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アストレオンの意思  作者: アストレオン


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4/4

~03~ 時間稼ぎ

お待たせしました

第3話始まります。

 話は少し遡る……。


 アトラの偉大な1歩を見届けた直後……

 

 小さく、見えなくなっていく背中を、

力強い眼で見届けた。

 空を眺め深呼吸し、ふと物思いにふける。

 

 赤い目、自信満々な口ぶり。

 そして霧武装の同時展開……。


「フッ」

 骸は腕を組み、隠すように右手を口に当て、ニヤリと笑った。


「やはり成ったな。」

「等級Bの登場は予想外だったけど、

結果的に第一段階をクリアするためのいい舞台装置になってくれた。おかげで開花の観測もできたし、

嬉しい誤算だな。」


 笑顔は柔らかい。

 だが、そこには今までの好青年らしい純粋な感情の揺れを感じなかった。


 思い返す骸の脳裏に言葉がよぎる。


 (「……弱点が載ってないか調べてみてほしい……」)


「あんなに真っ直ぐ頼られたら断れないよなぁ──

ほんっと、頼られると弱いな……俺」

 骸は、照れくさそうに笑顔を零す。


「……さて、やるか」

 改めて魔導具に目をやる。



……何の変哲もない、スイッチと蓋が着いてる円形の金属を帯びたような見た目。

 それだけ見たら、方位を示すだけのただの羅針盤だと思うだろう――。


 だがその正体は製作者不明の、

"対獣用探知機"……のようなもの。


 オマケに魔導具自体には全く意匠などが凝られてない。


 悉く、獣への対抗手段としての役目のみを果たす気概を感じた。


 骸はアトラがやっていたように、魔道具の起動を試みる。


 「たしかここを押すと――」


 "ピコン"


 『スリープ……モード──解除』


 スイッチを押す。

 すると、魔道具から機械音と、

砂嵐の音がまじる女性の声の様なものが響いた。


(とりあえずこれであってるのかな)


 魔導具の上についていた蓋が開く。

 中にある液晶から光が照らされ、空中に画面が現れる。

……そこには相変わらず赤文字で等級Bの危険を知らす通知がやかましく流れていた。


 改めて間近で目の当たりにする超技術に感嘆の息をもらす。


「俺ですら見たことない古い術式……

人間には到底作れないだろう高精度な魔導回路――」


「ほんと一体──

これどうやってつくったんだろうな……」


「…………」



(「なんとなくだが、この魔導具には、

まだほかにもできることがある気がしててさ……」)


「彼がそういう風に感じたんだ。

きっと──こいつには何かしらあるのだろう……」


 画面の色んなところをポチポチと触っていく……。

 そうしてB級警告画面の下に行くと、そこは色々なページへの目次となっていた。


(どっかしらに弱点の情報……ないかなぁ……)


