表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アストレオンの意思  作者: アストレオン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/4

〜02〜 覚醒

〜前回のあらすじ〜


裏ギルドでトップの実力を収めていたアトラ。

2番目の実力を持つ骸に"修羅の獣"の討伐数で勝負を仕掛けられる。


無事に依頼を達成し、勝負の結果を精算しに帰ろうとした矢先……伝説級の獣、等級Bが出現。


戦うか逃げるかの選択を迫られる中戦いを挑む二人。


何とかB級を倒すことに成功し、今度こそ帰ろうとしていると何と死んだはずのB級が生き返ってアトラを遠く彼方まで飛ばしてしまった。


疲労困憊で残された骸は一体どうなってしまうのか……。



「嘆かわしい……、愚かな下等生物よ……。」


 一瞬の出来事だった……。


 完膚無きに追い詰めた――。

ちゃんと生命活動が停止するのを確認したはず……。


 なのに何故……

 あいつは目の前に立ちはだかっているんだ……?


 本に記録が残る程、出現も稀。かつ神話的な強さを誇る……


 修羅の獣「等級B」――


 それを圧倒したアトラが、

復活した途端にいとも容易く打ちのめされてしまった。


「嘆かわしい……。

本来であれば、瀕死の方を速やかに屠り、残る一匹を――

いや、“残骸”を、時間をかけて嗜むつもりだったのだがな。」


 アトラが飛んで行った方向を冷たい目で見届けながら語り続ける。


「己の脆弱さを抱えたまま、他者の盾になる。

矮小で……愚かで、救いようのない選択だ。

力を持ちながら、それを己のために使えぬとは……実に哀れだな、人間。」


 本当にさっきまでの獣と同じ個体なのか?

 拙い喋り方をしていたのが嘘のようだ……。


 人と同じ……いや、それ以上に流暢に話す獣に息を飲む。




 呆然と見ていた骸は、

無理やり体を起こす。


 両腕を握り込み、体の状態を再確認する。


……体に力が入らない。


 獣に気づかれぬよう、起き上がる。


(この副作用があるから極力使いたくないんだよな……

身体強化。)


 歯を食いしばり、膝に手を置く。

 もたつく体に呆れる。

 何とか立ち上がった骸は違和感を覚える。

 

……近い?


 いや……彼の方を見続けてるから1歩も動いてないはず……。


 それなのに獣との距離が近く感じる。

 まるでそびえ立つ山のような風格さえ感じた。


 ただそこに立っているだけなのに……。



 理由は分からない。


 とにかく……彼がいない今─勝率を少しでもあげるため弱点を探るしかない……。


 息を整え、視線を外さぬまま、低く言葉を返す。


「……ずいぶん喋るようになったな。

さっきまでとは、まるで別人だ。」


 起き上がり、逃げるでもなく対話を試みようとする骸に驚く。

 そしてその一言に、獣の表情がわずかに誇らしげに歪んだ。


「驚いた……。

残骸が──

死を待つことしか出来ない木偶の坊だと思っていたが、我と同じように起き上がってくるとはな。」


「当然だ。

死を越え、選別され、より“完全”へと近づいたのだ。」


 完全……。

 昂然と語る獣の一言に引っ掛かりを感じる。


 骸は言葉を返す前に無意識に視線を走らせる。そして気づいた。


 視線の先に映る獣の頭が明らかに高くなっている。

 耄碌してなければ、すぐ気づけるほどに。


 近さを感じたのは明らかに獣の体躯が大きくなっていたからだったのだ。


 明らかな死……

 再生した肉体……

 急成長した体躯……


――復活。


 即座に骸の思考の中に仮説が浮かぶ。


「進化……?」


 咄嗟に零れた呟きに、獣は口角を歪めた。


「ほう……気づいたか。

その通り。言葉も、思考も、そしてこの体も、傷跡でさえ――

すべてはそう……進化の証だ。」


「一度死に、全てを上の段階へと押し上げたのだ。

貴様ら下等な存在とは、もはや並び立つことすら許されぬ」


 その言葉を聞き、改めて獣に目をやる。


 切断したはずの腕の断面。本来人間なら血が蓋をするはずだが、獣のは違った。


 光沢を帯びた、黒い金属のような物質が傷を覆っている。

 それは明らかに、ほかの皮膚部位よりも異様なほど硬質を帯びていた。


(進化……やはり)


