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衣織の物語  作者:
44/65

衣織の物語42「ママへの相談」

 家に帰ってさっそくママへの相談だ。

私「ママ、私、演劇部に入部しようかと思って」

ママ「(あっけにとられた表情)」

私「エッ? 何かおかしい? 反対?」

ママ「おかしいというかなんというか……反対ではないよ」

私「反対ではないけど何なの?」(またケンカを吹っ掛けようとしてるの?)

ママ「チョット意外で驚いただけ」

私「そんなに意外? 私に似合わない?」

ママ「そういうことでもないんだけど、できるの?」

私「できるよ、私にも。でも、「できるの」ってどういう意味?」

ママ「いやー、できるのかなーと、ちょっと思って」

私「歯切れの悪い言葉だなー。もっとはっきり言って」

ママ「いやー、特に言うことはない」 

私「(コイツ、ケンカ売ってんのか?)」


 でも私は思っていた。分かっていた。ママは私という人間をよーくわかっている。理解している。精神的な貴族だということを。

 貴族の小娘に崩れかけのこ汚い小屋でのチマチマとした小道具制作や、他のなにものかの役を演ずることなどできるだろーか? いや、できない。(反語) 

 おまけに今までそんなことをやったことがない。初心者だ。たしかに幼稚園では妖精役を何とかこなした。主役でないことについては我が家でひと悶着があった。しかし涙を呑んで引き立て役を見事に演じた。しかしたかが園児の戯れ。高校演劇の真剣さに太刀打ちできるものではないだろう。そうママは踏んでいるのだ。


 私は私なりに葛藤はあった。たとえるならば、初めて足のつかない深いプールで泳ぐ気持ち。しかも周りが全員先輩という、貴族にとっては不利な状況。表面は下手に出ていても、腹の中は貴族だ。相手を見下すということではないが、すべてを達観しておる。細かいことには無頓着だ。従って、雑然とした部室にもヘーキな顔でなじんでおる。


 でもとりあえず、ママから演劇部入部の了解を得た。(ような気がする)


 部活動登録の日、帰りのショートホームルームで、担任から入部届けが配られた。クラスの人を何人か演劇部に誘ったのだが、みな、学校の七不思議に恐れをなし、同行する者はいなかった。


 演劇部顧問は二年の担任をしており、入部希望者は二年生も三年生もそのクラスに集合する。恐るおそる二年二組を廊下から覗いてみると、先輩方と顧問の先生が既に集合し話をしていた。


顧問「今年は何人入部するかな? できるだけ多いといいんだけど」

部長「本当にそうですね。このままだと演劇部存亡の危機です」

副部長「私は女子に入部してほしい。女子一人は辛い」

部長「そうだね。女子一人だけだとやりずらいこともあるだろうし」

遠藤先輩「男子の後輩も欲しい」

部長「うん」

顧問「今年は何人くらい見学に来たの」

部長「それが……一人だけだったんです」

影山先輩「なんでもいいから入ってほしい」

部長「なんでもは良くない(笑)」


 特に取り柄のない私は、非常に教室に入りにくくなった。


 入り口でもじもじしている私に気づいてくれたのは、やはり部長さんだった。

「アッ、こないだ見学に来た子」と言いながら優しい笑顔で私に近づく部長さん。

 恋をしそうです。それほどイケメンじゃないけど。くまさんだけど。

 部長さんの言葉と行動を受け、他の先輩方もどっと私に近づく。(コワイ。けどうれしい)

私「演劇部の会場は、こちらでよろしいでしょうか?」

副部長「そうだよ! 入部希望?」

 彼女の目線は、私の両手にしっかりと握られている入部届けに向けられていた。

 他の先輩方も興味津々の表情で私を取り囲む。顧問の先生だけは、教卓の所でほほ笑んでいる。

私「ハイ。入部希望デス」

先輩方「やったー! これでとりあえずつぶれずに済むー!」

私「(?)」

部長「新入部員ゼロの部活動は、今年から休部になる規定になったんだ」

私「エッ! そうなんですか?」

副部長「そうなの。だから私たち、ドキドキしちゃって。誰も入らなかったらどーしよーって」

私「そうですね!」


 私は思っていた。

 私は望まれている。歓迎されている。なんなら、私という存在が、演劇部の救いの神となっている。

 これであれば、少なくともイジメられることはないだろう。

 先輩方に優しく接してほしい私だった。


 中学を卒業したばかりの新入生にとって、高校の先輩方は既にオトナだ。科学部のお姉さま方しかり、弓道部の副部長しかり。


 結局、私の他に新入部員が現れることはなかった。

 ということで、私ひとりに対する部活動紹介が、顧問の先生と先輩方によって始まった。

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