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衣織の物語  作者:
19/41

衣織の物語18「浪江町2」~白い煙と線香の香り~

 浪江までは、現在私が住む町から車で一時間半くらいの距離である。途中、のどかな山あいの道を通る。パパもいい感じで運転してる。ドライブにぴったりの道路だった。ママはいつもの半眼。私はスマホ時々外の景色。それぞれがそれぞれである。いつもの我が家族だ。


 たまに外を眺めると、10月の下旬だけど、まだ紅葉はそれほど進んでいなかった。山の斜面や道端の木々が、ところどころ黄色や赤に色づいているだけ。よきかな。


 浪江までの道路は、補修工事が進んでいた。でこぼこも少なくなり、トンネルが新しくいくつかできていて、快適な道のりだった。この国道を私は何度か通ったことがあるらしいが、当時はまだ4歳だったため、よく覚えていない。何カ所かの景色が、うっすらと記憶の底の方にあるだけだ。パパが放射線の線量計を持ってきていたので、海に近づくにつれて、ママと交互にそれを眺めた。パパは何度か、町の様子を見たり用事があったりして浜通りに来ていたので、そのころと比べると、10年経って、だいぶ線量は落ちていると言っていた。それでも、山間地では、今、私が住んでいるところの7倍ぐらい線量が高いところがあった。警戒区域であっても道路を走ることはできるのだが、道路の両側の家や脇道の前は、鉄パイプなどで封鎖されている。今でも立ち入り禁止だそうだ。そんな場所に今、自分がいることの不思議さや疑念が生じたが、故郷に帰るためには通らねばならぬ道なので、仕方がない。ちょっと暑かったけど、車の窓を閉めて走った。

 海に近づくにつれて、線量の数値が場所によってホントに違う。ひとくくりにはできないとパパが言っていた。


 国道を左に折れ、みんなが山麓線と呼んでいる道を通り、ママの実家に向かった。セイタカアワダチソウが、波のようにうねってあたりを占領している。道路わきも、田んぼだったところも、畑も、みんなだ。震災後は、ずっとこうだとパパが言っていた。


 途中のバラ園は荒れ果てていた。入り口や建物は壊れて黒ずんでおり、バラ園の反対側にあるゴーカート場も植物で覆われていた。ゴーカートが何台か、整然と並んでいるのが不思議な感じがした。その道を進むと、大堀という相馬焼の里がある。その前後の山道も含め、線量が他と比べると非常に高い場所だった。誰もいない町に窯元が並んでいる様子は、映画か何かのセットのような気がした。私が今住んでる町にも、相馬焼の人が避難していて、窯を開いている。その道をもう少し進んで右折すると、ママの実家だ。ママも帰るのは10年ぶりとあって、住み慣れた場所のはずなのに、「この道をここで曲がるんだ。ぜんぜんわからなかった」と言ってた。


 初めに、ママの実家のお墓参りをした。小高いところの南斜面にあるお墓は、震災当時、墓石がほぼすべて倒れてしまったそうだ。今は、前と同じ状態に戻っているが、よく見ると、墓石の縁が欠けているものが多かった。倒れた時に傷ついたのだろう。ちっちゃいころによく遊んだひいおばあちゃんが眠っているお墓にお参りした。虫が多かったけど、我慢して手を合わせた。私も線香をあげた。白い煙が漂い、線香の香りが鼻に残った。

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