 思考を表に出さぬまま、骸は淡々と続ける。


「矮小だの、愚かだの……

随分と、洒落た言葉を使うようになったな。

死んでる間に一体どこで習ってきたんだ?」


 獣は鼻で笑う。


「この言葉は借り物ではない。

事実であり、真理だ。」


「……我らは“選ばれた存在”。」


「あの方によって創られ、導かれ、世界を正しくあるべき形へ戻す者なのだ。」


 そして、楽しむように言葉を重ねる。


「特に、先程吹き飛ばした方――

あの“力を持つ矮小”は、実に見苦しかった」


 骸の表情が、僅かに硬直する。


 場の空気に鋭利さが増すが、獣はそれに気付かずに続ける。


「矮小でありながら力を持つ。

それだけでも、本来なら救いはあったものを……。」


 獣は、心底嘲るように告げた。


「他者を庇うなどという愚行に使うとはな。

己を守るために使わぬ力など、無価値だ。

――あれは、失敗作だと言う他ない。」


 ……その瞬間。


 骸の中で、何かが音を立てて切れた。


「……今、なんて言った……。」


 その言葉に獣は眉を上げる。


 低く、押し殺した声。

 骸の中に何か力強く流動するものを感じた。


「“失敗作”?

仲間を守ろうとしたことが、無価値だと?」


 震える手が、無意識に握りこぶしを強める。


「ふざけるな……。」


 顔を上げた骸の目に、もはや迷いはない。


「てめぇに、あいつの何が分かる…!

力を誇るだけの化け物が……

人の覚悟を、失敗だと決めつけるなッ!!」


 怒気が、はっきりと場を震わせた。


 獣は、その様子を見て――

心底愉快そうに、口角を吊り上げる。


「ほう……。

ようやく、本性を見せたか。」


「おもしろい……ならば我を屈服させてみよ。

我を跪かせ、我の思想が間違っていたと証明してみろッ!!」


 獣からの挑戦状に答えるように、骸はブーメランが刺さっていた方に手をかざす。


 主人からの命令に従う下僕のように、地に刺さる身体を起こし、急加速――

 風を切りながら獣の耳元を素通りし、骸の手に収まる。


 骸は再度考察する。


 修復部分は全て黒い金属に覆われている。

……果たして今の自分であそこに刃を入れられるのか。


 万全じゃない自分に彼――アトラのように獣を圧倒する動きができるのだろうか。


 いや、きっと厳しい。


 自分の攻撃では、切断どころか傷つけるのも難しいだろうと言う結論に至る。


 だがここで何もせずに突っ立っている訳にも行かない……。

 億に……いや、兆に一つの確率でも今はかけるしかない。


 少し息を整え、今出せる全ての力を込め、獣へとブーメランを投擲した。


 狙うは首――


 再生していない箇所で最も殺傷率が高い部位。


 軌道は完璧。


 間違いなく当たる――はずだった。



 身体強化すらしていない骸の攻撃は、復活を遂げ、進化した獣にはあまりに遅く、遠い。


 獣はブーメランに向かって右手を大きく開き魔法陣を展開。

 進行方向を遮るように、ブーメランと同じ大きさの魔障壁を出現させる。


 避けることなど出来ず、ブーメランは吸い込まれるように障壁に飲まれてしまった。


……全身全霊をかけた攻撃は真障壁に捉えられ、

 鋭い衝撃音と、

阻まれつつも回転を続けるブーメランの斬撃音が虚しく木霊する形で幕を閉じる。


 改めて骸は衝撃を受ける。


(魔法の展開が格段に早くなっている……。オマケに遥かに強い。)