 手がかりもないためしらみ潰しに探し始める。


……骸は気づく。


 画面の文字や映像、

その所々に虫食いのように穴抜けが起きていた。


 「彼の言ってた通り、故障しちゃってる……

すっごい見にくいなぁ」


 苦い顔をしながらページを見ていく。



 骸が調べていると、遠くで爆発のような音が響いた。


 驚いた様子で爆音が鳴る方角を見る。

 そして骸はハッとした。


 「……彼らがいる方だ」

 額や手に、いやな汗が滲み出る。


 「やばい……急がないと」

 焦る手を抑え、魔道具を調べる目を、

 指を――早めた。


 そうして、爆音に時々意識を遮られつつ、

小一時間魔道具とにらめっこする。


 焦る指を抑えながらしらみ潰しに探していると、

骸の目にとある文字が入る。


 「権……所持……ページ?」


 相変わらず文字が潰れていて、正確には読めない。


 文字自体はとても素朴なデザインで、

普段なら見逃してしまいそうなあっさりとしたものだった。

 それなのに……骸はなぜか、吸い込まれるようにその文字へ意識が集中する。


 「良く読めない……

けど、きっと──ここな気がする……」


 その文字に触れると、

画面が突然白くなり、暗転。

 その後一瞬砂嵐が起き、黒画面へと変わっていく。


 そして……


 『生……認証……確認中………』

という画面が出てくる 。


 少し時を置いて、


 『確……完…………お帰りな…………ませ…………ク……様』


 という文字が出てきた。


 文字化けが酷く、読み取ることはほぼできないが、

少なくとも弾き飛ばされていないことはわかった。


 「……」


 出てきた文字に、特に疑問を感じる様子もなく次へと進める。


 そして――


 「……なんだよこれ」


 見た骸は大きく目を見開く。


 骸の眼に移るもの――

 そこには"等級B以下"の獣の情報がこと細やかに書かれていた。


 危険度、

 出現量、

 目撃数、

 討伐数、

 特徴と弱点に至るまで――


 まるで……


「まるで──全部直接見てきたかのような詳しさだ……。

いくらなんでも細すぎる」


 想像を絶する情報量に、思わず息を飲む骸。


「これを作ったの、

獣が嫌いなヤツ──なんて生易しいものじゃなかった……。

獣をこの世から駆逐することを使命としてるレベルじゃん……」


 図鑑の精巧さに息を飲まれる。

 呆気にとられつつも、冷静な骸の脳裏にふとした疑問が過ぎる。


「ほんとにこれどんな人が作ったんだ……

それに──彼に渡すまでこれを保管していたあの裏ギルド……」


 脳裏のモヤが深く濃くなるが、

その反面、獣に対しての謎は晴れていく。


 謎と情報が渦巻く気持ち悪い海原に、思わず船酔いしそうになる骸。


 そして……項目はついに、今回出くわした系種までたどり着く。


 視界に入る情報に思わず口角が上がる。


「これは……

なるほど─そうだったのか」


「……彼に早く伝えなきゃ……」


 荒ぶる呼吸を抑えるよう、深呼吸する……。


 落ち着いた骸は意識を集中させる。

 少しすると緑色の光が再び骸を包んだ。


 「よし、まだいけるな──

……急がないと」


 ブーメランを回収しようと、獣が先程投げた場所に目をやる。


 「あっ」


 見覚えのある物に気づいた。


 骸は"それ"に足を向ける。

 歩く度に痛みが走るか確かめながら、ゆっくり噛み締めるように"それ"に近づく。


 そう、ゆっくりと……少しずつ……


 手が届く距離まで近づいた骸は、

それに手を差し伸べる。


「仮面……こんなところにあったんだ」


 そこには、無くしていたアトラの仮面があった。


「無傷……よかった、無事みたいだ」


 仮面を眺め、骸は優しく微笑む。

 少しの間浸っていたが、

遠くで未だ鳴りやまぬ爆音に現実に戻される。


 音に反応し、懐に仮面と魔導具をしまう。

「やってる場合じゃないな」


 再びブーメランに手をかざす。

 自分に向かってくるブーメランをそのまま手に収めた。


 骸はその場で足踏みをする。

 そして、足に痛みが走らないことを確認した。


 「よし……」

 上がる口角を他所に、足に力を溜める。

 地を強く蹴り、本気で走った。


 轟音が鳴り続ける方向へ……。


──────────────────────


 爆音が響いている。


 爆風が巻き起こり、

煙が舞い上がろうとしている。

 空には、そんなことお構い無しに再び魔法陣が展開される。


 巨大な魔法陣――


 それが閉じると同時に、また爆音が響く。

 少し経つとキノコ雲に似た黒煙が空に舞い上がる。


 もう何度目の爆発かも分からない……。

 お陰で草原の草木は灰色にすらなれずに塵と化していた。


……環境活動家がこの場にいたら、きっと──泡を吹いて倒れてしまうだろう。

