衣織の物語66「地区演劇生徒理事会」6
上遠野「一つ忘れてました。続いて、春の発表会の上演順を決めなければなりませんでした」
赤みを帯びる上遠野さんの顔。会場内は小さな笑い声が漏れる。キリッとしたイメージの女子のドジっ子ぶりに、みな親しみを感じていた。
これはずるい。卑怯である。別の角度からのファンが増えてしまう。会が終わったら彼女とお近づきになろうとひそかに企む私の計略が狂ってしまいかねない。それはまずい。競争相手は少ないに越したことはない。彼女の意図せぬドジぶりに、私の心は完全に持っていかれていた。
上遠野「準備が済むまで、少しお待ちください」
上遠野さんの左側にいた男子がホワイトボードを準備している。その設置が終わると、右側にいた女子がリハーサルと本番の日程を記入しはじめた。
私が副部長さんの方を見ると、副部長さんは説明してくれた。
副部長「資料にも載ってるけど、まずリハーサルと舞台打合せがあって、今回はその1週間後に発表会になるの。発表順をまず決めて、たいていはその逆の順でリハが行われる。自信がある学校は、最終日の上演を希望することが多いの。……部長さん、上演順は、顧問の先生と話し合った通りでいいですか?」
部長「うん、そのままでいこうと思う」
副部長「ハイ。……顧問の先生とは、初日に上演してしまう方がいいということになったの。早く終えて、他校の上演の鑑賞とサポートをしようということ。そのほうが、衣織さんのためにもいいかなって」
私「すみません。いろいろ気を遣っていただいて」
副部長「いいのよ。早く終わった方が、スッキリするし気が楽だし。でも、秋のコンクールは、できるだけ後の方がいいかな」
私はうなずいた。
上遠野「それでは準備が整いましたので、各校の代表者の方は前に出ていただいて、ホワイトボードに校名をお書きください」
すると、それぞれのグループの塊の中から代表者が前に進み、希望の日程に校名を書き始めた。うちの部長はゆっくりと立ち上がり前に進む。こういうのは早い者勝ちなのでは? と直感していた私は、その動作の緩慢さに気が急いた。
副部長「ああいう人なの」
まるで自分の旦那への批評だ。そこに面白さと部員同士の仲良さを感じた。
副部長「でも、初日を選ぶ学校はあんまりないから、それでゆっくりなのね」
妻としてのセリフだ。もしかしてふたりはそーゆー関係? いつのまに?
副部長「衣織さん、勘違いしないでね」
副部長さんは、読心術をお持ちのようだ。
部長さんは最後に進み出て、初日の一番目にわが校の名を記した。意外に達筆である。その風体と行動と文字がエラそうだ。でも、希望通りでなにより。
同じ時間に二つの学校が重複しているところがある。どうするんだろと思って見ていると、なかなか話し合いがつかぬ様子で、最後はじゃんけんとなった。負けた学校は結局、空いているところに回るしかない。上演順は賭けの部分が多いようだ。
リハの日程は、上演順の逆を基本とし、それに会場まで遠い学校への配慮が加えられた。
上遠野「皆様のご協力、感謝申し上げます。この後、10分間の休憩をはさんで、交流会となります」
緊張していた体から、私は、少し力が抜けたのを感じた。
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