衣織の物語48「春季発表大会」台本決め
演劇部が加盟する地区の高等学校演劇連盟では、毎年春に「春季発表会」が行われる。これは6月から7月に開催され、3年生の最終公演になる学校もあれば、新入生のお披露目がメインの学校もある。私の高校では、3年生は基本的に春季発表会まで活動し、あとは受験勉強まっしぐらというのが恒例だった。また、春季発表会は基本的に生徒がやりたいものを上演することになっていた。
唯一の3年生である部長にとっては最後の公演になる。
その日、部室には副部長と遠藤先輩、影山先輩がいた。
副部長「春の発表会、何にしようかな」
遠藤「何がいいだろう。また、いつもみたいにネットで探す?」
副部長「でもとりあえず、脚本集とか過去に上演した台本を読んでみたら?」
遠藤「そだね。まずはそれだ。……影山はどうなの? ずいぶん久しぶりに顔を見たけど」
私「(言葉にトゲがある)」
影山「(スマホを眺めながら)俺はみんなに任せるよ」
遠藤「お前もちゃんと、まじめに探せよ。いっつも人に頼ってないで」
影山「だって、台本読んでると、眠くなる」
遠藤「たまにはやる気出せよ!」
副部長「まぁまぁ、おちついて。」
副部長がふたりの間に割って入った。
副部長「上演までまだ日があるから、じっくり探さない?」
遠藤「そうですね。まだ、焦らなくていいですね」
影山「……」
副部長「でも、影山君も、ちゃんと探すのよ。いっつもボーっとしてないで」
影山「探しますよ、探します。俺だって、やる時にはやる男です!」
遠藤「威勢だけはいいな」
副部長「ケンカしないの」
遠藤「……前に、副部長も何か書いてみようかなって言ってた気がしたけど、春の発表会はどうですか?」
副部長「構想はあるんだけど、まだ形になってないっていうか、最後まで書ききる勇気がない」
遠藤「そうなんですね。来年の春を目指してもいいかもですね」
副部長「そうね。もう少し練ってみたい。でも、今回は、部長さんがやりたいものをやればいいと思う」
遠藤「俺もそう思います。部長さん、最後だから」
影山先輩は相変わらず、スマホを眺めていて、みんなの話を聞いているんだかどうだか定かではなかった。
そこに部長が、珍しく遅れてやってきた。
部長「おはようございます! 遅れてスマン」
皆「おはようございます!」
部長「ちょっと、顧問の先生と話してた」
副部長「先生に呼ばれてたんですか?」
部長「そう。今度の発表会の演目についての相談だった。先生とは前からちょっと話してたんだけど、その内容を説明するね。影山も聞いて」
影山先輩は部長の方に向き直った。
部長「先生が言うには、今年の秋のコンクールは、上位大会、少なくとも県大会への出場を目指したいんだって。それで、秋はこれから先生が書く脚本を上演し、春は以前うちで上演した脚本、先生が書いたやつをやりたいんだって」
副部長「それは何ですか?」
部長「『シンクロニシティ』っていう、原発が深刻な状況に陥った設定の脚本だ。数年前に先輩方が、地区コンクールで上演したらしい。」
遠藤「秋はどんな内容になりそうなんですか?」
部長「春の脚本のテーマが、そのまま秋のコンクール用に構想している脚本につながりそうなんだって。だから春に『シンクロ』をぜひやりたいって」
副部長「部長さんの考えはどうなんですか? 私たちは、春は、部長さんがやりたいものでいいと思ってるんです」
遠藤先輩も影山先輩もうなずいた。もちろん、私も。その様子を見て、部長さんは、安心したようだ。
部長「実は自分は、秋まで活動を継続したいって思ってる。それで、先生の真剣な目を見て、先生の案に乗りたいなって思った。みんなはどう?」
遠藤「部長さんがそう言うなら、自分らはそれでいいです」
部長「じゃあみんな、今年は先生の案で決まりでいいかな」
皆は賛同の意志を表した。
部長「それではさっそく、台本を探しておいて。あの山のどこかに隠れていると思うから」
そう言って部長は、部屋の片隅にホコリをかぶりうずたかく積まれた脚本たちを指さした。
影山先輩は、「ゲッ!」と言って、顔をそむけた。
副部長さんと遠藤先輩の目には、やる気の光がともった。
部長「ところで、『シンクロ』の登場人物は、女子が2人なんだ」
部長の最後の言葉に、今度は私が、「エッ!?」と言う番だった。
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