 まぁ、倒れる前に塵と化すのだろうが。


 乱立する巨大なキノコ雲の真ん中にアトラは立っている。

 両足両腕に霧装備をずっと顕現したまま、

どこかに潜む獣の気配を探る。


 爆発により、予測不可能な熱風が場に流れ続ける。

 熱風にアトラのローブが靡く。


 刹那、爆発の熱気が嘘のように凍りつくような、張り詰めた空気が漂う。


 音もなく肉塊が接近する。

 そう……


 獣だ。


 煙の先から力強く地を踏み込む音がする。


 目を鋭く細める――。


 その瞬間、

人間離れし太く隆起した剛腕がアトラの腹部に迫る。


 獣の拳がふれる寸前、アトラは素早い身のこなしで左に避ける。

 回避ざまに1番扱いになれている片刃の長剣を顕現、

 重い斬撃が獣の腕を切断する。


 硬質化した部分を避けて切った腕は、いとも容易く獣から離れる。

 滴り落ちる血と共に、生々しい音を鳴らし、地面に落ちた。


 切りつけた勢いを殺さず、流れるように獣の足に潜り込む。

 そして力強く踏み込み、足を切り落とした。


 獣はバランスを崩し、少しよろめく。


 続けざまに、アトラは長剣を刺突剣に変形、

よろめく獣を転ばす勢いで何ヶ所も突き刺す。


 そのうち数箇所は魔力障壁に防がれたり、

硬質化の部分に当たったりして弾かれる。

 刺突剣の突きの勢いを利用し、前に地を蹴り、

少し距離を置く。


 技を使うこともなく、足や腕を両断されてしまった。

 いくらなんでもおかしい……。

 獣の脳裏に違和感がよぎった。


 「ウォアアアアアアアア!!」


 腹部の口で叫びながら、

獣は切断された腕をアトラに向ける。

 垂れる血を依代に、大きく太い棘を召喚、

離れたアトラに射出。


 アトラは当たり前のように、それを飛び上がり回避する。

 見越してか……アトラの周りを魔法陣が囲む。


 空中に十、地上に十……。

 計二十にもなるあまりに多い手数――。

 これには思わずアトラも「おぉ……」と口から漏らす。


 やがて多数の魔法陣から棘をアトラに射出した。


 流石にこれを対処する手段はないだろう。

 汗と血を滲ませながらアトラの死を祈る。


 結論から言おう、

獣に微笑む女神などいなかった……。


 アトラは霧から分厚めの盾らしき物体を作成、

 それを足蹴にして全ての魔法の斜線外へ飛び避けた。


 獣の期待は尽くへし折られ、

アトラに傷一つつけることはできなかった。


 絶望……

 もはやこれ以上に表せる言葉はないだろう。


 獣は溢れ続ける血を無視し、掌くらいの魔法陣を展開する。

 その魔法陣から、さらに魔法陣を展開。

 一つから二つ……さらに二つは四つに。

 やがて、綺麗に整列された魔法陣の巨大立方体が展開されていた。


 異様な魔法陣に、アトラは目を見開く。


「流石にあれはまずいか……」


 小さくそうこぼし、

即座に大盾を三つ展開。

 自分を含め少しの範囲を大きく守れる強固な盾とした。



……完成された"数式のように美しく整列する"魔法。


 その魔法陣たちは、互いの存在が気に入らないのか、

まるで互いを否定するかのように獰猛に、荒々しく爆ぜた。


 青白い光が眩く輝き、場の全てを無慈悲に飲み込む。

 そして遅れて全てを破裂させるほどの轟音が響く。


 視界が意味をなさない……。

 それは、獣の魔力探知すらも妨害した。


 少しの間静寂が流れていた草原……

それを引き裂くように、

 落雷の如き光が溢れ、後に轟音が鳴り荒れる。


 その衝撃は今までと比べ物にならなかった。

 想像を絶する轟音は骸どころか、さらに遠く離れた暗黒街まで届く。


 建物のガラスが"ガタガタ"と揺れる。


 その衝撃は当然ダイナーまで響いた。

……その爆音に、1人の初老が顔を向ける。


 ほかの者と同じように、非常に驚いた顔をしている。

……だが、その驚きは爆音へと向けられているように感じなかった――。




 今までの爆音をはるかに凌駕する轟音に、骸の肝が冷える。


「うそ、だろ……」

 真っ青な顔で、天に昇る爆炎を見届ける。



 世界最強の爆弾を彷彿とさせる程の火力に、辺りの物体が衝撃とともに消失していく。


 至近距離にいた巨体の化物も等しく影響を受けていた――。


 爆発魔法を直で受けた獣は、

爆発を推進力にして巨体に似合わない速さで空を翔ける。


 これで……少し距離が離せる──

 また改めて仕切り直すしかない……。


 吹き飛ばされながら、獣は物思いにふける……。


 "異常"


 翻弄する側だったはずの我がここまで圧倒されている──。

 おかしい……。


 我が新たに現世に降臨する前でも、ここまでの強さはなかった。


 クソ──せめて目が見えれば……


 魔力探知でしか見れない今の我では調べることもままならない……。

 