 何かに止められるかも……

そう予感してはいたが、まさかあの鈍足な魔法で止められるとは思っていなかった。


 獣は、障壁の中でなお火花を散らし続けるブーメランを一瞥し、

喉の奥から低い笑い声を零した。


「――く、くく……ははははは……」


 肩を震わせ、愉悦を隠そうともせず嗤う。


「あーっはっはっはっは!!!」


 骸の呆けた顔があまりにおかしく、ついに高笑いする。


「見たか、下等生物よ。

これが貴様の“限界”なのだ。

満身創痍の身を引きずり、全霊を賭した一投が――この程度にしかならない。」


 指先をわずかに動かすだけで、障壁は微動だにしない。


「哀れだな……。

己が無力であると理解しながら、なお抗おうとする。

その無駄な足掻きこそが、人間という種の本質だ。」


 嘲るように、ゆっくりと視線を骸へ向ける。


「分からぬか?

貴様は今、証明しているのだ。

――我が“正しく”、貴様が“誤り”であることをな。」


 唇を歪め、言葉を突き刺す。


「力なき者が、覚悟を語るな。

守ると誓いながら、何一つ守れぬ存在が……

それでもなお立ち上がる姿は、滑稽を通り越して惨めだぞ。」


 そして、両手を上げ、愉快そうに付け加える。


「さあ……次はどうする?

もう一度投げるか?

それとも――膝をつき、下等生物らしく泣き喚くか?」


 冷たく、静かな戦場。


 響くのは、火花散るブーメランと獣の笑い声のみ。


「フン呆けて動くことも出来ぬか。

──やはり我らこそが真の支配者に相応しい器なのだ。」


 やはり今の自分じゃ無理か……。

 一体どうすれば……。



 少しの間ブーメランを眺め呆然としていたが、

ふと――あることに気づく。


 骸は未だ嗤う獣に、やさしく返すよう笑みを浮かべる。





 明らかに勝算のないこの状況で、笑う骸。

――何を考えているか分からず、獣は怪訝そうな顔をする。


……刹那。


 静寂が支配する空気の中で、

何かが軋むような……嫌な音が響いた。


 次の瞬間――


 バリン!と


 嫌な音は美しく響き、

ガラスが内側から破裂するように、魔障壁を砕き割った。


「なっ──」


 声を漏らしたその刹那。


 ブーメランは勢いを殺さず、

元の軌道を辿り、獣の首に食らいつく。


 命こそ奪えなかった。


 だが、

 皮膚を、筋組織を抉り、

 神経を刻み、

 骨を削る――。


 それは確かな一撃となり、獣へと刻み込んだのだ。


 役目を終えたブーメランは、

肉と骨の間に刺さったままとどまった。


 獣は、衝撃で少しよろめく。


 しかし、倒れない。

 膝も折れない。


 その様子を見て、骸は小さく息を吐く。


「……両断は、無理か……。」


 やはり……

 今の自分の攻撃は命にまでは届かない……。

 残念そうに口を歪ませ、小さい笑みを浮かべる。




 あまりに予想外な出来事に反応できず、

獣は衝撃を隠しきれない様子だった。


「……クッ……。」


 だが、紛れもない現実――

 垂れ流れ、滴り落ちる血液が、それを赫く証明する。


 獣は、首に刺さったままのブーメランを引き抜く。

 

 そして立ち尽くす骸と重ね、眺める。


 ふと……視界の奥で骸が笑うのが見えた。



 嗤っている──?


