98、約束
「くっ……またしてもやられるとは……何で毎回毎回こうなんでしょうか……嗚呼」
「まあ、恨むなら昨日の残り湯を抜いてなかった銭湯スタッフを恨むのね。それよりも約束を守ってちょうだいよ、ルーラン」
私は下方からゆっくりと【ザジテン】に接近していく。全身ずぶ濡れの朱色の機体はもはや火炎魔法を撃ち出しもせず、屈辱のためか呆然と立ち尽くしている。あれだけの魔法を連発したのだから、正直言って魔動力の消費も激しかったとは思われるが。
「……約束ですって?」
「もう忘れちゃったの? さっき言ってたじゃないの。『問答無用!御託を述べるのはこの妾に勝ってからにしてくださいませ! ファイヤァァァァァァァ! スルピリドスルピリドスルピリド!』って」
「そ……それは、その……」
「あーら、天下に名高いモイゼルト家のお嬢様が約束を破られるんですか? それって負けるよりも恥ずかしいことじゃないの?」
「むぐぐぐぐ……相変わらずムカつきますわね……ですがいいでしょう、このまま嘘つきと指を刺されるのも妾の沽券にかかわりますし、聞いて差し上げましょう!」
ようやく固く閉ざされた鉄の門を開くことが出来て私はホッとしたが、まだ戦いはこれからだと気づいて背筋を正して気を引き締めた。これからこの勘違い令嬢を説得して誤解を解かねばならない。でなければこれまで同様何度でも何度でも成功するまで私の命をつけ狙うだろう。それに疑われ続けたままだっていうのは私自身、とても納得がいかない。てか誰よ真犯人!? まあ、それはおいおい探すとしよう。
「じゃあ言うわよ。さっきも話したけど、ホーリンを殺したのは私じゃないわよ! 確かに病院カーに忍び込んだのは間違いないけど、あの中で私は一度たりとも魔法を行使していないわ」
「口では何とでも言えますわ。証拠はあるんですの?」
炎を操るくせに、彼女の表情は氷で出来た仮面のようで、口調も冷たかった。