第3話 マイホーム
「さて、まずは拠点の建設に適した場所を探すとするか。っと、その前に……」
俺はふと思い立ち、背後にそびえる巨大な大樹を仰ぎ見た。
「本日よりこちらでお世話になることとなりました、稲葉……いえ、ラルフと申します。どうか末永くよろしくお願いします」
前世でも見たことがない、この森の主のような圧倒的な存在感を放つ大樹に向けて、静かに手を合わせる。おそらく、この大樹が「聖樹の森」の名の由来となる聖樹なのだろう。
八百万の神を信じる日本人の習性みたいなものだが、これから地脈の力を借りる身としては、挨拶しておくに越したことはない。
さて、それでは最初の拠点に適した場所を探すとしようか。
条件としては、最重要な防衛施設となる祠からそれほど遠くないこと。将来的には施設の拡張を考えて、ある程度の広さは欲しい。防御に適した高台が望ましいしな。
それと、できれば、景色が良いと最高だな。
「まぁ、そんな都合の良い条件の場所、すぐに見つかるはずは無いか。」
そんな贅沢な希望を胸に歩き出すと、なんと、そんな都合の良い条件の場所がすぐに見つかった。
祠のある神木から地続きの小高い丘。そこはまるで、この半島を支配するためにあつらえられたような天然の舞台となっていた。 北と南には、雲を突くような巨木が何層にも連なる広大な大森林が、防風林のように拠点を抱き込んでいる。見渡す限りに人工の建造物は見えず原始の風景が広がっている。木々の隙間からは、幻想的な光を放つ異世界特有の植物や、遠くで鳴く珍しい鳥の声が聞こえ、ここが人里離れた「秘境」であることを強く実感させた。
そして、東側。 丘の先は緩やかな斜面となって半島状に突き出しており、その眼下には、人の手が入っていない純白の砂浜が柔らかな弧を描いている。
その先に広がるのは、どこまでも深い群青色から、波打ち際の鮮やかなエメラルドグリーンへとグラデーションを描く大海原だ。
正午の太陽を浴びて、波頭が砕けるたびに宝石を撒き散らしたような輝きが視界を埋め尽くす。潮風が森の清涼な空気と混じり合い、魔族となった俺の鋭い嗅覚を心地よく刺激した。
「ここなら土地も広いし防衛もしやすい。何より景色が最高だ。将来的に大きな館を建てるなら、ここ以外にないな」
「それじゃあ、始めるとするか」
俺は高鳴る鼓動を抑えながら、マップ横にある【君主コマンド】を意識する。まずは内政コマンドで、現在建設可能な施設を確認しておく。
俺自身のレベルも君主ランクも低いため建設出来る施設は少ないが、このリストが俺の国造りの生命線だ。
【平民:内政:建設・生産リスト】
※結界※:消費200 / 維持10(1日) 効果:周辺500メートルへの敵性存在を検知、ランクの低い魔獣の侵入を防ぐ。
※小屋※:消費100 / 維持5(1日) 効果:辛うじて寝ることはできる。粗末な住宅。魔力・体力回復効果(極小)。
※住宅※:消費150 / 維持8(1日) 効果:この世界での平均的住宅。魔力・体力回復効果(小)。
※住宅(浴場付)※:消費200 / 維持10(1日) 効果:この世界では珍しい浴場が付いている。魔力・体力回復効果(小)。入浴時は効果(中)。
※生活雑貨※:消費30 / 維持0 効果:生活に必要な雑貨一式を生産。
※食料※:消費15 / 維持0 効果:大人1食分の粗末な食料を生産。
※嗜好品※:消費50 / 維持0 効果:一人分の酒、煙草、香辛料、砂糖を生産。
※伐採※:消費150 / 維持0 効果:100メートル四方の森林を伐採。資源化可能。
※整地(農業)※:消費150 / 維持0 効果:100メートル四方を農地に整地。
※作付け※:消費150 / 維持0 効果:100メートル四方の農地に作付け。50の食料を1月で収穫(人材配置で生産量増加)。
領民がゼロの君主は最低クラスの【平民】だ。当然、その扱える権能も爵位の高い君主に比べたら限られたものだが、それでもこの状況なら十分に役立ってくれる。
まずは、拠点の最低限の生活環境を整えなければならない。 となれば、継続的に維持に魔力をもっていかれるが、※結界※の建設は必要不可欠だ。
