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衣織の物語  作者:
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衣織の物語6「頑固」

 皆さんも、もうそろそろお気づきだと思うが、私は頑固だ。それは自分でも認める。しかし、元来、貴族とは頑固なものではないか。頑固でなければ、国は治まらない。一本、筋が通った頑固さが、治世には必要だ。国のカシラがブレていては、世情が不安定になる。

 私の頑固さは、幼少のころからのモノだ。たしか5歳の時に、こんなことがあった。動物園の帰り道、彼らの生態について、久しぶりに家族の会話が弾んでいた車中でのこと。フト窓外を見ると、子供館とやらの施設で、タノシゲなことをやっている様子が私の目に入った。精神的な貴族が、これに反応しないわけにはいかない。下々の者たちの楽しげな姿は、看過できないのだ。早速私は、ドライバーさん=パパに注文した。


私「チョット、子供館、寄ってこうよ」

パパ「エッ? 今日は疲れたから、帰ろ」

私「なんか、イベントやってたよ」

ママ「でももう、夕方になるから、イベントも終わりの時間なんじゃないの?」

私「チョットでいいから!」

パパ「パパはもう疲れたから、家に帰って何かオイシイものでも食べようよ」

私「みんな、楽しそうだったよ!」

ママ「今日は、動物園の日でしょ。子供館の日じゃないよ」

私「それはそうなんだけど、子供館行きたい!」

パパ「困ったなぁ」

ママ「パパも疲れてるから、今日は帰りましょ」

私「子供館で遊びたい!」

パパ「……」

ママ「あなたはホントに欲が深くて困る。満足ということを知らない」

私「コドモカン! コドモカン!」

パパ「いい加減にしなさい! ワガママ言うんじゃない!」

私「コドモカン!」

ママ「パパを困らせるんじゃない! 今日一日あなたに付き合って、みんな疲れてる!」

私「コドモカン、イキタイ!」


 その後、どうなったかというと、家に着いてもまだ私が大騒ぎしていたので、そんなに行きたいんなら、歩いて行きなさいとパパが怒り、先に歩く私の後を5メートル離れてパパもしかたなく歩いてついてきた。パパには悪いことをしたと、今では思う。しかし、その時の5歳児は、ただただ遊びたい一心だ。我が強いというか、ワガママというか、一度言い出したらおさまらないというか、利己主義というか、エゴイズムというか。ま、心の貴族だから仕方ないか。パパは私が途中であきらめることをたくらんだのだが、私たちは無事に子供館に着き、私は終わりかけのゴラクを楽しんだ。パパのたくらみは、失敗に終わった。


 それ以来、パパとママの私に対する対応が明らかに変わる瞬間がある。「カワイイ我が娘」から、「他人の子」を見る目になるのだ。変化は何事においても物事を不安定にする。しかしこれは仕方ない。クッションが変われば、尻のすわりは悪くなる。慣れれば何ともなくなるが、それまではムズムズする。


 こないだパパとママは、2階の私に聞こえないように1階のリビングでヒソヒソ話をしていた。が、聞こえてしまった。

ママ「私、時々あの子が何を考えてるのか、わからなくなる」

パパ「俺もそうだ」

ママ「なんであんな子になっちゃったんだろう」

パパ「なんでかなー」

ママ「あんな子に育てたつもりはないんだけど」

パパ「ほんとにね」

ママ「人の気持ちがわからないというか、察しないというか」

パパ「人の気持ちを大事にしない人と時間を守らない人は信頼されないって、ズーっと言って聞かせてきたのに」

ママ「私も」

パパ「人から嫌われる人生か」

ママ「ほんとにそう。そういう人生を歩いて行くのね」

パパ「誰に似たんだろうね」

ママ「どっちの家系かな?」

パパ「どっちだろうね。少なくとも、俺ではない」

ママ「私だってない。ほんと、我が強すぎるのよね」

パパ「こっちがイヤになる」

ママ「私も。朝も起きないし」

パパ「朝がストレスだよね」


 私について、かなりの盛り上がり方である。盛り上がりすぎ&辛辣で、聞き耳を立てているこっちの心が痛くなるほどだ。私はそんなに悪者なのだろうか。私は私なりに、信念をもって人生を楽しく生きていこうとしているだけだ。パパとママと私は、何かの間違いで同じ屋根の下に住んでいるのだろうか。世の中では、自分を大切にすること、自分に自信をもって生きることの大切さが、繰り返し述べられているではないか。歌でもメディアでも学校の授業でも。私はそれに共感し、実践しているにすぎない。私の何が悪いというのだろう。

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