衣織の物語43「部活動登録」1
顧問の先生と先輩方は、たったひとりの新入部員である私のために、部活動の説明と自己紹介をしてくれた。
はじめに顧問の先生から、演劇部の活動の概略が説明された。私の事前のリサーチとほとんど同じ内容だった。
顧問「高校演劇の大きな発表会は春と秋にそれぞれ一回ずつあり、秋は全国大会まで続くコンクールになる。去年の秋は部長の創作脚本だったんだけど、今年は私が何か書こうと思ってる。いま、その案を練っているところです」
先生はとてもやさしい口調で、丁寧に話してくれた。私の顔を見るような見ないような話し方の人で、おそらくシャイなのだろう。どこか寂し気なものをまとっている人だった。教科は国語。脚本を書くのが趣味だと言っていた。
次は、部員さんたちの自己紹介が始まった。
部長「もう何度か遊びに来てくれてるから、部員については衣織さんも知っている通りです。だからちょっと個人的な話をしようかな。うちは実家が肉屋で、お肉については自信があるって父親はいつも言ってる。将来はその跡を継ぎたいんだ。自分は今まであまり人前に出るタイプじゃなかったんだけど、商売をやりたいって思うようになってから、やっぱり人との会話が大事だって思って、それで演劇部に入ったんだ」
遠藤先輩「へー、そんな話、初めて聞いた」
副部長「わたしもー」
部員のみんなはちょっと驚いた表情をしていた。
影山先輩「でも、何で急にそんな話したの?」
部員「なんか、急に話したくなった。いつもはみんなと楽しくやれればいいって思って、こんな真面目な話はしなかったんだけど、自分も今年で終わりだし、演劇部最後の年に、もっと自分を出してもいいかなって思った。せっかく一年生が入ってくれたわけだし、たまにはこんなのもいいかなって」
影山先輩「肉屋だから栄養満点の体つきをしてるんだ」
部長さんは、「今は体型の話題じゃないだろ」といって笑った。
部長「人がせっかく真面目にいい話をしようとしてるのに、影山はいっつもまぜっかえす」
影山先輩はちょっとだけすまなそうな顔のふりをした。
部長「でも、ほんと、今度の秋のコンクールは、県大会に行きたいんだ。去年のリベンジだ」
部長さんの目は真剣だった。
他の部員さんたちの表情も、引き締まった。
顧問の先生は、私に向かって言った。
顧問「去年の秋のコンクールは、部長のオリジナル脚本を上演したんだ。戦争の話だったんだけど、審査員の人も、他校の先生方も、みんなほめてくれた。戦場の話なんだけど、武器で戦うのではなく、戦争の様子をカメラに収め、それを報道することで戦いを止めさせようとするカメラマンの物語だった」
ふだんは温和な部長さんに、そんな熱い意志があったなんて、意外だった。くまさんにも、演劇への強い思いがあるのだった。
副部長「次は私が自己紹介するね。これまで演劇部は、女子が私一人だけだったから、今年こそ女子部員が入ってくれないかなーって思ってた。女子と、演劇の楽しさを分かち合いたいんだ。それと、私ははじめから積極的に演劇やりたいって思ってたわけじゃなくて、美術部に居づらくなってこっちに来た。一年の途中で転部したんだ」
副部長さんの視線は窓の外にあり、何かを思い出している様子だった。
副部長「でも、今は、それがよかったと思ってる。演劇に出会えたから。人前で演じることが、物語が、こんなに面白いとは思わなかった。」
副部長さんは、演劇に対する自分の興奮と情熱を、みんなに話しながら私に伝えようとしていた。
副部長さんは、「その楽しさを、女子とも共有したいんだ。今まで周りはむさくるしい男子ばっかりだったから」と言って、茶目っ気たっぷりに笑った。彼女はふだんはムスッとしている印象なんだけど、笑顔がステキな人だった。
副部長「私は演劇が好きなの。だから、お芝居をずっと続けていきたいと思ってる。高校を卒業した後も。」
男子部員たちは彼女の宣言にも驚いていた。これも、部員の前では初めての告白なのだろう。
既に何度か会っているとはいえ、みんなの個人的な事情や将来の希望を聞いて、私は何かすまないような気がしていた。まだ入部したてのヒヨッコなのに、こんな大切な話を聞いてしまっていいものだろうか。
副部長「なんか、部長さんにつられて、言わなくていいことまでしゃべっちゃった。テヘ。でも、演劇に対する情熱は、誰にも負けないよ!」
副部長の愛嬌に、周りの部員は反応に困っていた。でもそこには、色恋沙汰が絡んでいない。男子部員たちは、彼女をあたたかく見守っている。
こう言っては失礼なのだが、副部長さんは、物事がやや取っ散らかるタイプの人だ。思いが先走って空回りする。一生懸命が裏目に出るかわいそうな人かもしれない。




