84、ミッション
もっとも母親代わりとなって何かにつけて世話を焼いてくれたアロエを失うことは私にとっては大きな痛手だが、それ以上に彼女の置かれた残酷な現実を変えることこそが、今までの恩に報いる方法であると腹の底から確信していた。
(とにかくそのためにも、寝る前にもう一仕事しなくっちゃね! 頑張れ私!)
いささか疲れがたまってきた自分の心に叱咤激励し、言い聞かせた。
今出来ることは、かの病院カーに夜陰に乗じて忍び込み、集中治療室のホーリンを訪ねて速やかに予言してもらうというミッションだ。不確定要素はいくつかあるが、今日こなしてきた幾多の戦いに比べれば恐れるに足らず、だ。
「うおおおおおおおおお! ファイヤー!」
私は腕まくりをしながら気合いを入れ、自分で入れた眠気覚ましのコーヒーを鬼のような速さで一気にがぶ飲みするとゲップを一発かまし、コックピットの裏にある物置をガサゴソ調べ出した。
『夜中に何やってるんだ? とっとと寝ろよ。あっという間に朝十時になるぞ』
なんかやけに桃色になってテカテカといやらしく光っている脳みそが、口やかましい母親のごとくうるさく小言を言ってくる。
「今忙しいからちょっと黙ってなさい! えーっと、この辺にあったはず……」
私はやつに尻を向けて返答しながら、泥棒のように荷物をあさり続けた。確かラブドールの付属品などをまとめてぶち込んだ時に見かけた気がするのだが……。
「あった! これよこれ!」
ようやく私は目的の衣服を探し当てると小躍りして喜んだ。
『おい、まさかそれって……!』
「そうよ、病院への潜入工作にはもってこいでしょ?」
それは一着のナース服だった……ただし、ピンク色の。どうやらあのラブドールの発注主の性癖は多岐にわたっていたようだ。
『それ着て入り込むつもりか!? そんなコスプレごっこすぐばれるって! やめとけやめとけ!』
「もう時間が無いのよ! じゃあね!」
『おい、待てって!』
私はなおも追いすがるように叫ぶ脳みそを無視すると、ミッション開始のため再び夜の外へと飛び出していった。
……あんな結果になるとは露知らずに。
すみませんがまた弾が尽きたので次回更新は7月29日になります!では、また!