第8話 ジェネラル
危機を迎えていた奇妙な少女達の前に、恰好つけて思わず飛び出してしまったが、冷静に考えてみるとヤバイ。敵は50体以上のオーク、それもナイトにメイジ上位種ばかりに、それに加えて中央のあいつ言葉を話してたな。という事はオークキング?いやオークジェネラルか?
オークキングならBランク、ジェネラルならⅭランクの上位
【魔力】 MP:525/ 1720(-60/施設維持コスト)
【ランク】 Ⅾ
【スキル】 剣技:LV2
【種族スキル】 闇魔法:LV2、時空魔法:LV1
【固有スキル】 真祖:LV1
どちらも今の俺にとっては、格上の存在だが……
どうも負ける気がしないんだよな。
俺は収納からMPポーションを取り出すと一気に飲み干した。
一日一回の回数制限が有るものの、これで総魔力の50%が回復した。
まずは一発デカいのをかましてやるか
【黒炎】
俺の影が爆発的に膨れ上がり、オークたちの足元を侵食したかと思うと、次の瞬間、漆黒の火柱が空を突いた。
「ブモォォォォォッ!!? ア、熱ッ、熱イッ!!」
通常の火炎魔法とは違う。それは光を吸い込むような不気味な黒。魔力そのものを燃料として燃え盛る闇の炎が、オークたちの頑強な鎧ごと肉を焼き、メイジたちが張った防御結界を紙クズのように食い破る。
「ギギィィッ!」
「ガ、ガハッ……!」
断末魔の叫びが上がる中、黒炎は意志を持っているかのように、ジェネラルの足元を執拗に舐め回す。一撃で20体以上の精鋭が、炭すら残らずに消滅していった。
「ヒッ……!? バ、バカナッ! ナンダコノ魔法ワ!? 」
先ほどまでゲスな笑みを浮かべていたオークジェネラルの顔が、恐怖でひきつる。
俺の魔力の二割程、黒弾の数十倍の魔力を込めた特大の一発だ。なかなかの威力だ。
しかし傷を負いながらも、オークジェネラルは健在だし未だ20体以上の上位種たちも残っている。
炎の残滓が揺らめく中、俺はゆっくりと立ち上がり、黒いコートを翻した。
「さて、ここらが本番だな。悪いが、お前等一匹も逃がすつもりは無いからな。」
逃がして、俺が眼を付けられても面倒だからな。
「フザケタ事ヲォ!!」
オークジェネラルが絶叫と共に、半ば焼けた大鉈を振り回して突進してくる。 仲間の半数を一瞬で消し飛ばされた恐怖を、強引に怒りへと変換した死に物狂いの突撃だ。
「殺セ! 殺セェッ! 囲ンデ肉塊ニシテヤレェッ!!」
生き残った20体以上のオークナイトや精鋭たちが、ジェネラルの怒声に弾かれたように一斉に動き出す。バラバラではない。格上としての意地か、重装歩兵たちが盾を並べ、魔法使いが後方から援護の礫を放つ、洗練された「軍隊」の動きだ。
(……やはり、一筋縄ではいかないか)
俺は敵の動きを先読みしながら、鉄剣を低く構えた。 先制の【黒炎】で戦場の主導権は握ったが、本当の「実力差」を分からせてやるのはここからだ。
「ブモォォォッ!!」
右前方からオークナイトが、体重を乗せた槍を突き出してくる。 俺はそれを紙一重でかわすと、すれ違いざまに最小限の魔力で練り上げた【黒刃】を剣筋に乗せた。
「一つ」
鋭い切断音が響き、オークナイトが持っていた鋼鉄の槍が、まるで枯れ枝のように真っ二つに折れ、そのまま奴の首を刎ね飛ばした。
「二つ、三つ……」
俺は「影」に溶け込むように加速する。 敵の数が多いなら、その密度の高さを利用させてもらう。 オークたちが俺を囲もうと密集した瞬間を見計らい、俺は剣を地面に突き立てた。
「【黒牢】」
地面から噴き出す無数の影の触手が、周囲のオークたちの足を、腕を、武器を強引に拘束する。
「ナッ……動ケ……ッ!?」
身動きを封じられた肉の壁。そこに、俺は左手をかざした。 【黒弾】をさらに圧縮し、貫通力に特化させた闇の礫を、至近距離から連射する。
「……掃討開始だ」
俺の合図と共に、戦場は一方的な屠殺の場へと変貌した。
まず、魔法の詠唱を行っている後方のオークメイジ、メイジが恐怖に顔を歪め、防衛魔法を唱えようと杖を掲げた瞬間、俺は左手を軽く振った。 放たれたのは、威力を抑え、代わりに弾速と回転数を極限まで高め貫通力を増した【黒弾】。
ドシュッ、ドシュッ!
