衣織の物語62「地区演劇生徒理事会」2
生徒理事会の会場は、市の中心部にある中央公民館だった。震災後に建て直されたもので、まだ新しい。壁面がガラス張りの、ちょっとおしゃれな建物だ。その隣には昔ながらの公会堂が建っている。上部がドーム型になっていていい雰囲気。二つの建物の新旧の対比も面白い。
一階のロビーには既に高校生がそれぞれの制服ごとに塊となって待機しているのがガラス越しに見えた。みな楽しみと緊張が入り交じった表情をしており、それとなく他校の様子をうかがっている。
先輩に続いて入り口の自動ドアをくぐり、ロビーの空いているスペースに移動した。同じ中学出身の子はいないかなーと思いながら辺りを見渡したけど、見知った顔はなかった。戦力不足は否めないが、ここはしょうがない。胆力が必要だ。と小さな覚悟を決めた私だった。
思えば中学生時代、私は幸せ者だった。「何かあったらすぐに言ってくれ」という心強い男子が数人いて、実際にトラブりそうになった時、何度か助けてもらったことがある。私とその子たちの間には同士のような不思議なつながりがあった。女子の中にはそれを訝しむ者もいたが、私たちは気にしなかった。恋愛感情はない。仲間意識に近い。でも、みんな高校進学でバラバラになってしまった。
なんか知らんけどのどが渇くので、部長さんに断って、自販機に走った。急いで買って急いで飲むと、清浄な水が私を貫いた。冷たい水ってとっても美味。
人心地ついた私は、先輩たちのもとへ向かった。部長さんは、他校生と話をしている。温和な性格と年季が(たまにおじさんに見える)、他者との交流を自然に生むのだろう。副部長さんや遠藤先輩も誰かととても親し気に話をしている。同じ中学出身なのか、演劇が縁で結ばれたものか。影山先輩だけはいつものようにひとりスマホを眺めていた。孤高を気取っているようだが、またゲームだと思われる。
実は外見だけだと、影山先輩が部員の中で一番イケメンだ。ただこれまでの様子からわかる通り、天然&残念なイケメンなのだった。神は惜しいことをしたものだ。彼の場合、天は二物を与えなかった。いま彼がした小さなガッツポーズは、ゲームで何かを達成した表象だろう。
たしかに今日はいい天気で、しかも「公欠」は堂々と授業をサボれる。しかしこれを裏返せば、今は授業時間中であり、彼のような不真面目な態度は許されるものではないのかもしれない。緊張感をもって生徒理事会に集中せよ!
肝心の理事会が始まらんとしているのに、このように、私の関心はその他のさまざまな事柄に注がれていた。影山先輩を批判する資格は、私にはない。
先輩方へのいちいちの観察だけでなく、他校生への興味も甚だしい。いろんな高校の制服(特に女子)の観察・品評から始まり、もちろん他校のイケメン探し(それとなく)。これらの、演劇とは無関係のもろもろに心が奪われる私。イケナイことだろうか。いや、しかたない。だって高校生だもの。好奇心が世界を発展させる。
満員に近い状況のロビーで、私のワクワクは膨らむばかり。学校の制服がそれぞれ違っていて特徴があり、面白い。スカートの裾の部分に白線が入っているもの。全体が薄いピンク色のもの。普通のブレザータイプ。
ところで、これまで説明しなかったのだけど、私の学校の女子の制服は今どき珍しいセーラー服だ。全体の色は、紺というよりも黒に近く、襟に白線が3本入っている。古臭いというか、昔ながらというか、好事家には垂涎ものというか。何でも歴史があるらしい。
今では珍しいし、意外に目立つので、どこへ行っても人目を惹く。着こなすには工夫が必要なのだけど、女子には人気がある。男子は知らん。
中学までとは少し違う自由な雰囲気と他校生との交流の予感に、私は心が弾んでいた。たとえればいま、この地方都市の公民館ロビーには、花が咲いているのだ。お花畑の真ん中で、愛を叫んでもいーではないか。(愛でもないし、叫んでもいないか) とにかく私はとても楽しい気分だった。
冷たいペットボトルを手に、あたりをキョロキョロ見回してばかりいる私に、副部長さんから声が掛かった。
副部長「衣織さーん、そろそろ戻ってー。打合せするよー」
いい声だ。まるでアナウンサーかのような、マイクを通して聞いてみたい声。周りの人たちもその声の持ち主を確認するかのように彼女を見ている。一見とっつきにくいけど、心の優しい個性的で美しい先輩だ。
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