 勝ち誇り、下等生物と罵っていたにもかかわらず、

その下等生物に一杯食わされてしまった。


 あまりに滑稽。

 きっと面白くて仕方ないだろう。

 嘲笑っているに違いない……。


「………ッ!!」


……獣の頭に血が上る。

 視界が赤く染まる――

血涙を出すほどの怒りが込み上げる。


 獣は怒りで震えた腕を抑えず、

身体に巡る憤り全て込め、叩きつけるように骸へ投げ返す。


 怒りゆえか、

 手が震えていたためか、

軌道は骸を避け、真横を通り過ぎる。


 風を裂き、地面を破裂させ、

衝撃波を撒き散らす。

 小さいクレーターを作り上げ、

土が雨のように降る。


 手元が狂ったことに、さらに苛立ちを覚え、

抑えるように手で顔を覆う。


 獣は目を瞑り、深呼吸する。

 口元が緩む。


「くっ……」

「ふっふっふっ……」

「あーはっはっは!!!」


 獣は、傷口を抑える。

 刹那、周りの皮膚が蠢き、瞬時に傷口を覆う。


 そして傷口とその周りが、黒く光沢を帯びた金属のような物質に変化する。


 あまりに素早い自己修復――

その光景を前に、骸は顔をしかめる。


「随分……面白いものを見せてくれたな、人間よ。」


 力強く低い、しかし確かに愉悦も含んでいる声。


「我への侮辱への返礼だ……。

貴様には、完膚無きまでの終末を

手向けよう。」


 次の瞬間、場の空気が凍りつく。


 獣の周囲に、幾重もの魔法陣が展開される。

 そして魔法陣から蒼白な光を放つ氷柱が現れる。


 這うようにして、地にも魔法陣が現れ、土塊が盛り上がる。


 氷は槍となる準備を始め、

土塊は蠢き、千切れ繋がりながら杭のような形に変じていく。


 獣の全身全霊の殺意を目にし、骸は肩をすくめる。


「仕方……ないな。」


 小さく、独り言を呟く。


「ここで……終わる訳には行かないもんな……。」


 ため息をこぼす。


 骸から白い光がにじみ出る。

 それは最初淡く、

次第に、輪郭を持ち、場の空気を作り替えた。


 白く煌めく光を見た瞬間、

獣の表情が──凍りつく。


「……その光──。」


 心当たりがある獣は眼を見開き、記憶を辿る。


 すると頭の中に存在しない記憶があることに気づく。


 そして次の瞬間、全てを理解した獣は高らかに笑う。


「なるほど……、これは僥倖……。」


「あの方が探し求めるものに、

最も近い手がかり……まさか、貴様がそれだったとはな……。

つまり……あの矮小……。」


 光を押し返すように獣の魔力が濃く、広がる。


 展開していた魔法陣をさらに、増やし広げる。

 氷の槍をより鋭く、

 土の杭をより巨大に、

もはやただ”殺すための武器”ではなく──

“叩き潰すための兵器”へと進化していった。


「上位者……」


 その言葉に骸は眉を上げる。


「理解したぞ……」


「貴様は……邪魔者だ……

そしてあの方の障害となる存在──。」


 獣は魔法陣を正確に獣へ向ける。

 そして、確信を持って告げる。


「ゆえに、潰す。

知りうることを洗いざらい吐かせ、

貴様の死骸を、あの方の手土産にしてくれよう。」


 獣の宣言を聞き、

 骸はおもむろに口を隠すように、手で覆う。


 その目は鋭く、

先程までの諦めの色は微塵も残っていなかった。


 獣は砲撃を指示する指揮官のように、

手を掲げ前に倒そうとする。


 互いが攻撃を仕掛けようとした次の瞬間──


 獣の首に太刀筋が浮かぶ。

 そして、血を推進力にして、氷塊のように地に滑り落ちた。


 互いに全身全霊を実行しようとした寸前で起きた異常事態――。


 時が止まる。


 生首になった獣。


 振り向くことも、

驚くことすら許されぬ刹那の間に、静かに意識を落とす……。



「俺を除け者にして、骸をたらしこむとは……

