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衣織の物語  作者:
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衣織の物語8「修学旅行と恋の経験値」

 中学二年生の時の修学旅行は散々だった。以下、その概略を説明しよう。

 私の住む町の中学校の修学旅行の行く先は、たいてい首都圏だ。疫病の流行下、密を避けなければならないことは、今どきの中学生でも理解している。でも、みんなで楽しく遊びたいのも確かだ。学年主任がそれを察し、ディ〇ニーランドを旅行計画に入れたとのことで、旅行前はだいぶ威張っていた。しかしその願いはかなわなかった。運悪く疫病の大流行期にあたったからだ。学年主任が一番しょげていたということは、生徒全員の共通理解である。「自分が行きたかっただけじゃん」とは、パパの言である。

 と、いうことで、東京を慎重に避け、その周辺地域に宿泊・旅行した。富士山は雄大できれいだった。ブドウ狩りは楽しかった。バカな男子が食べる数を競っていたが、愚かなことだ。「○○狩り」は、雰囲気を楽しむものである。私は悠然と、秋の山梨を堪能した。

 だが、宿泊したペンションに大量の虫が出るのには参った。私は虫が嫌いだ。虫に遭遇すると、ふだんは出さない「キャッ!」というカワイイ叫び声が出る。聞いたことのない声に、周囲の人間は一瞬、「叫んだのは誰?」とあたりを見回すが、私である。それで、みな、二度目のびっくりをする。そして、この人はこんな声も出すのかといぶかしがる。

 ペンションの話に戻るが、ほかのクラスの人たちの話などを総合すると、分宿により、クラスによって宿泊施設にだいぶ差があったらしい。きれいで大きいホテルのクラスもあれば、夕食がちゃんとしたディナーだったクラスもある。それに対して我がクラスが割り当てられたのは、みすぼらしいペンションで、しかも虫付きの部屋だった。宿舎到着後、荷物を置きに行ったあちこちの部屋から女子の叫び声が聞こえてきたのは言うまでもない。その後、部屋の中に潜んでいる虫たちとの格闘が始まった。足の長い、バッタ型の虫。名は知らぬ。虫たちとの戦いから一段落つき、食事となったが、これがまたひどい。硬くてなかなか切れないステーキもどき、薄味すぎるスープ、乾いたパン……。実話なだけに、今思い出しても悲しくなる。なにせ私は貴族である。体に悪そうなものは、口に入れない。ということで、空腹の旅となった。

 旅行後、当たりの宿舎が割り当てられたクラスの人の話を聞いて、我がクラスのみんなが悔しがることはこの上なかった。宿舎選定には教員内での担任の地位エラさが反映されており、我々はその割を食ったのだという者もいたくらいだ。この説に首肯する者は多かった。


 ところで、宿舎での夜の女子部屋の話題は、恋バナと決まっている。私の部屋も、恋バナと相成った。それぞれのベッドに陣取った女子たちが、一人ずつ、淡い恋の話をするのだ。深夜に及んだ恋バナが佳境に入らんとしたとき、見回りの先生が来た。残念なことである。私はまだ恋などというものをしたことはないが、他人の恋バナを聞くのは、クルシュウナイ、チコウヨレ、という感じだ。というか、大歓迎である。面白いから。よく考えると、他人の恋など、自分に全く関係ない話であり、ドーデモイイコトの代表なのだが、でも面白い。興味がそそられる。なんでだろ。貴族にとっても、庶民たちの恋の話は、聞いてて楽しいのだ。国家の繁栄において、恋は非常に重要な案件かもしれない。少子化は国を亡ぼす。為政者として、それを見過ごすわけにはいかない。

 私に他人の恋路を邪魔する無粋な趣味はない。したがって、ほぼ応援役に回るのだが、恋とはうまくいかないものらしい。従って、そこに失恋の苦悩や別れの悲しみが生まれる。その証拠に、世の中の歌は、ほぼそればかりだ。

♪悲しい気持ち 嘆いてみても 恋の痛みは 癒されず

 それでも人は はかない恋と いとしあの子を なつかしむ♪ (作詞・衣織)

 私の部屋の女子たちの恋は、うまくいかないものばかりだった。私たちはまだ中学生なので、恋の経験は少ないけれど、それぞれがそれぞれに悩んでいるのだなーと思った。みんなガンバレ!

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