80、アザ
調べれば調べるほど謎が深まる巨大企業・ドパコール社。今まであまり考えたこともなかったが、レースにかける意気込みが他とは段違いなことはよくわかった。てか、普通このためだけに大規模な殺人シャッター街作ったり通路を巨大宝箱で埋め尽くしたりゴールにスーパー銭湯増設したりなんてしない。
『確かお前の父親は元ドパコール社の重役だったんだろ? 彼から何か聞いていないのか?』
脳みそ君はそんなことまで調べがついているらしい。やっぱちょっと危険だなこいつ。明後日は生ゴミの日だっけ? 自治体指定の袋あったかしら?
「知らないわよ! 私が生まれる前の話だし、何の仕事をしてたのかすら教えてくれないわ。そもそも最近ろくに話もしていないし……」
私は眠れるメイドを見下ろしながら、寂しげにつぶやく。
(別に口を利きたいとも思わないけどね……)
そう、私は心の奥底では、あの何を考えているのかよくわからず、ひたすら威圧的に感じる我が父親を憎み、嫌っていた。これは別に年頃の娘にとって父親が汚物に見えるとかいう思春期特有のあれではなく、遥か昔からのことだ。そして、それこそが私がこの過酷なレースに参加した真の目的でもあるのだ。
「アロエ……」
私は泥のように眠りこけるメイドの着ているようやく乾きかけてきた服にそっと触れる。人間洗濯機は着衣のままで入れるのが利点だが、使用後すぐに乾くわけではない。何故そんな不便な代物にアロエはずっとこだわるのだろう? ……自分には何となく予想がついていた。そっと彼女の思ったよりも小さな背中にタオルケットをかけてやりながら、物思いにふける。
アロエは人前では決して自分の身体をさらけ出そうとはしなかった。だが、私は一度だけ服の隙間から覗く彼女の背中を見たことがある。そこには何か黒いアザのようなものがあった。それを目にした途端、私は暗澹たる気持ちに襲われたものだ。