随分ご挨拶だな?」


 獣は鼓動が早くなる。

 下手したら、音が漏れているのではないか……

不安になるほど強く脈を打つ。


 骸にとって待ちわびた声がその場に響く。

 瞳を輝かせ、切り落とされた首の先に目をやる。


「……!……?」


 そこには……


 死んだと思っていたアトラ……?の姿があった。


 首を無くして立ち尽くす獣を足蹴に、骸との間に割って入る。


 骸の白い光が薄く、淡くなる。


「そんなに地獄に落ちたいなら、落としてやるよ。」


 アトラは獣に回し蹴りをする。


 踵が獣に衝突する直前、顕現させ続けていた脚鎧……、

その先に、霧で金槌のようなものを作り出し、勢いのままぶつける。


 獣は咄嗟に両腕で受け止める。


 だが強烈な蹴りは、獣腕の骨を破壊するのには十分すぎた。


 獣は両腕を粉砕骨折し、

吹き飛ばされた勢いで巨人の腕の残骸に衝突する。


 アトラは金槌だけを霧化し、骸の方へ振り向く。


 そして目の前まで歩み寄る――




 獣に吹き飛ばされた時、

流石にアトラの命も無事では済まない……

ひょっとしたら……。


 不安に駆られていた中でわかったアトラの生存――。


 よかった……本当に。

 

 驚愕と安堵の思いに満ちた骸。


 だが、

彼にはアトラの生存よりも驚いていたことがあった。


「仮面……。」


 目をそらし、口元のローブで顔の下半分を覆うアトラ。


「獣に吹き飛ばされた時、取れてどこかに言ってしまったみたいなんだ。」


 そう……


 あんなに神経質につけていた仮面が取れていた。


 そして、その中から黒い髪を靡かせ、目を紅く煌めかせる美男子の顔が現れていたのだ。


「君……"クロビト"だったんだ。」


 情報量の多さゆえ――

言いたいことと、気になることが渋滞してしまう。


「……」


 何も返さない、

 返せないアトラ。


 辺りに静かな空気が流れた。

 戦闘中であることを忘れさせるほどの――


 骸は改めてアトラの顔を見る。


 素顔が見える分、

仮面をつけてた時よりもしっかり表情が見える。


 その顔立ちは、骸に負けず劣らず美形で、全てのパーツが美しい造形で、それが正しく顔の上で整列しているようだった。


 天才彫刻家が造形を手がけた顔だと言われても納得がいく――そんな美しさをしていた。


 骸は静かに深呼吸をする。


 聞きたいこと、知りたいこと、言いたいことが溢れる骸。


 そして全てを押し殺すように、いちばん伝えたいことを伝える。


「考えたくなかった……けど正直、

獣に殴り飛ばされた姿を見た時、嫌な想像を浮かべずにはいられなかった……。

本当によかった……生きててくれてありがとう。」


 少し涙を浮かべ、まっすぐな目を向ける骸。

 アトラは心做しか照れくさそうに顔を逸らす。


 紅に照らされる瞳は、

逸らした時の光の角度によっていろんな赫きをみせる。


 その美しさはまるで……

 宝石のようだった。


「いいんだ……気にするな……。」


 相変わらず愛想がない反応に安心し、骸は笑う。


 突然笑う骸を怪訝そうに見るアトラ。

 思い出したかのように懐からあるものを取り出す。


「そんなことより、お前にこれを預けたい。」


「さっき獣に殴られた時、

ぶつけてしまったから故障してるかもしれないけど。」


 そう言われて骸が渡されたもの――


「魔導具…

どうしてこれを俺に?」


 そこには最初使っていた魔道具があった。


「なんとなくだが、この魔導具には、

まだほかにもできることがある気がしててさ……。

こういうの──俺よりも骸の方が詳しいだろ?」


「俺があいつの気を引く。

そのうちに弱点が載ってないか調べてみてほしい。」


 そう告げながら、獣の様子を伺う。


「…大丈夫か?

