衣織の物語49「春季発表大会」台本決め2
部室の片隅にうずたかく積まれていたホコリまみれの脚本たちの中から『シンクロ』を掘り当てたのは、影山先輩だった。自身で言うとおり、「やるときにはやる男」だ。遠藤先輩や副部長さんから得た久しぶりの称賛の声にうぬぼれる影山先輩だったけど、その後皆からジト目で見られたのは言うまでもない。
目的物が見つかったのはいいが、ゴミ山が崩されたため、その後とりあえずその近辺だけ簡単に掃除することになった。先輩方は帽子をかぶったりタオルを頭に巻いたりして、「ザ・演劇部」といういでたちだ。自慢のボブがホコリまみれになるのはとても嫌だったけど、これも仕方がない。演劇部員としての修行の一つと観念し、清掃に励んだ。ジャージに着替えての作業だったけど、演劇部はタオルを必須だ。
もう捨ててもいいんじゃない? 廃棄すべき! と思われるほど、ほとんど腐りかけた台本もあったけど、部長さんが言うにはすべて取りおいておくらしい。捨て難いということか。
台本探索と簡単といいつつ本格的な清掃が終了し、部室内の空気の入れ替えが済むのを待つために、隣の体育館の犬走で休憩することになった。前の中庭には大きなごみ袋が積まれている。その中身は、古い新聞、広告、演劇のチラシ、何かのおもちゃらしきもの、食べかけの干からびた何か、カップ麺の殻、割りばし、などなどだ。台本はこれらにまみれていた。演劇への愛の実現化には日々の清掃が欠かせないだろう。今までは、ホコリまみれの仏壇に向かって、一生懸命拝んでいるようだ。
部長さんがジュースを買ってきてくれて(サンキュー!)、それでみんなで一服していると、顧問の先生がやって来た。手に何かを持っている。
顧問「ずいぶんゴミが出たね。お疲れさま。やっと掃除する気になったのかな?」
私「(部室の掃除は長年の懸案事項だったのだろう)」
影山「ハイ! 自分が提案しました! もうそろそろやらないといけないって!」
私「(そういう人なのね)」
遠藤「手柄を独り占めするタイプです」
顧問の先生は笑っている。事情はすべてお見通しのようだ。
部長さんと副部長さんは、いつものことと、特に取り合う様子もない。
先生は、手に持っていたコピー用紙の束を部長に差し出し、「今度の発表会で上演する芝居の台本、印刷しておいたよ」と言った。
部長さんは、「すみません。ありがとうございます」と笑顔で受け取った。「それならこんなにホコリまみれになる必要はなかったじゃん」と思う全員だったけど、先生の優しい気持ちを無にすることはできない。みんなは「ありがとうございます」と言い、笑顔を先生に向けた。
その後、空気の入れ替えも済み、なかなか動かない窓をガタピシさせて無理やり閉め、私たちは部室でそれぞれ脚本を読んだ。前日に部長さんが言っていたように、キャストは女子二人のお芝居だった。「これ、どうするんだろ」と思いつつも、私も最後まで読んでみた。
実は演劇の脚本を読むのは初めてのことだった。普通の小説とは違い、セリフでほとんどできあがっている。ところどころ簡単な説明はあるけど(ト書きというらしい)、なかなか慣れない。会話から物語の全体像を把握しなければならない。登場人物の性格、舞台の背景、お芝居のテーマ。それらの答えは、最後まで読まないと得られないなーと思いながら読んでいた。
部長「今日はみんな、お疲れ様でした。掃除できたので、あの一角はきれいになりました。これで活動は終わりにしよう。明日は脚本を読み合わせしよう」
大きなごみ袋を、一人一個ずつ持ってゴミ置き場に向かい、私たちはそれぞれ帰途に就いた。
「中学時代のパソコン部とは、だいぶ趣が違うなー」と思いながら、私は自転車のペダルをこいだ。春の風が、心地よく体の熱を奪っていった。
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