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衣織の物語  作者:
62/65

衣織の物語60「synchronicity(シンクロ)」11

「石の棺が点滅し始める。

アオイ 石の棺が光っている……。

アオイもその方向を見る。

アオイ 文学は、未来に対する警鐘を鳴らし続けてきた。それに対して科学は、何も応えてこなかった。「想定外」という一言で。……科学は人を滅ぼすね……でも、科学の力を信じていない僕が、科学の研究をしてるなんて、矛盾だね……。

ユウ  ……。

アオイ 電源を失うことが、即、この世の破滅へと向かう……電気を生み出すべき発電所という場所でそれが起こってしまったのは皮肉だね。

ユウ  ……。

アオイ 科学と政治には、想像力が決定的に欠けていた。空想の世界であったはずの近未来が、いま、現実になってしまったじゃないか。

ユウ (うなずく)

照明切り替わる。ユウ、その下に進み、

ユウ  震災後、溶融した燃料デブリを取り出すため、人々はさまざまな方法を試みた。しかし、その努力は結局実を結ばなかった。原発は、分厚いコンクリートで覆われ、「石の棺」と呼ばれるようになった。

音楽、フェードイン。暗転。

明転。音楽、フェードアウト。 (『シンクロ』)




遠藤「石の棺が点滅し始める」

副部長「石の棺が光ってる……」

 副部長さんは、下手の斜め上を眺めた。私もその視線をたどって同じ方向を眺める。

部長「そうそう。ここはふたりの目線をピッタリ合わせて下さい」

副部長「文学は、未来に対する警鐘を鳴らし続けてきた。それに対して科学は、何も応えてこなかった。「想定外」という一言で。……科学は人を滅ぼすね……ちょっとここ、話し合わない?」

遠藤「原子力の危険性について、たくさんの文学作品や映画はその想定を文字にし、映像にしてきたのに対し、原子力を扱う肝心の科学者や国・行政は、それにいわば目をつぶって来たに等しいということかな」

部長「原発の『安全神話』という言葉があるけど、住民はそれを信じ込まされてきた歴史がある」

私「私の両親もよくそれを言います。地震の後、原発が危ない状況だという情報が入っても、翌日に避難している時でさえ、心のどこかでは、『いや、原発は何重もの安全策が施されているから大丈夫だろう』って思ってたって」

影山「それが、帰還できるまで何カ月もかかることになるなんて……」

遠藤「みんなあの時は、ニ三日で帰れると思ってたからね」

部長「うちは南相馬だから、なんとも中途半端な状況だった。家からできるだけ外に出ないでいようって、母親から強く言われた記憶がある」

遠藤「当時はマスクが必需品だった」

私「そうですね……」

副部長「今でもいろんな場面で『想定外』って言葉が使われるけど、そんな気軽に使ってほしくない」

 部員のみんなは黙り込んでしまった。すると副部長さんが演技を繋いだ。

副部長「電源を失うことが、即、この世の破滅へと向かう……電気を生み出すべき発電所という場所でそれが起こってしまったのは皮肉だね。科学と政治には、想像力が決定的に欠けていた」

 私は副部長さんを見つめながらうなずいた。

部長「まさかの時の備えであるはずの非常用電源が、簡単に海水に浸かってしまう位置に置かれていたことが、いまだに信じられない……」

 想像力が最も求められる場面と分野に、それが全く欠けている。そうしてそのことにより、人々が長い間苦しむことになった。不幸なことだ。


部長「次のセリフも、顧問の先生と話し合って付け足したんだ」

遠藤「照明切り替わる。ユウ、その下に進む」

私「震災後、溶融した燃料デブリを取り出すため、人々はさまざまな方法を試みた。しかし、その努力は結局実を結ばなかった。原発は、分厚いコンクリートで覆われ、「石の棺」と呼ばれるようになった」

部長「ここは、チェルノブイリの原発をイメージしている。水蒸気爆発を起こして原子炉建屋が破壊され、放射性物質が大気中に放出されたことは福島原発と同じだ。破壊された原子炉は、構造物で囲って封じ込められ、『石棺』と呼ばれた」

副部長「今でもチェルノブイリでは、原発から半径30km圏内は立ち入り禁止区域になっている」

私「福島はどんどん制限が解除されています……」

影山「それで大丈夫なのか?」

副部長「なんともやりきれない気持ちが残る人はたくさんいるよね」

部長「故郷に早く帰りたい気持ちと、本当に帰っていい場所なのかという思いと……」

私「被災者は、いろんなことのあいだにはさまれて、どうしていいかわからなくなっています」

部長「これが最良の道ですって誰も言いきれない。国も、行政も」

副部長「被災者にもいろんな考え方があるし」

影山「国は、国民の命と安全を守るのが仕事だよね」

遠藤「その一番大切なことが蔑ろにされていたことが顕在化したのが震災だ」

部長「ほんとにその通りだ」

副部長「石の棺が光っているというセリフは、石棺が機能を果たさなくなりつつあることの暗示だ」

私「原発に危機が迫っているのですね」

部長「そう。そうしてそのためにここにいるのが、アオイとユウだ……溶融した核燃料を取り出せるのはいつになるんだろう……」




#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部





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