衣織の物語63「地区演劇生徒理事会」3
開始予定時刻が近づくと、ロビーにいた皆は2階へ移動し始めた。大勢の人いきれに若干めまいを感じながら、先輩方に続いてゆっくり螺旋階段を上る。自分の身体の重みを感じたのは、高校受験の勉強中に甘いものをたくさん食べた名残だろう。痩せねば。
2階には長テーブルとイスが何列か並行に置かれ、勉強をしている高校生や近所の主婦らしき人がいて、スマホを眺めていた。この時間にここにいるということは、定期テスト中なのだろうか。うちの学校でもそろそろ前期中間考査が迫っている。高校に入学したと思ったら、あっという間に日々は過ぎ去る。まことにあわただしい。テスト勉強イヤだ。今は演劇に集中させておくれ。
二間続きの大きな部屋があり、その右側に生徒たちがぞろぞろ入っていく。そちらが生徒理事会の部屋なのだろう。顧問会の張り紙がある左隣の部屋を覗くと、先生方が談笑していた。中にはいかにも演劇に携わってますという風貌の先生もいて、おもしろい。そのおじさんは、得体のしれない何かが描かれた黒のTシャツの上に、黒の革ジャンをはおっている。ライダーかロック歌手か? あの格好で授業をやってるの? ホントに先生?
私の疑問は増すばかりだった。
そのライダーと親しげに話をしているのが我が顧問だったので、意外な感じがした。彼はいつも物静かで若干スポーティーな格好をしている。若く感じるが実は定年も遠くないらしい。
それにしても何を話しているのだろう? ガラスを隔てているのでわからない。少しの興味を抱きつつも、私は生徒理事会の部屋へ急いだ。
中は既にギューギュー詰めに近く、はるか後ろの方に空席があった。一番前のテーブルには会議資料が並べて置かれている。
副部長「私、これ、持っていくから、衣織さん、リュックをお願い」
私は副部長さんのリュックを受け取り、部長さんの後をついて後ろへと向かった。座る場所が足らず、壁に立てかけてあったパイプ椅子を出し、壁際に陣取る。
副部長「資料、持ってきました」
部長さんは、「ありがとう」と言って、封筒の中身を確認し、他の用紙とともに部員に配った。私は、中身が詰まった感じでとても重いリュックを副部長さんに返した。
部員同士で話をしている人が多く、とてもウルサイなか、私たちは資料に目を通した。封筒に入っていたのは会議資料で、年間の日程や前年度の決算書、今年度の予算書、大会運営上の注意などが書かれていた。生徒総会の資料みたい。その他はいろいろな演劇団体のチラシだった。こんな地方にも劇団はあるんだと思って眺めている私に、部長さんが言った。
部長「そのチラシは、他校の演劇部の顧問が主催してる劇団だよ」
私「へー、そーなんですか」
遠藤「さっき、顧問会議の部屋に革ジャンの人がいたでしょ。あれがその人」
私「そーなんですね。でも、とても一般人には見えませんでした」
影山「そこは先生には見えませんでしたと言うべきでは」
私は、「そーですね。失礼しました」と言って、そこにいない人に謝った。
影山「俺に謝られても」
他の先輩方も笑っている。
そばにいた他校生も笑っている。ハズカシイ。
副部長「でも、まあ、うちらの商売って、カタギじゃないかもね」
影山「確かに」
遠藤「変なこと言うなよ、ふたりとも。俺は立派なカタギだよ」
部長「俺もまじめで品行方正な模範的高校生だ」
他校生の笑いの輪は、さらに大きくなった。
副部長「ふたりだけいい子ぶってズルイ」
わたしは、そんな副部長の方がズルイと思った。だってその言い方がとってもかわいかったから。副部長の魅力が、他校生に知られてしまう。それはマズイ。だって、今回のお芝居の相手役だもの。
変な独占欲がわいた私だった。
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