プロローグ-追放当日-
追放物って大タイトルと小タイトルどうすればいいんだろう…と悩み中
「このパーティーから出ていってほしいんだ。」
日がその姿を消して辺りが静まり返った夜、ある平穏な都市。人影もまばらな酒場で、パーティーメンバーの戦士アンリーから告げられた言葉は、まさに寝耳に水だった。
「…は!?どういうことだよ。」
「言葉通りの意味だ。」
「意味わかんねえよ!」
思わず机を強く叩きつけてしまう。周囲からの視線が一斉にこちらへと振り向けられるが、そんなのは気に留めることでもない。
今はただ、いきなりすぎる仲間の言葉に頭の整理が追いついていなかった。
「出ていけって…いきなりすぎるだろ。」
「少し事情があってな。リーダーと相談した結果、お前をパーティーから除外することにしたんだ。」
「事情ってなんだよ。」
「…事情は事情としか言えねえな。」
アンリーは手元で酒の持ち手を握りながら、どこか重い表情でそう告げる。
この世に生を受けておおよそ二十数年、センフ・カリスタは魔法使いとして日々ダンジョンに潜ったり、クエストをこなしていた。パーティーメンバーのアンリー、ラカ、テクノと共に、数々の冒険を積み重ねてきた。
決して高い実力があるわけではない3人だが、優しく、努力家で、俺よりもずっと逞しいメンバーと過ごす時間は俺にとってかけがいのないものになっていた。可能ならばずっと一緒にいたいと、そう思うほどに。
3人とはそれなりの時間を過ごしてきた。文字通り生活を共にしたのだ。今更出ていけなどと言われてもあまりに唐突だ。
つい先日まで3人の様子は普段通りだった。明日にはクエストをパーティーで取り組むつもりだったし、それを決めたのは1週間前だ。
…それなのに、なぜ。そこまで考えて、一つの要因が頭に浮かんだ。
「例の件で何かあったんだな。」
「…!」
中々理由を話そうとないアンリーに対して、敢えてぼかした上で告げれば、わかりやすく目を見開いた。
「いや、そういうわけじゃ…」
「誤魔化さなくていい。今の反応見りゃ大体わかる。」
相変わらずお人好しのアンリーは、嘘をつくのが苦手なようだった。魔物を殺すのを誰よりも躊躇い、言葉が通じる相手には戦わずに対話を試みるその優しさは戦士としては致命的であったが、仲間としてとても大切に思っていた。
「はあ、なるほどな。」
俺は思わずため息をつく。素直すぎるアンリーに対しても、あるいは自分に対しても、だ。
…らしくもなく頭に血が昇ってしまっていた。思考を整理するため、感情的にならないため、俺は一つ息を吐く。
「この世を生きるには嘘つく力も必要だぜアンリー。お前は素直すぎる。」
「センフはいつもそうやって俺を馬鹿にしていたな。」
「褒めてるんだよ。ただその性格で戦士名乗ってるのは致命的って話だ。」
冗談混じりにそう呟けば、アンリーはどこか寂しそうに微笑んだ。いつも苦笑いで優しいなんて伝えていたから、馬鹿にしていると思われたのかもしれない。
「結局俺を追い出す理由は5年前の件が関係してんだな。」
「テクノの元に一昨日、大陸魔法協会から一つの通達が届いた。内容はお前についてだった。」
「あのクソ野郎共か…具体的に何て書いてあったんだ。」
「お前の昔の行い、それに付随するペナルティの内容、そして俺たちに対する忠告だった。」
大陸魔法協会は、全世界の魔法使いが所属する大陸で最も大きな組織の一つだ。国境を越え、属種すらも超えて、魔法を扱う者は皆、大陸魔法協会が出している魔法使いのライセンスを所持している。
「『センフ・カリスタをメンバーに入れている以上、メンバー全員が共犯者』ってな。」
「要は罪人を庇うなってことね。」
「言ってしまえば…その通りだ。」
そんな組織からパーティーのリーダー、テクノの元に通達が届いたようだ。大陸魔法協会はその規模ゆえ多くの支部を抱えているが、おそらく近くにある都市にいる、教会の人間がやってきたのだろう。
「…あの件はお前が悪いんじゃないだろう?少なくとも俺たちはそう思っている。」
「そう言ってくれるのはありがたいが、世間じゃ俺一人が悪者になっているんだ、仕方ねえよ。」
アンリーはどこか心配気にこちらに視線を向ける。
人の過去は変えられない。昔に追ってしまった傷跡は消えようがない。タイムリープでもしない限り昔は無かったことにはできないのは、この世の理だ。
そして弱者は強者に抗えない。単純な戦闘力でもそうだがあるいは社会的立場でも、だ。いくら個人の力が強くとも、権力に、巨大な組織に、一個人は適わない。
そう考えれば仲間の判断も仕方ないのだろう。いや、そう思うしかない。どうしようもないのだ。
「テクノやラカともずっと話し合った。センフには何度も助けてもらっているし、何よりずっと一緒に過ごしてきた仲間だ。出て行けなんて言いたくはないさ。」
