第4話 君主
「ふぅ……。さて、家が建ったのはいいが、中身が空っぽじゃあ生活は始まらないな」
俺はリビングの椅子に深く腰掛け、再び【内政:建設・生産】のリストを呼び出した。
※生活雑貨※
【消費魔力】30
【維持魔力】 0
生活に必要な雑貨を生産できる
※食料※
【消費魔力】15
【維持魔力】 0
大人1食分の粗末な食料を生産できる
※嗜好品※
【消費魔力】50
【維持魔力】 0
一人分の酒、煙草、コーヒー、紅茶、お茶、調味料などの嗜好品を生産出来る。
「まずは最低限、身の回りのものを揃えるか。平民ランクだし、高望みはしないさ」
俺は※生活雑貨※と※嗜好品※を選択し、実行する。 光の粒子がテーブルの上に集まり、実体化していく。
現れたのは、麻のようなゴワついた質感のタオル、予備のシンプルな麻布の着替え、そして生活に必要な最低限の調理器具と食器類だ。 続いて現れた※嗜好品※は、小さな木箱に入った葉が不揃いな煙草と、火を点けるための安っぽい魔石の火打ち道具。それに、地元の安酒のような香りがする木樽の酒に、コーヒ-、紅茶、緑茶、塩や砂糖、香辛料といった調味料だった。正直有り難い。
「まあ、こんなもんだよな。平民の権能で高級ブランドが出てきたら、逆に怖いわ」
俺は不器用な作りの火打ち道具で、煙草を一服燻らせた。 少し喉にイガイガとくるが、今の俺にはこの刺激がちょうどいい。窓の外に広がる黄金色の海を眺めながら、ゆっくりと紫煙を吐き出す。
「……ふぅ。銀行員時代、残業中に屋上で吸ってた一本を思い出すな。あの頃に比べりゃ、これでも十分贅沢だ」
落ち着いたところで、次は※食料※を二回ほど連打して生産する。
消費は15×2で30。テーブルの上に、ずっしりと重い黒パンと、干し肉、そして何かの果実が現れた。
【魔力】 MP:217 / 720
「ふぅ……。だいぶ魔力が減ったな」
ステータスを確認すれば、残りのMPは217。最大値の三分の一近くまで落ち込んでいる。 さっき感じた身体の重みは、魔力という「生命エネルギー」を短時間でこれだけ放出したことによる、一種の虚脱感なのだろう。
ゲーム世界では、魔力は基本屋外では一時間に5%、拠点では10~20%近く回復していたが、現状の数字をMP見ると、そのくらいは回復していそうだ。
これなら、消費した魔力も一晩寝れば回復するだろう。
「まあ、投資に見合うだけのリターンは得られた。ここからは回収のフェーズだ」
俺はテーブルに並んだばかりの黒パンを手に取った。 ずっしりと重く、少し酸味のある香りが鼻をくすぐる。一口かじれば、見た目通りのお世辞にも高級とは言えないボソボソとした食感だが、噛みしめるほどに穀物の素朴な味わいが広がる。干し肉の塩気と、名前も知らない野生の果実の甘酸っぱさが、疲れ始めた身体に染み渡っていく。
正直言って、日本の美食に慣れた現代人には微妙な味だが、食べられない程不味い訳ではない。何と言っていいのか、、生きている実感がある味だ。
食事を終え、最後の一口の安酒で流し込む。
うん。味はともかく、平日の明るい内から酒を嗜めるとは、なんというう贅沢よ。
少し火照った身体のまま、俺は待ちに待った浴室へと向かった。
脱衣所で漆黒のローブを脱ぎ捨て、石造りの浴槽に身を沈める。
「……あぁ~~、これだ。これだよ……」
程良く温められた湯が、凝り固まった筋肉をゆっくりと解きほぐしていく。 目の前の大きな窓からは、夕刻に向かいさらに赤みを増した黄金の海が一望できた。潮騒の音が心地よいBGMとなり、意識がとろけていきそうだ。
