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衣織の物語  作者:
40/65

衣織の物語38「部活動紹介」弓道部2

※先に言うと、弓道の話は全く出てこないので、あしからず。男子部長への恋に悩む女子副部長の話である。


先輩「実は私、これが初恋なの」

私「……」(キター! しかもイキナリ! 私、この人のこと、何も知らないんだけどー!)

先輩「初めて人を、好きになった……ほら、私って、しっかりしてるってみんなから思われてるし、自分でもしっかりしなきゃって思ってるから、今まで仕事を優先してきたの」

私「(うなずく)」(キャリアウーマンみたい)

先輩「今は、部活に行くのが、前よりズーッと楽しいし、部活中も楽しい」

私「(うなずく)」

先輩「みんなが帰った後、残務整理で残ってる部室で部長さんと二人っきりになると、どーしていいかわからなくなる」

私「(うなずく)」

先輩「今まで自分を抑えてた分、彼に対する思いがどんどん強くなって、今までの自分が変わってしまうっていうか、今までとは違う自分がここにいるっていうか」

私「(うなずく)」

先輩「自分で自分の気持ちがコントロールできない。それが自分でも腹立たしい。このままでは、どーにかなっちゃうんじゃないかって恐れてる」

私「(うなずく)」(そろそろさすがに、居心地の悪さを感じ始めてる)

先輩「こないだなんか、部室に二人だけだった時、急に後ろから抱きつきたくなった」

私「……」(反応に困る)

先輩「もうちょっとで、危なかった。すんでのところで、自制心が勝った」(微笑)

私「……」(この微笑には、どう反応したらいいんだ?)

先輩「でも、こんど同じ状況になったら、どーなるかわからない」

私「……」(なんか、私が脅されてる気分)

先輩「自分で自分を止められる気がしない」

私「……」(私にも止められない)

先輩「ねえ、どーしたらいーと思う?」(小首をかしげて微笑)

私「……」


 私は思った。いま私は、この先輩に試されているのかと。この妖艶な微笑の意味するものは、いったい何なのかと。微笑む相手が違うでしょうと。しかも小首をかしげてる。私がこの表現を使うのは、人生で初めてである。それくらい見事な子首かしげ攻撃である。私は何の意味も持たない曖昧な微笑を浮かべ、恥じらいながらうつむく先輩の横顔を見ていた。


 「部長さん」から「彼」への変化。それがすべてであろう。「弓道部部長」としての存在ではなく、ひとりの人間としての存在へと、「彼」は転換・変移したのである。彼女の意識の中での彼の存在の意味の変化。

 でも、変わってしまったものはしょーがない。「彼」へと突き進むべきであろう。もはや「彼女」も「副部長」ではなくなったのだ。「彼」の「彼女」としての地位を築くため、猛進すべきであろう。他者として、私はまさに他人事のようにそう思っていた。他人事は他人事だが、高校生活において、恋愛は必須であろうし、ちょうどよい相手が目の前にいるのだから、チャレンジしてみてはどーだろーか。私は応援する人である。ジャンジャン応援するぞー! 当たって砕けたって、いーじゃないか! それが青春というものだ! 青春には、失敗がつきものだ! 恐れることはないぞー!

 これらの内容をオブラートに包み、私は副部長さんにやさしく語りかけた。「先輩なら大丈夫です。勇気を出してください」と。


 その後二人がどうなったのかは、知らない。そう聞いて、腰が砕けたみなさんもいるだろーが、実際そーなのだ。なぜなら、あの日以来、彼女に会っていないし、弓道部にも行っていないからだ。つまり私は、弓道部に入部しなかったのである。だって、人が多いんだもの。多すぎる。パチンコみたいなゴムひもを伸ばす練習ばかりでは、私と言う人間は飽きてしまうだろう。しかも半年間も! なぜなら私は、貴族であるから。そう予測して、入部を断念した。

 先ほど、あれだけ、「応援するぞー!」と大きな声を出していた私ではあるが、当人に会わないことには応援できない。相談にも乗れない。これはいたしかたないことである。

 でも、言葉に出しては言わないけれど、彼女のことは応援している。その気持ちはホントにあるんだよ。

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