「お前ら昨日…そんなことしてたのか。」
昨日は朝から宿に仲間の姿が誰一人もいないと思っていたら、先の件について話をしていたらしい。急遽クエストを頼まれた、なんてわざわざ嘘をついてまでだ。
「…だが、結局最終的にはお前を追い出すしかないとなった。お前をメンバーに入れておくリスクが高いと判断したんだ。本当に申し訳ない。俺もあいつらも自分が可愛かったんだ。自分のために仲間を切り捨てる。そんな選択肢しか俺たちには思いつかなかった。」
アンリーは酒瓶を手に取り持ち上げようとして、しかし酒を注ぐことなくテーブルの上に置くとまた目を伏せる。
「…謝らなくてもいい。俺だってお前と同じ立場なら同じ選択をするだろうし、何も間違ってねえよ。」
仕方なく、或いはどうしようもなく、という方が適切か。アンリーたちは自分たちの選択を後悔しているように見えるが、むしろ今の状況ではこうするしかないのだろう。
俺は罪人だ。少なくとも世間一般ではそうなっている。そんな奴を仲間と称して共に旅すること自体、リスクであり枷でしかない。
「そもそもこんな外れ者を受け入れてくれただけで、感謝してもしきれないしな。お前たち以外は誰も近付いてすらくれなかった。」
俺がこのパーティーに入ったのはおよそ4年前である。昔の件によって誰からも遠ざけられていた俺を、アンリー含めた今の仲間たちは受け入れてくれた。いわば拾ってもらった立場なのだ。
「俺たちの方こそ世話になった。元々テクノ以外、まともに戦えなかったこのパーティーが、数々の地を踏破できたのはお前の力あってこそだ。」
アンリーは名残惜しそうにそう呟く。元々このパーティーは弱かった。少なくとも俺から見れば、だ。
優しすぎる戦士、魔法を使えない魔法使い、強気だが臆病な僧侶なんていう、職業と性格がチグハグな奴らしかいなかった。俺の力がなければおそらく攻略できなかったダンジョンは数多いのは事実だろう。
だからこそ少し寂しくもあった。これまで4年間、ほとんど仲間と一緒に過ごしてきたのだ。街での買い物もダンジョンに潜る時も、泊まる場所が見つからなくて野宿する時もずっと一緒だった。
俺としては一生涯とはいかなくとも、もう少し皆で一緒にやっていくものだと勝手に考えていた。こうもあっさり別れを切り出されるとは思っても見なかった。
「まあ、冒険ってそんなもんか。」
「本当にすまねえ。こんな決断をするしかなかった俺たちを憎んでくれ。」
「少し名残惜しいと思っただけだ。相談はして欲しかったけどな。」
「…それは。」
アンリーが言葉を詰まらせる。続きがあるかもしれないと数秒待ってみたが、アンリーの口は固く閉ざされたままだった。
「明日の朝には荷物をまとめてこの街から出ていくよ。」
「そんな早く出るのか。2-3日滞在して準備していかないのか?」
「お前たちはしばらくここに残るだろ?なら追放された身の奴がこの街に居座るわけにはいかねえよ。もしかしたら、お前たちが大陸魔法協会の奴らになんか言われるかもしれねえしな。」
テクノの元に通達が届いたということは、おそらく近くに大陸魔法協会の人間がいる可能性が高いのだろう。監視とまではいかなくとも、俺を含めたパーティーの動向を探られている可能性もある。ずっとこの街にいれば、仲間に危害が加わることも考えられるのだ。
…そんな建前を用意したが、実際のところ、明日の朝に出ていく理由はただ仲間の元から離れたいという気持ちだけだった。
「安心しろ。ちゃんとラカにもテクノにも挨拶はしておく。まあテクノはもう寝てるかもしれないけどな。」
「…そうか。」
大陸魔法協会から連絡があれば伝えて欲しかった。仲間と皆、相談したかった。アンリーたちが俺を抜きにして、わざわざクエストがあるなんて嘘をついてまで俺を省いて相談したのは、結局のところ俺が思っているほど仲間意識がなかったということなのだろう。
俺はずっと一緒にいるつもりでさえいたが、他の皆はそんなつもりはなかった。ただ己が身のために切り捨てる程度の間柄だったのだろう。俺を追放するしかないという理屈はわかっても、頭の中では結局そんな感情が勝ってしまっていた。
アンリーがふと、ボロボロになった服の中に手を突っ込むと胸の辺りにあるポケットを漁り、何かを取り出す。
「これまでの例だ。受け取ってくれ。」
アンリーが取り出したのは赤い巾着袋だ。握り拳よりも一回り程度大きなその袋は、中身がガチガチに詰まっている。
「…俺たちも結構ギリギリだったから、全然少ないけどな。」
「いや、こんなの受け取れねえよ。」
その袋にはおそらく金貨が入っている。中くらいの巾着袋に金貨を詰め込めば、安い宿なら2-3週間は過ごせるくらいの金額になるだろう。
