衣織の物語68「地区演劇生徒理事会」8
次なるミッションは、いよいよ交流会だ。そこで何が行われるのかは寡聞にして知らないが、ここでわが名を挙げねばならぬ瞬間があるかもしれぬ。そのために今日、私はここに来た。決戦の前に水分を補給せよ! ボトルの水はあとわずかだ。
エレベーター脇の自販機前には何人かの他校生がそれぞれ固まり、おしゃべりをしていた。多少の気まずさを感じつつ、コクリと会釈しつつ、私は自販機前に進み出た。どれにしよう? お茶がいいかな?
男子1「なんか、こんなにいるとは思わなかった」
男子2「そだね。演劇部って、いま、人気あんのか?」
男子3「とてもそうとは思わなかった。陰キャの集まりかと思ってた」
男子1「俺も」
男子2「なりゆきで入っただけだし。それにしても、個性的なヤツが多い」
男子3「俺も思った。端的に言うと、変な奴ばかりだ」
男子1「うちら一般人には、面白そうでもあり、取っつきにくそうでもあり」
男子2・3「(うなずく)」
ジュースもいいかも。カルピスウォーターも捨てがたい。
男子2「それで、かわいい子いた?」
男子3「そだね(あたりを見回す)」
男子1「なんか、いっぱいいすぎてよくわからん」
男子2「演劇部って、女子が多いな。おまえら、どんな子が好み?」
男子3「俺は清楚系」
男子1「俺は短めの髪形がいいかな」
男子2「いや、ロングでしょ」
男子1「そうか? 俺は昔から短めの方が好きなんだ」
男子3「人それぞれってことで」
オレンジもいいかも。
……なんか、視線を感じる。
目の端で男子たちの様子を探るという高度なテクニックを駆使した結果、男子1が私を見ていることに気づいた。他のふたりは「あーね」という雰囲気だ。男子1といえば、「短めの髪形がいい」と言っていた彼だ。私といえばそのツヤには自信がある黒髪ボブ。この二つはつながるのか? つながってしまうのか? うぬぼれが過ぎる? それとも、単なるちょっかい? ここは一刻も早く立ち去るべき? なんか、急に暑くなってきた。今日は水分過摂取の日か?
とにかくコインを入れ、何でもいいやとやたらにボタンを押すという暴挙に出た私に、声がかけられた。
男子1「……あのー……もしかして衣織さん?」
私「は?」
声の主をやや上目づかいに見た私の顔を見て、彼の目には確信の灯がともった。
男子1「衣織さんでしょ? 久しぶり!」
私「エッ?」
男子1「合唱コンクールのピアノ伴奏、ほんと良かったよ! 今でも覚えてる!」
突然のファンの登場に、ひどく面食らった私だった。が、彼の圧を受け、このまま後ろに倒れるわけにもいかぬ。それでは衣織の名折れになる。(どーゆー意味かは自分でもわからん)
しかし、この話の流れから推測すると、彼とは同じ中学出身ということになる。しかし、何度見ても誰かがわからない。思い浮かばない。
私の不審な表情を察し、彼は言った。
男子1「同じクラスだったけーすけだよ。ほし・けーすけ」
それでも私の不審の灯は消えない。思い出せぬ。しかたがない。脳内の卒業アルバムを至急めくるとするか。アルバムの各ページをめくりにめくった結果、その名の上に浮かんだのは、明らかな校則違反である茶髪のチャラ男だった。中学から校則違反。ろくなヤツではない。なんなら、眉まで茶色だったし。
警察官よろしく脳内画像と眼前の人物を照合した結果、あれから3年くらい臭い飯を食い、性根をたたき直されてやっとこうなったという黒髪の好青年が、目の前のこの男なのだろう、という結論と相成った。ただ、当然のことながら、卒業してまだひと月ほどしか経っていない。
男子1=こーすけ「やっとわかった?」
私「……なんとなく……」
こーすけ「半信半疑?」
私「(そんな言葉、知ってたんだ。人はずいぶんかわるもんだ)(コクリ)」
こーすけ「髪色も髪形も、変わったから」
私「茶髪だったし、チャラ……」
こーすけ「それは内緒だよ」
ここまですっかりほっとかれていた他の男子ふたりは、「こいつ、中学ではチャラ男だったのか?」という表情で固まっていた。こういう逆の形の高校デビューもあるもんだ。
こーすけ「衣織さんも、変わったね」
私は右手で髪をなでた。私の方も、久しぶりに見た人は驚くだろう。中学では背中までのロングだったから。それが今はショートボブ。
改めて私の髪を見ていたこーすけ君は言った。
こーすけ「それで、衣織さんも演劇部に入ったの?」
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