表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/135

82、契約

 やがてしばらく経つと、隣室から空気をつんざき何かを叩くような鋭い音と、同時にくぐもったようなアロエのうめき声が響いてきた。普段の彼女とまったく違うその声音を耳にすると胸元を掻きむしられるような気分になった。子供心にも、何となく聞いてはいけないものを聞いてしまったような感じがして、私は両手で耳をふさいで布団の中にもぐりこんだものだった。


(早く終わって帰ってきてくれないかな、アロエ……)


 お子様だった当時はそう闇の中で願うのが精いっぱいで、その意味がまったくわからなかったが、今ではさすがに理解できる。結婚後早くに妻を亡くして再婚もしなかった父がその後どうやって欲望を処理していたのか想像に難くない。我が親ながら、随分とアレな性癖の持ち主だとは思うが。


「私はとある契約に縛られているのですよ……」


 掛け布団に身を隠して振るえている時、以前アロエが誰に言うともなしにポツリとつぶやいた言葉が思い起こされる。彼女は何らかの制約のためにこんなひどいことになっているのだろう。


(私が何とかしなくちゃ……!)


 長ずるにつれてこのような歪んだ状況を正さねばと固く心に誓うようになるも、それには厄介な障壁があった。


 かつて父親が機嫌のいい時、「ねぇお父様、アロエが勝手にやめちゃうなんてことはないの?私、彼女がいないとよく眠れないんだけど」と探りを入れてみたことがある。


「安心しなさい、センナ。彼女は自ら辞職したくても出来ないんだよ。昔交わされた契約によってそうなっている。我がピコスルファート家の当主がその契約を破棄しない限りはね。だから大丈夫だよ。安心してお休みなさい」


 彼は大きなソファーに身を預けながらにこやかにこう語ってくれたものだ。


(つまり、私自身が父を排除して我が家の新たな当主になるしか道はない!)


 この時私は父の前で無邪気さを装いながらも、こう強く決心して内心で拳を固めた。我ながら末恐ろし過ぎる……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