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衣織の物語  作者:
54/65

衣織の物語52「synchronicity(シンクロ)」3

アオイ 邪魔するな。

ユウ  だって、わかんないんだもん。

 ユウはしぶしぶ少し離れた場所で数式を解く。やがて飽きてしまい、アオイへ通信する。

アオイ やめろ。

 ユウ、少しして、また通信する。

アオイ (堪忍袋の緒が切れて)邪魔するなって言ってるのが、分からな

いのか!

 ユウ、ふざけた表情としぐさ。

アオイ ふざけるのもいい加減にしろ。人の邪魔をして。

 逃げるユウ。二人はもみあいになる。ユウも応戦。ユウは勢いを付けて何度かつかみかかるが、アオイにはかなわず、はねとばされ、転ぶ。

アオイ いいかげんにしろ!

ユウ  そんなに、真剣に、怒ることないじゃないか……ちょっとふざけただけなのに。(泣き顔)

アオイ ユウはいつもそうだ。僕が真剣にやっていると、いつもちょっかいを出してくる。人の迷惑を考えない。

ユウ  (子どものように泣いている)

アオイ いつまでも子どもだ。(言い捨てる) もういいから、昼食の準備をしろ!

ユウ  (急にケロッとした表情になり)そういえば、お腹すいたね! 今日は、僕が当番だった。





部長「続きをやってみよう」

私は立ち上がり、副部長さんはアオイの世界に入った。

副部長「邪魔するな」

私「だって、わかんないんだもん」

 ほんとにどう演じればいいかわからないので、このセリフは自分の今の状況とぴったり重なった。ちょっとすねた感じでやってみた。みんなは「うまいうまい」とか、「それ、いいじゃん」とか言っている。他人の気も知らないで。

遠藤「『ユウはしぶしぶ少し離れた場所で数式を解く。やがて飽きてしまい、アオイへ通信する』」

私「通信って、どうしたらいいですか?」

部長「スマホを操作して見たら?」

私「ハイ!」

 操作する私。

副部長「やめろ」

遠藤「『ユウ、少しして、また通信する』」

 再び操作する私。

副部長「邪魔するなって言ってるのが、分からないのか! アオイ!」

 副部長さんの圧は、けっこう強い。

遠藤「『ユウ、ふざけた表情としぐさ』」

 ここでまた私は止まってしまった。いったいどうすればいいの?

 影山先輩は、「こんな感じでどう?」と言い、副部長さんに向かって顔の横で手のひらをヒラヒラさせた。私もそれを真似してやってみたけど、人の目から見てどう映っているかがはなはだ不安だった。

副部長さんは、「ふざけるのもいい加減にしろ! 人の邪魔をして!」と怒鳴りながら、いきなり私につかみかかった。その剣幕が真に迫っていたので、私は本気で逃げた。

遠藤「『逃げるユウ。二人はもみあいになる。ユウも応戦。ユウは勢いを付けて何度かつかみかかるが、アオイにはかなわず、はねとばされ、転ぶ』」

 先輩に対し、「応戦」はなかなかできない。しかしやってみる。うまくいかない。

 先輩の表情はとても怒っているけれど、私をつかむその手には力が入っていなかった。だから私は、先輩の表情と私をつかむ手の力の弱さのギャップにとまどった。先輩は、演技として怒り、上手に私につかみかかっているふりをしている。

副部長「いいかげんにしろ!」

私「そんなに、真剣に、怒ることないじゃないか……ちょっとふざけただけなのに(泣き顔)」

 泣き真似は成功しているだろうか?

副部長「ユウはいつもそうだ。僕が真剣にやっていると、いつもちょっかいを出してくる。人の迷惑を考えない」

遠藤「『ユウは子どものように泣いている』」

 子供の泣きまねをやってみる私。ムズイ。

副部長「いつまでも子どもだ! もういいから、昼食の準備をしろ!」

私「そういえば、お腹すいたね! 今日は、僕が当番だった。……この、

(急にケロッとした表情になり)というのが難しいです。落差が激しすぎて」

部長「そうだね。ユウは子供のようで実は策略家かもしれない」

遠藤「アオイを翻弄してますね」

副部長「もしわたしがアオイだったら、そこにこそ本気で怒りを感じると思う」

私「このふたりは、交代で食事を作っているのですね」

部長「そうだね。合宿みたいな設定だ」

 私はひとりっ子で弟や妹がいないので、ユウの幼さを実際にイメージして演じることが難しかった。

私「場面を想像して演技してみたのですが、自分の演技が心もとないです。うまくできてるのかどうか」

部長「こんどは、動画を撮ってあげるから、それで確認するといいよ」

私「わかりました。ありがとうございます!」

部長「影山、頼む」

 影山先輩にも、仕事が回ってきたのだった。

部長「ところで、実際にやってみて分かったと思うけど、人と接触するシーンは、本気でやってしまってはダメなんだ。たとえば今みたいなもみ合いのシーンでも、相手を本気で引いたり押したりすると怪我をしてしまう。だから、あくまで演技としてもみ合うんだ。つまり、押される演技、引かれる演技をする。押す方、引く方は、それに合わせる。殴る方よりも、殴られる方がいかにも殴られた演技をする。ケガには注意しよう」


 その後私は副部長さんに協力してもらい、何度ももみ合いのシーンを練習した。感謝です!

 動画撮影は、次回となった。



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