96、ミサイル
「『更に荒れ狂う水流は城塞目がけて襲いかかり、城壁にいた焔の姫を問答無用で押し流しました』……どうです、思い出せましたか? もっと続けましょうか?」
こんな時でも彼女の講談師のごとき流ちょうな語りっぷりはブランクを感じさせないほど健在で、思わず聞きほれてしまいそうだった。
「も、もう充分よ、お疲れ様。だけどそれが一体どう今の窮地と繋がるっていうのよ!? 確かに火攻めって箇所だけは一致するけど、この近くに海なんてあるわけないし……ん!?」
ここまで一気に文句を吐いたとき、私の優秀な脳に瞬時に何かが閃いた。今までの経験上、こういうときこそ反撃のチャンスが訪れる。私は閃きが消える寸前にその尻尾をしっかりと捕まえ、手元に手繰り寄せ、理解した。
「そうか、そういうことね! よしゃあああああああああああああ! 総員ミサイル発射準備せよ! ここらで一発華麗に決めてみせるわ!」
私は心中ガッツポーズをしながら高らかに宣言する。
「了解いたしました、お嬢様。目標はどうなさいますか?」
「天井よ天井! 可及的速やかに用意せよ!」
「はいはい、えーっと、目標天井部、ショルダーミサイルロックオン。発射!」
両肩口のミサイルポッドが火を噴くと、それぞれからミサイルが射出され、炎の豪雨をかいくぐって天に向かって舞い上がっていく。二匹の龍は上で攻撃を続ける【ザジテン】を挟むように、その両側を随分距離を開けて通過していった。
「ははん、何か反撃してきたかと思えばこの程度ですか? 人のことをノーコンとか馬鹿にしておられましたが、あなたも大概ではありませんこと? ホーッホッホッホ!」
何も分かってないお嬢様は人の失敗が非常に嬉しい様子で怒り面を引っ込めて高笑いしている。なんか扇でも手に持っている様子が目に見えるようだ。
「はん、私の真の狙いに気づかないようだけど、どっちが馬鹿かしらね?」
「ななななんですってえええええええええええ!?」
折角なので挑発の返信をしてやると、案の定すぐブチ切れ元の憤怒状態に戻った。やっぱ面白いわ、こいつ。