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衣織の物語  作者:
37/65

衣織の物語35「部活動紹介」理科部2

「ガタン」

 座っていた椅子を鳴らして、大奥1が急に立ち上がった。優しく微笑む笑顔の裏に、般若の面が見える。コワイ。コワスギル。

大奥1「ところであなた、中学は何部だったの? 理科部的なこと、何かやったことある?」

 トゲがある。言葉にイバラがたくさんついている。下手に触れると、私と言う風船は、あっという間にはじけてしまう。さあ、何と答える、私。

私「中学はッ、パソコン部でしたッ」

 ほとんど体育会系の返事になっている。でも、ここは理科部である。でも、仕方がない。この返事が最適解のように思われる。

 私の答えに対する大奥たちの反応は、「あーそー。インキャね」「まー見た目もインキャだけどね」「どーせゲームでもして遊んでたんでしょ」「それか、二次元とかね」というものだった。大奥たちの表情からそれらを読み取った私は、ただ小さくなってうつむいていた。大人の女、コワイ。大奥たちは、互いに目配せし、そして彼に目線を送った。「あなたもそー思うでしょ」と。しかし、彼の対応は違った。

彼「実は最近、どの部も部員が少なくなってきてて、君みたいに入部希望者が来てくれると、ホント心強いんだ。ほら、うちの高校、部活動全入ってわけじゃないでしょ。だから部員が減少の一途をたどってるわけ。他の部活もいろいろ見学してみて、やっぱり理科部がイイナーって思ったら、ぜひ前向きに検討してください」(笑顔)

 この人は、ホント、どれだけ私の心を射抜けば気が済むの―って感じだった。「検討してください」って、丁寧語だよ、丁寧語。ふつう3年生が、ついさっきまでチューボーだった新入生のヒヨッコに、こーゆー心遣いができる。こんな人って、いるんだねー♡ 「先輩がそこまでおっしゃるなら、今すぐにでも入部届を書きますよー、何枚でもー」って心で思って、笑顔を返した私。


 「しまった、油断した」、と思ったが、後の祭りだった。さっき、理科部室は凍ったよね。それが今は、火炎が燃え盛ってるんですけどー。あなたならどーする? 大奥たちが、般若の面を前面に出してきたのだ。さっきは微笑の後ろに隠れてた。それが今や、素敵な彼がいるのに般若である。その怒りに満ちた顔を、彼に見られてもいーの? と、震えながら私は思っていた。


※以下、カッコ内は私の感想。

大奥3「それじゃーどーかしら、部長の彼もこう言っていることだし、見学だけじゃなくて、体験入部してみては?(彼をチラ見)」(なんか怖い)

大奥4「そーだね。それがてっとり早くていーね(彼をチラ見)」(なにがてっとり早いの?)

大奥1「私たちも、新学期が始まったばかりでいろいろ忙しいから、新入生に片づけとか運んだりとか手伝ってもらえると助かるかも(彼をチラ見)」(入部後は、とーぶんの間ジャージか?)

大奥2「そーだね。パソコン部だったなら、薬品管理とかパソコンでやってもらえるといーね(彼をチラ見)」(イケナイものを調合させられそう)

 みなさん、私はどーすればいーのでしょー泣。


 この時私は思った。これは、あれだ。この大奥たちは、彼のことを狙っているのだ。部員として、部の運営に悪い影響が出ることを懸念してはっきりとは表に出さないが、4人が4人とも、確実に彼を狙っている。

 私はこの時、理科部の核心をつかんだ。私がつけ入るスキはない。私の居場所はここにはない。彼をあきらめるのはつらいけど!

 その大奥まさりの雰囲気に、「今日はとりあえず、これで失礼します」と言って、そのあとすぐにスゴスゴと退散したのは言うまでもない。

 そうして、私が理科部を訪ねることは二度となかった。


 でも、彼と天体観測したかったなー……

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