今の獣、死ぬ前とはまるで別人のような強さだ……。

……いくら君とはいえ──。」


 アトラの提案に、

今の今まで見てきた獣の強さを目の奥に浮かべ、

獣は目をそらす。


「確かに獣はさっきより強くなってる。

俺も拳を食らってそれを体験した……

だけど、今日はなんだかいつもよりも体が軽いんだ。」


「それに──」


 骸に微笑みかけながら再び獣の方に振り返る。


 そうこうしているうちに、吹き飛ばされ、

項垂れていた獣が起き上がりこちらに歩き出したことに気づく。

 歩みは徐々に、力のこもった駆け足へと変わる。


「この力の使い方を思い出してきたんだ……。

だから、きっと大丈夫──」


 そう言い切ると、

アトラは力強く地を踏み込む。


「……全く。」


 骸は困ったように少し笑みを零しながら、アトラの背中を見送る。

 

 ふと、アトラが踏み込んだ地面が視界に入る。


――大地に刻まれたその1歩は……それまでのどれよりも力強く、迷いがなかった。





……首があったところから血が溢れ続けている。


 焦る獣は、止血する余裕もなく、両腕を垂らしながら無様ったらしく走る。


 粉砕骨折してるためか、

力を入れられず、上手く走れない。


 獣は走りながら両腕を修復する。


 骨肉が痛々しい音を鳴らし、強引に整列する。

 そして、ふらつく走りを芯のあるものに変える。


 離れたとこから轟音が鳴り響く。

――アトラと骸がいた場所だ。


 恐ろしい速さで接近するアトラに気づく。

 獣の身体に冷や汗がにじむ。


 アトラは恐ろしい勢いで、両足で獣の胸部に蹴りを入れる。

――全体重と勢いを載せた凄まじい力の蹴りは、

獣の巨体にくい込み、その巨体を後方へ飛ばす。


 力強い風圧とともに、

赤黒く重い空気が漂う。


 蹴られ浮遊している間に、直した手を巨人の腕に向ける。

 1度死ぬ前に作った魔法を再起動させようとした。


「……ッ!!!」


 停止していた巨人の腕は、轟音と軋むような音を響かせ――動き出す。


 だが、咄嗟だったためサイズは最初の一割にも満たない……獣より少し大きい程度まで小さくなる。


 巨人の腕は獣の衝突に備え、受け止めやすいパーの形に手を変える。


 そして獣は、勢いのまままた巨人の腕にぶつかる。 何とか勢いを殺すことには成功した。


――しかし。


 アトラの蹴りはそれで終わらなかった。


「さっきまでは骸が随分世話になったな……。

せっかく開けた土地だ──広く使おう。」


 アトラは改めて全体重を載せ、

獣を支える巨人の腕ごと蹴り飛ばす。


 まるで、横に重力が働いてるかのごとく胸部に吸い付く。


 獣は悟る。


 この蹴りの強さは、巨人の腕でも耐えきれないだろう……と。


 次の瞬間、案の定蹴りに耐えきれず、巨人の腕を貫く形で、獣を押し飛ばした。


 機能を失った巨人の腕は、再び土に還り崩れさる。

派手に散る巨人の腕――。


 滅茶苦茶だ……。


 獣はその巨体を宙に浮かせ、さらに遠くに飛ばされていく。





……それなり遠くまでやってきた。


 今まで戦ってきた場所ほど荒れていない。

 ただ、超巨大な氷柱の影響で人よりちょっと大きいくらいの氷の欠片がそこらに転がっていた。


 戦うには少し邪魔だろう。


「お前が現れたのが街も人もいない大草原でよかった……

ここまで来れば、骸に影響を及ぼす事も無さそうだし―お前を、有意義にぶちのめせる。」


 優しく微笑むアトラ。


 その微笑みは輝き、

同時にどんよりと……ドス黒い雰囲気を感じさせる。






……大の字に倒れる獣。


 アトラの捨て身の蹴りは、

腕を回復したばかりの獣の胸骨を粉々にしていた。

 

 折れたところから内出血を起こし、

未だ癒えぬ首から”ドクドク”と音を鳴らし、派手に溢れ出る。


「…………」


 普通なら明らかに致命傷であり、

起き上がることは愚か……、そのまま蘇生すらままならないだろう……。


そう“普通”なら――だが。


……普通から外れたB級。

 流石にダメージが大きいためか、

起き上がらず微動だにしなかったが――そのまま二度目の死……なんてことにはならなかった。


(蹴りの傷が効いていて、動けない─か)