 考えを深めていると、獣の脳裏にとある情景が浮かぶ――


 そう、あれは復活した直後、

骸を先に始末しようとして、庇ったアトラを彼方に飛ばした直後の記憶……。


 突然思い出す記憶とともに、仮説がよぎった。


……まさか、

吹き飛ばした時になにかが……。




……やがて爆発の勢いも尽きはじめ、

吹き飛ぶ勢いが死んでいき、地面に近づく。


 頃合を見計らい、手を引っ掛けブレーキをかける。

 減速し、そのまま地面に横転するかと思いきや、アクロバットの要領で着地。

 残った勢いで地を滑る。

 片膝をついて地に手をおき、意識を集中させた。


「…………」


 やがて切り落とされた片腕足が再生し始める。

 ダンゴムシがのそのそと進むように鈍足に肉が蠢く。


「ちっ……」


 遅い……


 少しの間それが続き、ようやく再生が完了した。

 切り落とされた部分が黒く光沢を帯びている。


 それにしても……首が治らない――


 頭に沸き上がる疑問符を抑え、

獣は意識を集中し、魔法探知の精度をあげる。

 視界を遮る黒煙により、不明瞭なアトラの位置を探る。

 そのとき、こちらに急接近するひとつの物体を感知した。


 やはり生きていたか──。


 即座に迎撃の構えをとる。

 魔法を展開、土の槍を飛ばす。

 獣の読み通り、魔法はアトラに突き刺さった。


しかし――


 刺し殺したアトラの死体は、また霧へと変わり、消えていく。


「…………ギリ」


 すでに()()()みていた光景に、

獣は歯ぎしりする。

 震える拳を力強く握り、地面を殴りつける。


"ズシン"


