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記録者の独白

挿絵(By みてみん)

※表紙絵

背中合わせの祈りと決断。

この国を護るため、正義と戦術が交差する。


歴史は《勝者》が記す。


そう言われてきた。



だが、あの日々に関する限り、それは違う。



歴史とは、《生き延びた者》が、守りたかった誰かのために遺す、《祈り》だ。



俺は、その《祈り》をここに綴ろう。


あの崩壊の日を記録する、唯一の存在として。




我々には、わずかな猶予があった。


いや、それは、猶予と呼べる時間ですらなかった。




それは、国民一人ひとりが、生死の境界すら溶け出した絶望の淵で、


《なぜ、生きるのか?》


己の魂の価値そのものを問われた、あまりにも短く苛烈な審判の日々だった。



誰もが正解など知らず、誰もが昨日と同じ明日が来ると信じていた。


ただ生き、ただ在ること、それ自体が許されていた平穏な時代、その終幕。


唐突かつ理不尽な審判に、たった一人、向き合った男がいた。



名を、黒瀬慎也という。



自衛隊、最後の司令官。


軍人であり、背負う者であり、

最後まで《守ること》を諦めなかった人間だ。



俺は、その(かたわ)らにいた。


命令される存在としてではなく、命令の重さを共に背負う存在として。



決断のたびに、彼の魂が軋む《音》を。

──俺は聞いていた。


積み上がる犠牲の山を越え、灯る希望の《光》を。

──俺は見ていた。


身を焦がしつつ、決して消えることのなかった意志の《熱》を。

──俺は感じていた。



この記録は、誰かを説得するためのものではない。



ただ、知ってほしい。



あの絶望の日々にすら、血と怨嗟の沼に咲いた一輪の《希望》が、確かに存在していたということを。



これは正義の物語ではない。



これは、最後まで諦めなかった者たちの祈りが、《君》という未来に届くまでの物語だ。



君が、今どこでこれを読んでいるとしても。


どうか最後まで見届けてほしい。



なぜなら。



君が、今、ここにいる。


それは、《生きている》という何よりの証。



君が、この記録を読んでいる。


それは、我々が守りたかったものが、未来へ継がれたという確かな証。



そして、その事実こそが──



滅びゆく時代のただ中で、我々が、唯一願った《勝利の形》そのものなのだから。




俺の名は、《ゼノン》


さあ、始めよう。

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