85、二日目の朝
レース二日目午前十時数分前、巨大な四角い穴の周囲を取り囲むように作られた一日目のゴールのホールには、計18台のOBSが立ち並んでいた。昨日の半数以下に減ってはいるが、それでもその様は充分に壮観とは言える。ただし、今回は右から左に一日目の到着順に並んでいるため、背後の観客席ではどうしても場所によって温度差が生じた。
「くそっ、今日日学校のテストだって成績表を出さないところが多いっていうのに……」
末尾から三番目に位置する【ラキソベロン】に座す私は歯噛みして悔しがるも結果は如何ともし難く受け入れるより他なかった。
「仕方がないです、お嬢様。勝負は時の運。生き残ったことに感謝しましょう」
「まあ、それも分かるんだけど、ここ空気が最悪に悪いのよね……」
私は左側のOBSにモニター越しに死線を送る。もはや見慣れたサイコロを積み重ねたような形状の【タイオゼット】。落盤による表面のゆがみは自己修復したのかあまり目立たないが、奴からの敵意のようなものを肌にビシバシ感じて嫌になる。そもそもあっちの方から仕掛けてきたくせに、逆恨みもいいところなのだが。
(でも、それだけならまだマシなんだよね……)
私は更にその隣りに位置する真紅の機体を見て、頭痛がしそうになった。あからさまにこちら側に頭部を向けている僧兵型のOBSこと【ザジテン】からは視線で全てを焼きつくしそうなほどの熱を発しているかのようで、周囲の気温が確実に数度は違う。昨日一回ずつお互いに助け合ったのがまるで嘘のようだ。
ちなみにその左側には誰もおらず、そこが最後尾であることは疑いようもない。だからといって憤怒の炎に包まれているわけでは無さそうだけど。
むしろ間に【タイオゼット】が挟まれていてまだ良かったかもしれない。でなければ今頃マジで盤外戦に突入していたかもしれない。それほど【ザジテン】の、否、ルーランの私に対する怒りは激しく、到底鎮まりそうになかった。