 有り余る力に怒りを込めた拳は、大地を大きく揺らす。

 大地と共に揺れる視界と心を収め、

獣は再びアトラを探すため魔力探知を集中させる。


………………

…………

……


……風の音、

 草の擦れる音、

 地の脈動、

 己の肉体の音……

 全てを脳の中で処理する。


 ――やがて獣の集中は、明鏡止水の境地にまで至った。

 そして魔力探知の範囲が、ひとつの町を覆うほどになった頃、

 獣はとあるものの存在に気づく。


 そうだこれだ……。


"それ"に気づいた獣はニヤリと笑う――。



 森羅万象を感知しているがごとく集中する獣……。

 アトラはその隙をかいくぐる。


 影渡り(シャドウ)――


 名の語るがごとく、

感知を掻い潜り、敵を圧倒する。


 風の音、

 草の擦れる音、

 地の脈動、

 獣の肉体の音……。


 敵が探知する全ての中に紛れ煙の中を突き進む。

 爆発を生き残ったアトラは高く飛び上がり、

高高度から獣に接近していた。


 すかさず霧を再び柄の長い槌に変形、獣の探知の隙――

 空中から落下の勢いを載せて獣の傷口目掛けて"最強の打撃"をたたき落とす。


 獣が気づいた時。

 もう既に金属の冷たさが獣の肌に触れていた時だった……。


 アトラが今出せる全力を込めた鉄槌――。

 獣はそれに抗えず、地面にうつ伏せに叩きつけられた。


 大地が脈動……。

 辺りに地割れが起き、獣が起こしたものより遥かに大きい地響きが広がる。


 叩きつけられると同時に、止血してた傷跡が開く。

 その中から破裂するように血が辺りに吹き出す。


 衝撃の合間に、獣の首あたりから「ピキッ」と軽い割れたような音がした。


「ん?」

 聞いたことない音に首を傾げるアトラ。


 次の瞬間、場に漂う血生臭い空気が濃くなる。

 獣は、太く隆起した腕をアトラに薙ぎ払う。


 アトラは咄嗟に槌を蹴り、後方に自らを飛ばす。


「うわぁ……」


 飛んだ先で視界にうつるものに気づき、アトラは苦い顔をする。


 そう……

殺す前にも使われた超巨大魔法陣――


 中から現れたのは、さっきのよりもさらに少し小ぶりな巨人の腕。

 アトラが収まるにはちょうどいいサイズまで縮んだ腕は、滞空するアトラへ即座にたどり着き、あっさりと手中に収める。


 剛腕はアトラを掴んで離さない。

 アトラが抵抗している間に腕は地面を軸にしてしなる。


 次の瞬間、

しなりを解き放ち、力強く地面に叩きつけられる。


 音速で地面へ翔けていく刹那、

アトラは自分か衝突するであろう場所にあるものを見つけた。


 アトラには心当たりがあった。

というかもう……何度も見た。


「また爆発かよ……!」

 アトラは呆れたような顔をした。


 着地と同時に術式が発動、ゼロ距離での爆発を食らった。


 先程の大爆発に巻き込まれず安堵の音を鳴らしていた周りの草たち……。

 次の瞬間には火の音に飲まれていた。


 派手に起こした大爆発魔法からすればチンケなものだが、

普通、こんなものをゼロ距離で喰らえば、イメージで消えてった活動家と同じように灰も残らない……。


 だがそこはやはりアトラ。


 衝突寸前に大盾を展開、

内側に沿っていて爆風の衝撃を逃がすような形状に成形する。

 体を丸め、爆発の衝撃を最小限にするよう構える。


 至近距離の爆発は、

アトラの華麗な判断により、大地を殺すだけに留まる。


 美しい花の代わりに咲く大きな黒煙のなかで、

獣に語りかけるように呟く。


「懲りずに同じ手……

確かに爆発は強いが、あまりに芸がないぞ。

もう対応もめんどいし、大人しく……してほしいんだが」


 煙が晴れ、気づく。


 視界の先た獣がいるはずであろう先には誰もいなかった。


「まさか……」




 魔法で首を止血しながら獣は走る。


 戦意喪失した訳では無い。

 ましてや敵前逃亡ですらない。


 回避中のアトラの隙を狙い、

機動力に劣る己の全身全霊を込めて走る。

……ある場所へと向かうために。


 たどり着いた獣はそれを掴んだ。


 そう……骨大剣だ。


 武器を持つアトラと同じ土俵に立てる……。

 意気揚々と骨大剣を抜こうとした刹那――

 背後からおどろおどろしい殺気が迫っていた。

 

 だが、気づいた時にはもう遅い。


 武器を掴んでいた腕は、

急接近するアトラに、 振り向く隙も与えられずまた両断されてしまう。


 前腕を吹き飛ばされ、獣は険しい雰囲気を漂わせる。


「おい……何逃げようとしてんだよ」


 通り掛かり様に斬りつけ、アトラは獣の方へ向き直り語りかける。


 アトラは鋭い眼光で獣を見つめる。

 手には少し禍々しい装飾がついた刀のような武器が握られていた。


 血が滴り落ちる武器を構え、見下すような目で睨むアトラ。


 無い眼でそれに答える獣。


 背丈は獣の方が倍……

 だが――ここまでの戦いの軌跡と、

その場を纏う雰囲気が、アトラに見下すことを許していた。


 未だに爆発の影響で狂った大気の風と、溢れ滴る血の音だけが沈黙の中、響いていた。

 

 獣は思わず後ずさりする。


 そんなこともお構い無しに、

アトラは睨みつけながら冷静に分析する。


(やはり……切断──いや、

斬撃の方が再生が遅いな。

しかも、急所に近ければ近いほど……か。)


 互いの武器の鋭さを、そのまま雰囲気に変えたような重い空気が流れる。


 

 獣は無事な腕で骨大剣を抜き、アトラに向かって駆け出す。

 走る途中、再び切断された腕で爆発魔法を展開した。


 (切断された腕からの爆発魔法……

まるでさっきの――)


 警戒したアトラは回避の構えをとる。


 だがそれは普通の爆発魔法。

 気づいたアトラは大盾を地面に刺し、優雅に爆発を凌ぐ。


 複数回の爆発――

最中、獣の体が蠢く。

 血肉骨が脈動する音は爆発の音でかき消された。


 獣からの全てを凌ぐアトラ。


 優雅な様に獣は怒りで我を忘れかける。

 獣は大盾を負傷した腕で横になぎ倒し、体の回転を活かして流れるまま骨大剣をアトラに薙ぎ払う。


 アトラは強気な姿勢に少し驚くが、避ける素振りも見せず、

そのまま手に構える刀で鍔迫り合いを仕掛ける。


"ガチン!!"