「そもそもそんな金…まさか盗んできて」
「そんなこと俺にできると思うか?」
「…無理だな。でもどこにそんなのあったんだ?」
「何かあった時のためにって、テクノがずっとちまちま溜めていたんだよ。」
「つまりパーティーに何かあった時に必要な金だろ?なら余計に貰うわけにいかねえよ。」
「仲間を追放する、それは何かあった時に入るだろ。」
アンリーはそう言いながら手元の巾着袋を俺の方に、半ば押し付けるようにして渡してきた。
「わかった。貰っておく。」
これ以上断ってもアンリーはおそらく一歩も引かない。ならば素直に受け取っておくべきだろう。
アンリーはどこか気まずそうな、或いは申し訳なさそうに見える表情で俺のことを見ていた。その目が何を捉えているのか、アンリーが何を考えているのかなんてわからない。
アンリーに、他の仲間に聞きたいことは色々あった。しかし答えを聞いたところで、俺はきっと傷つくだけだろう。だから一つだけ心配事を尋ねておくことにした。
「俺が出て行った後大丈夫なのか?追放される奴が心配することでもない気がするが。」
戦力としてそれなりに割合を占めていた俺が抜けて仕舞えば、言わずもがなパーティーとしての力は下がってしまう。元々あまり強くない奴らの集まりだった昔の状態に戻ってしまえば、戦闘面で懸念することは多い。
「大丈夫だ。俺たちは俺たちで何とかやっていくよ。」
アンリーは力瘤を作りながら、小さく微笑んだ。
「これでもお前と一緒に多くのダンジョンを制覇してきたんだ。いろんな魔物も倒したし、道なき道も超えてきた。そりゃあその大半はセンフのおかげだが、俺たちだってこの4年間、何もしなかったわけじゃないんだぜ?」
「それもそうだな。お前たちを心配しすぎたかもしれねえ。」
「ははっ、そりゃセンフに比べればまだまだかもしれないけどな。それでも何とかはやっていくさ。」
考えてみればメンバーと最初出会った時からそれなりに時間は経過している。己が弱さを自覚していた仲間たちは皆、努力を惜しまなかった。
アンリーは毎日暇さえあれば斧を振り回していたし、セラはしょっちゅう本の上で寝落ちしていた。テクノもまた各地の教会に赴いてはそこの神父と魔術や回復魔法について話し込んでいた。初めて出会った時よりも当然強くなっているだろう。
「お前の方こそこれからどうするつもりだ?…急に追い出すなんて決めた俺たちが心配するのも筋違いな気がするが。」
「何も決まってないな。適当に掲示板の依頼をこなすか、一人でも行けるダンジョンに行って小銭を稼こうかと思っている。」
「…大丈夫か?一人でやっていけるか?」
「安心しろ。元は1人だったんだ。昔に戻るだけだよ。」
この街や、あるいはその周辺の街には掲示板がある。一日二日で終わるような仕事が募集されているのだ。鍛冶屋の素材集めや武器屋の店番など、その種類は多岐にわたる。それに一人で潜ることが許可されているダンジョンもいくつかあるはずだ。パーティーでしか入れないダンジョンに比べれば、危険性が低い分手に入る報酬も少ないだろうが、それでも食い扶持を繋ぐことはできるだろう。
このパーティーに入るまでは、それなりに孤独ながらも冒険者としてやって行っていた。またその時に戻るだけだ。特に気にすることもない。
「今までありがとうな、アンリー。このパーティーで過ごした時間、なかなか楽しかったぜ。」
「俺もだセンフ。この4年間、いろんな経験をお前にさせてもらった。」
後ろには大きな戦士の気配がある。俺を追うことはせず、ただ俺の背中をずっと見つめていた。
地下にある酒場のドアを開け、石の階段をゆっくりと登っていく。人影のない街にコツコツと無機質な音が響き渡った。
風が吹く。木が揺れる。肌が凍えるのは、魔法の力ではなく冬が訪れる前触れだろう。
さよならは言わなかった。言いたくなかったという方が適切かもしれない。
理屈はしっかりあるとしても、理不尽にパーティーを追い出されたと俺は思ってしまっている。ならば別れの言葉なんて似合わないだろう。
…明日の朝にはこの街を出ていく。パーティーから抜け出した後、自分はどう過ごすのだろうか。全く想像がつかなかった。
俺はゆっくりと宿の方角に歩みを進めていく。テクノはおそらく寝ているが、この時間帯ならばまだラカは魔法の勉強をしているはずだ。別れの挨拶を今のうちに済ませておくなら今だろうか。
センフ・カリスタ、職業剣士兼魔法使い。俺は今日、パーティーから追放された。
追放物が最近流行っているらしいので、自分なりの解釈とエピソードで書いてみました。
誤字脱字等がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。