と、肉を穿つ鈍い音が連続して響く。メイジたちの眉間に正確に吸い込まれた闇の礫は、彼らが展開しようとした魔法障壁を、形成される前に物理的に粉砕し、その頭蓋ごと後ろの樹木に縫い付けた。
「ガ、ギ……ッ!?」
杖を握ったまま、事切れるメイジたち。 続いて、俺は足を止めることなく、密集して「黒牢」の触手に抗う重装歩兵の真っ只中へと踏み込んだ。
「ブモッ!? コ、コイッ……!」
一人のオークナイトが、拘束を無理矢理引きちぎり、返り血で滑る大剣を横薙ぎに振るう。 だが、その動きは俺の視界の中では、あまりに緩慢に映る。
俺は半歩踏み込んで懐に入り、鉄剣の鞘で奴の顎を突き上げる。ガクン、と脳を揺らされたオークの意識が飛ぶその一瞬。 抜刀した鉄剣に【黒刃】を薄く引き伸ばして纏わせ、円を描くように一閃。
――シュン。
風を切る音よりも静かな一撃。 周囲にいた三体の重装歩兵の首が、時間差で滑り落ちた。彼らの自慢の鉄板入りの首当ては、まるで紙細工のように綺麗に両断されていた。
「うそ……」
「黒牢」の内側で、少女が震える声で漏らす。 彼女たちの視界に映るのは、返り血の一滴さえ浴びることなく、死のダンスを踊るようにオークの群れを「間引いて」いく黒い死神の姿だ。
盾を構える間もない。 魔法を練る暇もない。 弓の狙いを定める余裕もない。
ただ、男が動くたびに、絶望の象徴だったオークの精鋭たちが、ただの作業として命を刈り取られていく。
「これで、四十……四十五」
無機質に数を数える俺の声が、死を待つオークたちの耳に、この世で最も恐ろしい断罪の鐘の音として響き渡った。
そして、最後の一閃。 ジェネラルを守るように立ちはだかった親衛隊の最後の一体が、縦に両断され、左右に分かれて崩れ落ちる。
「……残るは、お前一人だ」
周囲に積み上がった死山の中心で、俺は静かに鉄剣を正眼に構え直した。 最後に残ったオークジェネラルは、もはや恐怖に逃げ惑う家畜ではなかった。仲間の全滅、圧倒的な力への絶望――それらが限界を超えて一周し、奴の瞳にドロリとした狂気の火が灯る。
「……オ、オノレェ……人族ノ、若造ガァッ!!」
ジェネラルは、深手を負った巨体を無理やり震わせ、咆哮した。 その全身の血管が浮き上がり、肌が赤黒く変色していく。オーク特有の自失スキル【狂化】か。
奴は地に転がっていた大鉈を、砕けた指で無理やり握りしめると、地を爆ぜさせて突進してきた。その一撃には、己の命の火を全て薪にくべたような凄まじい圧がある。
「死ネェェェッ!!」
上段から叩きつけられる、岩をも断つ必殺の振り下ろし。 ランクDの俺がこれを真正面から受ければ、剣ごと圧し折られる。俺は寸前で重心をずらし、大鉈の側面を撫でるように鉄剣の腹を当てた。
――ギギィィッ!
鉄剣に纏わせた【黒刃】が潤滑剤のように大鉈を滑らせ、その破壊的なエネルギーを俺の隣の地面へと逃がす。 ドォォォン! と、俺が立っていた場所のすぐ脇に大鉈がめり込み、土柱が上がった。
「ブモッ!? カワシ、タ……ッ!」
「【黒刃:双連】」
至近距離。鉄剣の表裏に纏わせた闇の刃が、交差するようにジェネラルの胸元を斬り裂く。 厚い漆黒の鎧ごと、その強靭な大胸筋が十字に割れ、鮮血が噴き出した。
「ガ、ハッ……!」
膝をつきかけるジェネラル。だが、奴はまだ止まらない。 口から血の泡を吹きながら、折れた牙を剥き出しにして、俺の喉元へ食らいつこうと手を伸ばしてくる。その執念だけは、戦士としての意地か。
「ブモッ……オレ様ハ……四天王ノ……ッ!」
「四天王か。なら、残り三人も同じ目に遭うだけだ」
俺は冷徹に言い放つと、伸ばされた奴の腕を掴み、そのままゼロ距離で左手を胸板に押し当てた。
「――【黒弾:爆砕】」
ボフッ、というこもった音と共に、極限まで圧縮された闇の魔力がジェネラルの体内で炸裂する。 内側から五臓六腑を破壊された巨躯が、糸の切れた人形のように崩れ落ち、二度と動かなくなった。
静寂が戻る。 立ち昇る血煙の向こう側、俺はゆっくりと鉄剣を鞘に収めた。
カチン、と鍔が鳴る音。それを合図にするかのように、俺の脳内に無機質なシステム音が響き渡る。
《 経験値が一定値に達しました 》
《 個体ランク:D ➡ Ⅽ へ上昇 》
《 剣技:LV2 ➡ LV3 へ上昇 》
《 闇魔法:LV2 ➡ LV3 へ上昇 》
おっ。ランクが上がったし、剣技に闇魔法のレベルも上がった。
しかし、その確認は後からだな。
「まずは、ご近所さんに挨拶しとかないとな。」
振り返った先には、漆黒の檻「黒牢」の中で身を寄せ合い、震える瞳でこちらを凝視している5人の少女たちの姿があった。