俺は※結界※の建設コマンドを意識する。
『※結界※を建築しますか? (yes/no)』
脳内に機械的なアナウンスが響く。俺は迷う事無くyesを選択した。
「建築――」
俺が意識を集中させると、身体から何かが抜けるような感覚の後に、足元の地脈からゴゴゴ……と低い地鳴りが響いた。地面から現れたのは、高さ1メートルほどの無骨な「結界石」だ。表面には、アステリアの象徴である聖樹の紋様が刻まれており、うっすらと緑色の光を放っている。
「おぉ……やっぱ、ゲームでは感じられないリアリティに溢れてるやん」
ステータスを確認すると、しっかり必要コスト分の魔力が減っている。
ラルフ 男 種族:魔族
【魔力】 MP:520 / 720(-10/維持コスト)
【ランク】 E
【スキル】 剣技:LV1
【種族スキル】 闇魔法:LV1、時空魔法:LV1
【固有スキル】 真祖:LV1
さっきの、何か抜ける感覚が魔力なのだろう。
この施設を建てる事により敵性存在である魔獣の侵入をある程度は防ぐ事ができるし、敵が潜入すれば警報が鳴る。あまりにも高ランクの魔獣の潜入は防げないし、隠密などのスキルを持つ者には警報も作動しない為に過信はきんもつだが、それでも有ると無しでは安心感が違う。
これで、ある程度の安全は確保出来た。
次は大事な住環境を整える
※小屋※
【消費魔力】100
【維持魔力】 5(一日)
効果:辛うじて寝る事は出来る。粗末な住宅
魔力体力回復効果(極小)
※住宅※
【消費魔力】150
【維持魔力】 8(一日)
効果:この世界での平均的住宅
魔力体力回復効果(小)
※住宅(浴場付)※
【消費魔力】200
【維持魔力】 10(一日)
効果:この世界では珍しい浴場が付いている。
魔力体力回復効果(小)入浴時は効果(中)
平民のランクで選べる選択肢は三つ。まあ、迷うまでも無いな。日本人なら風呂付きしか選択肢にあるまい。
俺は脳内の建設リストから、※住宅(浴場付)※にフォーカスを合わせた。小屋で魔力をケチり、疲れが取れずにパフォーマンスを落とすのは、仕事ができない人間が陥る典型的な罠だ。何より、この慣れない異世界サバイバルにおいて「精神衛生」の維持は何物にも代えがたい。
『※住宅(浴場付)※を建築しますか? (yes/no)』
迷う事無くyesと念じる。
「……構築!」
二度目の魔力放出。今度は先ほどの結界と同程度の魔力が身体を抜けていく。丘の上の、ひときわ眺望の良い場所に光の粒子が渦巻き、木材が軋む音と共に、一軒の家が形を成していく。
【魔力】 MP:320 / 720 (-20/維持コスト)
「……一気に減ったな。だが、思ったよりも良さそうな住宅だ」
完成したのは、石造りの土台に温かみのある木材を組み合わせた、モダンなコテージ風の住宅だった。 玄関を開ければ、木の清々しい香りが鼻をくすぐる。中を覗いて見ると、入ってすぐにリビングルーム兼食堂が有り、最低限の家具に寝台も備えられている。他に寝室が2部屋。
奥へ進むと、期待通りの「それ」があった。 石をくり抜いて作られた浴槽。そこには、どういう原理か知らないが丁度いい湯加減のお湯が張られている。
「最高かよ……。地銀の寮の狭いユニットバスとは大違いだ」
湯気から立ち上る、かすかな森の香りに、張り詰めていた神経が溶けていくのが分かった。入浴時の魔力回復効果(中)というのも伊達じゃないだろう。これなら、消費した魔力も明日の朝にはしっかりリカバーできているはずだ。
「よし、2LDK・オーシャンビュー・風呂付き。都心なら家賃20万は下らない優良物件だ。これが維持費(魔力)10で住めるなら安いもんだ」
リビングから見える海は、陽の光を受けて黄金色に輝いていた。
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【領名】:聖樹の森【占領率1%】
【君主】:ラルフ【爵位:平民】
【住居】住宅(風呂付)
【人口】:0
【金 】:0 (0/月)
【食料生産】:0(0/月)
【兵士】:0人
【防御施設】:無し
【維持コスト】:-20
【各種施設】:結界




