表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
衣織の物語  作者:
36/65

衣織の物語34「部活動紹介」理科部1

 野球部の次に紹介したいのは、理科部。(ただし野球部は、紹介したくて紹介したのではない。ことの成り行きで前回たまたま話題になっただけ。)

 入学式の日に校門をくぐると、生徒昇降口に続く一筋の細い道ができており、その両側には先輩方がたくさん並んでいらっしゃった。天気が良かったこともあるが、そのお姿は、とてもキラキラ輝いていた。歩を進めるたびに両側からたくさんのチラシが差し出され、または無理やり押し付けられ、あっという間に両手はチラシでいっぱいになった。けっこう、もみくちゃに近い感じだった。なかなか前に進めない。あちこちから掛けられる先輩方の部活動勧誘の声。チラシを配るその笑顔。この光景は、私の入学の日の良い思い出である。


 それでね、数多(あまた)の先輩方の中で、理科部の男子が一番のイケメンだった。こんなもみくちゃの状況下でも、イケメンに対するアンテナは高く掲げられているのが私である。柔らかなほほえみとともに、「理科部へどーぞ」と言いながら控えめに私にチラシを渡してくれた彼の姿は、その後数日間、私の心をトリコにした。「サエナイ男子ばかりじゃない! ちゃんとイケメンもいるじゃん!」と、これから始まる高校生活に胸を膨らませたのだ。


 入学式の次の日からはさっそく部活動見学・体験入部期間となった。「理科部は土日に天体観測をするらしーよー」といううわさを耳にした私は、あのイケメンとの再会に胸躍らせながら部室に赴いた。ちょっと覗いてみよーと思ったのだ。


 今年は皆既月食がある。夕方の暗くなりつつある学校の屋上に彼と私はいる。他の理科部員たちは、観測に備え、コンビニに買い出しだ。

 やがてゆっくりと月食が始まる。今年の月食は、月のそばで金星もかすかに輝く。私も彼のそばで静かに輝きたい(キャッ)。妄想全開である。

 しかし現実は厳しい。(このセリフ、何回目?) 恐るおそる開けた理科部部室の扉の向こうには、コワモテのお姉さま方が4人、控えていらっしゃった。ひとりは理科の実験器具を調整し、もうひとりはそれを手伝っていた。中学では見たことのない機械だった。別のひとりは部室入り口のドアの真正面に座り、最後のひとりはそのそばに立っていた。その時の私の第一印象は、「ここは大奥か?」だった。

大奥1「あら、さっそく新入生が来たわね」(椅子に座っている人)

私「(怖ッ)失礼します。こんにちは」

大奥2(大奥1の隣で立っている人。私の姿を上から下まで眺め)「こんにちは。体験入部かな?」

私「ハイ! ちょっと見学させていただいてもよろしいでしょうか?」

大奥3・4(私を振り返り)「まあ、いらっしゃい。どうぞ、中に入って」(器具調整中の2人)

 私はお姉さま方の存在感と迫力に足がすくんでいた。入室の一歩が出ない。高校新入生にとって、先輩方は、もう大人だ。大人の女性と対面し会話している気分である。自分が小さく弱々しい子供に感じる。初めから勝敗は決まっている。

私「(勇気を振り絞り)理科部の活動を見学に来ましたー」

 その時、奥の部屋から物音が聞こえた。「誰か来た―?」という声とともに半開きだったドアがさらに開き、先日の彼が急に顔を出した。白衣を着ている。カッコよさ倍増しだ。

「(アッ。入学式の日の子)」という彼の表情に、仲間を見つけたような気がして幾分救われたが、大奥2がすぐに彼に近づき、見学希望らしーよーとおっしゃった。その目の端には、確実に私が映っている。

彼「そーなんだ。理科部へようこそ。君、こないだの人だよね」

 彼の私に対する親し気な言葉遣いと雰囲気に、理科部部室が一瞬にして凍ったことを今でも覚えている。私は敏感にそれを察知し、この場に最も適切な返事と対応をした。この時、私の脳内コンピューターはフル稼働していた。

私「いま、いろいろな部活を見学してまして、理科部さんもぜひ見学させていただこうかなーと思ってきましたッ」(ペコリ)

 そつがない。いかにも新入生らしい、ういういしさと謙虚さを兼ね備えた言葉遣いと態度。なぜなら、いま、ぜったいになれなれしくしてはならないからだ。この場で彼に対してそんな対応をしてしまったら、私の高校生活は終わってしまう。いや、人生の終焉にまでつながりかねない。生きてここから出られない。ここは大奥である。ガンバレ私。

彼「そーだね。いろいろ見てみると、いーかもね」

 すごく素敵なヒトである。言葉も表情も雰囲気も、すごく優しい。メガネも似合ってる。新入生である私の緊張を察して、それをほぐすように気遣ってくれている。こんな先輩もこの高校にはいるんだーと思って、私の心は一瞬で彼に持っていかれそーになった。


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