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住民ゼロからの覇王道 〜魔族の王、最果ての地より眷属を増やして世界を統べる  作者: わびさびわさび


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第5話 初戦闘

拠点での初めての朝。 窓から差し込む陽光と、潮騒の音で目が覚めた。

ベッドの上で大きく背伸びをする。身体の隅々まで魔力が満ちているのが分かる。


「……ふぁ、よく寝た。やっぱり夢じゃなかったか……。」


天井を見上げれば、寮のひび割れた石膏ボードではなく、重厚で美しい木目の梁が視界を占拠している。鼻をつくのは、カビ臭い空気ではなく、潮風と新築の木材が混じり合った清々しい香り。


俺はゆっくりと上体を起こし、窓の外を眺めた。


「……そうか。本当に、異世界に来ちまったんだな」


昨日も見たはずの景色。だが、目覚めてすぐに目に飛び込んでくるその光景は、脳を強制的に異世界仕様へと上書きしてくる。 白砂のビーチと、透き通ったエメラルドグリーンの海。その水平線の彼方には、現実離れした巨大な雲と遠くに霞む島影も見える


テレビの映像でも、旅行の思い出でもない。これが、俺の部屋の窓から見える「日常」になったのだ。


ふと自分の手を見れば、皮膚の質感が驚くほどきめ細かくなり、指先からは微かに魔力の波動が漏れ出している。


「朝起きて、満員電車の運行状況を確認しなくていい。昨日の融資ミスの始末書を書かなくていい。……代わりに、自分の魔力残高を気にする生活か」


俺は脳内で、ステータスを確認する。


ラルフ 男 種族:魔族

【魔力】 MP:700 / 720(-20/施設維持コスト)

【ランク】 E

【スキル】 剣技:LV1

【種族スキル】 闇魔法:LV1、時空魔法:LV1

【固有スキル】 真祖:LV1



数字として可視化される自分の状態。 この減っている「20」の魔力は、俺が泥のように眠っている間も休まず稼働し、この家を維持し、見えない壁で俺を守っていた代価だ。魔力が通貨のように生命線に直結しているあたり、現実味があるというか、現金な世界というか。


「ま、なんとかなるだろ。まずは飯だ。」


君主スキルの生産コマンドで

※食料※【消費魔力】15と※嗜好品※【消費魔力】50を生産する。

魔力満タン状態だと、消費しないと勿体ないからな。


俺はベッドから這い出すと、リビングへ向かった。


生産した黒パンを手に取り、俺は窓の外の絶景――昨日よりもさらに鮮やかに見えるエメラルドグリーンの海を眺めながら、パンをかじった。


ボソボソとした食感だが、これまでの「死んだように働いていた日常」の食事より、ずっと味が濃く、美味く感じた。


食後、不揃いな葉の煙草に火を点ける。 肺に広がる少し強めの刺激を楽しみながら、俺は視線を脳内の小マップへと移した。


「さて……営業前の市場調査といこうか」


マップを拡大すると、拠点を囲む広大な森のあちこちに、敵性存在を示す『赤い点』が点在しているのが見える。


「……やっぱり結構いるな。こうして見ると周囲は敵だらけじゃないか」


赤い点は、森の奥で群れているものもあれば、時折ふらふらと結界の近くまで寄ってくるものもいる。ランクはおそらく低いだろうが、中には一際大きく、不気味に明滅している点も混ざっていた。


そして、その魔獣たちの動きとは明らかに異質な、いくつかの『白い点』。それは、魔獣では無く武神派にも女神派にも現状所属していない中立の存在を示す。そんな『白い点』が集まる場所、おそらくは集落だと思われる場所が、森には複数存在していた。


「出来る事なら、うちの領民になって欲しいところだが、とりあえずは先の話だな。」


己が他者を護る力も無いうちに、勧誘したところで、満足な生活も安全も保障できなきゃ、ただのブラック企業だ。まずは地盤を固めるのが先決だ。


俺は冷静にマップを俯瞰した。 複数の『赤い点』が集まっている場所――この拠点からそれ程離れていない、南の森。


「まずはこの辺りから、行ってみるか。」


俺は煙草を灰皿に押し付けると、立ち上がった。この乱世弱い君主の元に集まった民は不幸にしかならない。 まずは、俺自身が「他者を守れる力」があることを証明しなきゃならない。


