会いにきているわけだ。」


「…お前、俺に対してそんな感情抱いてたのか?」


「共に魔法を高めあう仲間との別れは寂しいものだよ。貴様は私をそうだとは認知していなかったみたいだがな。」


シアンはまたあっけらかんと笑ってそう言い放つ。


「私は数百年生きているうちの、ほんの小さな出来事だ。今の生き方に満足はしている。その穴も塞がってはいないが、普段から気に掛けるような大きさでもない。だが貴様の場合は違うだろう。」


「仲間、ねえ。また仲間を捕まえて旅をしろ、と。」


この4年間は…人生二十数年の中で、あのパーティーでの出来事は何よりもかけがいのない出来事だと言ってもいい。そんな大きな出来事になったのは、ひとえに仲間の存在であるからなのかと言われて、断言できるほど俺は自分を知らない。


「…出来ないな。ユアを連れていくなんて。」


「なぜだ?そこまで1人にこだわる必要があるか?」


「普通に考えて、俺は世間じゃ魔法協会を追放された身、言ってしまえば犯罪者だ。そんな奴と一緒に旅をさせるわけにはいかないだろ。」


「はっ、それは幾年前の話だ?世間では最早、貴様の存在など誰も認知していないぞ。」


「んなわけねえだろ。俺が前のパーティーを追い出されたのは、過去の咎が原因だった。」


「…ふむ、だが接触してきたのは魔法協会だったのだろう。貴様は冒険者ライセンスを持っていたはずだ。それがある限り、世間ではそうのけ者にされるものでもあるまい。」


「そうなったから俺は今1人なんだが。」


「運が悪かっただけだろう。」


シアンはどこか適当にそう呟いた。確かに、仲間と旅を続けていくほど、周囲からの目が厳しくなることはなかった。


月日が経ち、俺の過去が忘れ去られているというのは嘘ではないのかもしれない。決して消えることはないだろうが。


「俺の過去を抜きにしても、ユアを連れていくわけにはいかないな。」


「貴様に仲間は必要だと思うぞ?」


「否定できるほど偉くなったつもりはない。ただ俺の場合、仲間という存在よりかは、あいつらと旅をしていたことに意味がある。それを今更別の奴と新たな一歩を踏み出したところで、自分が元通りになるとは思えない。」


一昨日までの数年間、この大陸の様々な場所へと歩みを進めてきたが、それはずっとあの3人と共に過ごしていた。


ダンジョンで迷った時も、野党に襲われた時も、いい宝を見つけて少しだけ贅沢をした時も、ずっとすぐそばにはあの3人がいた。


魔法を扱えない魔法使い、優しすぎる戦士、狂気的な研究肌を持つ僧侶。彼らは俺の世界を彩っていた、というのは否定できないだろう。


「それに何より、ユアに失礼だ。俺が仮に仲間という存在を必要としているとして、自分の欠けたピースを埋めるために…かつての仲間に重ねるために連れていくなんて論外だな。ユア・エルスターもまた唯一無二の人間だ。」


「…仲間という外形でなく、個人に意味があるか。どうもわかりづらいな。」


「お前の場合はな。あんま仲間意識とか理解できないだろ。」


人間は基本的に他の種族より、魔力やそもそもの体つきが劣っていることが多い。だが他の種族は人間のように、他を理解しようとすることはそこまで多くなく、共感力がそれほど高くないのだ。


この大陸で、人間が巨大な社会を気づいているのは、その社会性が占める部分が大きいのだろう。


「仮にお前の下に新たな人間が入るとして、そこら辺の魔法使いよりかは俺の方がいいだろ。そういう話だ。」


「なるほど。少しだけ理解できる。」


シアンは納得したように頷く。この元人外は、しかし時折人っぽい一面も同時に持ち得るのだからよくわからない。


「そろそろいいか?昨日から長旅で結構疲れが溜まっているんだ。」


「もうこんな時間か…」


シアンはカウンターの奥に配置されている古びた時計を見てそう呟く。俺はテーブルから立ち上がり、シアンにそっと背を向けた。


「引き止めて悪かったな。貴様と久々に過ごせて楽しかったよ。」


階段を登って部屋へと戻ろうとした時、背中からそんな声が聞こえた。


「俺の方こそ、少しだけ気が楽になった。」


「それは私に対する感謝と受け取っていいんだな?」


「好きにしてくれ。」


これまでずっと抱えていた感情を吐露できたことで、ほんの少しだけ自分の抱え込んでいたものの正体が見えた。


根本的な解決にはならないが、それでも自分は愚かだったのだと、そう自覚ができた。そんな意味ではあの元サキュバスに感謝するべきなのだろう。


やはりこの建物は年季があるようで、昼と同じようにか階段を一歩踏むたびにギシギシと木が軋む音がした。

誤字脱字等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。


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