8、シュムプレガデスの岩
巨大シャッターは獲物を食らう悪魔の牙のように遠慮なくそのギロチンの刃を打ち下ろしてくる。だが先行している【アバロン】は、危なげなく締まる前にその隙間をすり抜けて飛んでいく。その後を追いかける機体もいたが、無残にも挟まれ真っ二つとなる開幕早々不幸な者もおり、脱出ポッドが射出された。
「お嬢様、どちらに行きますか? どうやら左右のコースの方が安全なようですよ」
「決まってる、直進あるのみ! あいつのケツに食らいついて一発お見舞い申し上げるわ!」
到底令嬢とは思えぬ台詞を喚き散らしながら、私はシュムプレガデスの岩に挑戦するアルゴス号のごとく勇猛果敢に飛び込んでいった。
「ケフラール! うおおおおおおおおおおおお!」
加速魔法を詠唱後、両手を胴体にピタリとつけて極力空気抵抗を減らしつつ、両の翼を水平に広げ、揚力と速度を得る。迫り来る殺人シャッターの下を猛スピードで潜り抜けた時は、正直言って心臓が止まりそうなほど怖かった。しかしそんなことはおくびにも出さず、「どう、楽勝でしょ!」と余裕をかまして見せた。
『すっげー汗吹き出てる』『無理すんなお嬢様』『前見ろ前』
「お嬢様、格好つけても視聴者にはバレバレですし、前に集中してください」
「げっ!?」
なんと前方には次なるシャッターが口を開けて待ち構えており、私は吐きそうになった。
「聞いてないわよ! 何よこのシャッター街は!?」
『ソレ意味違ウダロ……ジャナクテ違ウト思ワレマスがガガガガ』
つい地が出てしまった腐れコンピュータが突っ込みを入れるも軽くチョップし黙らせる。
「さて、どうなさいますか、お嬢様? どうやら先ほどのよりも速さが増している様子ですが」
「どうするって行くしかないでしょうがああああ!」
「いえ、そうではなくて、呪文のことをお忘れですか?」
「呪文って……ああっ、そうよね!」
『アビャビャビャビャビャ!』
私は脳みそを触ったまま、ポンと手を打ちそうになったのでまたデバイスが意味不明な悲鳴をあげる。
「行くわよ、ドネペジル!」
呪文の詠唱と共に【ラキソベロン】の黒剣が輝き、シャッターに漆黒のエネルギー波をぶち当てる。今まで元気にガンガン打ち合っていたシュムプレガデスの岩は途端にギギギと軋み出し、動きが鈍っていった。