「初仕事にしては、少し骨が折れそうだが……まあ、なんとかなるだろ」


腰の鉄剣を軽く叩き、俺は玄関を開けた。




外に出ると、朝の澄んだ空気が肺を突き抜けた。昨日整地したばかりの神木の丘は、まだ人の気配が薄く、しんと静まり返っている。


大樹に手を合わせて頭を下げて挨拶をしてから俺は軽く屈伸をし、自分の身体の状態を確かめた。魔族の身体は驚くほど軽く、一歩踏み出すだけでバネのように地面を蹴ることができる。


俺は丘を駆け下りた。 マップに映る赤い点は、南の森の入り口付近に固まっている。移動中、俺は昨晩把握した自分の能力を元に、脳内でシミュレーションを繰り返した。


ソロでは複数の敵に囲まれるのは、効率が悪い。まずは存在を隠して、各個撃破が基本だ。


現状戦闘で俺の仕える手札は、腰に差した鉄剣、に種族スキル


※闇魔法:LV1

気配遮断ハイド:音と匂いを消し、影に紛れる。隠密の基本。

黒弾ダーク・パレット:より殺傷能力と貫通力に特化した、強力な闇の弾丸


※時空魔法:LV1

収納ストレージ:自分の影の中に物質を保管する。現在は樽一つ分程度。

遅延スロウ:対象の周囲の時間をわずかに引き延ばし、動きを鈍くする。


戦闘の初心者がいきなり、剣を片手に特攻なんて無謀だ。とりあえずは気配を消して遠隔からの魔法攻撃だな。


それで攻撃が通じない様なら、一旦撤退だ。


森の境界線に入った瞬間、独特の獣臭と湿り気を帯びた空気が肌に触れる。俺は走る速度を落とし、足音を消した。


「……気配遮断ハイド」(MP-20)


瞬間、俺の輪郭が周囲の木々の影に溶け込む。まるで自分が風になったかのような錯覚。 茂みをかき分け進むと、開けた場所にいた。


「……いたな」


茂みの影から、俺はその巨体を凝視した。


そこにいたのは、俺の身長を優に超える、身の丈2メートル半はある「オーク」だった。 ただの豚人間じゃあない。肌は岩のように硬質そうな暗緑色で、丸太のような腕には浮き出た血管が脈打っている。放たれるプレッシャーは、周囲の空気を重く押し潰すような「ランクC」の威圧感だ。


(……デカい。あんなのに一発食らったら、俺の体なんて簡単にひしゃげるぞ)


俺のランクはE。二段階上の格上だ。 だが、奴は俺の存在に全く気づいていない。気配遮断の効果は絶大だ。 オークは大きな鼻をヒクつかせながら、倒木に腰掛け、何かの動物の腿肉を無造作に食いちぎっていた。その野蛮な咀嚼音が、森の静寂に不気味に響く。


「……まずは、シミュレーション通りにいくか」


俺は鉄剣を抜かず、隠れたまま右手をオークへと向けた。 剣を交えるのは最後の最後だ。まずは魔法で削り、奴の優位性を奪う。


(まずは足止めだ。あの大質量で暴れられたら、俺の逃げ道がなくなる)


俺は魔力を集中させる。狙うのはオークの「目」でも「心臓」でもない。まずは地面に接しているその「強靭な足」だ。


「時空魔法LV1:遅延スロウ


オークが立ち上がろうと足に力を込めた瞬間、その一帯の時間の流れを極限まで引き延ばした。


「ブモッ……?」


オークが当惑した声を漏らす。 自分の体が、まるで深い泥沼に沈んだかのように重く、緩慢にしか動かない違和感。奴が異変を察知して周囲を警戒しようとするが、首を回す動作すらも俺の目には止まって見える。


「次は、こっちの番だ」


俺は間髪入れずに左手も突き出し、人差し指を銃口のようにオークの眉間へと向けた。 「天賦」スキルが、オークの頭蓋を貫く最短の弾道を脳内に描く。


「貫け。黒弾ダーク・パレット


指先から放たれたのは、光を吸い込むような漆黒の弾丸。 それは空気を切り裂く鋭い音と共に、スローモーションで動くオークの眉間へと吸い込まれていった。


「――ガッ!?」


弾丸はオークの硬質な皮膚を容易く食い破り、脳幹を直接破壊する。 黒弾は着弾の衝撃を周囲に散らさず、全エネルギーを一一点に集中させて貫通する。効率主義の俺には、この上なく使い勝手のいい魔法だ。


オークは叫び声を上げる間もなく、その巨体を大地へと崩落させた。

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