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衣織の物語  作者:
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衣織の物語9「忍野八海心中事件1」

 ディ〇ニーランドのかわりに、別の遊園地に行った。ふだんの優雅なふるまいからは、みなさん想像もつかないだろうが、私は絶叫系が好きだ。絶叫系に乗り、実際に絶叫するのである。貴族のストレス発散である。私のふだんの姿とのギャップに、男子たちはメロメロになるであろう。そう踏んでいたが、期待は外れるものである。(でも、楽しめたからいいや)

 いくつかの絶叫系に乗り、叫び疲れた私は観覧車に乗った。宿舎の同じ部屋の人(「部屋割り班」という)と一緒だった。普段あまり接点のない人なのだが、旅先の高揚感から、それもまたいいだろうと思って乗ったのだった。そして彼女から、意外な話を聞くことになる。

 彼女は、演劇部に所属している。私も中学入学当初、気の迷いから演劇部に入部しようかと思った瞬間があったが、体験入部の段階で、これは自分には合わない、と思い、辞退した。顧問の先生や演劇部の先輩方からは強く入部を誘われた。しかし、断った。私は貴族である。それ以外の役はできない。この決定的要因により、入部はあきらめた。先輩方は大変残念そうであった。(その年の秋のコンクールで、シェークスピアを上演する予定だったらしい)

 それで、その子の話なんだけど、その子は演劇部員で、大変困ったことに遭遇したらしい。というのも、わが校には秋の文化祭という一大行事がある。演劇部は頑張って、自分たちで創作した作品を上演する予定だったようだ。上流階級の男女の悲恋である。(わが校の演劇部は、よほどシェークスピア的なものが好きらしい) その子は主役の女性に抜擢されたらしいが、困ったことに、実際に男子と付き合った経験がなく、また実家は庶民だった。(失礼) 貴族の振る舞いがわからない。私は貴族であるからにして、その貴族である私に、上流階級のお嬢様の立ち居振舞いや思考回路、言葉遣いなどを学びたいらしい。みんなの前で練習するのは恥ずかしい。観覧車の中は、ある意味、密室である。私に「ぜひ貴族の振る舞いをご教授願えないだろうか?」ということで、仕方なく協力することになった。私といえば、ちょっと気になる男子と観覧車の思い出を作ることを画策していたのだが、やはり期待は外れるものである。愁いを含んだ者同士、救いの手を差し伸べることにした。上品なふるまいに上達することよりも、恋愛経験のなさの方が核心だと思われたが、しばらくは彼女の言に従うことにした。


私「それで、どういう話なの?」

演劇部員「人目を忍んで愛し合うふたりが、忍野八海で心中する話なの」

私「なかなかエグい話だね。今の端的な解説聞いただけで、もうお芝居を見なくてもいいような気がしたよ」

演劇部員「そんなこと言わないで、いろいろ教えてよ。私さんて、時々毒を吐くけど、基本的に上品だし、ふるまいも優雅だよ」

私「毒は吐かないよ。相手に良きと思って、言ってあげてるだけだよ」

演劇部員「そーなんだ」

私「そーなんです。だから、常に上品よ♡」

演劇部員「そうだね。それで、私は大きな会社の社長の娘で、相手の男の人は、その会社の新入社員なの。でも実は、ライバル会社の跡取り息子なのね。テキジョウシサツってやつ? 身分を隠して、うちの会社にうまくもぐりこんでるって設定なの」

私「ありがちだね」

演劇部員「そーだね。私の役の女の人も、素性を隠して自分の会社で働いてるの。父親が、修行のためって言ってね」

私「なるほど。それでふたりは、互いの素性を知らずに、いつの間にか恋に落ちるってわけね」

演劇部員「ピンポーン。けっこうドタバタなの。で、ラストは、ふたりの恋が皆に認めてもらえなくって、忍野八海で死ぬって話なの」

私「ドタバタも過ぎるね。心中しちゃうってところがイタイね」

演劇部員「脚本書いた子の趣味ね」

私「好きなんだね、そーゆーのが」

演劇部員「そーなの。で、この脚本についてはいろいろあったんだけど、結局これで行こうってことになって、私が主役の女の子でしょ」

私「うんうん」

演劇部員「上流階級の子でしょ」

私「うん」

演劇部員「困っちゃって」

私「あーそーなんだ」

演劇部員「新入社員として働いてる場面は、結構失敗とかしちゃうシーンが多いから、地のままでやればいいんだけど、家で父親と会話するシーンとか、富裕層のパーティーに出席する場面とか、そういう時が困る」

私「そーね」

演劇部員「私、結構元気なタイプだから、おしとやかに演じるのが苦手で」

私「なるほど」

演劇部員「どーしたら、できるようになるかな?」

私「フム」

演劇部員「ふだん、足とか閉じて座らないし」

私「なるほど。でも、閉じた方がいいかも。ふだんから」

演劇部員「そーね。言葉遣いも、ふだんから気を付けるしかないかもね」

私「そーだね」

演劇部員「なんか、優雅な姿の自分が気持ち悪い」

私「役作りと思えば、大丈夫だよ」(友を励ます私、エライ)

演劇部員「そーかな」

私「そーだよ。私でよければ、練習、付き合うよ」

演劇部員「エッ、ホントに? ありがとう! 感謝!」

私「大丈夫だよ。練習しよ!」

演劇部員「ほんとにありがとう!」

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