裁ち切りバサミは何を断てた?
チョキン、チョキン。
裁ち切りバサミが、笑顔の夫の写真を刻む。
それでも、夫との思いは断ち切れない。
ああ、そうか。
デートで着たワンピースに、ハサミをあてがう。
チョキン。
服は上下に真っ二つ。
夫との思い出を断った。
それでも気持ちは、まだ繋がってる。
ああ、そうか。
長い髪を後ろで束ねて、刃を当てた。
チョキン、バサリ。
髪が床に散る。
夫の好みで伸ばしたものだ。
夫に少しでも繋がるものは、全部断つ。
それでも、まだ何か残ってる。
ああ、そうか。
私は子供部屋に足を運ぶ。
旦那との間に生まれた愛息。
今は寝息を立てている。
私はハサミの刃を、息子の首元に添えた。
チョキン。
できなかった。
ハサミは空を切った。
息子の寝顔は旦那に似てる。
けど、この子の命を断つことはできなかった。
「ごめん、なさい……」
わたしは突っ伏して泣いた。
こんなにも旦那を憎んだし、すべての関係を絶とうとしたのに。
息子の命は断てなかった。
「ごめん、なさい……」
嗚咽を漏らし、涙は止まらない。
とめどなく溢れる涙は、私の手とハサミと服を濡らす。
真っ赤に染まった私の手を、まるで洗い流さんとするように。
でも、固まった旦那の返り血は、
もう、洗い流されることはなかった。