 耳を劈くような金属音が周りに響く。


 片腕と両腕……霧の篭手の力を含めて互いの力はほぼ互角――。


 と思いきや、力の使い方を思い出してきたアトラが徐々に押し始めた。


 骨大剣を獣の方に押していき、もう少しで刃が獣に到達しそうな所まで来た。

 このまま押し切りたい……

 獣の抵抗を警戒するアトラの目に、あるものが映る。


……切り落とされた腕が蠢きながら再生している。


 まずい……。

 もし今、両腕で相手されたらどうなるか分からない。


 こんなことなら力の出しやすい長剣に変えとけばよかった……。

 とにかく、今は最悪の事態を考えるべきだ。


 心の中で嘆くアトラ。

 即座に切り替え、作戦を変える。


 押していた鍔迫り合いをキッパリ諦め、無理矢理刀を傾けて骨大剣を受け流した。


 前によろめく獣。

 それを活かし、再生しかかってる腕を根元から切断しようとする。


 勢いのまま切りかかったため狙いは不安定。

 結果、刀は硬質化した部分の皮膚に当たる。


 刹那の中でアトラは「キッ」っと苦い顔をする。

 流石に刀でも斬れないか……。

 

 否――


 強化され、技も使うようになった アトラの斬撃は、

金切り音を鳴らしつつ、硬質化した皮膚を切り落とすことができた。


 アトラはそのまま獣を横切り、その場で半回転。獣の動きを警戒しつつ二歩三歩と地を蹴り、少し離れたところに後退する。


「まじか。いけるんだあれ。」


 その場の勢いでやった割には、意外とあっさり斬り落とせて驚くアトラ。


 少し笑みをこぼすアトラとは反対に、

獣は硬質化した部分ごと腕を切り落とされ、衝撃のあまりその場に立ち尽くす。

 だがその背中は、絶望一色に染まってないように感じた。

 きっと首から上があったら、その表情は笑顔なのかもしれない……。

 そう思うほどに。


 互いが様子を伺っていると遠くから走る音が聞こえる。


「おーい!大丈夫か!!」


 声の正体は案の定骸である。

 アトラの緊張が少し緩んだ。


「ふぅ……やっとか……」



 張り詰めた空気を引き裂くように、両者の間に割って入る。


 獣は気が緩んだ隙を突き、こっそりとアトラの足元の魔法を発現。

 凍てつく冷気が足鎧を凍らせ、アトラをその場に縛り付ける。


 少し緩んだ空気がまた張りつめる。


「B級の倒し方がわかった!

そいつの弱点は――」


 その言葉が聞こえた獣は、

骸の方に駆け出す。

 弱点を言い切るよりも前に骸を強襲しにかかった。



 当然、アトラもそれに気づき、骸の方へ駆け寄ろうとする。

 その瞬間、足元の違和感に気付く。


 アトラは今になってようやく足元の拘束に気づいた。


 クソ……いつの間にこんな──


 考える暇などない。

 アトラは呼吸を整え、足に意識を集中……足に力を入れる。


 幸いなことに、アトラの本気の脚力に氷結が負けた。

 "バリン"と割れる音を鳴らし、獣に急接近する。


 甲高い、割れる音に一瞬アトラの方に意識が削がれ、獣の足が一瞬止まる。

 だが再び動き出し、骸に接近。

 これ以上口を開かせまいと、骨大剣を薙ぎ払う。


 クソ……もうあんなに近くに……


 俺の速さでもあそこまでは遠すぎる……


 足の氷を割り、突進する勢いで獣に接近する。


 獣の骨大剣が、

骸の胴体に触れそうになる瞬間……。


 アトラは霧から大槍を顕現。

 獣の右胸に向かって体ごと突進、

全体重をかけて獣の右胸を貫きそのまま吹き飛ばした。


 ふと、獣の手応えがいつもと違うなと感じる。


 獣に抵抗する素振りは感じられず、

なされるがままに、吹き飛ばされる。

 獣との距離は骸と余裕で会話できる程離れた。


 遠くに吹き飛ぶ獣にアトラは胸を撫で下ろす。

 そして、少し落ち着き思いに耽る。


 アトラは、刺突した際の手応えがいつもと違うことを思い出していた。


 なんだったんだろ……あの手応え。

 なされるがままだった獣の反応も少し気になる──。




 獣の方を向いたまま考えるアトラを他所に、骸が寄ってきて語りかける。


「また助けられちゃったな─ありがとう」


「君が無事そうでよかったよ。爆発が何度も聞こえてきて、大丈夫か不安だったんだ……」


 骸の声は響かない。


 目の前の違和感にアトラの頭は支配されていた。


……骸に弱点を言われれば当然不利になる。にも関わらず、あの時の獣からはまるで殺されに行ってるようにすら感じた。


 急所がある左胸を刺すわけないのに――。

 刺すわけないのに……


「あっ」


 まさかっ……!


