表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
衣織の物語  作者:
46/65

衣織の物語44「部活動登録」2

遠藤先輩「それで、衣織ちゃんは、どうして演劇部に入ろうと思ったの? 中学でやってたとか?」

突然話題が私に転換したのと、「ちゃん」呼びに、戸惑う私だった。それに、遠藤先輩は誰にでも距離が近い人で、今もグイグイ迫ってきてる。決して悪い人ではなく、人との交流を強く求めるタイプなのだろう。

部長「今は、上級生の自己紹介だろ。急に話を振るな」

遠藤先輩「あぁ、そうだった。ゴメン」

部長さんが間に割って入ってくれた。

私「いえいえ、大丈夫です。中学ではパソコン部でした」

遠藤先輩「そうなんだ? それで何で演劇部?」

私「中学とは違うことをやってみたかったというか、いろいろ見学した中で、この部活が、いちばん居心地がよかったものですから」

先輩方はみな、満足そうな表情を浮かべている。

副部長「そーなんだよね。演劇部っていうと、変わり者の集まりじゃないかとか、夜な夜な奇怪なオブジェを作ってるとか、たまに叫び声が学校中にこだまするとか、部室には魔物が棲むらしいなどなどの、よからぬうわさもささやかれているようだし。でも、私を筆頭に、ホントは気のいい奴らの集まりなんだ」

私「そうですね(微笑)。でも、高校の部活って、人間関係というか人間模様というかが複雑ですね」

影山先輩「エッ? どゆこと?」

それまでスマホをチラチラ眺めていた影山先輩が、急に話に入ってきた。こういう話題は興味があるようだ。

私「他の部活を見学した時に、それぞれの部活でそれぞれの人が、それぞれの事情のもとに、考えたり言葉を発したりしてたものですから」

影山先輩「俺には新入生の言ってる意味が分からない……」

遠藤先輩「お前にはちょっと難しい表現と内容だったな。でも、衣織ちゃんって、大人だね」

私「そんなことないです。ここに至るまでに、他の部活でいろいろ衝撃的なことがあったものですから」

副部長「まだ入学して日も経っていないのに、何を経験してしまったの? お姉さんに教えて。相談に乗るよ」

私「それほどのことではないのです。さっきはつい「衝撃的」って言ってしまいましたが、主に男女関係のことでして」

副部長「それならなおさら相談に乗るよ」

私「でも、私のことではないんです。他人事なのです。他人事なのですが、人の恋路ほど興味がわく話題も無いものですから」


 この時私は、少ししゃべりすぎたと思っていた。私の話は核心の周りをぐるぐる周遊している。そのはぐらかされ具合に、聞き手にとっては非常に興味がそそられる内容だ。現に今、先輩方は興味津々のご様子。

 しかしこの話題は、各部活動部員の個人情報が満載であり、うかつに話すと、人のプライバシーを激しく侵すことになってしまう。それはまずい。個人情報保護の観点からまずい。下手するとその当事者や情報源から、訴えられる恐れがある。いじめはその子の学校生活を破壊する。

 従って私は、それ以上の情報公開は絶対にしてはならぬと、この話題の詳細については固く口を閉じた。そうしてそれを曖昧な微笑で包み隠した。純粋な先輩方は、私の微笑作戦にある者は幻惑され、ある者は少しの疑義を抱きながらも見逃してくれた。それで、この話題はとりあえずこれで終わりとなった。


部長「衣織さんは、演劇部でやりたいことってある? キャスト・演者がいいか、それとも裏方・道具類の制作や音響・照明係がいいか。どう?」

私「どちらもまだ実際にやったことがないので、先輩方の活動の様子をこれから見て参考にし、判断したいと思います。できればいろんなことに挑戦したいと思っています」

遠藤「そうだね。いろいろやってみるといいよ。適性もあるだろうし、経験することも大事だし」

顧問「それぞれの立場を実際に経験すると、相手が何を考えているかとか、他の部署が何を求めているかがわかると思う。双方の視点を持って、お芝居全体を見渡すことが大事だね」

それまであまり会話に加わっていなかった顧問の先生が、この時やっと参加した。顧問の先生の言葉に、部員の皆はうなずきながら聞いていた。顧問と部員の間の信頼を感じた。


部長「遠藤も、自分の自己紹介をちゃんとやろうよ。話はその流れだろ」

遠藤「そうだった。自分は、もちろん演劇も好きだけど、実は生徒会の役員もしてる。自分も学校生活を楽しみたいし、他の生徒たちにも楽しんでもらいたいんだ」

顧問「遠藤君は、人のために働くことが苦にならないタイプなんだ。偉いよね」

部長「きさくだし、何でも積極的に取り組む前向きな人です」

遠藤「そんなことないですよ。でも、人のためにっていうのはそうですね」

遠藤先輩は恥ずかしそうにおでこに手のひらを当てた。

副部長「来年は、生徒会長候補だね」

遠藤「そんな、まだ、わからないよ」

部長「でも、遠藤なら、学校を任せられると思うよ。そちらにも時間が割かれることは、演劇部としては痛いけど」

遠藤「大丈夫です。これからも、部活と生徒会を、ちゃんと両立していきます。たしかに大変だとは思うけど」

部長「よろしくな」

遠藤「はい。分かりました。……自分も、ちょっと個人的な話をすると、うちは、家庭の事情で進学が厳しそうだから、高校生活を充実させたいっていうのもある」

部員たちはみな、遠藤先輩を見ている。

私も、人はそれぞれの事情を抱えているものだと思っていた。




#小説

#高校生

#東日本大震災

#演劇部



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