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衣織の物語  作者:
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衣織の物語5「砂漠化した教室の、心が枯れ果てた人間ども」

パパについて軽く触れておくと、パパはよく本の話をする。夏目漱石だけ読んでおけば「それで結構だ」と、古臭い言葉で私を諭す。実際、パパは夏目さんの作品をほぼ読んでいるらしい。私が見る限りでは、パパといえば休みの日はリビングでゴロゴロしていて、スマホを長時間眺めている印象しかない。私はといえば、夏目さんの作品では、「坊っちゃん」を少しかじっただけだ。うっかり間違って「こころ」に手をのばしかけたが、一人の女性を巡って(「お嬢さん」♡ というらしい)、男二人がイヌジニする話には、まったくついていけない気がしたので途中でやめた。おまけに長い。あんな「名作」と呼ばれ、「文豪」と呼ばれる人の作品が、三角関係とは解せないが、まあ、「ブンガク」とは、そんなものなのかもしれない。

 高校入試の国語は、基本、文学と評論で成り立っている。文学は登場人物の人間関係が問題になるということを、授業で習った。人間関係なら、荒野のような中学校生活で、嫌というほど経験し学んだ。砂漠化した教室の、心が枯れ果てた人間どもは、それぞれの領地(居場所)を確保せんと血道をあげている。少人数のグループのオアシスを形成するために、グループ内の協調が何よりも優先される。はみ出す者には死が待っている。


 話は変わるが、現在私は、歯科矯正中だ。小さいころ、口寂しかったのか、心寂しかったのか、わからないが、右手の親指を常に口にくわえていたらしい。記憶はない。画像は残っている。それで、特に前歯の歯並びがガチャガチャになってしまった。私が小さいころ、ママはよく、歯並びが悪くなるからと、私がくわえていた親指を口の中から無理やり引きはがそうとしたらしい。おぼえていない。

それで一念発起して、1年前から歯科矯正を行うことにした。自分で決断した。パパとママの同意は得ない。反対は得た。かなりの反対だった。上下の歯を、2本ずつ、計4本抜くことに、非常な抵抗を得た。しかも、受験勉強の真っ最中だ。「高校に入ってからにすればいいんじゃない」という至極まっとうな意見も両親からあった。しかし待てなかった。「歯は一度抜いたら後戻りできないのよ」、というママの言葉は却下された。美に勝るものは、この世に存在しない。美はすべてに優先するのだ。いや、させなければならない。私がさらなる美の高みに進むためだ。異論は認めない。

 なかなか話が先に進まないので、この辺にしておくが、とにかく私は歯科矯正中だ。口の中にガッチリはめられているワイヤーやらなにやらとの付き合いも長くなった。しかし先日の矯正には面食らった。奥歯のかみ合わせが不適切だということで、奥歯に新規に何かがはめられた。おかげでモノが噛めない。食事に時間がかかる。満腹にならない。これは育ちざかりには非常に厳しい現実だ。一瞬、矯正に早まったかとも思ったほどだった。しかし私の立ち直りは早い。痩せるかもと思ったのだ。それはそれで願ったりかなったりである。歯並びは美しくなり、私自身の体型も理想に近づく。なにせ、受験勉強というものは、動かないのにやたらとお腹が空く。お腹が空くから時間に関係なくものを食べたくなる。特に甘いものを。結果、太るようにできている。そういう意味でも受験は敵だ。

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