 そう判断したアトラは、柄の長い大きな槌を霧から生み出し、

警戒しながら獣に歩み寄る。


……アトラの次の手を慎重にみていた獣。


 気づかれないよう片手で握りこぶしを作る。


 すると血に隠れる形で魔法陣が出現、

アトラが踏めば即起動するトラップを即席で構築した。


 アトラが自分の出した血溜まりまで歩みを進めた瞬間――

 魔法陣は血を複数の刃に変化。

 血溜まりの中からマシンガンのように、アトラ目掛けて突き刺さす。


 素早く射出された複数の血の刃は、

身体の色んな急所に満遍なく突き刺さる。


 誰が見ても、致命傷は明らか……。

 アトラは血反吐を吐いて仰向けに倒れた。


 獣は起き上がり、魔法で切断された首を止血。

 アトラの状態を一瞥する。


「フン……」


 愚か者──とでも言いた気な雰囲気で、腹の口を鳴らす。


 すると次の瞬間アトラの体から霧が出てくる。

 霧の出る量は次第に多くなっていく……。


 身体は次第に塵のように崩れさり跡形もなくなってしまった。


「………!?」


 驚きを隠せない様子の獣。


「……そんなことだろうと思った。

ダミーに行かせて正解だったな。」


 声が聞こえた方を見る。


 そこには――

 弓を構え、少し離れたところの氷塊の上で、

笑みを零しながらこちらを見下すアトラの姿があった。


 焦った獣は手に魔法陣を作り、アトラに向けようとする。


 だがその瞬間に、矢が獣の腕に命中――

 魔法陣を容易く貫通し、流れるように獣の腕を貫き地に刺さる。


「グアアッ!」


 重く、力強い……螺旋状の矢は、獣の腕をひき肉のように掻き回す。

 獣は咄嗟に、反対の手で矢を引き抜こうとする。

だが肉と癒着したように、ビクともしない。


 より焦りの色を強める獣は、

抵抗するように口に魔法陣を浮かべ、氷の刃を作り出す。


……アトラはそれを読んでいた。


 魔法陣を作り出す刹那――

二発目の矢を、獣の口めがけ……撃ち落とす。


 一撃目よりさらに重い音を弦から響かせ、鋭い矢は口の舌を通り、背中まで貫通する。


「――――ッ!!」


 声にならない叫びが木霊する……。



「打撃傷よりも……切断傷の方が治りが遅い。

というか骸の武器よりも再生がかなり遅くなってる……。

ひょっとして──」


 アトラのあまりに余裕そうな態度に、

獣は隠そうともせず、腹の口で歯を食いしばった。


……矢に邪魔されているからか、歯ぎしりがやけに大きく聞こえる。 

 

 そんな獣の様子を見て、アトラは心底愉快そうに、口角を吊り上げる。



「楽しいナァ──ほんと感謝しないとな……

お前に出会えたことで忘れていた能力を思い出すことができた……。

まさに──"僥倖"だな。」


 獣の息がまた乱れる……。


 その様子に、

アトラは口角を吊り上げたまま、宥めるように告げる。


「安心しろよ……今は殺さない――

だって……お前─死ねば死ぬほど進化して強くなるだろ。」


「…………ッ!」


 獣の呼吸が荒くなる。


(図星か……やっぱりな。)


 そう思いながら指を弾き、手と舌の矢を霧に変える。


「…………?」


 突然攻撃を解除され、息を乱しながら微動だにしない獣。


 アトラは氷塊から降り、

 ゆっくり歩きながら薙刀を霧から出現――。

話を続ける。


「今仲間にお前を殺す方法がないか調べてもらってる。

だからその間……お前には一緒に踊ってもらうぜ。」


 向かってくるアトラに気づき、手を付き体を起こす。

 そしてしゃがみながら様子を見つつ、

地に魔法陣を展開し、反撃の機会を伺う。


 それを見てアトラも歩みを早め――

 やがて駆け足になり、

全力疾走に変わる。


 アトラは薙刀を構え、軽い足取りで獣に突っ込むのだった……。


三が日終わるまでには3話目投稿したい…………します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