95、吟遊詩人
実際これで奴とドンパチやり合うのはもう三回目だ(銭湯での乳首責めも含めたら四回目だが)。正直言って見飽きてきたしいい加減にしてほしい。
「まあ、古来より赤い機体に乗っているライバルキャラはねちっこいって言いますし……」
「それってすげえ仮面キャラ限定的な言い伝えじゃない!? そんなことよりも私だけに考えさせないで、あんた達も何か画期的な妙案を出しなさいよ! うがあああああああああ!」
『落チ着イテクダサイ、深呼吸シテ素数デモ数エマショウ!』
「ぐげええええええええそんなもん知らんわボケェ! 六歳以前の記憶ないのよ私!」
『素数ハ幼稚園デハ教ワラナイヨ! テカ指グリグリ突ッ込マナイデエエエエエエエエエエ!』
「お嬢様、ここは発想を変えてみて、『悪魔と婚約破棄お姫様』の童話を参照にしてみてはどうでしょうか?」
「はぁ?」
私が脳みその秘孔突きを試している最中に、唐突にアロエが意味不明なことをのたまってきたため、目が点になった。確かにあのお話は童話にしてはバトルや陰謀が多くて面白かったけど、この切羽詰まった局面において有用だとは到底思えなかったが……。
「無茶言わないでよアロエ。所詮おとぎ話だし現実と何の関係があるのよ!? それに確かあれって最後はバッドエ……」
「ネタバレはお控えくださいお嬢様。それにラストはどうでも良くて、必要なのは最初の戦いのシーンです」
「最初の方……? 確かお姫様が悪魔と契約して火炎の王国の焔の姫を攻める場面のこと?」
「その通りです。何なら私が昔みたいに語って差し上げましょうか?」
「はぁ……まぁ、任せるわ」
そして彼女は流星のように火球が降り注ぐ光と熱の狂乱のさ中、吟遊詩人のように物語を紡ぎ始めた。
・ ・ ・
「……魔法だよ魔法! あんた王家に伝わる大地の魔法が使えるんでしょーが!」
「ハッ、そういえばそうだったわ!」
というわけでお姫様は大地の魔法を詠唱したところ、なんと海面から大量の海水が天に向かって引き上げられ、迫りくる火の粉を全て消し去りました。