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衣織の物語  作者:
72/73

衣織の物語70「地区演劇生徒理事会」10

 「地区演劇生徒理事会」の話も10になったが、これがいつまで続くかというと、これからが佳境なのだった。なにせこの後、「交流会」という何やら楽し気な会が予定されているからだ。イケメンとの「交流」! 美しいお姉さま方との「交流」! そうであるに違いない。少なくとも、あの上遠野さんとだけでも「交流」したい。この会がもし私の期待を裏切るものであるならば、私はこの日を決して許さない。忘れない。


上遠野「交流会を始めますので、その準備のため、皆様にご協力をお願いいたします。テーブルとイスを円形に並べ直してください」

 その声に応じて立ち上がった生徒たちにより、理事会会場は、モノを動かすかまびすしい音で雑然となった。マイクを持った上遠野さんは、それに負けない大きな声で指示を出している。ただでさえ結構大きな会場に大人数だ。おまけに最近の高校生は大きめのリュックを背負い、しかもそれにはぬいぐるみがわんさか付いている。中学では禁止されていたぬいぐるみたちも、高校デビューを果たしていた。私は何も付けない変わり者だが、私の心配を友人に尋ねると、やはりいつの間にか取れてなくなっているそうだ。道端にポツンと落ちているぬいぐるみの姿が絵に浮かび哀れだが、元気な高校生たちはさほど気にしていない様子。また違うキャラをくっつけるそうだ。人の情の薄さ、移り気が、身に染みるこの頃。


 哀感に包まれる私をよそに、会場では楽し気にテーブルとイスの移動が続いている。他校の見知らぬ異性との意図せぬふれあい。それが、会場設営という美名のもとに公然と行われている。つまり、大変な混雑をいいことに、物と物とがぶつかりあい、袖と袖とがふれあう。ハレンチだ! これが不純異性交流につながったら大ごとだ!

 皆の表情が笑顔なのは、普段の禁欲が見事に解放されようとしているからだろう。自分たちは上遠野さんの指示に従い、作業をしているだけ。隣の他校生と腕がふれ合うのも不可抗力。そこに邪悪な心など、寸分も存在してはいない。信じて下さい、神様!

 これぞ交流会の真髄だ。という邪念が渦巻く生徒交流会の準備作業なのだった。


 私といえば、「まだ、入部したての新入生の身。右も左もわかりません」という羞じらいを身にまとい、壁の花となっていた。そもそも精神的貴族に、このような下賤な作業などできない。我が世の春を謳歌した中学時代などは、何も言わずとも周りの男子たちが勝手にやってくれていた。姫にシャーペンより重いものは持たせられないと。(わたしゃいつから姫になったのだろう?)

 それに、このものたちの心には、ケダモノの心理が作用している。すきあらば遊ぶ幼子のように、彼ら彼女らは、虎視眈々と、偶然のふれ合い=出逢いを心に抱いて作業している。その渦の中に、私という高貴な存在が飛び込むなど、あってはならないことだ。あー汚らわしい!


 ただの会場設営に、これ程の人の心理分析は、はなから不要なのだが、ただ怪我をしたくないだけの私は、暗に不参加を表明していたのだった。私の不器用を先刻ご承知の我が先輩部員たちは、「下手に手を出さないほーがいーよ。怪我するからそこで待ってなさい」という表情で、自分たちのバッグを私に預けた。


 何もせぬ私に不審な視線を送る不届き者も中にはいたが、「そんなことは知らん、わたしゃ先輩がたの荷物管理係だ!」、というすまし顔で、壁際に立っていた。だから私は、設営の喧騒のなか、黒いリュックに囲まれた花となっていたのだった。


#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部





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