 刹那……獣が胸部から出血している。

 それは負傷によるものにしては明らかに出方が異常。

 出血はどんどん激しくなり、やがて傷口を押し広げるように血が吹き出していく。

 連鎖するように、口からも血を吐き出し始めた。


「さっき死んだ時と同じ様子だ……

──まさか……」

 獣の様子に骸がそう零す。


(獣から蠢く音がした……)


 その時、アトラの中で湧き上がっていた仮説が確信に変わる。


「嘘……だろ」

 目を見開きながら、アトラはそう零す。


 しくじった……


……あいつ、自分を俺に殺させるために――

だとしたら──あいつの目的は……。


 噴き出す血はその勢いで獣の体を仰向けに倒した。

 そして……答えを示すように、獣は動かなくなる。


 獣は直感的に理解していた。


"無理だ"……と。


 武器を使えば優位に立てるかも……。

 そう思い、アトラを欺いてまで武器を抜きに来たが、

その場で再び腕を切り落とされた事で勝算がないと確信。


 苦肉の策としてわざと殺させ進化を促すことで、文字通りの起死回生を謀った。


 当然殺さないように動くと踏んだ獣は、

心臓の位置を動かしアトラを煽ることで自分を殺させることに成功させる。


「しくじった……悪い、また殺しちまった。

次はもっと強い状態になって復活する。

多分──すごく苦戦する戦いになると思う」


 獣の方を向いたまま、

目を細め、骸へ申し訳なさそうに伝える。


 骸はアトラの肩に手を置いた。


 それに気づき、骸の方を向いたアトラに、あるものが手渡される。


「はいこれ」


 それは拾って持っていたアトラの仮面だった。


「あ、見つけてくれたのか……」


「たまたまね。

ちょうど転がってるの見かけたからさ」


 そう言うと骸はゆっくりとした足取りで獣に近づく。


 出血は止まり、復活のための準備を始めていた。

 切断された後、一向に再生する兆しが見られなかった首がついに生え始める。

 そのうち首を起点に全身があの黒い金属の物質で覆われていく……。




「たしかに苦戦するかもしれない……

けど、

もう二度も奇跡を見せられてるんだ」


「一度獣に吹き飛ばされた時がそう……

今回だって――

ここに走ってくるまで、君がここまで圧倒してることを予想すらしてなかった」


 獣に向かう足を止め、アトラの方に振り返る。


「不安を吹き飛ばすほどの圧倒ぶりを見せてくれたんだ。

たかが一回の進化くらいじゃもう不安なんてないよ」


「それに……いまはこれのお陰でこの状況を突破する方法もわかったしね」


 誇らしげに魔導具を掲げ、目を細めニヤリと笑みをこぼす骸。

 その笑顔はまるで、イタズラを企む子供のようだった。


 屈託のない笑顔を向ける骸に、思わず優しい笑みがこぼれる。


「骸……」


「ありが――」


 二人が話していると獣の方から異様なプレッシャーを感じ始める。


 重くどんよりとした空気――復活していく間、獣の力によって魔力の流れが作り変えられていく。


「……復活が近いようだな」


「あまり時間もないようだ……。

とにかくできるだけ手短にあいつの弱点を伝えるぞ!

準備はいいか?」


「……ああ!」




……荒れ果てた大地。

 血生臭を焼き尽くすような、燃え盛る匂いが鼻を抜ける。

 ――まさに地獄絵図。


 長い年月をかけ、築き上げたものではなく、ここ数分で創られた惨状である。


 そうまでしなければ勝てぬ強敵、


"修羅の獣――等級B"


 弱点を知った今、彼らの本当の戦いが始まるのだった……。


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