衣織の物語52「synchronicity(シンクロ)」3
アオイ 邪魔するな。
ユウ だって、わかんないんだもん。
ユウはしぶしぶ少し離れた場所で数式を解く。やがて飽きてしまい、アオイへ通信する。
アオイ やめろ。
ユウ、少しして、また通信する。
アオイ (堪忍袋の緒が切れて)邪魔するなって言ってるのが、分からな
いのか!
ユウ、ふざけた表情としぐさ。
アオイ ふざけるのもいい加減にしろ。人の邪魔をして。
逃げるユウ。二人はもみあいになる。ユウも応戦。ユウは勢いを付けて何度かつかみかかるが、アオイにはかなわず、はねとばされ、転ぶ。
アオイ いいかげんにしろ!
ユウ そんなに、真剣に、怒ることないじゃないか……ちょっとふざけただけなのに。(泣き顔)
アオイ ユウはいつもそうだ。僕が真剣にやっていると、いつもちょっかいを出してくる。人の迷惑を考えない。
ユウ (子どものように泣いている)
アオイ いつまでも子どもだ。(言い捨てる) もういいから、昼食の準備をしろ!
ユウ (急にケロッとした表情になり)そういえば、お腹すいたね! 今日は、僕が当番だった。
部長「続きをやってみよう」
私は立ち上がり、副部長さんはアオイの世界に入った。
副部長「邪魔するな」
私「だって、わかんないんだもん」
ほんとにどう演じればいいかわからないので、このセリフは自分の今の状況とぴったり重なった。ちょっとすねた感じでやってみた。みんなは「うまいうまい」とか、「それ、いいじゃん」とか言っている。他人の気も知らないで。
遠藤「『ユウはしぶしぶ少し離れた場所で数式を解く。やがて飽きてしまい、アオイへ通信する』」
私「通信って、どうしたらいいですか?」
部長「スマホを操作して見たら?」
私「ハイ!」
操作する私。
副部長「やめろ」
遠藤「『ユウ、少しして、また通信する』」
再び操作する私。
副部長「邪魔するなって言ってるのが、分からないのか! アオイ!」
副部長さんの圧は、けっこう強い。
遠藤「『ユウ、ふざけた表情としぐさ』」
ここでまた私は止まってしまった。いったいどうすればいいの?
影山先輩は、「こんな感じでどう?」と言い、副部長さんに向かって顔の横で手のひらをヒラヒラさせた。私もそれを真似してやってみたけど、人の目から見てどう映っているかがはなはだ不安だった。
副部長さんは、「ふざけるのもいい加減にしろ! 人の邪魔をして!」と怒鳴りながら、いきなり私につかみかかった。その剣幕が真に迫っていたので、私は本気で逃げた。
遠藤「『逃げるユウ。二人はもみあいになる。ユウも応戦。ユウは勢いを付けて何度かつかみかかるが、アオイにはかなわず、はねとばされ、転ぶ』」
先輩に対し、「応戦」はなかなかできない。しかしやってみる。うまくいかない。
先輩の表情はとても怒っているけれど、私をつかむその手には力が入っていなかった。だから私は、先輩の表情と私をつかむ手の力の弱さのギャップにとまどった。先輩は、演技として怒り、上手に私につかみかかっているふりをしている。
副部長「いいかげんにしろ!」
私「そんなに、真剣に、怒ることないじゃないか……ちょっとふざけただけなのに(泣き顔)」
泣き真似は成功しているだろうか?
副部長「ユウはいつもそうだ。僕が真剣にやっていると、いつもちょっかいを出してくる。人の迷惑を考えない」
遠藤「『ユウは子どものように泣いている』」
子供の泣きまねをやってみる私。ムズイ。
副部長「いつまでも子どもだ! もういいから、昼食の準備をしろ!」
私「そういえば、お腹すいたね! 今日は、僕が当番だった。……この、
(急にケロッとした表情になり)というのが難しいです。落差が激しすぎて」
部長「そうだね。ユウは子供のようで実は策略家かもしれない」
遠藤「アオイを翻弄してますね」
副部長「もしわたしがアオイだったら、そこにこそ本気で怒りを感じると思う」
私「このふたりは、交代で食事を作っているのですね」
部長「そうだね。合宿みたいな設定だ」
私はひとりっ子で弟や妹がいないので、ユウの幼さを実際にイメージして演じることが難しかった。
私「場面を想像して演技してみたのですが、自分の演技が心もとないです。うまくできてるのかどうか」
部長「こんどは、動画を撮ってあげるから、それで確認するといいよ」
私「わかりました。ありがとうございます!」
部長「影山、頼む」
影山先輩にも、仕事が回ってきたのだった。
部長「ところで、実際にやってみて分かったと思うけど、人と接触するシーンは、本気でやってしまってはダメなんだ。たとえば今みたいなもみ合いのシーンでも、相手を本気で引いたり押したりすると怪我をしてしまう。だから、あくまで演技としてもみ合うんだ。つまり、押される演技、引かれる演技をする。押す方、引く方は、それに合わせる。殴る方よりも、殴られる方がいかにも殴られた演技をする。ケガには注意しよう」
その後私は副部長さんに協力してもらい、何度ももみ合いのシーンを練習した。感謝です!
動画撮影は、次回となった。




