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衣織の物語  作者:
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衣織の物語24「浪江町8」~かつての我が家~

 町役場駐車場に置いていた車に戻り、以前住んでいた我が家に向かった。その途中にある中学校はきれいに整備され、小学校と併設されていた。幼保施設も敷地内に新設された。広い校庭は、人工芝で整備されている。すべてがとても新しく立派だ。ここに、いったい何人の子供たちが通っているのだろう。その中には、私の同級生もいるのだろうか。さよならも言えずに別れた、仲良しだった子の顔が思い浮かんだ。

 そこから少し行ったところに、私たちが借りていた家がある。今は別の人が住んでいて、遠くから眺めることしかできなかった。家の壁はペンキできれいに塗り直され、古さを感じさせない。今住んでいるらしき人が、庭で作業をしていた。その周りを取り囲むように建っている家々の何件かからは、帰町したらしい様子がうかがわれた。窓にカーテンがかかっていたり、ずいぶん遠い町のナンバーが付いた車が置いてあったりする。あんな遠くまで避難したのだろうか。

 遠くから眺めたかつての我が家は、私が生まれてから4歳まで住んだ家だけど、もう他人の家になったのだと思った。夏の暑い日には軒下に小さなビニールプールを置き、ママとばちゃばちゃ遊んだこと。夕方にはみんなで花火をしたこと。私は線香花火が好きだったそうだ。パパの夏休みには、すぐ近くにある海に出かけたこと。私は、「うみー!」と叫びながら、海に一直線に走って行くので、パパが慌てて走って行き取り押さえたこと。私が砂浜の上に書く人物には、胴体からいきなり手のひらが生えていたらしいこと。砂だらけの水着のまま車に乗り、家に帰ってきたこと。冬には家のすぐそばにある川の土手でソリをしたこと。ひとりでソリに乗った私が仰向け状態で斜面を落ちていって、そのまま川に落ちてしまうのではないかとママが焦ったこと。春と秋には土手に花が咲く河川敷の小さな公園を、ママと毎日お散歩したこと。

 そんないろんなことを、急に思い出した。私の小さい日々の思い出も、やがて消え去っていくのだろうか。あの時と同じように、近くを走る国道の橋からは、車が通る音が聞こえてくる。

 ずーっと一度は帰りたかった浪江と自宅だったけど、なんか、気持ちが切れた気がした。またここに戻ることは、もしかしたら無いかもしれない。


 パパもママも私も、車の中での会話が少なくなっていた。次の目的地は、すぐそばにある請戸小学校だ。海に向かって車を進める。道路わきはとにかく雑草だらけで、蔓が路上にまではびこっていて、車の通行を妨げる。海に近づくに従って、中に何があるのだろうか、パネルで隔てられた区域や、新しく建てられた海産物の加工場などがあり、平地の中にポツンと請戸小学校が建っていた。小学校の前の駐車場から眺めると、校舎の一階は壁が無く、吹き曝しになっている。ここは10メートルを超える津波に襲われたそうだが、幸いなことに津波が来る前に、学校の西にある大平山に向かって、小学生たちはみんなで走って逃げたらしい。大平山はここからけっこう遠くに見える。おそらく1000メートル以上離れているだろう。後ろから津波が襲ってくる恐怖心を持って逃げた子どもたち。小学生の足では、とっても遠く感じただろう。駐車場から南側を眺めると、東京電力福島第一原子力発電所の煙突やクレーンが、手の届きそうなところに見える。その時私は、「今、ここにいていいのだろうか」と思った。


 大平山には、新しくお墓が整備されていた。震災後に作ったもののようで、慰霊碑が立っていた。壁面には震災で亡くなった人たちの名前が刻まれており、その反対側には、震災を忘れてはいけないことや天災に備えることの大切さが記されていた。パパとママは慰霊碑に向かって手を合わせた。私は海を眺めてた。

 その後パパが、大平山のふもとまで津波が襲ってきたことや浸水範囲などを教えてくれた。お墓は小高い場所にあり、後ろに大平山が控えている。それ以外の三方は、ほぼ津波にさらされたらしい。東の海の近くには、かつて漁村があり、家々が立ち並んでいた。それが今は、なにも無い。新しく作られた高い堤防が南北にはるかに続き、海への視界を遮るほどだった。

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