【住宅(浴場付)】の効果か、浸かっているだけで身体の奥底から力が湧いてくるのを感じる。ゲーム設定通りなら、拠点の、しかもこの風呂に入っている間の魔力回復速度は屋外の比ではない。これなら明日の朝には全快、いや、それ以上の余力が生まれているはずだ。
ふぅ~ぅ。それにしても、本来なら今頃は未だ就業時間だ。まさか、こんな事になろうとは夢にも思わなかったな⋯人生とは判らんもんだな。
未だ完全に現状を受け入れきれた訳では無いが、この窓からは望む現実離れした景色や、頭に浮かぶ君主コマンドを見ると、嫌でも実感させられる。
「さて、これから方針だか⋯」
湯船に肩まで浸かりながら、今後の方針を考える。
この世界で君主に取って何より重要な事は、己の爵位をあげる事。
爵位を上げる事によって様々な施設の建設、生産が可能となる。その爵位を上げるのに必要となる事、それは前世とは根本的に異なる。この世界の爵位を得るために必要な物、それは、権力者からの任命や血縁による継承などでは無く、地脈の魔力を施設や生産物に変換可能となる祠と、そして領民の数が必要となる。
位階 条件(祠 / 人口)解放される主な施設・権能特徴・役割
・平民1 / 1〜小屋、生活雑貨、簡易整地、結界(小)
まずは雨風を凌ぎ、結界で最低限の安全を確保する段階。
・騎士1 / 100人住宅、兵舎、大工工房、結界(中)、武器(低)
大工による維持費削減が始まり、兵を訓練して拠点を守る段階。
・男爵2 / 1,000人城壁、館、倉庫、医療院、鉄製武器(中)、騎士任命権
騎士を部下として持ち、複数の拠点を管理し始める段階。
・子爵5 / 5,000人市場、館(上級)、街道、学校、公衆浴場、港湾
物流と教育が始まり、魔力を「豊かさ」へ変換する段階。
・伯爵10 / 10,000人城、魔法塔、大規模灌漑、鋼武器(上)
魔法技術と大規模農業により、土地のポテンシャルを最大化。
・公爵15 / 10万人城(中)、結界(大)、演劇場、闘技場
娯楽や芸術が生まれ、民の精神的な忠誠心が最大化する段階。
・王30 / 30万人宮殿、宰相・将軍の任命権
巨大な組織を動かし、一国の理を司る覇王レースの最終候補。
・覇王全て / ――この世界の全てを手に入れた者
最終目標である覇王への道は果てしなく遠い。取りあえずは、なるべく早めに、男爵ぐらいまでには上り詰めておきたい所だが、領民を集める前にまだすべき事がある。
ラルフ 男 種族:魔族
【魔力】 MP:720 / 720
【ランク】 E
【スキル】 剣技:LV1
【種族スキル】 闇魔法LV1、時空魔法LV1
【固有スキル】 真祖:LV1
この世界での生存率を上げる為には、戦闘経験を積み経験値を稼いで【ランク】を上げる必要がある。要はレベル上げだ。
現在のEランクの強さは、この世界では一般的にはベテラン兵士程度とされている。
一般人に毛が生えた程度って事だ。この弱肉強食の世界で生き残るには、まずは個人の能力を上げることは必要不可欠と言っていい。
おそらく、魔法やスキルを駆使して戦えばもう少し上のランクでもおかしく無い気がするが、俺自身も戦闘には不慣れだ。
戦闘経験を積んでおくべきだ。
明日からは、レベル上げだな。
「……さて。寝る前にもう一仕事。剣や魔法の扱いにも少し慣れておかないとな。」
長風呂から上がって、生産した麻の寝着に袖を通した俺は、夕闇が迫る外に出た。
こうして、俺はこの日夜遅くまで、剣の素振りと、魔法の発動の訓練に勤しむのだった。
そして、慣れない運動もあって、この世界での初日は、慣れない環境にも関わらず、深い眠りについたのだった。
うん。我ながら適応早すぎんか!と、思わぬでもない。




