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衣織の物語  作者:
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衣織の物語27「浪江町11」~十日市ダンス~

 スパゲッティの衝撃は、私たち家族にとって大きかったようで(食べ物の恨みは恐ろしい?)、だいぶ後になってからも三人の話題になった。カルボナーラを食べるなら(私)、ペペロンチーノを食べるなら(パパ)、フレッシュトマトのスパゲッティをたべるなら(ママ)、やはりあの店しかないだろうという話である。相変わらず、味への疑念は払拭されていない。思い出の場所でもある。しかし、車で行くと片道2時間はかかる。一歩が踏み出せないだろうなぁ。勇気が出ないよ。ということに落ち着いた。でも、次回もし相双地区に行くことになったら、またあの店に行くのだろうか?


 食べ物の話つながりで、パパが、「そういえば、浪江の時によく出前を取ってた店も、味が変わってしまっていたね」と言った。浪江町は、町役場の機能を二本松に移しており、毎年行われていた十日市祭りを、二本松駅前で行ったことがあった。そこで実は、私が通っていた幼稚園にかつて在籍していた園児たちが集まり、ダンスを踊ったことがある。その時に、よく出前を取っていた店も出店していて、パパとママは、カツ丼ともりそばを注文して食べた。私は焼そばを食べた。私もカツ丼を少しもらって食べたのだが、味があまりよろしくない。パパは、「前はあんなにおいしかったのに、どうしたんだろう」と言った。「醤油を変えたのかな。水が違うせいかしら」とママが言った。わたしも、「焼きそば、こんな味だっけ?」って、ちょっと思った。場所が変わると、仕入れる材料も変わるだろうし、水も変わる。そのせいだろうか。厨房を覗いたパパは、「作ってるおじさんは、確かに前と同じ人なんだけど」と言う。「せっかく店を再開させたって聞いて来たのに、残念ね」とママは言う。「なんとか、もとの味に戻せないものかなー」とパパも非常に残念がっている。「なんか、悲しいね」とママが言った。私は黙って焼きそばを食べていた。


 二本松で行われる十日市まつりで、私が通っていた幼稚園の子たちが集まりダンスを踊る計画があることを聞いたのは、上演の二か月ほど前のことだった。それから定期的にみんなで集まり、園長先生をはじめとして、幼稚園の先生方の指導の下、二本松の別の会場に集合して練習が行われた。その時、私はまだ5歳で、親に言われるままトコトコついていったのだが、久しぶりに会う子や先生方の姿に、なぜかとても緊張した。同じクラスだった子はいなかったのが残念だったけど、園長先生は以前と同じ大きな声で、テキパキと指示している。先生方も手慣れた様子で子供たちをグループに分け、それぞれのグループごとに振り付けの練習を始めた。「離れ離れになってからだいぶ時間が経ったけど、先生たちと園児たちの呼吸がぴったり合ってたよ」とパパが言った。避難する前は、私にとってはちょっと怖い先生たちだった印象があり、練習はコワゴワだったんだけど、私もだんだん慣れてきて、本番当日も大丈夫だろうと思った。実際に、当日は、楽しんで踊ることができた。パパの車の運転で二本松に向かい、ママも付き添いで来てくれた。私の髪を整えたり、服を着替えたりする場面で、ママに手伝ってもらった。

 本番当日、控室には、すでにたくさんの子供たちが来ていて、先生が準備してくれた衣装に着替えている子もいた。先生方はあちこちで、みんなの着替えの世話をしている。

 本番前に、園長先生から挨拶があった。「久しぶりにみんなの元気な顔を見ることができて、大変うれしい。今回、十日市に幼稚園として参加できて本当に良かった。お父さん・お母さん方もお疲れ様です。今日はみんなでお祭りを楽しんで踊りましょう」という内容だった。いつものとおりとてもはきはきとしている。みんなをまとめ、再会を喜び、今日を機会に現在の困難を乗り越えようという強い気持ちを感じた挨拶だった。子供の私にも理解でき、心がジーンとした。

 衣装に着替えた私を見て、ママは満足そうだった。パパは浮かない顔してた。私が上手に踊れるか心配だったのだろうか?

 いよいよ私たちの出番だ。ダンスの前に、司会のお姉さんが、幼稚園の紹介と、今回、園児たちが集まって踊ることになった経緯を話してくれた。それが終わると、先生の指示に従い、私たちはステージに並んだ。ステージの上には、「復興なみえ町十日市」と書かれた掲示板がある。私たち女の子の衣装は、赤い上着に白いスカート。髪にはみんなでおそろいのリボン。男の子たちはよさこいの衣装に似てるカッコイイ衣装。ダンス自体は、今考えるとたわいのない短いものだったけど、踊り終えてお客さんの拍手をもらったときは、みんな充実感を味わっていたと思う。客席の保護者はみな泣いていた。私のパパとママも泣いていた。ステージ袖にいた司会のお姉さんも泣いていた。私はちょっと、うれしかった。


 後で聞いたら、上演前のパパの表情は、私への心配ではなかった。原発事故により、遠く離れ離れになった幼い子供たちが、お祭りを機会に集まれたことへのしみじみとした気持ち。保護者の人たちが、遠路はるばるこの日のために都合をつけて集まったことへの、保護者に対する共感。園長先生や先生方が、かいがいしく、かつての園児たちの世話や指示をしていることへの感謝。先生の指示に素直に従い、それぞれ精いっぱい踊っている園児たちへの感動。強制的に切り離されてしまった人と人とのつながりが、今日、多少なりとも復活できたことに対するさまざまの複雑な感情が表れた表情だった。


 十日市ダンスが終わると、園児たちはそれぞれの避難先に戻っていった。


#小説

#中学生

#東日本大震災

#浪江町

#アスナロ幼稚園


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