78,染色
「ただいまー! けっこういい風呂だったわよ! ってあれ、皆寝ているの?」
『お帰り。俺はまだ起きているけど、アロエさんは弓折れ矢尽きてこの有様だ』
【ラキソベロン】に帰ってきた私を出迎えた水槽内の脳みそ君がスピーカーを通じて教えてくれた通り、我が忠実なるメイドは生乾きの服を着て髪の毛にドライヤーも当てない状態で、何やら大量の書類を枕代わりに突っ伏してスピースピーと高いびきをかいていた。
「あらあら、徹夜するなんて偉そうに宣言してたくせに……ま、仕方ないか」
『今日は大活躍だったしな。ちなみに明日のスタートは午前十時ちょうどだそうだから、なんとかなるだろ。さっき運営委員会が通路に落ちていたパーツ類を届けてくれて仮止めしてくれたし、今機体は自己再生モードに入ってるぞ』
脳みそ君は説明しながらモニター上に現在の【ラキソベロン】の大まかな状態を3DCGを使って表示してくれた。確かに一応すべての外装が元通りに装着され、修復中の赤いマークが数か所に点灯しているが、修復は極めて順調そうだった。しかしここまで詳細にまとめるとは、こやつ中々やりおるのう。
「ありがと! あんた意外と優秀だったのね! 見直したわ!」
『いや、褒められるのは嬉しいけど、今日だってレース中に何度も手助けしてやっただろうが、お嬢さんよ! 実際優秀なんだって! 俺は天才だ! 俺に不可能はないーっ!』
少しリップサービスしてやっただけで、アローゼンのやつはどこぞの世紀末救世主の四兄弟の次兄の偽者みたいな台詞を脳みその分際で自慢げに吐きやがった。きっとこいつも疲れているのだろう。
「はいはい、しっかしなんでOBSってロボットのくせに生物みたいに自己修復出来るの?」
『お前SDAG選手のくせに本当に何も知らないんだな……って、やめてえええええええええ!』
調子に乗る脳みそ野郎が段々ウザくなってきたので、手にしていた乳首をピンク色にする例のローションを大サービスして盛大にドバドバと奴の水槽に流し込んでやった。